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 あけましておめでとうございます。2018年もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、今年は元旦からさっそく本の紹介をしていくことにしましょう。私が一番好きなエンタメ小説です。そしてこの作品は、お正月にうってつけの小説だと思います。この作品を紹介するなら新年一発目だろうと思い、これまで温めていました。

風が強く吹いている (新潮文庫)
三浦 しをん
新潮社
売り上げランキング: 1,435


 三浦しをんさんの『風が強く吹いている』は、無名の大学陸上部が「箱根駅伝」に挑む、最高のエンターテイメント小説です。もう何回繰り返し読んだでしょうか。何回読んでも全く色褪せない魅力があります。特に終盤の、皆でたすきをつないでいく長い長いクライマックスには、いつも心が躍ります。

 新しい年を、気持ち新たに、そして希望を持って前進していきたい。そう思う全ての人の背中に「風」を吹かせてくれるであろうこの小説を、新年一発目に送り出そうと思います。



内容紹介



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 を切って、たすきをつなげ。

 寛政大学には、「竹青荘(通称・アオタケ)」という学生寮がありました。10の部屋があるうち、9つは埋まっていました。寮を取り仕切る清瀬灰二(ハイジ)は、ある「野望」を胸に抱き、密かに10人目の住人を探し求めていたのです。

 その出会いは、唐突に訪れました。コンビニから、パンを万引きして逃げ出す一人の青年。「つかまえてくれ」の声。ハイジは自転車に乗って走り出します。だけどその目的は、万引き犯を捕まえることではありません。ハイジは、その青年の走る姿に、一瞬で惚れ込んだのです。

 自転車を加速させ、青年に追いついたハイジ。そして、こう声をかけます。「走るの好きか?」

 これが、ハイジと、アオタケの10人目の住人となる、蔵原走(くらはら・かける)との出会いでした。そしてハイジの「野望」が、はっきりと動き出した瞬間だったのです。

 …

 走も加わり、アオタケの住人たちの新年度が始まります。皆思い思いに大学生活を満喫し、アオタケでは毎日のように宴会が開かれました。そんなある日、宴の席で、ハイジがおもむろに口を開きます。

「俺たちみんなで、頂点を目指そう」

「十人の力を合わせて、スポーツで頂点を取る」



 十人で挑むスポーツ。そう、ハイジの野望とは、アオタケの住人たちで「箱根駅伝」に出場することだったのです。

書評



書評

◆ 速さと強さ

 この作品の主人公である走(かける)は、走るためにこの世に生まれ落ちたと言ってもいいくらいの天才です。見る者を恍惚とさせるような走りで、風を切って陸を翔けていきます。

 だけど、彼の人生は順風満帆ではありませんでした。走の人生とは「走る」ことが全てだったのです。彼は高校時代にあるつらい経験をしました。つらい経験をしたのに、走るということからはどうしても逃れることができなかったのです。

一度魅惑されたら、どうしたって逃れることはできない。好悪も損得も超えて、ただ引き寄せられる。行き先もわからぬまま、真っ暗な闇に飲まれていく星々のように。
つらくても、苦しくても、なにも得るものがなくても、走りをやめることだけはできないのだ。



 素晴らしい才能を持っているものの、序盤の走はもがき苦しみ続けているように見えます。ハイジがぶち上げた「箱根駅伝」というあまりに大きな目標にも、最初は馬鹿馬鹿しさを隠せずにいます。

 そんな彼を変えたのは、天才の彼とは違う、「秀才」のハイジと、そしてアオタケの仲間たちでした。ハイジの言葉が、もがき続けていた走の人生に新たな光を差し込み、彼が変わるきっかけを作ります。それは、速さではなく、「強さ」が大事なのだ、という言葉です。

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 長距離選手にとっての最高の褒め言葉は、速いではなく「強い」なのだ。そう言ったハイジはこう続けます。

「きみには才能と適性がある。だからね、走。もっと自分を信じろ。あせらなくていい。強くなるには時間がかかる。終わりはないと言ってもいい。老人になってもジョギングやマラソンをするひとがいるように、長距離は一生をかけて取り組むに値する競技なんだ」



