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 この小説は、ハッピーな気分になりたい人におすすめです。短編に出てきた登場人物が、次々につながっていくんです。ほんのささいな出来事で、世界は今日も回っていく。私は今、ふわふわした幸福感に包まれています。

アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)
伊坂 幸太郎
幻冬舎 (2017-08-04)
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 久しぶりに読んだ伊坂幸太郎さん。相変わらずおしゃれで、思わず拍手をしたくなるような巧さがあります。ですが、今回の作品、『アイネクライネナハトムジーク』がいつもと違うのは、ひたすらハッピーだということ。伊坂さんの作品はけっこう残酷というかショッキングな展開も多いですが、今回はそういった要素はありません。殺し屋も、ギャングも出てきませんよ 笑。

 人と人とが、こんな風に出会って、結びつけたらな。そう思って、幸せな気持ちになれるに違いありません。



内容紹介



エンターテイメント

 会いは、思わぬところに転がっている

 この短編集の執筆のきっかけとなったのは、ミュージシャンの斉藤和義さんです。かねてから斉藤さんの大ファンだったという伊坂さんが、斉藤さんの曲に作詞をしてほしいという願ってもない依頼を受けました。ですが、そこは小説家だからと伊坂さん。作詞ではなく、オリジナルの短編小説を作って斉藤さんに送ったのです。

 そうして誕生したのが、1作目に収録されている「アイネクライネ」。斉藤さんは、この小説をもとに曲を制作しました。人気小説家と人気ミュージシャンによる夢のコラボレーションですね。



 これがその曲。私は曲を聞いて思わずニヤニヤしてしまいました。伊坂さんの小説が歌詞に反映されていて、歌を聴いていると場面が浮かんできます。「作詞:斉藤和義・伊坂幸太郎」。いやあ、素晴らしいですね。

 そして、2作目の「ライトヘビー」は、斉藤さんのCDに伊坂さんが特典として書き下ろした短編小説。小説の中に、斉藤さんの歌詞がたくさん登場しています。こちらも素敵な短編です。

 「アイネクライネ」「ライトヘビー」からどんどんインスピレーションを広げていった伊坂さん。最終的に、6作の短編が出来上がりました。全てが合わさった時、「こんな世界があったらいいな」というミラクルが目の前に広がることでしょう。

書評



書評

◆ グッドタイミング

 伊坂幸太郎さんは短編も長編も書かれていますが、私は断然、短編のほうが好きです。伏線や布石が、ちょうどいい塩梅で散らばっていて、最後に見事に回収されていくのです。この作品のように、一見独立している短編たちがクロスしていく構成は特に大好きです。世界の多面性というものは、なんと面白いのでしょうか。ちょっと視点を変えれば、全く違う世界が広がります。

 登場人物たちのキャラクターや、作品全体に漂う雰囲気もすごく好きです。なんというか、ちょっと厭世的で、シニカルな雰囲気を漂わせながら、軽妙洒脱に、ウィットに富んだ会話を繰り広げていく登場人物たち。物語のあちこちに、さりげなく散りばめられた重要なピースたち。悲観的な空気の中に、ほんの少しだけ差しこんでくる希望。「作品」としてのクオリティーがとても高くて、何度でも「鑑賞」したくなります。

 ちょっとほめすぎたかな 笑。冗談はさておき、『アイネクライネナハトムジーク』の内容を見ていきましょう。

アイネクライネナハトムジーク

 2作目の短編、「ライトヘビー」は上にも書いたとおり、斉藤さんのCDに特典としてつけられた書き下ろし小説です。「CDの特典」と聞いて、「オマケ」的な、ほんの軽い、ささいなものを想像した人もいるかもしれません。でも、それは違います。この作品は、独立した1つの短編小説としても素晴らしい出来で、ちゃんとした作品になっています。

 斉藤和義さんのことをほとんど知らない人でも、何の問題なく楽しめると思います。CDを買ってこんなしっかりした小説が付いていたら、私は喜んで飛び上がってしまいそうです。決してCDの「オマケ」にはせず、ちゃんとした作品として世に出すあたり、伊坂さんはさすがのプロだと改めて思いました。

 さて、斉藤和義さんのCDの特典であるということで、作品の中には斉藤さんの曲の歌詞が散りばめられています。ちょっと人生の行き先に迷った登場人物が、ある男性のもとを訪れるのです。その男性が、斉藤和義さんの曲の一部を切り取って彼らに送ってくれるのでした。「斉藤さん」と呼ばれるその男性は、登場人物の背中をそっと押してくれるキーパーソンです。

