HOME > ARCHIVE - 2015年12月
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    みそか! 究極の5冊が一堂に会するグランドフィナーレ!

     12月20日から「最果てアワード2015」と題し、5回にわたって年間ランキングを発表してきました。引っ張りぬいた末に今回がいよいよ最終回になります。最終回は文学部門のトップ5を発表します。素晴らしい本だけが残っていることは、もはや言うまでもありません。本当に素敵な本たちばかりですし、おかげでレビューの方も大変充実したものになりました。感謝の気持ちを込めて、残り5冊を紹介したいと思います。

     選びに選び抜いた末の最後の5冊です。きっと、一年の最後にふさわしい記事になっていると思います。



    文学部門 (5位~1位)



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    100万分の1回のねこ
    100万分の1回のねこ
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    谷川 俊太郎 山田 詠美 江國 香織 岩瀬 成子 くどう なおこ 井上 荒野 角田 光代 町田 康 今江 祥智 唯野 未歩子 綿矢 りさ 川上 弘美 広瀬 弦
    講談社
    売り上げランキング: 8,955


    〔書名〕 『100万分の1回のねこ』
    〔作者〕 谷川俊太郎ほか13人
    〔ジャンル〕 現代の文学(アンソロジー)
    〔読了日〕 10月22日
    〔記事〕 特集 100万分の1回のねこ

     6位に登場した『第七官界彷徨』は3週間かけて読み込んだ思い出深い作品でした。3週間でもだいぶ長いですが、今年はさらにそれを上回る作品がありました。13人の作家によるトリビュート短編集、『100万分の1回のねこ』を読んでいた期間は「2か月」です。2か月間も読んでいると、なんだか自分の一部になってしまったような感覚さえあります。思い出が尽きないこの本が2015年の年間5位です。

     ブログでは13の作品を1つずつ読んでいきました。8月20日に江國香織さんのお話から始まり、10月21日に谷川俊太郎さんのお話で締めくくるまで丸2か月です。今年の夏から秋にかけて、素晴らしい作品たちがこのブログを飾ってくれました。

    コーヒー が書いた記事から

    結末の五行を引用したくてたまりませんが、ここは我慢です。作者がこの作品に込めた思いが、染み込むように伝わってきました。切ない中でほっとするような絶妙な結末です。何かを期待してこの本を読み始めたわけではないのですが、とても大事なものが、心を埋め尽くしていくような感覚がありました。 (第4回 井上荒野さん)



    外で一人になって、おかあさんの元に帰るのですが、姿が変わりすぎていて、おかあさんはもうおちびちゃんのことを認識できませんでした。庭の影からお母さんを見つめていたおちびちゃんは、最後は天国へと昇っていきます。でも、そこに「悲しみ」はあまり感じないのです。前回の話でも猫が死んでしまいました。ですが、絵本「100万回生きたねこ」において、死が意味するものは「悲しみ」ではないのです。 (第5回 角田光代さん)



     谷川さんがパートナーを失った虎猫の「悲しげな顔つき」を書いたということに、私は谷川さんの強い意志を感じました。悲しげな顔つきとはどのような顔つきか、谷川さんは想像して書かれているはずです。人を愛するとはどういうことか。愛する人を失うとはどういうことか。愛する人を失うとどのような気持ちに襲われ、どのような顔をするのか。この箇所は、そういった流れでいくつものことを問いかけてきます。 (最終回 谷川俊太郎さん)



     この本、すごいんです。本当にすごい。1人でも多くの人に広めたいと思います。作品を読んでいると分かります。物語の裏には、『100万回生きたねこ』という名作絵本の存在があります。愛、死、そして生。核となる3つのテーマが、13人の一流作家の手によって、そして彼らに影響を与えた『100万回生きたねこ』という絵本によって深められ、奇跡のような物語を生み出したのです。私は本当にすごい本を読んだと思います。

     一番最初の江國香織さんの短編は、絵本の存在と江國さんの作風が相まって紡がれた素晴らしい物語で、この本が傑作であることを予感させるものでした。第4回、第5回の井上荒野さん、角田光代さんの流れも素晴らしかったです。井上さんには作家の矜持を、角田さんには包み込むような母の愛の大きさを見ました。そして最後を締めくくったのが谷川俊太郎さん。この本が奇跡だということが分かっていただけると思います。

     13人の作家さんに、そして彼らに影響を与えた絵本の作者、佐野洋子さんに最大級の敬意を表します。

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    ミッドナイト・バス
    ミッドナイト・バス
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    伊吹 有喜
    文藝春秋
    売り上げランキング: 295,291


    〔書名〕 『ミッドナイト・バス』
    〔作者〕 伊吹有喜
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 10月15日
    〔記事〕 家族点描 #1

     どんな人にも、「特別な本」があるはずです。人生の一部に、自分の一部に組み込まれていて、一生忘れないであろう本のことです。私にとっての「特別な本」の1つがこの『ミッドナイト・バス』。ブログで紹介することができて本当にうれしく思います。この特別な本にも、感謝とリスペクトでいっぱいです。

     記事でも書きましたが、この本が特別な本になったのは、受験で精神的に打ちのめされている時期に出会ったからです。一行一行が、一文一文が心に染み入ってきました。今年改めて再読しましたが、やはりこの本の存在は大きかったです。今でも私にとって精神的支柱になっている本だということを改めて感じました。

    コーヒー が書いた記事から

    読み始めてから私は驚きました。まるで何かに導かれたかのように、まさにその時の自分の心と体が求めていたような1冊だったのです。心も体もボロボロになっていた私は、信じられないくらいボロボロと泣きました。



    彼だけではありません。この本の登場人物は、みな優しい人ばかりなのです。みな優しくて、温かい。人のことを思いやろうとする繊細さを持った人物ばかりなのです。それなのに、どうして傷付け合ってしまうのでしょうか。すれ違ってしまうのでしょうか。「優しいから、傷付け合う」「温かいから、痛い」―そういうことなのだと思います。



    この話で人々をつなぐのは、「真夜中を走るバス」です。これはおそらく、作者の伊吹さんが明確なメッセージを持って用いた設定ではないでしょうか。作中の人物たちはまさに「真夜中」にいます。ですが、真夜中を走るバスはどこに向かっているのでしょうか。・・・「夜明け」に向かっているんだ、そう気付いた時、この物語が温かさを伴って染み入ってきます。



     心と体が求めていた本が、ちょうど目の前に現れた―そんな運命のような出会いでした。私は自分の思い出も重ねながら読んでいますが、他の人が読まれても素晴らしい小説であることは間違いないと思います。震えるような繊細さと、繊細さをすくい取っていった中から湧き起こってくる温かさ。明日へ歩を進める力を与えてくれる、そっと背中を押してくれる、そんな1冊になるはずです。

     優しい人ほど、他人のことを想って、そして傷付きます。今もそうやって傷付いて、自分を追いつめている人が見えないところにも大勢いるのでしょう。この本にも、そのような人たちが出てきます。優しい人が傷付くのはとても理不尽で、どうにもやりきれません。ですが、その優しさだけは忘れないでほしい、と祈るような気持ちでいます。

     「特別な本」にこれからも出会えるでしょうか。予想もしないタイミングでそんな本との出会いが訪れることを思うと、1冊1冊との出会いがますます楽しみになります。

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    旅のラゴス (新潮文庫)
    筒井 康隆
    新潮社
    売り上げランキング: 562