 ハイジは理知的で、その言葉はいつも的確です。彼は走のような天賦の才の持ち主ではありませんが、それでも幼いころから走りと向き合い続け、その能力を高めてきました。走とは違う意味で様々な苦しみを背負い、乗り越えようとしてきた彼の言葉はいつも重く、そして的確です。「天才」の走と「秀才」のハイジ。異なるタイプの2人の出会いと交わりは、最後に素晴らしい奇跡を起こします。

 さて、「強さ」が大事なのだというハイジの言葉は、作品の軸になっていきます。速さだけなら、走は一番です。素人同然のメンバーも多いアオタケの住人では、どう頑張ったって走には勝てないでしょう。

 でも、そうじゃないんだと。それを教えてくれるのがこの作品です。寄せ集めの、たった10人のメンバーが、予選会から箱根駅伝を目指します。その過程で、「強さ」とは何なのか。走は、そして読者も、少しずつ掴んでいくことになります。

◆ 250ページのクライマックス

 この作品を何度も読んでいますが、「キャラ」の魅力は見事です。10人もメンバーがいるのに、一人一人の個性が見事に際立っていて、すぐに全員を覚えることができます。私は特に、仲良し双子の「ジョータ」と「ジョージ」、そしてメンバーの中で誰よりも運動が苦手だった「王子」が好きですね。他のメンバーも、皆唯一無二の魅力があります。

 そして、作品の終盤には、長い長いクライマックスシーンがあります。箱根駅伝への出場を果たしたメンバーが、一人一区ずつ、たすきをつないでいくのです。省略されるメンバーは一人もいません。たすきをつなぎながら、一人一人の物語が丁寧に描かれています。10人の、それぞれの想いと物語。箱根駅伝という題材だからできた、素晴らしい手法です。

 全員のことを丁寧に描くので、駅伝本番は文庫本にして250ページほどの文量です。なんと、「250ページのクライマックス」!250ページといったら、それだけで短い文庫本くらいの量になるのですごいボリュームです。けれど、この250ページはあっという間に読めてしまいます。私はいつも、このクライマックスを読んでいる時にすごい高揚感と共に「リーダーズ・ハイ」の状態になります。

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 駅伝の本番で、走が「強さ」とは何か、一つの考えにたどり着くシーンがあります。メンバーの一人、「神童」が体調不良を押して、たすきをつなぐために必死に走るシーンです。タイムだけなら、走が走った方がずっと速い。だけど、走はそこに「強さ」を見るのでした。

強さ。ふと走は思う。(…)苦しくてもまえに進む力。自分との戦いに挑み続ける勇気。目に見える記録ではなく、自分の限界をさらに超えていくための粘り。



 「才能」を言い訳にして、「努力」をやめてしまったら、そこで終わってしまう。強さとは、ここで走が感じたように、「自分との戦い」なのだと思います。油断したらすぐに甘やかしてしまう。それを戒めて、自分と戦い続けることができる人は、たしかに気高く、強いです。

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 この作品で私が一番好きなセリフを紹介します。箱根駅伝の魅力が、ここに全て詰まっているように思うのです。

一人だけど、一人ではない。流れる川のように道はつづく。



 駅伝とはある意味孤独なスポーツです。走っているランナーには、誰にも手を触れることはできません。チームメイトも、沿道の人も、できるのはただ応援し、祈ることだけです。ランナーは自分との孤独な戦いに勝って、たすきをつながなければいけません。

 だけど、「一人だけど、一人ではない」。ランナーは一人で走りますが、一人で走ってこれたわけではないと思います。苦しみを乗り越えて来れたのも、背中にかけたたすきにぐっと重みを加え、ランナーの足を前に進ませるのも、「仲間」の力です。孤独で戦っているランナーだけれど、ある一面では決して孤独じゃない。孤独とは正反対にあるものが、ランナーの「風」になる。

 年の始め、毎年箱根駅伝を観て、奮い立たされます。駅伝の魅力は、こういったところにあるのだと改めて思いました。

 現実にも劣らないような、素晴らしい感動が小説にはあります。無名の陸上部が起こした奇跡を、ぜひ目撃してみてください。

もがいて、前へ



まとめ



 『風が強く吹いている』は、前進したいと思う全ての人に力をくれる素晴らしい小説です。もがき苦しみながらも前に進んでいくのは、何も陸上だけに限られたことではありません。

