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 「流星ワゴン」や「カレーライス」などを紹介し、このブログでは贔屓にしている作家の1人、重松清さん。でも実は、私は重松さんが苦手です・・・。

ビタミンF (新潮文庫)
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重松 清
新潮社
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 今回紹介するのは直木賞受賞作「ビタミンF」です。苦手と言いましたが、嫌いと言っているのではありません。「苦手」と「嫌い」、似ているけど違いますね。重松さんが素晴らしい作家であることは認めた上で、苦手と書いています。重松清さんが苦手、そのわけとは・・・?



40手前の父



 7つの短編が収録されていますが、作風はかなり似通っています。「40歳を手前にした父親」、これは「流星ワゴン」にも見られたテーマで、重松清さんの徹底したこだわりが見られます。

 共通しているのは年齢だけではありません。作品に出てくる父親は、みな妻がいて、子どもがいて、幸せな家庭があって。これだけ就職もままならない時代に、そんな人生を送っている父親は世間から見れば「勝ち組中の勝ち組」だと思います。

 それでも、人生に不満を持ってしまうのが重松作品の父親たち。幸せで満ち足りている環境に、どこか不満がのぞいてしまうのがなんともリアルなところです。

だが、テレビの画面からふと目を離し、家族を眺め渡した瞬間、不意に思った。
俺の人生は、これか―。
なーんだ、と拍子抜けするような。



 幸せな環境にいるのに、不満をいうなんて何事だ!と怒る人もいるかもしれません。でも、私はこれはとても鋭い描写だと思います。幸せな環境、とはいうけれど、それは他人から見たものでしかありません。その幸せの真ん中にいる当人からしたら、どこかで「つまらない」と思う瞬間があるのかもしれません。

 男で40といったら、ちょうど平均寿命の半分くらい。まさに、「人生の折り返し地点」です。私にはもう少し先の話ですが、その地点に来た時に、自分の人生の残り半分が見えてしまうのでしょうか。

 この作品では、「40手前の父親」が徹底して描写されます。ちょっとくどくなるくらいに、何度も、何度も重なる描写。そこに込められた、重松さんの強い思いを感じます。

子どもが分からない



 もう1つの特徴は、「子どもの気持ちが分からなくなる父親」という構図でしょうか。「かさぶたまぶた」という短編があるのですが、そこに出てくる父親は、娘のことが分からなくなってしまったことに驚き、そして「分かっているふり」をしようとします。

 そんな彼に、試練が待っていました。大学受験で浪人している息子が、酔いつぶれて家に帰ってきました。彼は、息子にこう言い放たれます。

「俺らずーっと、うんざりしてんだよ。あんたに。優香も、お母さんも、そう思ってるんだよ。なんでも自分がカッコつけて余裕こいて、まわりのことばっかり気にしてよお、クソがよお・・・・・」



 厳しい言葉です。息子には、全て見透かされていた―生きた心地がしないでしょう。

 可愛かった子どもが、だんだん大きくなって、ついには自分に反発する日がやってくる。子どものことは何でも分かっていたつもりが、いつの間にか何も分からなくなっている。親子の残酷な面が浮かび上がります。

 ただ、親子の難しさを書きたいなら、父親と母親、どちらでもいいはずです。しかし、重松さんの作品には、際立って「女目線」が少ないです。この話は、全て父親目線。「流星ワゴン」もそうでした。これはどうしてでしょう?

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 私は、父親が「嫌われ者」になる宿命だから、だと思っています。子どもが息子でも娘でも、一般的には「嫌われ者」の役目を背負うのは父親のほうではないでしょうか。

 大きくなった息子にとって、お父さんほど目ざとい存在はありません。家の中にいる自分より大きな男。思春期には激しくぶつかり、反発しあって・・・。男同士で「朋友」になれる日はまだまだ先です。

 娘にとってもそうではないでしょうか。いつの日か、一緒にお風呂に入るのを拒む日がやってきます。性の話など、デリケートな問題の話し相手はいつもお母さん。お父さんは、自分のことを最も分かってくれない存在です。

 あくまで一般的に、ではありますが、父親が「嫌われ者」になる宿命が見えてきます。40目前で家庭に恵まれている男性は幸せの絶頂だ、という風に書きましたが、案外そうではないのかもしれません。嫌われ者になることが最初から決まっているのだとしたら、これはなかなか辛い仕打ちです。

