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 今日のブックレビューは、新渡戸稲造「武士道」をご紹介します。すうっと背が伸びるような、緊張感が走る文章でした。ただ、全面的に肯定できるかと言われたら、そうではない部分もあったかもしれません。それでは、以下、「武士道」のレビューです。

武士道 (岩波文庫 青118-1)
新渡戸 稲造
岩波書店
売り上げランキング: 10,061



溢れる知性と誇り



 武士道は、新渡戸稲造が1900年に著した思想書です。日本の土壌で育まれてきた精神、すなわち「武士道」について考察しています。

 特徴は、高潔で知性と誇りに溢れる文体です。引用や引き合いに出される表現は豪華絢爛です。たとえば伊達政宗、吉田松陰から上杉謙信、さらにはソクラテスにシェイクスピアから孔子、孟子まで! いくつか名前を出してみましたが、その豪華さが伝わるかと思います。古今東西の偉人、名言を存分に詰め込んだ教科書のような1冊です。そして、そんな豪華な引用に気圧されることなく、新渡戸の文体にも高潔さが漂います。たとえば冒頭の文。

武士道はその表微たる桜花と同じく、日本の土地に固有の花である。(中略)それは今なお我々の間における力と美との活ける対象である。



 武士道を桜の花にたとえています。思わず嘆息しました。「美しい文」とはこういう文のことをいうのでしょうね。

命と隣り合わせ



 全体的に見れば、その思想の深さと論理の明快さで名著で間違いないと思います。ただ、何か所かこちらが気圧されるというか、考え込んでしまう箇所がありました。それは、「死」が絡んでくる箇所です。

 例えば、名誉について書かれた第8章。世間的賞賛を浴びる名誉は至高善である、として貴ばれています。そして、こんな記述が。

もし名誉と名声が得られるならば、生命そのものさえも廉価と考えられた。それ故に生命よりも高価であると考えられる事が起れば、極度の平静と迅速とをもって生命を棄てたのである。



ん、ん、ん・・・・。

 第12章は自殺や仇討について。切腹の様子がまざまざと描かれており、その緊張感に思わず息を飲みます。血が吹きばしる様子、静寂の中で落ちる首・・・そんな凄惨な死にざまなのですが、新渡戸は切腹を高貴な死であると評価するのです。ガースのこんな歌を引用しています。

名誉の失われし時は死こそ救いなれ、死は恥辱よりの確実なる避け所



ん、ん、ん・・・・。

 ページをめくる手が止まります。武士が潔く、名誉を重んじ、屈辱を恥じる生き方ができた原因は、その懐に携えていた刀にあります。「命」という究極の方法で、穢れた生き方を断ち切ろうとしたのです。ここまで読んでくださった皆さん、この考えにどこまで共感しますか?

 おそらく、日本人は多少共感する部分があるかと思います。先週から緊張が続いているイスラム国による日本人人質事件で、某有名人がこんなコメントをしました。

 「被害者は自らの行為で多大な迷惑をかけた。自決すべきである」
 まさに、といった感じの日本人的考えです。そして、このコメントに対するリアクションに多いのが、「そういったことを有名人が言ってはいけないが、本質はそうである」というもの。 

ん、ん、ん・・・・。
どうなのでしょうね?

やむにやまれぬ大和魂



かくすれば かくなるものと 知りながら やむにやまれぬ大和魂

 吉田松陰が処刑される前日に詠んだ歌です。新渡戸も引用しています。「大和魂」これは日本人が背負う宿命なのだと思います。人情や、義理、名誉を重んじ、恥を徹底的に嫌う。誇るべき精神です。ずっとそんな精神を持っていたい。 

 だけど、違いますよね。変な同調圧力で、失敗した人を徹底的に叩きのめすことは。

 責任を、命をもって償えということは。

 「武士道」を読み違えないようにしたいのです。

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一般書, 岩波文庫, 新渡戸稲造,



  •   31, 2015 23:35
  •  FC2ブログの方から毎日閲覧してくださっている皆さん、ありがとうございます。こんにちは、おともだちパンチです。訪問者履歴の方を見ると、ほぼ毎日見に来てくださる方が4、5名ほど・・・。本当に励みになっています。今後ともよろしくお願いします。

     今日は本の紹介をショートバージョンでお届けする「ブックレビューFLASH」。今回は今月読んだ本の中からブックレビューで紹介しなかったものをピックアップしていこうと思います。では、さっそくどうぞ。

    ★偉大なるしゅららぼん 万城目学さん

    偉大なる、しゅららぼん偉大なる、しゅららぼん
    (2011/04/26)
    万城目 学

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    「しゅららぼん」とは一体何ぞや、とずっと不思議に思って読んでいたら、中盤に答えが出てきました。そして、「しゅらら」「ぼん」それぞれの「くっさい」正体については終盤で明かされます。物語の展開が常に自分の斜め上を行っていて、何度ものけぞりながら楽しみました。自然でありたいがために、力を得たくないという淡十郎の思いは、前半の恋のエピソードとも重なってとてもよかったです。また、エピローグも秀逸。切なさで終わるかと思いきや・・・綺麗な終わり方です。何より「しゅららぼん」のセンスですね。どこから浮かんだその言葉!?