『グッドデイ出かけようぜ。グットデイ始めようぜ。新しい太陽、次の百年、今がグッドタイミング。始めようぜ、待っていたんだ、そう今がその時、絶好のタイミング』



 伊坂さんが斉藤さんのファンであることは、この本を読んで初めて知りました。ですが、言われてみればとても親和性の高い2人であるように思いました。なんというか、いい意味で「くたびれた感じ」(伝わるかな?)。伊坂さんは、斉藤さんの曲に普段から大きな影響を受けているのかもしれませんね。今回はそれがダイレクトに反映されているので、とても生き生きして見えます。

 そして、斉藤さんの曲の歌詞にも出てくる「グッドタイミング」ということば。これが、この小説を結んでくれる素敵なリボンかもしれません。偶然なのか、運命なのか分からないけれど、出会いというのは本当にささいなところに転がっていて、それがひょんなことからつながっていく。そんな小さなミラクルを、「グッドタイミング♪」と軽やかに歌ってみたら、人生はもっと楽しいものになるのかもしれません。

◆ ゆるやかに、ゆるぎなく

 登場人物のつながりは、とてもゆるやかなんです。例えば、席替えでたまたま隣の席になったとか、5年に1度の運転免許の更新で再会したとか、街角でアンケートをお願いしていたら立ち止まってくれたとか、名前も知らずに、電話だけで知り合っているとか・・・。すごくささいなことで、気に留めなかったらそのまま流れていくのかもしれない。でもそれが、最後になって見事に、全てがつながりだしてくるんです。

「うまく言えないけど、あの旦那とわたしの子供たちの組み合わせがね、わたしは結構好きなんだよ」



 最初の短編、「アイネクライネ」から。どうして一緒になったのか、周りの人が不思議に思うようなある夫婦。奥さんが、一緒になった理由を聞かれて、こんな風に答えています。すごく気に入って、私はすぐに付箋を貼りました。

 一緒になった理由には、理屈や理由なんてないのかもしれません。何かに導かれるようにとか、示し合わせように、とか、そういった考えが私は好きです。「ご縁」とでもいうのでしょうか。「旦那と、子供の、この組み合わせが好き」という女性の言葉も、妙に胸にすとんと落ちてくるのでした。

 一番最後の短編、「ナハトムジーク」の最後のほうにはこんな台詞が出てきます(ネタバレにはなっていないので大丈夫です)。

「でも、人生では何が転機になるか分からないですから」司会者はそこで急に、しみじみとした言い方になった。



 「司会者」さんはそう言った後、自分のことを語りだすのです。「ここでもつながってくるのか!」。私の頭の中で、「!」がはじけることになりました。

 こういうのって、小説だからできることかもしれません。「いくらなんでもできすぎだよ!」と思う人もいるかもしれません。でも、私は今回、そういったことも全部含めて、「いいな」と思えたのです。こんな風に世界がつながっていたらいいな。こんな風に、回り回って最後に「ご縁」が巡ってくればいいな。

 何が転機になるか分からない。本当にそうだと思います。もしかしたら、私たちの何気ない日常の中には、伊坂さんの小説以上のミラクルが潜んでいるのかもしれません。そんな風に、ワクワクさせてくれるという点で、この小説は傑作だと思います。

まとめ



まとめ



 冒頭にも書いたのですが、伊坂さんの作品というのはショッキングな展開も多く、なかなか好き嫌いの分かれそうな作品もあります。ですが、この作品に関しては「嫌い」という人はほとんどいないでしょう。大きな事件の類はまったく起こりません。日常のささいな一コマにミラクルが潜んでいて、見事につながってくる。何より、読後感が「ハッピー」なのです。こういった作品なら、どんな人にもおすすめができます。

(「いくらなんでもできすぎだよ!」派の人はいるかもしれませんが、でもそんな「できすぎ」感も楽しめるのではないかな、と私は思います)

 素敵な小説を読むと、しばらくはその雰囲気が残って、幸せに眠ることができます。そんな気分を求めている方は、ぜひこの本を開いてみてください。



オワリ

 伊坂さんの小説で一番人気のあるものはどれなのでしょうか。人気作がいっぱいあって分からないですね。私が一番好きな作品は『終末のフール』です。



 読んだのがブログを始める前だったので残念ながら記事がないのですが、伊坂さんのいいところをぎゅっと凝縮した傑作です(特に「やるせなさ」)。この作品もやはり、クロスストーリーの連作短編集です。ぜひ今回の本と合わせてどうぞ。


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小説, 伊坂幸太郎,




 伊坂幸太郎さんの作品は、長編と短編、どちらがお好きでしょうか?私は短編が好きです。それも、去年読んだ「終末のフール」やこの作品のように、世界観がリンクしている連作短編の形式が一番好きですね。

