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  •  43冊のブックレビューのうち、この方の作品はこれで3作品目。ブックレビューでは作家別で最多の冊数です。今年に入って初めてこの作家さんの本を手に取ったのですが、毎回楽しませていただいています。

    追想五断章
    追想五断章
    posted with amazlet at 15.05.06
    米澤 穂信
    集英社
    売り上げランキング: 513,453


     質の高いミステリーを書かれる米澤穂信さんです。今回読んだのは「追想五断章」という作品。あらためて、米澤さんの作品の構成力を高さを堪能できた一冊でした。



    結末のない物語



     リドルストーリー。

     結末を廃して、謎を残したままにしておく小説のことをこう呼ぶそうです。リドルストーリーという呼び名は初めて知ったのですが、このパターンの小説はたくさん読んでいます。「真相は藪の中」、そんな小説です。

     伊坂幸太郎さんの「残り全部バケーション」を先日紹介したばかりですが、これはまさにリドルストーリー。最後、メールが届くのですが、その送信者はいったい誰!?というところで話は幕を閉じます。送信者が誰かによって、天国にも地獄にも変わる結末です。

     宮部みゆきさんの「火車」もリドルストーリーに入るのでしょうか。あれだけ丁寧に女の足取りを追っておいて、引っ張って、引っ張って、引っ張った挙句にあのラストです。思わず天を仰いでしまいました。

     結末が書かれないとモヤモヤするかもしれませんが、ではしっかり結末まで書くのがよいか、と言われると案外そうではないかもしれません。結末が分からないからこその面白さがあります。

     そんなリドルストーリーの面白さを存分に味わえる1冊でした。リドルストーリーの小説が、作品の中に挿入されています。ただしそれは、ただ面白おかしく読む物語ではなく、重要なメッセージが込められた物語。5つのリドルストーリーからある事件の真相が浮かび上がるという、ワクワクするような構成です。

     実際は地味で重苦しい雰囲気が漂う作品で、読むのは大変かもしれません。しかし、終盤まで読み進めると驚きの真相が待っています―。

    その一行には秘密がある


     
     古書店で働く主人公は、ある女性から奇妙な依頼を受けます。「父が遺した5つの小説を探してほしい」というその依頼に興味を覚えた彼は、小説探しに奔走することになります。

     彼女の母親は、ベルギーのホテルで首を吊ってなくなりました。父親は殺人容疑をかけられるのですが、嫌疑不十分になります。次々に集まる小説から浮かび上がってくるのは、そんな過去の事件の真相で・・・。

     面白かったです。結末が明かされないリドルストーリーが5編収録されているのですが、他の作品と違っている点として、章の終わりに「最後の一行」が明かされているところでした。

     リドルストーリーを読むとき、読者は結末がどう転んだのか、想像力をフルに働かせます。そんなところに最後の一行が加わるのですから、不気味な余韻があります。結末の可能性は2つ。予想はつくのですが、改めて文字として最後の一行になると不気味さを感じます。結末がはっきりしなくても、はっきりしないことがかえって印象を高めます。リドルストーリー、面白いですね。

     終盤、いよいよ謎が解かれようとするのですが・・・。

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     見えてきたのは、1人の男の物語でした。

    集められた断章が示唆するものは、不幸ながらも彩りに満ちた人生。望むと望まざるとにかかわらず、主人公に押し上げられた男の物語。その劇に芳光はいまや背を向けることしかできない



     不思議なもので、直接言葉で語られるよりも、小説で間接的に語られる方がより多くのことを訴えかけてくるような気がします。小説は、読者にいろいろなことを想像させる1つの仕掛けになっていて、小説のそういった面が上手く取り入れられています。

     リドルストーリーに何かのメッセージが込められていて、それを紐解いていくと、うやむやになっていた事件の真相が浮かび上がってくる―ということはすぐに想像がつきます。ただ物語を読むのではなく、その裏に込められたメッセージを考えながら読みました。

     が、しかし。この小説の仕掛けは、私が思ってもみないところにありました。小説の細かいところに注意していたので、かなり意表をついた、しかし、パズルを解くような見事な仕掛けが隠されていたのです。