    ★若者が無縁化する  宮本みち子さん

    若者が無縁化する―仕事・福祉・コミュニティでつなぐ (ちくま新書)若者が無縁化する―仕事・福祉・コミュニティでつなぐ (ちくま新書)
    (2012/02)
    宮本 みち子

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    若者の痛切な叫びから始まる本書。若者の貧困が顕在化するのが遅かった日本において、単に雇用政策にとどまらず、社会的包摂がなされなければいけないと主張します。序盤で指摘されるように、超高齢化社会を若者が担っていかなければならないのに、その一方で多くの若者が社会から孤立しているという矛盾は深刻だと思います。そんな中、ILO事務局長が示した「ディーセント・ワーク」(p86)は雇用の問題を適切に捉えた概念であり、思わず頷かされました。貧困の連鎖を断ち切るために、子供が若いうちから先手先手の施策が必要かと思います。

    ★生存者ゼロ  安生正さん

    生存者ゼロ (『このミス』大賞シリーズ)生存者ゼロ (『このミス』大賞シリーズ)
    (2013/01/10)
    安生 正

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    「エボラ出血熱など比にならない」とパンデミックの恐怖を煽った序盤。中盤は感染症だと思われていた大量死の原因が実は・・・という展開で、その急展開ぶりはなかなかでした。狂っていく富樫も常軌を逸しており、インパクトはあり。ただ、あまり好きにはなれない作品でした。凄惨な死体の描写、死者の数、あまりにも無能な政府、等々、殺伐として退廃的な世界観になんだか胃がむかむかしてしまいました。「人を想う心、人を気遣う心、それこそがこの難局に立ち向かう拠り所だ」こんなセリフがあるのだから、血の通った人間ドラマが見たかったです。




     以上、「ブックレビューFLASH」の1月号でした。1冊目の万城目学さんは、先日の第152回芥川賞で受賞候補にもなっていた作家さん。読書メーターのレビューの方では、その独特な世界観のファンとなっている方が結構多いようでした。今後もどんどん開拓していきたい作家さんです。

     いかがでしたか。次回は新コーナーをスタートさせる予定です。やりたかったコーナーはこれで最後!次回で全てのコーナーが登場する予定です。こちらもお楽しみに。ではでは。おともだちパンチでした。




    •   28, 2015 23:05
  •  こんにちは、おともだちパンチです。今日のブックレビューは、山田宗樹さん「百年法」をご紹介します。
    先日発表した2014年年間ランキングでは第7位に選んだこの作品。手に汗握るストーリー展開もそうですが、作品が投げかけてくるメッセージにも惹きつけられます。詳しく見ていきましょう。以下、「百年法」のレビューです。

    百年法 上百年法 上
    (2012/07/28)
    山田 宗樹

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    抜群の構成力



     新技術「HAVI」により、老化しない身体を手に入れた人類。そんな不老化処置を受ける代わりに受け入れなければいけなかったのが「寿命百年」。処置を受けた者は、その百年後に国家によって安楽死させられます。逃亡すればそ即犯罪者。国家に追われ、強制的に安楽死処置を受けることになります。

     この「百年法」を巡って揺れ動く世界を描いた、壮大なSF作品、それが「百年法」です。そのスリリングで先の読めないストーリー展開はこれまで読んだ本の中でもトップクラス! 上巻は百年法が国民投票によって凍結されるという出来事に憤慨した遊佐という男が、ある政治家を見方につけて権力を掌握していく過程が緊迫感たっぷりに描かれます。期待して読む下巻はさらに圧巻!後半の「クーデター」以降は息もつけないような流れの連続です。そして、ようやく事態が落ち着いかと思われた時、突きつけられたのは「百年法」そのものを覆す衝撃的な事実でした・・・。

     いやー、煽りがいのある小説です(笑)。しかし、ここに書いたことは決して過剰な煽りではありません。この小説の抜群の構成力には本当に驚かされます。極上のエンターテインメント、そんな言葉を送りたい作品です。

    百年という年月



     この小説、現代社会に訴えてくるものも多いと思います。その理由の1つに「百年」という年月があるのではないか、と思います。「老化しない代わりに、寿命を百年に定める」。さてこれはどうなんだろうと考えた時に、「百年」という寿命が絶妙な位置にあることに気付きます。厚生労働省の発表によると、2013年現在の日本人の平均寿命は女性が86.61歳(世界1位)、男性が80.21歳(世界4位)となっています。寿命百年、おそらくそう遠くない時代の出来事です。この、現実と、遠くない未来の間にくっきりと浮かんでくる「百年」という数字。SFでありながら作品に入り込める所以はここにありそうです。

     老化しないで百年生きられるなら万々歳でしょう、と思う人もいるかもしれません。私も、読むはじめは「百年生きられれば上等じゃない?」そんな風に思っていました。でも、違うんですね。大事なのは、