残り全部バケーション (集英社文庫)
伊坂 幸太郎
集英社 (2015-12-17)
売り上げランキング: 7,866



 「残り全部バケーション」という、なんとも羨ましいタイトルの本です。世間では、ゴールデンウィークで上手く休みをつなげて10連休以上を楽しむ人もおられるようですね。羨ましいですが、私の場合、そんなに休むと間違いなく堕落してしまいそうです・・・。余談は置いておいて、本の紹介にいきたいと思います。



既視感の正体



 まずは簡単にストーリから。溝口と岡田という、2人の男がいました。2人はバディーを組んで仕事をしています。仕事といっても、世間の表に出てはいけない類の仕事です。悪人から依頼されて任務を遂行する、いわゆるスパイや「裏社会の請負人」といった感じの仕事です。

 2人の会話がとても面白いです。テンポ良く、漫才のように進んでいきます。2人のやっていることは決して褒められたことではないのですが、テンポの良い会話には思わずクスリとしてしまいます。心地よい「小悪党感」がありますね。

 裏社会で活躍する2人。相性抜群のコンビ。テンポが良く笑わせる会話。・・・私のブログを毎回読んでくださる方がいたら、ピンときたかもしれません。以前に紹介したこの作品とそっくりです。

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)
(2011/07/15)
道尾 秀介

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#20 「カラスの親指」 道尾秀介さん

 2つ目の短編、「タキオン作戦」では、2人が作戦を立ててある人物を騙そうとします。児童虐待という重いテーマを扱っているのですが、ほっこりと幸せになる結末。騙す要素まで出てきて、このあたりはもうそっくりです。

 「カラスの親指」と違うのは、この作品が連作短編の形式をとっているということです。短編なのですが、作品の世界観がリンクしていて、読み終えた時に1つの世界が見えてくる、という構成になっています。

 時系列をバラバラにしていて、つなげるのが大変でした。最初の短編に出てきた要素が、最後の最後に登場したりと、伏線の回収も芸が細かいです。短編ならではの小気味よさと疾走感があります。伊坂さんの魅力が凝縮されているようで、私はこの形式が好きですね。

前向きを散りばめて



 2人は悪党な訳ですが、憎らしさはほとんど感じません。「小さな奇跡」という売り文句がついているようですが、確かにその通りで、人生を前向きに生きようというエッセンスが散りばめられています。

「これはおしまいじゃなくて、明日からまたはじまりなの」「明日からは全部バケーション」岡田さんがまた言う。


「なんか、気が楽にならない?気負わなくたって、自然と前には進んでいくんだよ



 そして、主人公の1人、岡田さんの人柄がすごくよいのです。先ほども出した2つ目の短編、「タキオン作戦」。彼は悪党にもかかわらず、お節介に人助けをしようとします。「自分の仕事のせいで人が苦しむのが悲しい」そんな優しい心の持ち主です。

 当然、裏社会での仕事が続くはずはありません。岡田さんは、仕事をやめたいと溝口さんに言い出します。ここからがすごいところで、溝口さんはそんな人の良い岡田さんのことを裏切ってしまうのです。

 後半の話では溝口さんの相棒が変わります。あんなに人が良かった岡田さんはお払い箱?あんまりじゃない?・・・そんな風に思っていたら、最後に急転直下の結末が待っていました。

 伊坂さん恒例、最後の最後での見事な伏線回収!あれも、これも、それも、といった感じで作品が収束していきます。ただし、この作品の上手いところは、全てを回収せず、最後は読者に委ねたという点です。

 おそらく、私が気付いていない伏線もたくさんあるのだと思います。ラストの解釈も、伊坂さんファンの間で議論が巻き起こりそうですね。道尾秀介さんに負けず劣らず、伊坂さんも伏線の回収と巧みな構成が見事な作家さんです。「甲乙つけがたい」とはこういうことをいうのでしょうか。

 「カラスの親指」と比べてみましたが、こちらは短編ということで、テンポ良く、軽妙な展開が魅力です。時系列をバラバラにしたのも、こういった短編だからできたことだと思います。

 対して「カラスの親指」の方は長編で、いろいろな伏線が最後に一気に回収される、という点が圧巻でした(道尾さんは伏線の説明を最後すごく丁寧に書かれていました)。伏線が小出しに回収されていく面白味ならこの作品、最後に一気に明らかになる面白味なら「カラスの親指」と読みわけができそうです。