    〔書名〕 『旅のラゴス』
    〔作者〕 筒井康隆
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 7月5日
    〔記事〕 ブックレビュープレミアム

     いよいよ、残り3冊となりました。ここからは2015年に読んだ本の中から選んだトップ3です。すごい本、素晴らしい本とここまでにも散々書いてきましたが、そんな本たちと比べてもさらにもう1つ上の次元にある、そんな3冊です。まず第3位は筒井康隆さんに登場していただきましょう。伝説の小説、『旅のラゴス』です。

     本当にすごい小説というのは、もはや「小説」ではないのです。どんな言葉で表現したらいいでしょうか。とにかく、小説という次元にはもう収まりきらない、何か超越した存在へと昇華します。そんな次元にある本はほとんどなく、年に1冊出会えればよいほうでしょう。そして、今年はこの本と出会いました。

    コーヒー が書いた記事から

    想像力、というのはそれがあるかないかによって読書の面白さを大きく変える、魔法のスパイスのようなものだと思います。この作品の冒頭は本当に贅沢です。想像力のスパイスにそそられます。想像することによってテレポートをする、失敗すると原子爆発をしてしまう―すごい設定です。自分の中にある「想像力」のバロメーターが急上昇して、いきなり限界を超えてしまったような感覚があります。



    本当に「なまなましい想像力」です。心の中で様々な想像や妄想をしてしまうことは誰にでもあると思います。でも、その想像力によって「壁を抜ける」という想像はできるでしょうか?目の前に壁があったら、ぜひ見つめてみてください。「想像することにより、この壁をすり抜けられるのだろうか・・・」、実際はできないかもしれませんが、ワクワクするものがありませんか?



    時間が長く感じた、空間が歪んでいるように感じた―この本の感想で、こんな言葉がよく見られます。読後感はまさにその通りなのです。それほど作品に没入してしまうのだと思います。そして、1冊の本の中で様々なことが起こるので、その分長さを感じる、というのもあるでしょう。「旅をした気分になります」「主人公と一緒に旅をしませんか?」というこの本の売り文句は、決してそれっぽい比喩ではありません。「実感」です。



     私の今の力では、この本は捌き切れません。素晴らしい本なのに、その魅力をレビューで全くもって伝えきれていないことを悔しく思います。2回に分けて書きましたが、5回シリーズくらいにするべきだったでしょうか。

     私は読書と「旅」を絡めるのが大好きです。このブログにあるコーナーにも、「教科書への『旅』」「イーハトーヴへの『旅』」と旅という文字を入れています。本を読んで、本の中の世界を旅する―そんな想像をするのがとても好きなのです。・・・とはいえ、「本の世界を旅する」というのはたいていは比喩にすぎないことです。もし、実際に本を読んで旅をしたような気になれる小説があったらどうでしょうか。

     そんな小説がありました。比喩ではなく、私は旅をしました。そして、一人の男の人生を丸ごと体験しました。掻き立てられる想像力と高められる感情。読み終えた時、私はゼエゼエと息を切らしていました。凄まじい量の体力を消費しました。読者の息を切らせ、体力を奪い取る・・・文字にそれほどの力を持たせられることに心から感動しました。「この本には、人生の全てが詰まっている」レビューの最後にそう書いています。私は物事を誇張して書く傾向がありますが、これに関しては感じたことをありのままに書いています。

     1986年に発表されたこの小説は、約30年たった今も売れ続けています。年末の書店でも大きく扱われていました。今から30年後の書店でも、普通に大きく扱われているのではないかと思えてなりません。

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    二十歳の原点 (新潮文庫)
    高野 悦子
    新潮社
    売り上げランキング: 50,470


    〔書名〕 『二十歳の原点』
    〔作者〕 高野悦子
    〔ジャンル〕 日記
    〔読了日〕 10月23日
    〔記事〕 ブックレビュープレミアム

     このランキングは文学部門です。ランクインしているのはほとんどが小説ですが、文学とは小説だけではないことを忘れてはいけません。「日記」も立派な文学の1つです。そして、2位に選んだのは高野悦子さんが遺した日記、『二十歳の原点』です。

     激動の学生運動の中を生きた高野悦子さん。彼女は、大学3年生の時、自ら鉄道に身を投げて人生に終わりを告げることを選びました。彼女は何を見て、何を考えたのでしょうか。彼女が遺した日記からは、学生運動が活発だったという時代の特殊性を読み取ることができます。そして、20歳のまだ何者にも染まっていない少女が、そんな時代に投げ込まれ、全てを破壊されていったさまが克明に記されていました。

    コーヒー が書いた記事から

     若者というのは、変わりやすく感じやすい、脆い存在です。そんな若者にとって、「学生運動」というのはあまりにも影響が強い劇薬なような存在だったのでしょう。その暴力的な力によって、一体いくつの人生が台無しにされたのでしょうか。



    若者は、自分という存在が確立されていないがゆえに、思い悩みます。私が大人たちを見ていて思うことですが、年を重ねていくうちにそんな深いことは考えなくなるのでしょう。こういう感情は若者特有のことで、そして誰もが通る道です。それを乗り越えなければ、「大人」にはなれないのですね。彼女は乗り越えられませんでした。時代があまりにも異様だったことが原因だと思います。まだ自分を固め切れていない若者に、「異様な時代」が襲い掛かってきたのです。



    人に見せようと思って書かれて書かれた文章ではないので、純粋な彼女の本音がつづられています。まさに「魂の叫び」です。命を削ってでも自分を見つめようとするあまりにも孤独な闘いでした。



     ランキングの中に、「若者の危うさ」をテーマにした作品がたくさんランクインしていることはこれまでにも書いてきました。ずっとランキングを追いかけてくださった方は気付かれていると思いますが、これが「若者の危うさ」シリーズの最後、4作品目となります。若者の危うさの中でも、この作品が訴えていることは「究極」です。まさに「命がけ」のこと。上に引用したように、本当に自分を見つめぬこうと思った時、人は自分の命を削るのです。

     「自分とはいったい何者だろう」、誰でも一度は考えることではないでしょうか。彼女は決して特別な人間ではありません。もし現代に生まれていれば、普通の女子大生として楽しく日々を過ごしていたかもしれません。しかし、彼女がその青春を過ごしたのは、学生運動が活発な異常な時代でした。そして、彼女はそこに飲み込まれていきました。普通の若者が、学生運動という「劇薬」に触れたのです。若者なら誰でも持つ危うさは、劇薬と混ざり合い、「自殺」という結末を生みました。

     時代に殺された1人の少女の日記です。恐ろしい本ですが、後世にも読みつないでほしいと強く思います。大人になれなかった1人の少女に、静かに手を合わせます。

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    猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)
    小川 洋子
    文藝春秋 (2011-07-08)
    売り上げランキング: 9,593


    〔書名〕 『猫を抱いて象と泳ぐ』
    〔作者〕 小川洋子
    〔ジャンル〕 現代の文学(純文学)
    〔読了日〕 4月8日
    〔記事〕 ブックレビュー #33

     長文にもかかわらずここまで読んでくださった皆さん、どうもありがとうございます。ついに1位に到達しました。1位は小川洋子さんの『猫を抱いて象と泳ぐ』です。小川洋子さんは12位にランクインした『琥珀のまたたき』につづき、唯一2作品がランクインしました。

