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  •  夜は、優しい。生きづらさを抱えた人に、夜は優しく接してくれます。暗闇が包み込んでくれるから、肩に背負った荷物をそっと下ろすことができる。なんというのでしょうか、夜の「ゆるされている」雰囲気が、私は大好きなのです。

    書影

    明るい夜に出かけて
    佐藤 多佳子(著)
    新潮社
    発売日:2016年9月21日




     佐藤多佳子さんの『明るい夜に出かけて』という小説をご紹介しましょう。描かれているのは、人生をさまよう若者たち。そして、「深夜ラジオ」。人の数だけ人生があって、人の数だけ夜がある。私の知らなかった、最高に楽しくて、そして明るい夜に出会うことができました。(約3,700字)



    夜に逃げ込んで



     夜の、「ゆるされている」という雰囲気が好きで、私はよく無意味に夜更かしをします。夜に何度救われたことでしょうか。たまらなくなって逃げ込んでも、夜はいつも変わらずそこにいてくれるのです。

     この小説の主人公、富山一志(とみやまかずし)もまた、無意識のうちに夜に「ゆるされたかった」のでしょうか。とある事情で大学を休学することになった彼は、深夜のコンビニでバイトを始め、夜が中心の生活を送ります。そんな彼の最大の楽しみが、「深夜ラジオを聴くこと」。そして彼は、聴くだけではなく、ラジオにネタを投稿するいわゆる「ハガキ職人」として活躍しているのです。

     彼が最大の情熱を傾けたのが、「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」という番組でした。もう終了してしまったそうで、私はそれがとても残念だったのですが、深夜ラジオのリスナーの間で抜群の人気を誇り、伝説のようになっている番組だそうです。実は、作者の佐藤多佳子さん自身もこの作品の大ファンだそうです。そのため、この作品では実在していたこの番組が色濃く、濃密に描かれています。

     オールナイトニッポン。私は一度も聴いたことがありませんでした。でも、有名なオープニング曲は知っています。「深夜」の代名詞になっているような番組ですね。アルコ&ピースさんは一部と二部の両方を担当したそうですが、その放送時間は深夜1時~3時、そして二部にいたっては深夜(早朝?)3時~5時です。ホームページを見に行くと、「27:00~29:00」の文字が見えて、「すごい時間だな!」とつぶやいてしまいました。普段の私ならぐっすり眠りこけている時間です。



     ですが、安心していただきたいと思います。この作品は、オールナイトニッポンを聴いたことがない人でも楽しむことができると思います。私自身がそうでした。私が知らなかった、夜のもう1つの世界。楽しくて笑いっぱなしの「明るい夜」。それと出会えたことに、心がときめきます。むしろ、知らない人にこそ読んでほしい小説だと思います。

     本を読み終えて、「素敵な番組だったんだろうなあ」と想像します。最高に馬鹿馬鹿しくて、何を言っても全力で受け止めてくれるような雰囲気。リスナーのメッセージ次第で、どこに向かうか分からないフリーダムな構成。そう、きっとこの番組の魅力も、全てを「ゆるしてくれる」雰囲気にあるのではないかと思います。

    ”ライヴ”な小説



     楽しいラジオがBGMのように流れていく中で、作品のテーマとしてあるのは「生きづらさ」だと思います。主人公の富山君は、傷付き、夜に逃げ込まざるを得なくなったある深いトラウマを抱えているようです。それは、彼が大好きなはがき投稿からも離れざるを得ないような、深いトラウマでした。中盤から終盤にかけてそれは明かされますが、なんとも現代特有のエピソードです。普段あまり考えることはありませんが、彼と同じように打ちのめされてしまった人は、きっとこの世界にたくさんいるのだと思います。だからこそ、世界には「夜」が必要なのだ、とも思います。誰もが、いつでも逃げ込める場所として。

     作品の描写には、いい意味での「軽さ」があります。「ライヴ感」と言い換えてもよいかもしれません。例えば、ある日のヤフーニュースのトピックが小説の中に並んでいたり、ラインやツイッターの投稿が挿入されたりします。それらは普段すぐに更新されて、埋もれていってしまうもの。そういったものが効果的に配置されることで、人生の「ライヴ感」が強調されるのです。

    やっぱり、ラジオって、リアルタイムな文化だ。今流れてくるものを、今受けとる。録音して保存しておいても、たぶん、それは別の何かになる。



     彼はこう言います。ラジオもまた、「ライヴ感」を強調する大切なアイテムなのでした。今は過去の放送を後から聴くこともできるようですが、やっぱり「生」がいいですよね。一瞬一瞬は、切り取ってみればとても些細で、くだらないことかもしれないけれど、その時、その場所で、それを聴いたことが大事で、それが積み重なって「人生」になっていくと思うのです。

     心地よい「ライヴ感」の中で、現代に生きる若者特有の悩みが、ぽつり、ぽつりと語られていきます。

    何かをがんばりたいけど、何がやりたいのか、わからない。大学って、そのへんを見つめたり、見つけたりする場所なんだな。外にこぼれ落ちても、中に留まってても、わからなさは一緒な気もする。