     詳しく書けないのが残念ですが、ヒントは上にある小タイトルです。

     「その1行には秘密がある」・・・・・・・・・・・・。

    1行に左右される面白さ



     いろいろなミステリー作家の本を読んでいますが、米澤穂信さんは構成力の高さに目を見張るものがあるように思います。重苦しい雰囲気を漂わせつつ、大きな謎を残したまま物語は進みます。謎解きの部分は本格的で、終盤はぐいぐい読ませます。重苦しい雰囲気を残したまま終わるのもここまで読んだ3作の特徴です。面白おかしく、とはいきませんが、本格的な構成には感嘆の一言です。

     リドルストーリーの面白さに、「たった1行で小説が左右される」ことがあると思います。この小説の仕掛けを知った後ならなおさらです。長い小説があっても、最後の1行で全てが左右されます。だからこそ、最後1ページ、最後の1行まで気が抜けないのが小説の面白さですね。

     リドルストーリーの虜になりそうです。ネットでリドルストーリーの小説を探して読もうかと思いましたが、最初からリドルストーリーだと分かっていたら意味がないですからそれはできませんね。たくさんの小説を読みながら、印象的なリドルストーリーを探そうと思います。

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    行に左右される本格ミステリー!

     5つのリドルストーリーに隠された秘密とは?終盤で明らかになるパズルのような仕掛けに驚かされます。結末を明かさず、最後の1行で全てが左右されるリドルストーリーの面白さを堪能します。



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    小説, 米澤穂信,



    •   06, 2015 18:11
  •  「心のどくを消すほうほうはない」-。
     今日紹介するのは、青春の危うさと影を描き切ったこの作品です。

    ボトルネック (新潮文庫)
    米澤 穂信
    新潮社
    売り上げランキング: 19,095


     米澤穂信さんの『ボトルネック』。ミステリーというより、青春小説としての価値を持った小説だと思いました。金沢の暗い空の下で繰り広げられる、悲しすぎる1人の少年の物語です。




    生きる意味



     2日前の記事で、私はこんなことを書きました。

    まがりなりにも「誰かの役に立っている」「自分が必要とされている」と思うことで創造性のない日々にも意味を持たせています。


     自分が誰かの役に立っている、誰かに必要とされている、そう思うことによって人は前を向いて生きていられます。今日は、そんな思いが打ち砕かれたら・・・ということを考えてみたいと思います。

     この本で起こったことは、私が書いた文とは全く逆のことです。

     東尋坊で崖から転落して死んだ彼女、ノゾミに花を手向けていた主人公の嵯峨野リョウ。その時、ぴょうと海風が吹きました。風と共に、どこからかかすれ声が聞こえます。「おいで、嵯峨野くん」-。ふわり、とリョウの体が浮きました。リョウは崖を落ちていきます。

     ・・・リョウが目を覚ましたのは彼の地元、金沢市。今しがたまで東尋坊にいたのになぜ?困惑するリョウ。種明かしをすれば、そこはリョウのいない世界、パラレルワールドでした。リョウは自分の代わりに生を授かった姉、サキに出会います。そこから、リョウにとって地獄のような3日間が始まりました。

    脆い自尊心



     リョウに「自分がいない世界」を見せていたのは、グリーンアイドモンスター(GEM)と呼ばれる怪物です。

    グリーンアイド・モンスター・・・ねたみのかいぶつ。生をねたむ死者のへんじたもの。一人でいるとあらわれ、いろいろな方法で生きている人間の心にどくをふきこみ、死者のなかまにしようとする。心のどくを消すほうほうはない。(本文より)


     その心に吹き込まれた毒、というのが「自分のいない世界」を見せられることでした。ネタバレになるので詳しく言えないのですが、リョウは3日間、自分の代わりにサキが生まれてきた世界をさまようことになります。サキと一緒に元の世界に戻るために手がかりを探すのですが、リョウが見せられたのはあまりにも残酷な現実でした。

     自分の代わりにサキが生まれたことによって、あちこちで変化が起こりました。リョウの両親、兄、死んだ彼女のノゾミ、ノゾミのいとこであるハルカ、そして重要な伏線になる「イチョウの木」。「リョウがいた世界」と「サキがいる世界」では、それらの行く先が異なっていました。そんな違いを見せつけられて、リョウの中で「心の毒」が増幅していきました。

     ついに、リョウはある「恐ろしい結論」にたどり着きます。未熟ながらも精一杯に生きている「つもり」だったリョウ。一人の少年の脆い自尊心を打ち砕く、恐ろしい結論です。後味はかなり悪かったです。