     私はこのブログの初期に2014年のランキングも発表しているのですが、そこで1位にしたのが小川さんの『博士の愛した数式』でした。ということで、小川洋子さんの作品を2年連続で年間1位に選んだことになります。2014年の1位に選んだ『博士の愛した数式』とこの作品には共通する部分があり、小川さん本人もそのことについて言及しておられます。『博士の愛した数式』は本屋大賞も受賞した小川さんの代表作ですね。私のような小川さんのファンはもちろん、そうでない人にも広く親しまれています。純文学好きでない一般の人にもとても読みやすいタッチになっている、小川さんの中ではちょっと異色の作品なのです。

     『博士の愛した数式』が代表作だとすれば、この『猫を抱いて象と泳ぐ』は「最高傑作」でしょう。この本の宣伝でも最高傑作と謳われていて、私は最初軽々しく最高傑作などと言わないでほしいと思っていました。しかし、読んでみるとそんな思いは吹き飛びました。もちろん人により好みは違いますが、この小説の水準は極めて高いと言えます。私は小川文学の1つの結実を見ました。最高傑作の名にふさわしい小説ではないかと思うのです。

    コーヒー が書いた記事から

    実際の小川さんは数学が大嫌いで、チェスも指せないそうです。そんな人が、このような物語を生み出した・・・驚かされる話です。自らの感動から出発し、その感動をこんなにも美しい形に昇華させることができる。改めて小川さんのことが好きになります。



    登場人物が曖昧にされる、これは小川さんの作品にはとても多いパターンです。それは「自分」という存在を消す行為なのでしょうか。人や自分の存在感は徹底的に薄められ、その代わりに静謐な世界の中で「モノ」が雄弁に何かを語ります。今回の場合、その「モノ」がチェスでした。



    そんな小川さんも言葉を使って小説を書いているのですが、作品を読んでいると洗練された言葉の美しさと無駄のなさに驚かされます。美しいものに触れ、感じる力が小川さんの言葉を研ぎ澄まし、このようなスタイルを確立させていったのでしょうか。最も静謐で、最も雄弁。矛盾するようですが、そんな言葉が一番似合います。



     「ことば」をテーマをした小説の素晴らしさについては、10位に紹介した三浦しをんさんの『舟を編む』で書きました。ことばの海を勢いのある筆致で切り拓いていった『舟を編む』は素晴らしい作品でしたね(それで、11位の下町ロケットを差し置いてでも年間のトップ10に入れたかったのです)。

     ことばという観点からいうと、小川洋子さんの紡ぎ出すことばは芸術作品の領域にあります。そのことばの1つ1つが、未来へ残したい「文学遺産」だと思っています。素晴らしいのは、ことばからあらゆる俗物を排除したその洗練性です。そして、ことばではなく、「静けさを通して語らせる」「モノに語らせる」という点です。とにかく、そのことばの1つ1つが洗練されています。小説を読むたびに驚かされます。大きな出来事がほとんど起こらず、静寂に包まれているはずなのに、作品は驚くほど雄弁なのです。

     私には長文癖があると先日書いたばかりです。なぜ長文になるかというと、簡単に言うと「下手くそ」で「俗にまみれている」からです。たくさんのことばを重ねていて、見栄え的にはよいかもしれません。しかし、ことばは突きつめていくと、どんどん短く、そしてシンプルに、洗練されていくのです(もちろん、ただ短ければよいというわけでもありません。短い駄文もあれば長い駄文もあります)。ことばを突きつめて行った先にあるのが私にとっては小川洋子さんの書く文です。ということで、この作品が1位になりました。

     小さなチェス盤から、広大な宇宙が広がります。その広大な宇宙は静寂に包まれています。しかし、静寂に包まれていながらも雄弁なのです。小川洋子さんの最高傑作とも言われるこの作品を読んだとき、私は泣くわけでもなく鳥肌が立つわけでもなく叫ぶわけでもなく、ただ茫然とし、全ての言葉を忘れた気分になりました。

    ★「最果てアワード2015」 文学部門トップ10の結果です

    スクリーンショット (12)

    <文学部門にランクインした作家>(敬称略、『100万分の1回のねこ』はのぞく)

    小川洋子 高野悦子 筒井康隆 伊吹有喜 尾崎翠 夏川草介 朝井リョウ 又吉直樹 三浦しをん 池井戸潤 宮部みゆき 道尾秀介 米澤穂信 辻村深月 羽田圭介 夏目漱石 原田マハ 重松清



     こうして並べてみると、本当に素晴らしい1年になったと思います。上に紹介した作家さんたちには、年間ランキングに入賞ということでリスペクトの気持ちを表わしたいと思います。素晴らしい作品を生み出してくださり、本当にありがとうございました。そしてもちろん、惜しくもランクインしなかった作品の中にも素晴らしい作品はたくさんありました。文学以外の本も含め、今年読んだ全ての作品と作者との出会いに感謝しています。

     そして、感謝をしなければいけないのは本と作者たちにだけではありません。

    ごあいさつ



    スクリーンショット (13)

     このブログをご覧になっているすべての方にとって来年2016年が今年より実り多き年になることをお祈りして今年の記事を締めくくりたいと思います。そして、よかったらぜひ来年もこのブログをのぞいてやってください。

     それでは皆さま、よいお年をお迎えください!


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    •   31, 2015 00:00
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    ンキングは最終章!本への愛と、作家へのリスペクトがあふれるトップ10!!

     年末は街が何だか浮足立っていますね。テレビ番組も年末恒例の長時間プログラムが名を連ねています。そんな年末のスペシャルな雰囲気にブログでものっかってみよう、ということで、年間ランキングを作って発表しています。題して「最果てアワード2015」!

     ランキングは今日からいよいよトップ10に入ります。12月のなかばに選考作業を行っていたのですが、かなり悩んだ末に付けた順位なので紹介していて感慨深いものがあります。今日は10位から6位までを発表していきながら、2015年の読書ライフも振り返っていくことにします。



    文学部門 (10位~6位)



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    舟を編む (光文社文庫)
    三浦 しをん
    光文社 (2015-03-12)
    売り上げランキング: 3,038


    〔書名〕 『舟を編む』
    〔作者〕 三浦しをん
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 2月12日
    〔記事〕 ブックレビュー #12

     文庫本の装丁がとてもきれいですね。単行本で読んだのですが、あまりにきれいな装丁に気付くとまた手に取っていました。年間ランキングトップ10は三浦しをんさんの『舟を編む』で開幕です。本屋大賞も受賞した、三浦しをんさんの代表作です。

     ブックレビューの第12回で紹介している、このブログではかなり初期の作品になります。最初の頃は私のレビューは相当拙いものでしたが、下手くそなりに一生懸命書いているなあ、それほど感銘を受けた作品だったなあ、と懐かしい思いに浸りました。

    コーヒー が書いた記事から

    言葉というのは何かを生み出しているようで実はそうではありません。生み出している何かより、はるかに多くのものがその瞬間に消えていくのです。ここで書いている言葉にしたってそうです。本を読みながら思ったことを、100%言葉にできるということはありえません。無限にある言葉の組み合わせから、私はこの言葉の組み合わせで伝えようとしています。そして、それと同時にその他多くの言葉は使われることなく、姿を消しています。



    言葉を生み出すのがいかに難しいのか、そんなことを痛感させられる一方で、作者の三浦さんが生み出す言葉の力にはただただ圧倒させられます。これが「作家」なんですよね。一般の人が心には思っても逃してしまう言葉を、その手でがしっとつかみ取る。これまでに何作も読んで大好きだった作家さんですが、今回は初めて「凄味」を感じました。小説の原点である「言葉」というテーマに向き合い、こんな作品を仕上げたんですから・・・。