    俺は人間をやりたくないよ。猫にでもなって、冷たいタイルの上で丸まって寝てたいよ。ほかのヤツのこととか、あれこれ考えたくない。疲れるから。削られるから。最後は自分に返ってくるし。一番考えたくないのは、俺自身のことだから。



     「軽さ」の中でこういったことが吐き出されているところがこの小説の魅力で、一つ一つがまるで部屋の中のひとりごとのような感じでつぶやかれていることで、心にすとんと落ちてきます。

     同じようなことを、私もいつも思います。同じようなことが書かれている小説を、私は数えきれないほど知っています。これは彼個人の悩みではなくて、きっと若者にとっての「普遍」であり、「不変」。だからといって、些細な悩みではないのです。それを抱えている個人にとっては、辛くて苦しい、そして逃れられない悩みです。



     中でも感じ入ったのは、「SNSでの人間関係」にかんすることでしょうか。実は、例のトラブルによってSNSから離れていた富山君。ラジオのためにこっそりとツイッターを再開するものの、SNSでの人間関係には深く立ち入れないでいます。

    しかし、簡単だよな。ちょっと知り合っただけで、気やすくどんどんつながっていく関係。リアルからSNSを経由してリアルへ再突入。カンタンにズブズブだ。油断も隙もない。



     太字の所で、私は首が痛くなるくらい首を縦に振りました。リアルとSNSの境界がぼやけ、互いが互いに侵食していきます。「相互監視社会」などと言いますが、言い得て妙です。みんながみんなで、何かを「演じて」いて、おかしいのと思うのならみんなでそれをやめればいいのだけれど。「もう一つの世界」は不思議です。

     「カンタンにズブズブ」になることが、彼にとっては耐えがたいのでしょう。分かる気がします。人間関係は、長い時間をかけて、少しずつ築いていくものだと思います。たくさんの大切な過程をすっとばして、中身が空洞になっている「トモダチ」。もっと、「ゆっくり」でもいい。そんな風にも思います。

     現実の、そしてSNSの人間関係に苦悩していた富山君でしたが、ラジオが、そしてバイト先のコンビニが、彼にかけがえのない出会いをもたらしてくれます。人間関係にトラウマがある彼は、なかなか心を開けません。そんな彼が、少しずつ、少しずつ距離をつめようとして、そしてある瞬間に「吐き出す」。その過程に、私は大切なことを教わったような気がしました。

    夜に灯る明るい光



     表題の「明るい夜に出かけて」は作品の中でも効果的に使われています。私もこのタイトルに惹かれて本屋さんで手に取ったので、人の心に響くことばだと思います。富山君がコンビニで偶然出った少女、「虹色ギャランドゥ」が書いた演劇のタイトルで、富山君はそれに感銘を受け、ことばにならないことばをつづります。それを、同じコンビニで働く鹿沢さんが歌にしたのでした。

    タイトルの「明るい夜」って、色々思わされる。夜は暗いけれど、闇を照らす光は明るい。(中略)「夜」という言葉の持つ深さと、「明るい」という言葉の持つ強さ。十人いれば、きっと十通りの「明るい夜」のイメージがある。



     明るい夜から浮かぶイメージが連ねられていって、それは最後に素敵な歌になります。ぜひ本を読んでいただいて、その過程を味わっていただきたいです。

     さて、本を読み終えて、私は久しぶりに夜にラジオをつけました。私は富山君と違ってFM派で、中高生の時、「スクールオブロック」と「ジェットストリーム」をよく聴いていました(どちらも、現在も変わらず放送されています)。SOLには、いろいろなことを教えてもらいました。勉強そっちのけで聴いていました。バンプ先生が来校して、新曲が宇宙初オンエアされた時には正座をして聴きました・・・(知らない人にはさっぱり分からない話ですみません)。そして、「ジェットストリーム」は最高のクールダウン。聴きながら、いつのまにか眠りについています。

     大学受験があるから勉強しなければ、とラジオの電源を落として数年…。久しぶりの夜のラジオです。

     ・・・・・・・・・

     「やっぱ、いいなあ」と。今でも変わらず、そこに番組がありました。つけたばっかりで、まだ内容が頭にも入ってこないのに、感慨でいっぱいです。「余裕のない生活をしていたな」、ふとそんなことも思いました。電源を入れれば、いつでも受け入れてくれるラジオ。また、生活に欠かせないものになりそうです。

     

    そもそも、前向きって、普通に思われてるほど、絶対的にいいことかな?




     後ろを向きながら生きてもいいし、立ち止まってもいいと思います。辛くなったら、夜に逃げ込めばいいと思います。優しい夜は、全てを受け止めてくれるでしょう。そして、よかったらラジオをつけてみてはいかがでしょうか。

     優しい夜に、明るい光が灯るはずです。



    オワリ

     最後まで読んでいただき、ありがとうございました。関連する記事やウェブページの情報です。

    アルコ&ピースのオールナイトニッポンシリーズ(wikipedia)

     どんな番組だったんだろうと思って読みにいったのですが、楽しそうな雰囲気が伝わってきます。なんとなく、このページを編集した方の、番組への愛を感じます。


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    小説, 佐藤多佳子,



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