           自分の命が終わる日が決まっていること。自分の命が、国家によって奪われること。 
    このことの恐怖を軽視していました。実際、百年法を突き付けられて世界は儚いほどに脆い・・・。以下は本文からの引用です。

    人間は、無限の時間を生きるには、複雑すぎる生き物だ



    生と死の境界を失った者にとって、永遠に生きることは、死ぬことと完全にイコールとなる。


    「人間の心は弱いものです。しかし、死を恐れるその弱さこそが、人類の文明をここまで発展させてきた原動力でもあると、私は考えます。人間の人間たる所以は、その弱さにある。だからです」



    生死という禁断の領域に足を踏み入れてしまった世界。そんな世界には、当然のごとく報いが待っていました。皮肉にも、「百年法」のある世界は、その半分である50年もたたないうちに・・・。気になった方はぜひ手に取ってみてください。

    迫りくるリアリティー




     最後の1行はまさに渾身。嘆息してページを閉じます。しかし、そこで終わらないのがこの小説の凄みです。「現代社会はどうだろう」そう考えた時に、身に迫ってくる感覚があります。

     寿命百年の時代は、そう遠くないうちにやってくるでしょう。ただ、忘れてはいけないのが、「高齢者を支える若者が圧倒的に不足している」ということ。「孤独死」「地方消滅」そんな言葉で、近い将来に警鐘が鳴らされています。果たして、この先、人間の生命の尊厳は保たれるのか・・・。もしかしたら、近い将来に行き場のない人間が路上で死に果てていく光景があるのかもしれない。そんな想像すらさせてしまう、どこまでも恐ろしい作品でした。


    小説, 山田宗樹,



    •   27, 2015 22:20
  •  こんにちは、おともだちパンチです。今日はブックレビューはお休みして、読書について書き綴っていくコラムのコーナーです。よかったら少しだけおつきあいください。

    「好きな作家は誰ですか」という質問の魔性


     読書が好きな私ですが、人前で「読書が好き」というのを少しためらってしまうことがあります。「読書が好き」というと、こんな質問をされることがあるからです。

     一番好きな作品は何ですか?

     好きな作家は誰ですか?

     極めて一般的で常識的な質問かと思います。では、どうしてこの質問をされるのが嫌なのか。1つずつ見ていきたいと思います。
     まず前者。これは簡単。決められないからです。今まで読んだ作品の中には、素晴らしい作品がたくさんあります。そして、まだまだ読んでいない作品がたくさんあるということ、これからも素晴らしい作品がたくさん生み出されていくということ、これも読書の魅力かと思います。そんな中で、「一番好きな作品を」というのは難しい質問です。とても即断はできません。仮に答えるにしても、しばらく頭をひねった挙句に、なんとか絞り出して・・・という答え方になるかと思います。この質問、結構苦しいところがあるのです。

     素晴らしい本がたくさんあるから迷う、ということでこれはまだ幸せな悩みだと思います。問題は後者。「好きな作家は誰ですか?」 この質問が困る理由、それは「打算が働いてしまうから」。ここが自分の愚かさというか、浅ましさなのです・・・。

    16.jpg

     読書メーターやネットの投稿で、こんな声を見つけたことがあります。

    好きな作家で「東野圭吾」と答えたら本を読まない人間と思われそう



    池井戸潤さんが好きだったのに、あまりにも有名になったから好きな作家として答えづらくなった



    自分の好きな作家はほとんど無名で、答えても困った顔をされるから答えるのに困る



     そうです、これが「打算」です。私も大好きな作家が4,5人いて、その方々が「1位タイ」で並んでいるような状態なのですが、好きな作家をと言われて答えるとき、はてどの名前を出そうか、と考えてしまうことがあります。そんな自分がとても嫌になります。

     「好きな作家は誰ですか?」 何気ないこの質問ですが、純粋に答えられる方はそう多くないと思います。作家には、イメージがあり、大衆受けがあり、そして知名度があり・・・。「その作家がどう思われているか」「その作家を答えた自分はどう思われるのか」そして、「自分は、どう思われたいのか」。そんな風に打算を働かせて、読書というものが「利用」されてしまう。そこに、この質問の魔性があります。言うまでもなく、「自分の読みたい本を、読みたいだけ読む」
    というのは読書の絶対領域。そこを汚すわけにはいきません。

    「本当は女子にこんな文庫を読んでほしいのだフェア」

     今年の始め、ある書店がこんな企画を打ち出して、猛烈な批判を浴びました。企画はあっという間に立ち消えです(リンク先参照)。なぜこの企画が叩かれたのか、そこには上に書いたような「打算」が絡んでくるからです。

     本を愛する人たちはちゃんと分かっています。そして、私もまた、忘れないでおきたい。レビューが「押しつけ」にならないように。読書が「ファッション」にならないように。そして、明日も好きな本が好きなだけ読めますように。

     最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。レビューも書いていますので(まだ6作ですが)、よかったらカテゴリの「ブックレビュー」の方からのぞいていただいて・・・なんてちゃっかり宣伝しちゃったりして。




    •   27, 2015 00:16