     「ことば」をテーマにした小説を読むと、私は背筋が伸びます。「ことば」というのは文学を突きつめて行ったときに最後にたどり着く場所。その世界は深く、果てしなく続く海のようです。そんな「ことばの海」を、三浦しをんさんは見事に小説にしています。人物が躍動していて読んでいて快感を覚えるのはどの作品もそうですが、「ことば」をテーマにした分、『舟を編む』は特別です。

     この小説もそうですが、三浦しをんさんは特定の職業の人を扱った「職業小説」の名手として知られます。このブログでも、『舟を編む』のほかに『神去なあなあ日常』や『仏果を得ず』などの作品を紹介しました。いずれもとにかく読んでいて心地よい素晴らしい作品たちです。自信を持っておすすめしたいと思います。

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    火花
    火花
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    又吉 直樹
    文藝春秋
    売り上げランキング: 23


    〔書名〕 『火花』
    〔作者〕 又吉直樹
    〔ジャンル〕 現代の文学(純文学)
    〔読了日〕 4月3日
    〔記事〕 ブックレビュープレミアム


     真打がきたな・・・という感じですね。「今年を代表する1冊」がこの本だということに異論のある方はいないでしょう。芥川賞を受賞し、普段本には興味のない人も巻き込んで社会現象になったこの1冊、ピースの又吉直樹さんの『火花』が年間9位です。

     話題になったから年間9位に選んだのではありません。たしかに私も、最初に手に取った時は「お笑い芸人の小説」ということへの興味が半分でした。しかし、今は違います。今はもう、「小説家」の又吉直樹さんです。ブログではブックレビュープレミアムのコーナーで3回にわたる大型レビューを展開しました。

    コーヒー が書いた記事から

    特に工夫をしなくても、もはや「存在自体が笑い」のようになっている芸人さんがいれば、必死にネタを考え、飽きられないように、忘れられないように、必死に声を張り上げている芸人さんもいます。常にトップに居続ける芸人さんがいれば、一時期の「流行」にのっかって、一時期だけ「時の人」になれる芸人さんもいます。そして、一時期の「流行」にすら乗れず、一生日の目を見ることのない芸人さんも。お笑い芸人だけではないと思います。「才能」が求められる世界全てです。成功できるものと、できないもの。その境目にある「線」が見えてくるのは、この上なく残酷です。



     又吉さん、凡人を描ききったなあ・・・と思わせる場面でした。そうなんです。結局、凡人である限り世間を無視することはできないのです。この話には救いのある解決などなくて、この場面で凡人と天才の住む世界の決定的な違いが示されます。それが「真実」なのだから、この終わりしかない。私はそう思いました。



     「お笑い」をテーマにしていて、しかも作者はお笑い芸人の又吉さんです。もちろんクスリと笑えるような心地よい描写にも富んでいて、そこはさすが芸人さんだと思わされるのですが、この本にはお笑いをさらに突きつめて行った先に見える、「人生」の深層が描かれていました。平凡と非凡、世間と孤独、そして自分と他人。対照的な2人の芸人の姿にそんなテーマを重ねながら読んでいましたが、又吉さんの核心を突く描写の数々に衝撃を受け、作品に没入しました。

     話題作というのはその評判だけが過剰に膨らんでいってしまうこともあり、そういうものを見せられると私は何とも言えない残念な気持ちになります。しかし、この作品に関してはそういったことは全くありません。評判に「実力」がしっかり付いている、と私は力強く断言したいと思います。

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    何者 (新潮文庫)
    何者 (新潮文庫)
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    朝井 リョウ
    新潮社 (2015-06-26)
    売り上げランキング: 6,331


    〔書名〕 『何者』
    〔作者〕 朝井リョウ
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 2月9日
    〔記事〕 ブックレビュー #11

      こちら、「若者の危うさ」シリーズの第3弾になります(ここまで『スクラップ・アンド・ビルド』、『ボトルネック』)。朝井リョウさんの『何者』が年間ランキング第8位です。この本は若者を中心に本当によく読まれました。この本を読んだ若者は、私を含め、皆驚いたはずです。「自分たちの日常が、本になっている!!」・・・これまでそんな小説を見たことがなかっただけに、衝撃は大きかったです(逆に若者以外の人からの受けはあまりよくないのですが・・・)。

     朝井リョウさんは、「今時の若者」を書かせたら間違いなく日本一です。彼が小説に書くことは、私たちの世代にとってはあまりにもリアルであり、とても小説を読んでいるような気にはならないのです。朝井リョウさんの小説を読んでいると、嫌でも自分を省みなければならなくなる。私にとっては「怖い作家」です。

    コーヒー が書いた記事から

    自分だって例外じゃありません。SNSに熱狂するのはさすがに気が引けてしまうので距離を置いていますが、いつも心にもないことを言っては愛想笑いをし、適当に話をつないで・・・。本質的にはSNSに熱狂している人たちと何も変わらないんですよね。「現実を直視したくない」「自分を傷つけたくない」・・・そして、「自分って何者?」この本のタイトルにたどり着きます。



     意識高い系がむかむかする訳、それは自分へのブーメランでした。この話の主人公と同じなんです。結局は自分に返ってくる、自分が見ている。大馬鹿野郎だったこの話の主人公ですが、一歩間違えれば自分もこんなことになっている、そんな風に感じるから怖さが増幅します。



     朝井リョウさんは、幼いころからあまり本は読まれなかったそうです。作家と言えば幼いころから本の虫だった人が多いですから、朝井さんのようなタイプは珍しいですね。本を読んでこなかったというのは、朝井さんの文章を読んでいるとよく分かります。古くからの日本文学の血を引くような表現はほとんど見られません。そのかわり、あらゆる表現がストレートで力強く、そして容赦ないのです。「本を『読まなかったこと』がこれほどの武器になるのか!」、と読書好きの私は驚愕しました。

     「怖い作家」の朝井リョウさん。今年は3冊の本を読み、いずれもレビューを書きましたが、3本とも嵐のような大荒れのレビューになりました。朝井リョウさんが包み隠さず放ってくる本気の言葉に、怖いですがこれからも向き合っていきたいと思います。

     ちなみに、「若者の危うさ」シリーズはこの先もう1冊登場します。

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    神様のカルテ0
    神様のカルテ0
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    夏川 草介
    小学館
    売り上げランキング: 10,435


    〔書名〕 『神様のカルテ0』
    〔作者〕 夏川草介
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 3月11日
    〔記事〕 ブックレビュー #22


     「ありがとう」、ですね。この小説から私が思い浮かべる言葉は「ありがとう」です。夏川草介さんの『神様のカルテ』シリーズ。優しくて、温かい、出会えたことに心から「ありがとう」と言いたい、そんなシリーズなのです。

     「こんな優しい小説、他にはない」私はレビューの最初にそう書いています。その思いは今も全く変わることはありません。どうしたら、ここまで優しい小説が書けるのでしょうか。語りきれない感謝の気持ちを込めて、最新作の『神様のカルテ0』を第7位に選ばさせていただきました。

    コーヒー が書いた記事から

    読書をすると、優しくなれる -なんて素敵なことばでしょうか。文庫本まで待たずに、単行本を買いに行って本当によかったと思っています。1日でも早くこの作品に出会えて本当によかった。自分が満足しただけではなくて、「人にもすすめたい」と心から思いました。「神様のカルテ」シリーズのファンはもちろん、全ての本を読む人々におすすめしたい1冊です。