走っても走らなくても、苦しみはある。同じぐらいの喜びも。だれもが、それぞれの悩みに直面し、なしとげられないとわかっていてももがいている。



 足を踏み出せば、前に進む。走るとは、原始的でありながら、何と美しい姿でしょうか。

 2018年、その人ごとに目標、成し遂げたいことというのがあると思います。踏み出す一歩の大きさと、その大変さは人により違うと思います。けれど、人が前に足を踏み出そうとすることは、それ自体がかけがえのなく、尊いことです。前に進もうとする全ての人にとって、実り多き一年になりますように。この本は、きっと読む人にも「風」を吹かせます。

◆ 殿堂入り決定!

 「最果ての図書館」は、『風が吹いている』を「プラチナ」に登録しました(バナーをクリックすると、プラチナの本一覧を表示します)。





オワリ

第94回箱根駅伝(日本テレビ公式サイト)

 お正月の恒例行事、箱根駅伝です。今年はどんな走りが繰り広げられるのでしょうか。タイムや順位だけではない、選手選手一人一人がそれぞれ大会に懸けたもの、そしてそれを込めた走りを見届けたいですね。


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小説, 三浦しをん,



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三浦 しをん
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の道一つで、生き抜きます

 「舟を編む」に「神去なあなあ日常」、そして私が一番好きな「風が強く吹いている」・・・三浦しをんさんの書く「職業もの」は本当に素晴らしいです。今回はそこに新たな一冊が加わりました。どこが素晴らしいのかは、レビューの方で詳しく書こうと思います。

 今回小説の題材として取り上げられたのは、日本の伝統芸能、「文楽(人形浄瑠璃)」です。伝統芸能ではありますが、日本人に馴染みが深いかと言われればそうではないと思います。ですが、そういった馴染みのない分野に新たに光を当てることこそ、三浦しをんさんの本領が発揮される場所なのです。



生き抜く人びと



 三浦しをんさんの書く「職業もの」には魅力がたくさんあります。

 ①目の付け所・・・私たちにとって馴染みの薄い分野を取り上げて小説にし、私たちが知らなかったその分野・職業の魅力に気付かせてくれます(辞書の編纂、林業、駅伝チーム、文楽・・・)。三浦しをんさん本人の趣味というのも大分反映されているようですが、趣味が反映されているからこそ、本当に楽しく書かれているのだろうと思います。

 ②プロとしての矜持、覚悟が分かる・・・小説に出てくるのは、その分野と本気で向き合い、一生骨をうずめる覚悟で己の研さんに励んでいる「プロ」たち。プロがプライドを持って仕事に取り組む様子には本当に胸を打たれますし、プロの何たるかを教えてもらいます。

 ③等身大で好感の持てる主人公・・・少々未熟ですが、着飾らず、等身大に生きている人物が主人公に設定されることが多いです。最初が未熟な主人公が徐々に成長していくというよくある展開ですが、やはり肩入れしてしまいますし、主人公が応援したくなるような好人物として描かれているので読んでいて心地よいのです。

 このような魅力があります。実は魅力はもう一つあると思うのですが、それについてはレビューの後半で触れようと思います。

 さて、今回のテーマは「文楽」。語りと三味線、そして人形が三位一体となって成り立つ、日本の伝統芸能です。・・・などとさも分かっているように語りつつ、私はほとんど知識を持ち合わせていませんでした。小学校の時、芸能鑑賞会で見たのが唯一触れた機会だったと思います。

 そんな馴染みのない分野の小説を、果たして楽しめるのか・・・。そんな心配は、今回も杞憂だったようです。今文楽を鑑賞したら、全く見方も変わるのだと思います。今回も、真剣に、そしてプライドを持って1つの芸能に打ち込もうとする人々の姿が、小説の中にありました。

文学の妙味



 主人公の健(たける)は、文楽の太夫(語り)、三味線、人形遣いのうち、太夫をやっています。もう13年も文楽に打ち込んできましたが、何百年も続く伝統芸能の世界ではまだまだ見習い的立ち位置で、学ぶことがたくさんあります。