人を騙すには



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 いわゆる「騙される系」の作品にはほぼ毎回騙されている私です。そして、騙された興奮からちょっとテンションが高くなって、レビューを書く時に勢いがつくのも毎度おなじみ。全く成長しない人であります 笑。

 なぜ騙されるのか、といった時に、こういった要素があるかもしれません。この作品に出てきた言葉です。

「人を騙すには、真実や事実じゃなくて、真実っぽさなんですよ」



 先入観や固定観念、過去の経験など、人間はいろいろなものに支配されています。事実そのものを見ているのではなく、常に「こうであるはずだ」「こうであってほしい」と思って物事を見ているのでしょうね。

 だから、「こうであるはず」でないことが起った時は、コロッと騙されてしまいます。そういった面を上手く突いてくる作家さんには拍手ですね。

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妙なテンポで、タップダンスのように伏線を回収していく心地よさ!

 伊坂さんらしさがぎゅっとまとめられた、小気味よい連作短編集。細かい点も含めると、本当にたくさんの伏線があります。それらが少しずつ回収されていくたびに、思わずニヤリとしてしまいますね。
小説, 伊坂幸太郎,



  •   28, 2015 23:59
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     私が読んだ伊坂幸太郎さんの作品をまとめるページです。新しい本を読むたびに順次更新します。




    伊坂幸太郎(いさか・こうたろう) さん

    プロフィール

    971年生まれ。大学卒業後、システムエンジニアとして働く一方、文学賞に応募。2000年、「オーデュボンの祈り」でデビュー。2003年、「重力ピエロ」で直木賞候補。以降、2006年の「砂漠」まで、毎年候補に名を連ねる。本屋大賞は初期からの常連で、第1回から第4回まで全てノミネート。第5回に「ゴールデンスライバー」で念願の初受賞。最新の第12回(2015年)でも2作がノミネートされるなど、その人気は健在。



    私が読んだ作品 5作品

    ・オー!ファーザー ( 2014.7.13 )
    ・終末のフール ( 2014.8.17 )
    ・モダンタイムス ( 2014.11.15 )
    ・SOSの猿 ( 2015.2.7 )
    ・残り全部バケーション ( 2015.4.28 )

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    妙なプロットで魅せる小説界屈指のエンターテイナーです。終盤で怒涛の勢いで伏線が回収されていくさまは見事の一言に尽きます。また、作品間で登場人物・世界観のリンクが見られ、そういった「遊び」の部分も堪能したい作家さんです。


    ※ 個人の感想です

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    「最果ての図書館」のオリジナルランキングです。
     年間ランキング・・・私が1年間で読んだ作品からトップ20を選んだもの。
     読書メーターナイスランキング・・・「読書メーター」のサイトで獲得したナイスの数のランキング。

    ・終末のフール
    年間ランキング2014 2位

    ・モダンタイムス
    読書メーターナイスランキング2014 19位

    ・オー!ファーザー
    読書メーターナイスランキング2014 42位



    品リスト

    おすすめ度 ★★★★★

    ・終末のフール

    終末のフール
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    伊坂 幸太郎
    集英社
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     地球が消滅するまであと8年―。衝撃の事実が判明してから3年後の地球の姿を描く連作短編集。あきらめやなげやりが入り交じるなか、懸命に生きようとする人の姿が浮かび上がってきます。

    おすすめ度 ★★★★☆

    ・残り全部バケーション

    残り全部バケーション
    伊坂 幸太郎
    集英社
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    #41 がっちり!伊坂さん (残り全部バケーション / 伊坂幸太郎さん)
     こちらも連作短編集。裏社会で暗躍する2人の男が主人公。ちょっときれいにまとまりすぎて物足りないかな・・・と思っていたのですが、そこはさすが伊坂さん。最後に怒涛の伏線回収がありました。

    ・オー!ファーザー

    オー!ファーザー
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    新潮社 (2013-11-22)
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     4人の父親がいる!?これは面白い設定で、「設定勝ち」という感じがしました。伊坂さんのエンターテイナーぶりが存分に発揮されています。アクション満載の救出シーンがよかったですね。

    おすすめ度 ~★★★☆☆

    ・モダンタイムス

    モダンタイムス (Morning NOVELS)
    伊坂 幸太郎
    講談社
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    ・SOSの猿

    SOSの猿
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    伊坂 幸太郎
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    #10 見ざる聞かざる (SOSの猿 / 伊坂幸太郎さん)