    一止はこれからたくさん苦労していくことになります。この短編から「神様のカルテ」シリーズが始まるのですが、一止はその優しさ故に何度も立ち止まり、悩み、もがき苦しんでいくことになります。それを知っているからこそ、この何気ない一言には重みがありました。でも、一止は一止のままでいてほしいのです。優しいままでいてほしい。命に対して真摯に向き合う姿勢を忘れないでほしい。また続編が出ることを願ってそう思います。



     本を読んでいる時も、レビューを書いている時も、私はとにかく幸せでした。『神様のカルテ』という作品から滲み出る優しさと温かさが自分を包み込むような感覚がありました。今でもあの感覚がよみがえってくることがあります。特に、落ち込んだり、心が汚れてかけている時によみがえってきます。この作品は、読み終えてから月日がたった今でも、私の背中を支えてくれているような気がします。

     「本と作家へのリスペクトを込めて、1冊1冊大切に紹介しています」、私はブログのプロフィールにそう記しています。この気持ちが原点だと、『神様のカルテ』を見返していて改めて思いました。素晴らしい作品とそれを書いた作家さんには、心の底から尊敬の気持ちが沸き起こっています。その気持ちを自分の言葉にしていく、そのためのブログでありたいです。また、この作品に心が洗われました。

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    第七官界彷徨 (河出文庫)
    尾崎 翠
    河出書房新社
    売り上げランキング: 123,669


    〔書名〕 『第七官界彷徨』
    〔作者〕 尾崎翠
    〔ジャンル〕 近代の文学(純文学)
    〔読了日〕 7月27日
    〔記事〕 ブックレビュー #83

      『神様のカルテ』をこれ以上ないくらいに絶賛しました。そんな『神様のカルテ』が7位という結果が、この後出てくる本の素晴らしさを無言で語ってくれているようです。『神様のカルテ』を差し置いてでも上の順位に置きたい本が6冊もあった、ということです。ここからは、文章を書いているだけでも鳥肌が立ってしまいそうな、そんな本たちの登場です。

     第6位は尾崎翠の『第七官界彷徨』です。レビューを書いたのは先月なので、記憶に新しいという方もおられるかもしれません。レビューを書いたのは11月ですが、最初に読み終えたのは7月です。そのあと、何回読み直したでしょうか。まさに「穴が開くほど」読みました。レビューに書いたように、3週間かけてノートにメモを取りながら詳細に読んだこともあります。読んだというより、「研究した」という感じでしょうか。膨大な時間をかけたこともあり思い出は深く、『神様のカルテ』よりも上の順位に来ました。

    コーヒー が書いた記事から

    意味不明な小説は、実はプログラミングのように緻密な計算のもとで、複雑に絡み合い、構成されていました。たしかに読んでいくとそれが見えてくるのです。それはもう・・・興奮します。気付いた時には徹夜していました。3週間読み込みましたが、本当によい読書になったと思います。



    配列地図には、尾崎翠本人にしか分からないような膨大な情報が記されていたと言います。そして、上のパネルにあるように、全ての場面において、「前後の関係を保つ」ことが意識されていました。ですから、人物のさりげない仕草であったり、何気なく登場するアイテムであったり、そういうものにも全て前後の関係を保つための「意味」があるというのです。


     
     尾崎翠はこの作品を書くにあたり、緻密な「配列地図」を用意したと言います。本人以外には解読不可能な膨大な情報が書き込まれていたそうです。・・・それだけでワクワクして、興奮が止まらないような話ではありませんか!作品を詳細に読み込んでいくと、その緻密な配列地図の存在を垣間見ることができます。少しでも彼女が意図したものを読み解けるように、宝探しをする子どものような気持ちで読んでいました。

     読書が死ぬほど好きだという読書通の人に本を勧めるのはとても難しいですね。軽く読める本だったら満足してもらえませんし、有名な作品やベストセラーだったら当然読んだことがあると鼻で笑われそうです。ですが、私は読書通の人にも勧めたい素晴らしい1冊を見つけることができました。この本を徹夜で読み明かして、目を真っ赤にしながら語り合う―そんなことを誰かと一度でいいからしてみたいものです。





    ◇12月20日から計5回にわたって紹介してきた年間ランキング「最果てアワード」も、残すはあと1回、文学部門のトップ5の発表を残すのみとなりました。これまでこの部分では次回にランクインする本の「ヒント」を書いていました。ですが、最終回はヒントを出さずにおこうと思います。ずっとブログを訪問いただいている皆様、私が最後の5冊に何を持ってくるか、よかったら予想してみてください。もし予想を当てていただけたら、それだけ記事を真剣に読んでくださったということなのでうれしい限りです。

     文学部門のトップ5は大みそかの深夜0時にアップ予定です。最後の5冊、語り尽くし、書き尽くします!






    •   30, 2015 00:00
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    華な本の忘年会!年に1度、名作たちが共演します

     年末は久しぶりに毎日更新をやってみようか・・・ということでせっせとパソコンに向かっています。順位から逆算していただければわかりますが、このランキングは大晦日まで続きます。久しぶりにやっていますが、毎日更新はとても大変ですね。体力の消耗が半端ないです。こんなことを続けているとブログの寿命を縮めかねないので、あくまで期間限定のお祭りのような位置づけです。

     今日は文学部門の15位から11位までを紹介します。年間トップ10入りを逃した「あと一歩」の本たちです。とはいえ、今年100冊近くの文学作品を読んだ中での10位台なので、並ぶのは選び抜いたおすすめの本ばかりです。さっそく15位から見ていきます。



    15

    ボトルネック (新潮文庫)
    米澤 穂信
    新潮社
    売り上げランキング: 128,420


    〔書名〕 『ボトルネック』
    〔作者〕 米澤穂信
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 3月26日
    〔記事〕 ブックレビュー #31

     ここから質の高いミステリー作品が3冊並びます。まず15位は米澤穂信さんの『ボトルネック』。青春特有の危うさと影を、巧みなパラレルワールドを交錯させながら描いたミステリーで、文学性もとても高い作品です。

     私は「若者の危うさ」というテーマが大好きなようです。若者の危うさを扱った作品はそれだけでかなり評価が高くなるなあ、とランキングを作りながら思いました。17位に選んだ『スクラップ・アンド・ビルド』はまさにそうですし、文学以外の本を扱った総合部門でも若者をテーマにした本をたくさん紹介しました。

    コーヒー が書いた記事から

    評価が分かれる理由は2つありそうです。まずは、ミステリーとして読むかどうか、という点。伏線の見事な回収はありますが、ミステリーとしては辛口の評価が目立ちました。推理の要素があまりないからでしょうか。冒頭でも書いたように、青春小説として読むのがおすすめです。若さの危うさ、影といったテーマで読むと群を抜いた鋭さがありました。



    若い頃って、必要以上に悩んだり苦しんだりすることがあるのではないでしょうか。青春とは盲信です。馬鹿みたいに希望を信じることができれば、絶望に向かっていくこともできます。青春のガラスのような脆さを痛感する作品でした。



     私は一番好きなジャンルが純文学なので、ミステリーを読んでいても文学性を求める傾向があります。その観点から言うと、米澤穂信さんは素晴らしいミステリー作家さんです。事件の設定で読者を惹きつけるだけでなく、心理描写や雰囲気の演出といった文学的な面でも非常に水準が高いです。前回16位に紹介した辻村深月さんと並ぶ「文学的なミステリーの書き手」だと思っています。