 そんな健のパートナーになろうとしている三味線弾きが、兎一郎(といちろう)です。彼は寡黙で淡々と芸に打ち込む人物でした。一緒に組んでやっていくどころか、最初はなかなか認めてすらもらえません。健はいかにして兎一郎に認めてもらうのか。ありがちな展開ではありますが、主人公が等身大で応援したくなる人物だけに、すぐに夢中になっていきます。

 文楽についての知識を持ち合わせていなくても、存分に楽しむことができました。「語りで人物を表現する」ということの難しさ、そして妙味に気付きます。語りの中に出てくる人物に時には共感し、時には反発しながら・・・・。簡単なことではありませんが、全てが一体となった時には奇跡のような瞬間がやってきます。

(引用)
三百年前の大阪と、現代の大阪と、これから三百年後の大阪とが渾然一体になった、劇の力だけが導くことのできる場所へ。そこでは時間を超えて、ひとの心が交じりあう。三百年前の人々の感情が自分のものになり、自分のものとなった感動が、三百年後の人々にもきっと伝わると信じられる。



 一冊に数回、このように芸術の奇跡とでも言うような瞬間が訪れます。鳥肌が立つような瞬間です。三浦しをんさんの、こういう場面の描き方は見事だと思います。

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 伝統芸能、というのは長い時間をかけて培われ、そして守られてきたものです。最近はなり手の減少などで苦境に際している伝統芸能もあると聞きます。それらを本当に守っていきたいのなら、「どうして守らなければいけないのか」ということを明らかにして、その芸能と本気で向き合っていく人の存在が必要なのだと思います。

 兎一郎が、健にこんなことを言います。

(引用)
「義太夫の奥深さと歴史に比して、一人の人間に与えられた時間はあまりにも短い。その短い時間の中で、俺たちは自分の芸道を突きつめつくし、あとにつづくものに伝えていかなきゃならない。これは、義太夫を選んだものの使命だ。うかうか時を過ごしていたら、プロの太夫として手遅れかつ命取りになるということを忘れるな」



 彼の姿勢は時にあまりにもストイックにも思えるのですが、そこまでストイックにならなければいけないわけが分かるセリフです。伝統芸能が受け継がれてきた長さに比べて、あまりに短い人間の人生。 一分だって、一秒だって無駄にはできないのです。

 文楽を知らなかった私ですから、その価値についても分かりません。ただ、このように自分の人生をすべてそこに捧げようとしている人の存在に心を動かされたことは間違いありません。伝統芸能には全般的に馴染みがなかったのですが、この「守らなければいけない」という思いは、私たち一般人も受け止めなければいけないのではないか、と思います。

覚悟と決意を経て



 真剣さもあれば、コミカルに見せる場面もあるのが三浦しをんさんのよさです。文楽の題目に上手く絡めつつの恋愛模様も展開されていきます。主人公の健は本当にまっすぐで、でも不器用な人物でした。小説が好きな方は分かるかもしれませんが、こういう人物のする恋愛というのは一番応援したくなるものです。

 さて、三浦しをんさんの書く「職業もの」の魅力について書いていました。最後に1つだけ残しておいたものがあります。それは、「最終盤のカタルシス」です。

 三浦しをんさんの作品は、最後の最後、怒涛の勢いで畳みかけてくるような勢いがある作品が多いです。迷いの中にいた主人公が、一気に闇から脱して高みに登っていく感じ、作品の中にあったモヤモヤが最後の最後に全て取り払われる感じ・・・作品の最後の方の勢いという点でいえば、三浦しをんさんを上回る方はなかなかいないのではないかと思います。

 今回も、そんなカタルシス的終わりが待っていました。

(引用)
金色に輝く仏果などいるものか。成仏なんか絶対にしない。生きて生きて生きて生き抜く。俺が求めるものはあの世にはない。俺の欲するものを仏が与えてくれるはずがない。

健は内心で叫ぶ。仏に義太夫が語れるか。単なる器にすぎぬ人形に、死人が魂を吹きこめるか。



 私はこのような終わりが読みたくて三浦しをんさんの作品を手に取っている、と言ってもいいくらいです。今回も期待に応える終わり方でした。「おぉ~」と思わず声が出てしまうくらいの勢いがあるのです。そして、言いようのない気持ちよさを覚えます。この気持ちよさの原因はいったい何でしょうか。