 そういうことも踏まえた上で、重松さんは「中年の父親」の姿を追い続けているのだと思います。

Fの意味



 さて、タイトルのビタミンFに込められた意味です。作品の最後に、重松さんが解説しています。

family father friend fight fragile fortune・・・・<F>で始まるさまざまな言葉を、個々の作品のキーワードとして物語に埋め込んでいったつもりだ。そのうえで、いま全七編を読み返してみて、けっきょくはfiction、乱暴に意訳するなら「お話」の、その力をぼくは信じていたのだろうと思う。



 Fにはそんな意味が込められていたのですね。「家族」も「父」も「友人」も頭文字がFなのか・・・。

 最後に、私が重松さんのことが苦手な理由も説明しなければいけません。どこか古傷が疼くような、そんな苦しい感覚を覚えます。それは、私が、「心のどこかで家族と正面から向き合うことを避けてきた」、という負い目があるからだと思います。

 だからこそ、家族の姿を、特に父と子の姿を真正面から描く重松さんの作品に、苦しい思いを感じてしまうのでしょう。家族が存在していることは幸せです。ですが、家族と本気で正面から向き合うことは全くの別問題。そこにある苦しさというものを、本当に上手く描く作家さんです。

家庭っていうのは、みんながそこから出ていきたい場所なんだよ。俺はそう思う。みんなが帰りたい場所じゃない。逆だよ。どこの家でも、家族のみんな、大なり小なりそこから出ていきたがってるんだ。幸せとか、そういうの関係なくな



 最後の短編より。この説得力は、いったい何なのでしょう。

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族を正面から描き切る勇気。では、正面から「受け止める」勇気はありますか?

 胸が締め付けられるような重松作品。こういう作品を受け止める勇気が読み手に求められるのだと思います。私も40歳に近くなって親の立場になってから読むと、また感想が変わるのかな。



こちらもどうぞ

「カレーライス」 重松清さん
 テーマは「父と子」。小学6年生の教科書に掲載されている作品です。

「流星ワゴン」 重松清さん
 テーマは「父と子」(なんと、私が読んだ作品で同じテーマ3連発!)1月クールにドラマ化されていた代表作。
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小説, 重松清,



  •   03, 2015 21:19

  •  今週末から、大学の期末レポート執筆のため、一時的にブログを離れます。記事は予約投稿で対応する予定です。全部で7本あるレポートのうち、今日はやっと1本が完成して、少し気持ち的に楽になりました。明日はさらにもう1本完成する予定です。今日は祝日でしたが、大学の図書館は超満員でした。レポートに追われるのは皆同じで、図書館には殺気が漂っていました・・・。大学生、やってます。

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    荻原 浩
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     時期を考えると、テスト前に読む小説はこれが最後になるかもしれません。しばらく小説を読む時間が無くなるので、小説のよさをじっくりと噛みしめながらレビューを残しておこうと思います。紹介するのは、荻原浩さんの「家族写真」という作品です。荻原さんの作品は3冊目ですが、良い意味で分かりやすく、読みやすい作品ばかりです。



    ほろほろほろり



     荻原浩さんは、大変コミカルでテンポのよい文章を書かれます。この本の軸となる「中年男性」は荻原さんがもっとも得意とする人物ではないでしょうか。

     口を開けばオヤジギャクが飛び出し、子どもと妻からは馬鹿にされ、体からは加齢臭が漂う・・・そんな典型的な「オヤジ」の姿を、ユーモラスに、そしてちょっぴり切なく描きます。コントを楽しんでいるような感覚で読むことができるかと思います。

     2つ目の短編、「磯野波平を探して」などはその典型です。タイトルを見ただけで、オヤジの悲哀というのがひしひしと伝わってこないでしょうか?波平さんと同じ54歳になった主人公が、波平さんのことを思い、語りかける形で物語は進行します。年相応の振る舞いをしようとがんばる主人公ですが、なんとも痛々しくて、心がひりひりします。

     三十代の頃は、四十になれば何かが変わると信じていた。四十代になってからも、五十になれば何かが見えてくると思っていた。

     だが、実際には、何も変わらない。何も見えやしない。四十九歳の最後の夜が明け、五十歳の朝になっても、寝ぼけまなこの自分がいるだけだ。

     いつになったら、不惑が来るというんだ、なぁ、孔子。


     目をそらしたくなるような部分ですね。人間が輝いていられるのはいつまででしょう。人生の「下り坂」はどこから始まるのでしょう。大学生をやっているうちは、まだこういったことは考えないでおきましょうか・・・。