     『ボトルネック』は若者特有の危うさを見事に描ききっていましたね。レビューでも書いている通り、ミステリー作品というよりも「青春小説」として評価されるべき作品だと思います。もちろん、伏線の張り方などミステリー作品としてもその出来栄えにはうならされました。最後の結末を明示しないのもよかったですね。この小説には、絶対にあの「後味の悪さ」が必要だったと思います。

    14
     
    カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)
    道尾 秀介
    講談社 (2011-07-15)
    売り上げランキング: 12,447


    〔書名〕 『カラスの親指』
    〔作者〕 道尾秀介
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 3月2日
    〔記事〕 ブックレビュー #20

     ミステリー作品が並ぶ、「年末プチミステリー祭り」エリアです。2番手で14位に登場したのは道尾秀介さんの『カラスの親指』。いや~、今でも思わず嘆息してしまいます。お見事の一言、読後の快感で言えば間違いなく今年ナンバーワンでしょう。

     道尾さんは伏線の張り方、話の構成などがとても巧みで、「道尾マジック」と呼ばれるくらいです。私はそれに加えて道尾作品特有の後味の悪さというか容赦のなさも好きですね。ただ、この作品は後味の悪い作品ではありません。とにかく・・・気持ちいいですから!

    コーヒー が書いた記事から

    自分なりに推理をしていました。そして、それに結構近い形で話は進んでいきました。「あれ、今回は騙されなかった?」そう思ったあたりで気づきます。あと40ページ残っている・・・。エピローグにしては少々余りすぎです。何だか嫌な予感がしました。そして、嫌な予感は当たりました。ラスト40ページで、全てがひっくり返されたのです。今回はかなり警戒して読んだので、それでも騙された時のショックは相当なものでした。



    「騙す」ことがテーマの小説ですから、道尾さんに今作で期待されたことはたった一つ。それは、「読者を鮮やかに騙すこと」です。伏線が丁寧に解説されているのを読むと、いかに自分が道尾さんの手のひらの上で転がされていたか痛感させられます。「しっかり騙されちゃってくれてありがとう、ほんとはこうだったんだよ」と楽しく笑う道尾さんの顔がありありと浮かんできます。悔しいけど、楽しかったですね!



     「悔しいけど、楽しかったですね!」ですって 笑。自分のレビューを読み返していても、相当に楽しかったんだろうなということがよく伝わってきました。全ての読者に「あっ」と言わせて楽しいと思わせることができる・・・エンターテイメントの鏡のような作品でした。

     本の帯に「衝撃の結末」などといって盛大に煽っている作品はたくさんありますね。けれど、そういうコピーは売るために話を盛っている場合が多いので、実際に読んでみるとそうでなかったということも多々あります。「衝撃の結末」というからにはこの本ぐらいの鮮やかな結末が欲しいですね。

    13

    火車 (新潮文庫)
    火車 (新潮文庫)
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    宮部 みゆき
    新潮社
    売り上げランキング: 2,176


    〔書名〕 『火車』
    〔作者〕 宮部みゆき
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 3月31日
    〔記事〕 ブックレビュー #32

     ミステリー3作品の最後を飾ったのは宮部みゆきさん。好きな作家ランキングでは常に上位にランクインする、日本を代表する現代作家の一人です。代表作の1つに数えられる『火車』を第13位に選びました。

     宮部みゆきさんはミステリーだけでなく時代物やファンタジーなど様々なジャンルに挑まれており、しかもその全てで一線級におられるのですからもはや圧巻の一言です。中でもミステリーは特に素晴らしいですね。重厚感にあふれる本格ミステリーの書き手です。

    コーヒー が書いた記事から

    本間刑事たちは作品のラストでようやく謎の女にたどり着きます(たどり着くのです、が・・・)。作品の後半までは、彼女の名前すら分かりません。作品の表には一切登場することのない彼女。外側から、外堀を埋めるように明らかにされていった彼女の人生は、「現代社会の悲劇」ともいうべき、悲惨なものでした。



    最初に、「どうやって自分が自分であると証明するか」という話をしました。住民票に戸籍、マイナンバー。よく考えると気づきます。私たちの存在を証明する手段が、どこまでも機械的で、そして脆いということに。



     ミステリーとしてももちろん面白いのですが、宮部みゆきさんの作品で特筆すべきは「社会問題への切り込み」です。この『火車』や『理由』などがその典型ですが、社会に潜む闇の存在に圧倒的な取材で迫り、膨大な情報を提示しながらその姿を浮かび上がらせていくのです。

     80年代にデビューされ、2010年にいたるまで常に第一線におられます。しかも、『ソロモンの偽証』などがまさにそうですが、作家としてのバイタリティーが全く衰えていないのです。あのボリューム、あの読みごたえ、あの面白さ・・・本当にすごい方ですね。今日本で最も偉大で最もリスペクトすべき現役作家といっても構わないと思います。来年も宮部さんの作品はたくさん手に取りたいものです。

    12

    琥珀のまたたき
    琥珀のまたたき
    posted with amazlet at 15.12.27
    小川 洋子
    講談社
    売り上げランキング: 6,716


    〔書名〕 『琥珀のまたたき』
    〔作者〕 小川洋子
    〔ジャンル〕 現代の文学(純文学)
    〔読了日〕 11月6日
    〔記事〕 ブックレビュー #82

     ランキングを作る時、「1人の作家のランクインは1冊まで」という縛りを作りました。せっかくの機会ですから、できるだけ多くの作家さんの本を紹介したいと思ったのです。ところが、1人だけルールの例外になった作家さんがいました。それが小川洋子さんです。今年も小川洋子さんの本をたくさん読みましたが、その中から1冊だけなんてよく考えればどだい無理な話です。

     ということで、小川洋子さんは唯一2作品ランクインしています。まず最初に登場するのは最新の長編、『琥珀のまたたき』です。長編を本にすることができてよかった、と小川さんがラジオでおっしゃっていました。いかにも小川洋子さんらしい、そんな設定の作品で、また傑作が1つ増えましたね。

    コーヒー が書いた記事から

    別荘に閉じ込められた子どもたち。閉ざされた世界で、彼らだけの時間が漂います。小川作品独特の静謐さを漂わせつつも、そこに「危うさ」も感じさせる―どこか心がザワザワするような、不安な静けさが広がります。



    「この小説は、世界に必要である」、あるいは「この小説は、誰かに必要とされている」-。そう思わせるのは、上に書いたように、小川さんが小説の必要性について誰よりも深く理解して物語を生み出しているからです。読み終えた後の、静寂の中にも確かに残るこの余韻・・・毎回至福の時間を過ごしています。



     小川洋子さんの本は毎回背筋を伸ばして読んでいます。そしてレビューも、いつもの数倍は気合を入れて書いています。この作品にも「危うさ」が出てきましたね(「危うさ」はすっかりキーワードです)。静けさの中にも危うさがあり、美しさがある。小川洋子さんが描き出す世界は一見ただ静かな世界ですが、その裏でゆらめくものが驚くほど豊かなのです。

     そんな小川洋子さんの小説が、この後もう1冊登場します。一体どこに登場するのでしょうか、どうぞお楽しみに(順位は大体想像がつきそうではありますが・・・)。

    11

    下町ロケット (小学館文庫)
    池井戸 潤
    小学館 (2013-12-21)
    売り上げランキング: 68


    〔書名〕 『下町ロケット』
    〔作者〕 池井戸潤
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 9月30日
    〔記事〕 ブックレビュー #77