 私なりに答えは見つけています。「迷いのない人間はかっこいい」、たぶん、そのようなことです。

レコメンド

を決め、ひたすら直進する―その気持ちよさ。

 馴染みのない分野にこんなにも魅力があることを伝えてくださる三浦しをんさん。この勢いはどこかクセになるものがあって、また次の一冊を手に取りたいと強く思わせます。



オワリ

「神去なあなあ日常」 三浦しをんさん

 こちらは林業がテーマのお話。文楽と同じくらい、馴染みのない分野ではないでしょうか。読んだのは今年の1月ですが、「すごく気持ちよかった」ということはよく覚えています。

作家さんの本棚 007 三浦しをんさんの本棚

 三浦しをんさんの本棚を開設しました。私がこれまでに読んだ三浦しをんさんの本をまとめています。

小説, 三浦しをん,



  •   21, 2015 23:07
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    三浦 しをん(みうら・しをん)さん

     私が読んだ三浦しをんさんの本です。新しい本を読むたびに更新しています。このブログで紹介した本については記事へのリンクを貼っています。



    ティーカップロフィール

    976年生まれ。出版社志望で、大学4年時は出版社に就職活動を行っていた。2000年に処女作、「格闘する者に○」を発表。山本周五郎賞候補、直木賞候補を経て、2006年、「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞を受賞。「まほろ~」は3作続く人気シリーズとなる。2012年には、「舟を編む」で本屋大賞を受賞、ロングヒットを記録した。

    ティーカップが読んだ作品

    6作品

    ・まほろ駅前多田便利軒 (日付不明)
    ・風が強く吹いている (日付不明)
    ・きみはポラリス ( 2014.11.21 )
    ・神去なあなあ日常 ( 2015.1.21 )
    ・舟を編む ( 2015.2.12 )
    ・仏果を得ず ( 2015.9.20 )

    ティーカップんな作家さんです

     ある職業を取り上げて書く「職業もの」が大変優れている、という印象があります。私たちにあまり馴染みがないと思われる職業に目を付け、エンターテイメントとして書き上げていくさまは一級品です。コミカルな部分もあれば真剣な部分もあり、そのメリハリが心地よいです。また、作品の最後にある勢い、快感といったものも特徴で、すがすがしい読後感を味わえることが多いです。



    品リスト

     風が強く吹いている

    イチオシ

    風が強く吹いている
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    三浦 しをん
    新潮社
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     箱根駅伝をテーマにした1冊。まっすぐでひたむきな登場人物たちが心地よい!作品に気持ちの良い風が吹きます。この本を読めば、お正月の箱根駅伝はテレビの前にしがみついてしまうこと間違いなしです。

     神去なあなあ日常


    神去なあなあ日常
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    徳間書店
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    「神去なあなあ日常」 三浦しをんさん

     舟を編む

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    「舟を編む」 三浦しをんさん



    その他

    まほろ駅前多田便利圏

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    きみはポラリス

    きみはポラリス
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    仏果を得ず

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    「仏果を得ず」 三浦しをんさん


    作家さんの本棚, 三浦しをん,



    •   01, 2015 00:00
  •  更新が遅くなりました、おともだちパンチです。今日は2012年の本屋大賞受賞作、三浦しをんさんの「舟を編む」をご紹介します。三浦しをんさんの本は、前回の 「神去なあなあ日常」 以来、2冊目のご紹介になります。箱根駅伝に林業、そして辞書の編纂・・・いつも斬新な切り口からそのテーマの新たな魅力を発掘してくださる三浦さん。今作も評判に違わぬ作品でした。では、以下「舟を編む」のレビューです。

    舟を編む舟を編む
    (2011/09/17)
    三浦 しをん

    商品詳細を見る


    果てしない嘆息



     タイトルの「舟を編む」とは何を意味するのでしょうか。もう有名になっているかもしれませんが、もう一度確認してみたいと思います。

    辞書は、言葉の海を渡る舟だ」
    「ひとは辞書という舟に乗り、暗い水面に浮かび上がる小さな光を集める。もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原を前にたたずむほかないだろう」