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     この作品はどういう評価をされているのか、気になってたくさんのサイトを調べました。大きな特徴として、「読み手によって大きく評価が変わる」ということがありそうです。実際、アマゾンのレビューを見ても、星5つのレビューが多い中で、星1つのレビューもかなり目立ちます。

     評価が分かれる理由は2つありそうです。まずは、ミステリーとして読むかどうか、という点。伏線の見事な回収はありますが、ミステリーとしては辛口の評価が目立ちました。推理の要素があまりないからでしょうか。冒頭でも書いたように、青春小説として読むのがおすすめです。若さの危うさ、影といったテーマで読むと群を抜いた鋭さがありました。

     2つ目が大事なのですが、読み手がどのような青春を過ごしてきたのか、という点です。青春と一口に言っても、その中身は人それぞれだと思います。

     青春 青春 青春 青春

     青春の「青」に、皆さんはどのような色を浮かべられたのでしょうか。この小説は、読み手の青が反映される作品といってもいいかもしれません。作品のイメージは一番右の青です。抽象的な例えですが、青春と聞いた時に一番右の闇と影を抱えた青を浮かべた人は、主人公に大きく共感できると思います。

     

    「どんなことが起きても、それを自分のことじゃないように受け止めることができる子」

    ぼくも、ぼくなりに生きていた。別にいい加減に生きてるつもりはなかった。しかし、何もかも受け入れるよう努めたことが、何もしなかったことが、こうも何もかも取り返しがつかなくするなんて。



     主人公の描写です。「自分を見つめる」ことってとても難しいですね。しかも、まだ人間として固まりきれていない少年・少女の時期。青春とは、だれにとっても不安定なものだと思います。反抗期があって、大人を見下して、そして、自分がそんな見下していた「大人」に近づいていく・・・。そんあ青春を直視できずに、自分に背中を向けていたリョウ。そんな彼に、もう1つの世界が容赦なく襲いかかっていきました。

    青色の結末


     作中で、「想像力」ということばがしつこいほどに登場します。あまりにも出てくるので、読み手も想像力を働かさざるを得ません。想像をしていくと、リョウが出した「恐ろしい結論」がぼんやりと見えてくるかもしれません。

     若い頃って、必要以上に悩んだり苦しんだりすることがあるのではないでしょうか。青春とは盲信です。馬鹿みたいに希望を信じることができれば、絶望に向かっていくこともできます。青春のガラスのような脆さを痛感する作品でした。

     ラストははっきりとは描かれません。「答えは、この本を読み終えた読者の中にある」、解説にはこう書かれていました。ラストはどう解釈すればよいでしょうか・・・。先程の青春のように、人によって浮かべる色は異なると思います(私は最悪なバッドエンドしか浮かびませんでした・・・)。

     ネタバレを最小限に書こうと思ったのですが、難しいですね。興味のある方はぜひ読んでみてください。後味の悪さは覚悟された方がいいと思います・・・。




    オワリ


    「リカーシブル」 米澤穂信さん
     米澤さんの作品は今回で2冊目でした。2冊読んで思ったのですが、この方は若い世代、青春に容赦がない人です。主人公を容赦なくズタズタにするスタイルは、なかなか読みごたえがあります。
    小説, , 米澤穂信,



    •   27, 2015 19:15
  •  ブックレビューの第14回です。今回ご紹介するのは米澤穂信さんの「リカーシブル」という作品です。いろいろな人からおすすめされてはいたのですが、ようやく手に取った米澤さんの作品。予想していた以上に面白かったです。本屋大賞にノミネートされている「満願」も早く読まなければ!と思わせるような出来栄えでした。それでは、以下「リカーシブル」のレビューです。

    リカーシブルリカーシブル
    (2013/01)
    米澤 穂信

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    怪しさの不気味な増幅




     この本は363ページあるのですが、事件が大きな動きを見せるのは222ページと全体の3分の2にさしかかったあたり。そこからの急展開はもちろん見応えがあるのですが、それよりも私が面白いと感じたのは「事件が起こる前の不気味な怪しさ」の方でした。

     主人公の越野ハルカは中学生になった春、母と弟と一緒に見知らぬ町、坂牧市に引っ越してきます。その町は独特の雰囲気と怪しさを醸し出した町でした。街を覆うのは、古くから伝わる奇妙な伝説・・・。自分が「よそ者」としての視線を受けていることを強く意識しつつ、町に潜む「何か」を探るハルカ。・・・とまあ、これだけでも十分に不気味なストーリーです。