     で、出ました、『下町ロケット』!今年放送された民放ドラマで視聴率ナンバーワンを獲得し、10月期の話題を独占した池井戸潤さん「絶対の代表作」が年間ランキング11位です。

     池井戸潤さんの本には小難しい解釈は必要ありません。まさにロケットのように突き抜ける快感を味わえる、当代屈指のエンターテイメント小説の書き手ですね。このブログでも、ブックレビュー、そして新聞連載の「実況中継」を通して『下町ロケット』を楽しませていただきました。

    コーヒー が書いた記事から

    夢とプライドで渡り歩けるほど、世の中は甘くありません。池井戸作品の魅力の1つ、「分かりやすい対決軸」は今回も健在です。小さな町工場の力には限界があります。それでも、佃は様々な苦難に立ち向かっていくのでした。相手にするのは巨大な企業ばかり・・・まるでアリがゾウに挑むような、無謀な挑戦ばかりです。



    物語の中にいくつの苦難や困難があったか指折りで数えていたのですが、途中で分からなくなってしまいました。それほどたくさんの苦難や困難があったということです。壮大な物語を読み終えて気分は、まるで登山でもしたかのよう。「骨太エンターテイメント」の色合いはこの作品でもかなり強くて、私がこれまでに読んだ作品の中では「空飛ぶタイヤ」と並ぶくらいの読みごたえがありました。



     ドラマのほうも全話楽しませていただきました。財前部長と殿村さんがすっかり好きになってしまいました。配役にとてもクセがあって挑戦的だったのですが、上手くはめてきたなあと感心しました。池井戸作品が次々とドラマ化されていますが、それら全てが成功していることを思うと、今の時代に必要とされている作家さんなのだなと思います。

     そんな『下町ロケット』が11位になりました。ランキングを作る前、『下町ロケット』ほどの作品だったら当然トップ10に入ってくるだろうというイメージでいたのですが、実際に作ってみるとなんとトップ10からあふれ出してしまいました。・・・あと10作品、本当に素晴らしい本たちが待っているということです。期待を膨らませたところで、今日はここまで!



    ◇次回、ついにトップ10に突入です。10位から6位は、エンタメ小説3冊、純文学1冊、日本文学1冊というバランスのよい布陣ですね。まさに「今年を代表する」あの小説もここに登場します。そして、私が大好きなあのシリーズものからもランクイン!順位が上がるにつれ、思い入れもどんどん深まっていきます。






    •   29, 2015 00:00
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    年もあと4日 最後は珠玉の文学20作品で年忘れ!

     いよいよ今年も残すところ4日になりました。「最果ての図書館」今年最後の企画は、年間ランキング「最果てアワード」文学部門の発表です。先日は「総合部門」のトップ10を発表しました。文学部門はよりたくさんの本が対象となるので、順位を拡大してベスト20を発表します。2015年最後の4日間、私が読んだ約100の文学作品の中から選び抜いた珠玉の作品たちが飾るグランドフィナーレです!

     選考作業は本当に悩ましいものでした。20冊の中に入りきらず、泣く泣くランク外になってしまった作品もあります。トップ10になってくると本当にイスの奪い合いという感じで、最後まで頭を抱えながら決めた順位になりました。すべて私のおすすめの作品なので、思い入れたっぷりに毎日5冊ずつ紹介していきます。1日目の今日は、第20位から第16位までの発表です。



    文学部門 (20位~16位)


    20

    流星ワゴン (講談社文庫)
    重松 清
    講談社
    売り上げランキング: 2,561


    〔書名〕 『流星ワゴン』
    〔作者〕 重松清
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 3月8日
    〔記事〕 ブックレビュープレミアム

     スペシャルな20冊は重松清さんの『流星ワゴン』で開幕です。重松清さんと言えば「家族」をテーマにした小説を数多く世に送り出されています。特に「父と子」をテーマにした作品には心が震えます。「教科書への旅」のコーナーで紹介した『カレーライス』という作品もそうでしたね。

     この作品は、1月クールにTBSの「日曜劇場」でドラマ化され、改めて話題を呼びました。原作と同じように、ドラマもしっかり作りこまれていましたね。ブログでは、「ブックレビュープレミアム」のコーナーで2回に分けて紹介しました。

    コーヒー が書いた記事から

    幽霊の登場にタイムマシンと、かなりファンタジー要素の強い作品です。ですが、解説の斎藤美奈子さんの言葉を借りれば、「身につつまされる」作品に仕上がっていると思います。大きくなるにつれて、どこか気恥ずかしくなり、知らずと目をそらすようになっていた親子の関係、そして、人生にたくさん存在していて、気づかないうちに通り過ぎってしまった分かれ道の存在に気付かされます。



    この作品のメインテーマは「父と子」ですが、もう一つのテーマに「信じる」ということがあるように思います。息子の広樹は合格を信じて懸命に勉強に励みます。ですが、一雄はすでに広樹が受験に失敗することを知っているのです。がんばれ、きっと受かる、もう少しの辛抱だ・・・そんな言葉の全てが意味を持たなくなります。そんな状況でも、「信じて」やることができるか。ここにこの作品の真髄がありました。



     重松さんは、とても「まっすぐ」な方という印象を受けます。ど真ん中に投げ込まれるストレートのように、その描写は熱く、力強く、私たちの心を射抜きます。家族という難しいテーマに真正面から挑み続ける、そんな素晴らしい作家さんです。

     父と息子、男同士で譲れないプライドのようなものがあります。そんなプライドが邪魔をして、素直になれない父子・・・読んでいて本当に胸にくるし、何だかくすぐったくもなるのです。今年は『流星ワゴン』、『ビタミンF』、そして『カレーライス』の3作品を読みました。いずれも本当に素敵な作品だったと思います。

    19

    太陽の棘(とげ)
    太陽の棘(とげ)
    posted with amazlet at 15.12.24
    原田 マハ
    文藝春秋
    売り上げランキング: 40,703


    〔書名〕 『太陽の棘』
    〔作者〕 原田マハ
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 5月27日
    〔記事〕 ブックレビュー #49


     熱い作家が続きます。続いて第19位は原田マハさん『太陽の棘』です。重松さんと同じく、原田さんも情熱にあふれるといったイメージがある作家さんです。圧倒的な美術への造詣が織りなす描写はまさに圧巻の一言。私は今年原田さんの小説を3作品読みましたが、原田さんは10本の指に入るくらいに好きな作家に仲間入りしました。

     美術作品を前にした時、人の心の奥に眠る何かが呼び起こされ、そして湧き上がってくる。作品の中に訪れるカタルシスの心地よさでは、日本の小説家でも有数の部類に入るでしょう。読むたびに、私は圧倒的な情熱と感動に襲われました。

    コーヒー が書いた記事から

    書きたい、ではなく、「書かなければいけない」。その言葉に、作家・原田マハさんの強い決意がうかがえます。



    ここまで勢いのある文を書く作家さんはなかなかいません。読んでいるこちらも、思わず前のめりになってしまいます。それに加え、今回は沖縄と美術という、原田さんがこだわる2つのテーマが出会った作品です。その喜びがあふれだし、突き抜けるような生命力になっています。