     『大渡海』という辞書の編纂に挑む主人公馬締光也(まじめ・みつや)と周囲の人々の奮闘記。言葉を海に、そして海に乗り上げていく辞書を舟に例えています。この「言葉の海」、「舟」の例えは、作中で何度も何度も効果的に使われています。ため息がでるほど美しく、これ以上ないと思えるような例えでした。果てしなく、底の見えない海。その深遠さは人間を惑わし、畏敬の念を抱かせます。しかしそれでもなお人間は憧れを捨て去ることはできません。終わりがあるかも分からないような船旅に、人は舟をこぎ続けているのです・・・。

    ことばをつかまえる



     海や舟を例えに出しながら作品から浮かび上がってくるのは、「ことばをつかまえる難しさ」。こんな一説があります。

    どれだけ言葉を集めても、解釈し定義づけをしても、辞書に本当の意味での完成はない。一冊の辞書にまとめることができたと思った瞬間に、再び言葉は捕獲できない蠢きとなって、すり抜け、形を変えていってしまう。



     例えを通して言葉の深遠さを見事に表現しているいることが、この部分に深みを出しています。言葉というのは何かを生み出しているようで実はそうではありません。生み出している何かより、はるかに多くのものがその瞬間に消えていくのです。ここで書いている言葉にしたってそうです。本を読みながら思ったことを、100%言葉にできるということはありえません。無限にある言葉の組み合わせから、私はこの言葉の組み合わせで伝えようとしています。そして、それと同時にその他多くの言葉は使われることなく、姿を消しています。

     ・・・ただレビューを書いていただけなのに、見たこともないような深みに片足をつっこんでしまいました。この「海」や「舟」の例えがどれだけ素晴らしい例えだったのか、あらためて実感しているところです。

     そんな風に言葉の深遠さを強調する他方で強調されているのが、辞書の編纂を通じて言葉に向き合おうと必死にもがく人々の姿。どんな言葉を生み出したところで、それは「完全」にはなりえない、そう分かっているのにです。どうして人は言葉と向き合い続けるのか?言葉の魅力って何? そんな疑問は、作者の三浦しをんさんが素晴らしい言葉で紡いでくれました。ここでも、「海」と「舟」が印象的です。

    有限の時間しか持たない人間が、広く深い言葉の海に力を合わせて漕ぎ出していく。こわいけれど、楽しい。やめたくないと思う。心理に迫るために、いつだってこの舟に乗り続けていたい。



     言葉を生み出すのがいかに難しいのか、そんなことを痛感させられる一方で、作者の三浦さんが生み出す言葉の力にはただただ圧倒させられます。これが「作家」なんですよね。一般の人が心には思っても逃してしまう言葉を、その手でがしっとつかみ取る。これまでに何作も読んで大好きだった作家さんですが、今回は初めて「凄味」を感じました。小説の原点である「言葉」というテーマに向き合い、こんな作品を仕上げたんですから・・・。

    言葉は証



     先程は触れずにスルーしましたが、主人公の「馬締(まじめ)」という名前、すごく面白いと思いませんか。この名前で主人公は何度もいじられるんです。でも、彼の名前は彼の人柄や雰囲気にぴったりで、「この名前しかないんじゃないか」と思わせるようなフィット感。ここにも三浦さんの凄味がのぞきます。本当に今回は圧倒され、嘆息するばかりです。

     言葉の裏で多くの言葉にならないものが消えていくと言いましたが、逆に言えば生み出した言葉は一生残り、消えることがないわけです。言い換えれば、言葉はそれを生み出した人間の「生きた証」。ネタバレになるので言えませんが、この話のラストはこのことを強く感じさせるものになっています。とても悲しく、切ないのだろうけど、どこまでも続く青い海を見て、そこに悲しみが溶けていくような、そんな感じ。まだまだ余韻に浸っています。

    ◆殿堂入り決定!

    「最果ての図書館」は『舟を編む』を「シルバー」に認定しました。おめでとうございます!





    こちらもどうぞ

    この小説も「言葉」がテーマ。共通するメッセージがすごく多いです。
    「ふくわらい」 西加奈子さん

    「舟を編む」の公式サイトです。映画の予告篇や作品紹介(素敵なイラスト付き)が見られますよ!
    特設サイト「舟を編む」


    三浦しをん, 小説,



    •   12, 2015 11:59