     この話のすごいところは、「異質なのは町だけではない」というところです。母と弟、と先程書きましたが、実はこの二人、ハルカとは血のつながりを持っていません。母は父の再婚相手、弟はその母の連れ子です。つまり、ハルカは、全く見知らぬ町で、血のつながりのない「形だけの」家族と生活していくのです。・・・とまあ、これだけでも十分に不気味なストーリーです。

     まだ、あるんです。ハルカの母は、実の子供であるサトルと血のつながりのないハルカに対し、全く同じように接します。あまりにも「優しすぎる」のです。その底の見えなさが不気味な怪しさを醸し出しています。そして、不気味さのラスボスはそのサトル。サトルは、町で起こることを「予言」してしまう、という不思議な能力があったのです・・・。

    強すぎる主人公



    読んでいて気付くのですが、主人公には心を許せる人物がいません。母は怪しく、弟は得体のしれない「予言」の能力を持っています。そして、舞台は見知らぬ町。ハルカはリンカという友達をつくり、クラスでの居場所を確保するのですが、このリンカも完全に信用できる人物ではありません。「友達」はあくまでポーズ。彼女が腹の底で何を考えているのか・・・ハルカは警戒を続けます。

     見知らぬ土地で、一人で暮らしているようなものです。とても正気を保てるような状況ではありません。しかし、このハルカという少女はかなり強靭な精神を持っていました。自分の弱みを見せないように、周りになじめるように、と自分を「演じる」ことに徹します。

    夕暮れに沈む町はどこもかしこ一片の情けもなくよそよそしくて、とてもわたしを受け入れてなどくれそうもない。でももちろん、それは気のせい。にっこり愛想笑いしてお腹に力を入れていれば、どんなことでも、きっとなんとかなるに決まっている。そう信じていないと、気持ちが持ちそうもない


    わたしはまだ弱い。そんな弱さは命取りだ。改めなくてはいけない。改めなくては・・・。



     ・・・すごいタフさです。昨年、宮部みゆきさんの「ソロモンの偽証」を読んだとき主人公の女の子があまりにしっかりしていて驚いたものですが、彼女はそれをゆうに上回っています。太字にした部分のように、もちろん不安でいっぱいなわけですが、決してそれを表には出しません。仮面をかぶりながら、自分の立ち位置を探します。中学1年生のなせる業ではありません。あまりに強すぎて、読者からすれば、彼女の存在もまた一種の「不気味さ」になったかもしれません。

     事件が起こった後は急展開。前半は静かに増幅していく不気味さ、後半は意表をつく展開で魅せます。ハルカは最後も機転を利かせ、抜群の行動力と推理力で町に隠れた秘密を明らかにしていきました。人に心を許さず、自分を演じることに徹した彼女の行動が、最後は真実を見抜く鍵になりました。
     
     練られたプロットと、どこまでも怪しい雰囲気。「読ませる力」を持った作家さんだな、と思います。特にうまいのは町の不気味な雰囲気の演出です。

    この町はどこまで行ってもよそよそしく灰色で、錆びたトタンに囲まれた路地も、誰もいない道で点滅する黄信号も、わたしを受け入れようとしない。店を閉じ看板を下ろした跡がもの寂しい民家や、いつのものとも知れないチラシが破れて糊の跡だけ残った電柱、そうしたものから目を逸らす。



     一つだけ注文するなら主人公が強すぎることですね。弱さをのぞかせる場面も少しはあるのですが、先程引用したようにそれを決して見せようとしない。もう少し弱さを見せてくれれば、読者も共感でき、町や家族の異様さがなお際立ったのではないか、と思います。

    町の魔性



     一見現実離れした物語なんですが、実はとても鋭い。「町の魔性」を上手く捉えている、と思います。

     この間紹介した芥川賞作品、「九年前の祈り」でもそうでしたが、町にはその町にしかない独特の空気があります。そこで暮らす人々が、無意識のうちに作り出す空気。よそからきた人にとってはそれは不気味なものになります。 

     「よそ者」を主人公にしたことで、そういった雰囲気がとてもよく描けていました。ラストで明かされるのは町全体に仕組まれていた大きな「仕掛け」。町の魔性を小説に上手く生かし、壮大なフィクションに仕立て上げたラストは見ものですよ。

    小説, 米澤穂信,



    •   21, 2015 19:15
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