     私の記事でも、「情熱」や「エネルギー」といった要素が伝わるように、かなり熱く書いています。読んだ直後はその情熱に触れてかなり興奮していたのでしょう、レビューのトーンはかなり高めです。

     そして、この本のレビューを読んで、『太陽の棘』に手を伸ばしてくださった方がいました。自分のレビューがきっかけで本を読んでもらえるというのは、1つの目指すところでもあり、とても喜ばしいことでした。その方も『太陽の棘』を絶賛しておられましたね。感動を分かち合えたようでうれしかったです。

    18

    草枕
    草枕
    posted with amazlet at 15.12.25
    (2012-09-27)


    〔書名〕 『草枕』
    〔作者〕 夏目漱石
    〔ジャンル〕 近代の文学(純文学)
    〔読了日〕 5月9日
    〔記事〕 ブックレビュー #44

     文学部門では、現代の小説だけではなく、近代以前の日本文学ももちろん対象になります。夏目漱石や谷崎潤一郎、三島由紀夫など、これまでたくさんの有名な作家の作品を読んできました。中でも宮沢賢治は、ブログのコーナーとして定期的に読み続けています。

     そんな日本文学から、夏目漱石の『草枕』を18位に選びました。あまり安売りしたくない言葉ですが、夏目漱石は「天才」と断言して構わない作家だと思います。代表作の『こころ』はもちろんですが、この『草枕』もそのことを存分に感じた作品でした。

    コーヒー が書いた記事から

    いったいこんな状況でどう話を進めていくのだろう、と思いながら読みました。結論を言えば、男は人情と非人情のギリギリのところで、実に繊細に、巧妙に立ち回っていました。針の穴に糸を通すような、とでも言ったらいいでしょうか。本当に絶妙な、ギリギリのラインです。



    私は、先程書いた、男の「心の余裕」なるものが、文明化や西洋化に対立しているのかなと思いました。男は、文明とは全く交わらないところにいます。そんな男が、巨大な文明というものに対して、ささやかに、かつ大胆に抵抗している、そんな印象を受けました。



     一見、淡々としていて凄みが分かりにくい作品です。ですが、注意深く読んでいるとこの作品がいかに奇跡的に成立しているかに気付かされ嘆息してしまいます。「非人情の境地」をテーマにしているのですが、これは簡単に書けそうで実に困難を極めたテーマなのです。夏目漱石の天才ぶりをまざまざと見せつけられます。

     コメントのほうで、『私の個人主義』も併読してみるとよい、とアドバイスをいただいています(いつも有益なコメントありがとうございます)。『私の個人主義』、読んでみました。たしかに『草枕』と根底に流れているものが同じでした。文明が個性を破壊することを、夏目漱石がいかに憂えていたかが分かりますね。

    17

    スクラップ・アンド・ビルド
    羽田 圭介
    文藝春秋
    売り上げランキング: 265


    〔書名〕 『スクラップ・アンド・ビルド』
    〔作者〕 羽田圭介
    〔ジャンル〕 現代の文学(純文学)
    〔読了日〕 9月1日
    〔記事〕 ブックレビュープレミアム

     世間的にも、今年を代表する1冊の1つに数えられそうですね。芥川賞を受賞した羽田圭介さんの『スクラップ・アンド・ビルド』が2015年の第17位です。

     芥川賞は複数回に分けてレビューを書くのがこのブログでは恒例になっています。この作品も2回に分けて紹介しました。純文学の作品としてはかなり読みやすいほうに入ります。私は文学に出てくる「危うさ」が大好きなのですが、この作品に出てくる若者も理解できない老人の前で「危うさ」を見せます。

    コーヒー が書いた記事から

    健斗がこのような「危うい」方向へまい進してしまう原因は1つだと思います。それは、自分が理解することのできない人間を目の前にした時の気持ちの揺れです。自分とは価値観が全く合わない人間が目の前にいるときに、人間はどのように対処しようとするのか。これこそが、羽田さんが書こうとしたテーマでもあります。



    介護の傍らで、健斗が自分の筋肉を鍛えることにまい進する、という設定が面白いです。目の前の老人には未来がなく、この先死に向かって進んでいくしかないのに対し、自分にもこの先も長い未来と人生がある。筋肉を鍛えることは、未来のない祖父を突き放し、自尊心を確保するための行為なのでしょうか。ユーモラスで、どこかちぐはぐな感覚を作品にもたらしています。



     若者と老人は、生きた時代も価値観も全く異なる「別の生き物」といって構わないと思います。私も老人にいら立ってしまうことが正直あります。「ジェネレーションギャップ」とは言いますが、自分と全く価値観が相容れない人と人間はどう向き合うべきなのか、とても難しい問いですね。「文藝春秋」に掲載されたインタビューで羽田さんがそのことについて語っておられます。こちらも要チェックです。

     羽田圭介さんと言えば、テレビで見かけない日は多いくらい露出が多くなっています。又吉さんと同時受賞という効果もあると思うのですが、これだけ露出が多いのは羽田さん自身に魅力があるからに他なりません。作品を読んだときは聡明な方だと思っていたのですが、テレビで見ていると飄々として着飾らない面白い方だという印象があります。

    16

    ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (講談社文庫)
    辻村 深月
    講談社 (2012-04-13)
    売り上げランキング: 30,427


    〔書名〕 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
    〔作者〕 辻村深月
    〔ジャンル〕 現代の文学(大衆文学)
    〔読了日〕 6月20日
    〔記事〕 ブックレビュー #53

     今年は辻村深月さんの本をたくさん読みました。作家別では、小川洋子さんと並んで一番多かったのではないでしょうか。それもそのはず、辻村さんの作品はどれも水準が高く、信頼して手に取れるからです。「ストーリーの面白さ」「文学性」という2点を兼ね備えた作家さんはなかなかいません。

     辻村さんの作品の中からどの作品を選ぼうかとても迷ったのですが、今年読んだ中ではこの『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』です。歪んでいく愛を描き切ったその力量は見事の一言です。もちろん、ストーリーも読者を惹きつけるものであり、辻村さんの実力の高さを思い知らされた一作でした。

    コーヒー が書いた記事から

    辻村さんの描写はエグい。自分の心に刃物が刺さり、それだけではとどまらず、ぐりぐりと回されていくようです。読む途中で、何度も放心状態になりました。心の奥底から、えぐりとられる内面という塊。こういった描写をさせたら右に出る作家はいないのではないのでしょうか。



    愛の裏にある、「歪み」。愛することは、かけがえのないことでしょう。ですが、その裏には、制御できない恐ろしい魔物が棲んでいます。



     私が感じた印象ですが、このように歪んだ愛に狂わされていく女性、というのは辻村さんがもっとも得意とされる描写対象なのではないでしょうか。それぐらい、描写が鋭く冴えわたります。誰にも手が付けられないくらいのキレキレの描写でした。

     上にも書いたように、惹きつけるストーリーと高い文学性の両輪がしっかり駆動しているので、辻村さんの作品は抜群の読みごたえがあります。2014年に読んだ作品なのでランキングの対象外になったのですが、代表作の『ツナグ』は絶対に読んでおきたい傑作中の傑作です。



    ◇ 次回は15位から11位を発表します。質の高いミステリー作品が3冊連続で登場します。そして、ドラマで話題になったあの小説もランクイン!トップ10に入りきらなかったとはいえ、素晴らしい小説が並びます。年末を彩る豪華なラインアップをお楽しみに!!





    •   28, 2015 00:00
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