    しりとりに乗せて



     「しりとりの、り」という作品は、ドライブをする家族が車の中でしりとりをして、そのしりとりで物語が進んでいくという大変面白い構成をとります。テンポのよい荻原さんらしい発想だと思います。

     一家のお父さんとお婿さんがしりとり対決をするのですが、お父さんは娘の結婚相手であるお婿さんにどうしても意地悪をしたくなるのです。そこでお父さんは、「る」で終わる言葉でお婿さんを攻め立てる、という作戦に出ます。

    「いくぞ。しりとりの、『り』からだ。『リール』」
    「ルキノ・ヴィスコンティ」
    「人名はなしだ」
    「では、ルクセンブルグ」
    「グーグル」
    「類題和歌集」
    「ウシガエル」
    「ルポタージュ」
    「ゆ・・・ゆ・・・『夕立ガエル』」
    「お父さん、ずりいよ。そんなカエル、いないよ」
    ・・・(疲れたので中略)
    「ふふふ、そろそろ苦しくなってきたようだな。とどめか。『ウール』」
    「ルネッサンス」
    「スリル」
    「ルッコラ」
    「ラ・・・ラ・・・ラーメンライスにビール」
    「あなた、それ反則」


     何とかして「る」のつく言葉にもっていこうとするお父さんと、それに対してさらっと「る」で始まる言葉を答えるお婿さん。お婿さんに意地悪をしてやろう、自分のかっこいいところを見せようという意識が見え隠れして、これもまた「オヤジの哀愁」を感じさせる話です。この後もしりとりは続くのですが、結局お父さんは負けてしまいます。どうにもこうにも、情けないオヤジです。

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     面白い話ばかりではありません。センチメンタルで、心がやけどしそうな、そんな切ない話を書けるのも荻原さん。この本の中では、「プラスチック・ファミリー」という話がそれに当たります。

     独身の男が、マネキンを拾います。男はそのマネキンに昔職場で恋をした女性の姿を重ね、マネキンと同居し始めるのです。

     あらすじをこれだけ書いただけで、この話の切ない雰囲気が伝わってくることでしょう。

     「俺の人生は間違っちゃいない」

     力んだ表紙に放屁した。ほらな、屁をこいても誰にも顔をしかめられない。なんと素敵な人生だろう。

     「結婚するやつは馬鹿だ」


     いたたまれなくなってきます。この話は笑い要素が少なく、全体的にシリアスな雰囲気です。雨の日のアスファルトの匂いがするような小説だと思います。心地よいにおいではないけれど、どこかで求めたくなるようなにおい・・・。荻原さんの作品の中では、こういう雰囲気を出す作品が一番好きです。

    家族はそれぞれ



     家族というと、どうしてもそのイメージを美化してしまいがちです。一家団らんの幸せな家庭を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

     私はそうではなくて、家族の中にある、家族独特の「臭み」のようなものを大事にするべきだと思います。それは、家族以外の人たちにとってはあまり心地のよいものではないです。他の人の家に上がると、心がざわざわして、心の奥にどこか不快感が生まれませんか?それは、その家庭にある独特の「臭み」を感じ取っているからだと思います。

     家族を描いた小説、中年男性を主人公にした小説はたくさんあるのですが、よい作品にはこの「臭み」があります。臭みがないと、薄っぺらい物語にとどまってしまうでしょう。家族臭さ、人間臭さ、こういったものはとても大事です。

     読んでいながら、心がひりひりして、途中で本から顔をそむけたくなる。そんな作品に出会えたら、それはきっと素敵な「家族小説」です。

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    たたまれなくなるオヤジの悲哀・・・荻原浩さんが送る、心がひりひりする短編集

     この作品を読んでの感想は単純です。「ああ、年はとりたくないなあ」・・・。若さ、今のうちに大事にします。



    こちらもどうぞ

    「ビタミンF」 重松清さん
     私が上に書いたことをそのまま体現したかのような小説です。家族の臭みを書かせたら重松さんは間違いなく日本一でしょう。直木賞を受賞した代表作です。

    「明日の記憶」 荻原浩さん
     こちらは今日紹介した荻原浩さんの代表作。若年性アルツハイマーをテーマにしたシリアスな小説です。レビューを読み返してみると、私は人生の下り坂について考えていました。荻原さんの作品を読むと、同じことを考えるんですね。
    小説, 荻原浩,



    •   20, 2015 23:55