    ※ これ以外に伊坂さんのおすすめ作品があれば、ぜひ「ブックポスト」に投稿してみてください。今後の読書の参考にさせていただきます。
    伊坂幸太郎,



    •   28, 2015 00:26
  •  ブックレビューも第10回となりました。今回紹介するのは伊坂幸太郎さんの「SOSの猿」です。300ページに満たない本なので、2日で読もうと思っていたのですが、なかなか時間がかかりました。「難解な伊坂哲学」という感じ・・・。では、以下、「SOSの猿」のレビューです。

    SOSの猿SOSの猿
    (2009/11/26)
    伊坂 幸太郎

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    極上のエンターテイナー



     伊坂幸太郎さんの作品は、これで4作目になります。他の作家と比べて際立つのはそのエンターテインメント性の高さ。想像の斜め上を行くような展開に度肝を抜かれます。今作も伊坂さんらしさは健在!2つの物語が交錯していくあたりからは驚かされっぱなしです。

     2つの物語を見ていきましょう。まずは1人目の主人公、遠藤二郎。彼の特性は、人の痛みや悲しみ、そういったことにとても敏感であるということ。人が苦しんでいるとき、そのSOSが聞こえてしまいます。おせっかいで、お人よしの彼。そんな彼が断わり切れずに引き受けてしまった仕事、それは「引きこもり少年の悪魔祓い」でした・・・。

     もう一人の主人公、五十嵐真。彼もなかなかの曲者。「因果関係」を突き詰めていくことに傾倒する、変人システムエンジニアです。一瞬で300億円もの損失を出してしまった、というとんでもない株取引の因果関係を探ります。原因は担当者の操作ミスとすぐに結論付けられそうな事案なのですが、彼はそこでは納得しません。操作ミスの原因は?その原因の原因は?さらにその原因の原因の原因は?・・・うーん、頭が痛くなってきますね。

     全くつながりそうにもないこの二つの話がつながっていきます。その役目を果たしたのが、先程出た「引きこもり少年」、そして「孫悟空」でした。(何のことかさっぱり、という方もいると思います。私もさっぱりです、読んだのに 笑)

    どうして猿なの




     猿というとどのようなイメージがありますか。「猿まね」「猿知恵」など、否定的なイメージがありますね。狡猾で、浅はか、そしてずるがしこい。かなりひどいレッテルが張られている感じはあります。無意識のうちに、「猿」と聞いて馬鹿にしている節はありませんか?

     で、伊坂さんが「猿」(この作品では「孫悟空」)をどのように捉えたかというと・・・。こんな印象的な部分が終盤にありました。

    眠る大猿は、自我の深層に隠れた無意識の存在ではないだろうか

     
     そんなことを言われたら、そんな風にも思えるような、思えないような・・・。作品の中で猿は大きな役割を果たします。この作品では「感受性」が一つのテーマになっていて、猿はその一つの結実として描かれています。感受性が極限まで高められていくことで、当たり前だと思っていた世界がグワングワンと歪んでいきます。

    「分かる、と無条件に言い切ってしまうことは、分からないと開き直ることの裏返しでもあるんだ。そこには自分に対する疑いの目がない」


    「これがすべて」と言い切ることは難しい。本当にすべてを知っているか、もしくは、全てを知っていると勘違いしているかのどちらかで、大半は後者だ、と五十嵐真は知っている。


    「全部が正しいとか、全部が悪い人間はいない」



     普遍的に正しいことなどない、ということが強調されています。人のSOSが聞こえる二郎や、徹底的に因果関係を突き詰めていく真。何だか変な人たちだと思っていたのに、いつの間にかこちらが彼らの方に引きずり込まれていく、そんな感じがしました。

     そして、この「感受性」の象徴として、そして物語をつなぐ存在として登場したのが「引きこもり」。この設定がまた上手いのです。「引きこもりなんてただの甘え、社会不適合者だ」なんて断定する人もいるかもしれません。でも、この本を読んだらそんなことは言えなくなります。すぐに結論付けて、実は何も考えようとしていない・・・そんな私たちが見ている世界がひっくり変える瞬間に度肝を抜かれます。

    思考を開放せよ



     猿と言えば、こんな有名なことばがありますね。

     見ざる、聞かざる、言わざる

     日本では、いわゆる「事なかれ主義」という意味で使われる言葉です。世の中で生きていくときに、人々は多かれ少なかれ「思考停止」をしなければいけません。時には割り切らなければいけないこともあるし、他人に構っていられないこともある。そんな風に生きていくために必要な「思考停止」ですが、そのせいで盲目になっていることが多いということも忘れてはいけません。

     たまには、「見てみる」「聞いてみる」「言ってみる」。そうした時に、世界が大きく動き出すかもしれません。私たちが全く想像もしていなかった方向へ・・・。

    小説, 伊坂幸太郎,



    •   07, 2015 22:52