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  • ふがいないオーガズム -『ふがいない僕は空を見た』 窪美澄

     26, 2015 19:36

     本屋大賞にノミネートされた作品を読んでいます、と言っていましたが、この本はその第2弾です。2011年の本屋大賞で第2位を受賞し、2012年には映画化もされています。

    ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)
    窪 美澄
    新潮社 (2012-09-28)
    売り上げランキング: 7,055



     窪美澄(くぼみすみ)さんの「ふがいない僕は空を見た」という本です。本屋大賞のノミネート作はポピュラーで読みやすい作品が多いのでこの本もその類だと勝手に思い込んでいたのですが、開けてビックリ。いきなり出てきたのは、直視できないような激しい性描写でした・・・。



    性と生



     この本は短編を5作収録しているのですが、最初の短編「ミクマリ」は、R-18文学賞という新人賞を受賞しました。これは、応募を女性に限定した、女性のためのエロティックな小説の発掘を目指した文学賞だということです(現在は規定が変わり、官能小説以外も応募できます)。

     「ミクマリ」の性描写はすさまじいものでした。エロティックな小説を募集した文学賞出身だとは知らなかったのでビックリしました。普段本を途中でリタイアすることはめったにない私ですが、途中リタイアを考えてしまいました(もともと、こういった性行為全開の小説には耐性がありません・・・)。

     結論を言うと、途中リタイアしなくてよかったです。後半の短編にいくほど面白くなりました。この本の売り文句が、「性と生に正面から向き合った小説」とのことですが、なるほど的を射たコピーです。ただのエロ小説ではなく、人間の「生」の方にも真摯に向き合っていることが、読んでいるうちに分かってきます。

     短編ごとに視点が変わるのですが、作品の中心になっているのは、「男子高校生と主婦の不倫」です。この設定だけでも随分と危ない感じがしますが、もっとすごい設定が加わります。主婦の方がいわゆるアニメの「オタク」で、なんと高校生と共にコスプレをして、台本を作ってその台本通りに情事に励む(!)という・・・・・・設定でした。

     今日は、レビューを書き切ることができるでしょうか・・・。

    ふがいない人間



     性行為の細部については、ここでは全面カットです!私が読み慣れていないということもあると思いましたが、なかなか読み進めるのは大変でした。

     読後感を一言で表すなら、「けだるさ」です。異常な性癖が度々登場したり、高校生の母がやっている助産院で、妊娠の時に女の人が出す「絶叫」が度々挿入されたり。この女の人の絶叫を作品に取り入れるあたりはすごいセンスです。それもそのはず、作者は妊娠や出産をテーマに執筆しているとのことでした。

     「それだけ」の小説なら、絶対にレビューは書きません。この小説のもう一つのテーマ「生」の方は素晴らしかったです。「生」を描くためには、激しい「性」の描写も必要だったのだと思います。性の汚さや醜さといったものに正面から挑んで、読者にけだるさを覚えさせたからこそ、「生」の方も生きてくる気がします。

     「生」がどういうものかというと、人間の存在の卑小さ、無力さ、それにやるせなさ、といったところでしょうか。

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     作品のテーマを集約したような部分がありました。

    「松永くんと同じで、ぼくも小さいころから勉強だけが得意で、勉強だけしていれば世の中のわからないことなんて、どんどん少なくなっていくものだと思ってた。だけど、長く生きていればいるほど、わかんないことばっかりだよ。恋愛とか、セックスとか。女の人のこととか、自分のこととか・・・・・



     登場人物たちは、皆傷だらけ、という印象です。コスプレをして情事に励む2人はもちろんなのですが、その他の人々の傷も、後から明かされていきます。

     T大学の理科Ⅲ類まで進んでおきながら、フリーセックスの宗教団体にのめり込み、大学を辞めた青年。
     彼氏が他の女と寝ていることを知ってしまい、性欲を暴走させていく彼女。
     社会的地位もあり、人柄もよい好青年が、実は必死に隠そうとしていたある性癖。

     書いていてもげんなりしてきます。こういった「性」の暴走に、人間が食いつぶされていく、そんな印象です。この話に出てくる人間は、どこまでも情けなく、惨めで、読んでいるこちらがやるせなくなるのです。

     目をそむけたくもなりますが、性的な衝動は人間の持つ本能です。スーツを着て偉そうにしている人がいても、必ずある本能です。そういった部分がむき出しにされます。スーツを着ていたとしても、引きはがされ、丸裸にされる、そんな感じだと思います。そうやって人間が丸裸になった時に見えてくる、「人間の存在の卑小さ」に気付きます。

     好きな作家に村上春樹さんを挙げておられますが、なるほどと言う感じです。性行為の果てに見えてくる、ちっぽけで情けない人間の存在。そこにあるやるせなさ。通じるところがあります。

     「ふがいない」というタイトルが、そんな作品にピッタリです。人間の存在の卑小さを見つめた上で、それを受け止め、そして優しく包み込んでいるイメージが、「ふがいない」という言葉に集約されています。こんなにピタリとはまったと感じるタイトルは久しぶりでした。絶妙な着地点にたどり着いたな、という感じがします。

    田岡さんの存在感



     田岡さんって誰っ!という感じですね。田岡さんは、4つ目の短編に出てくる人物です。先ほど書いた、「社会的地位もあり、人柄もよい好青年が、実は必死に隠そうとしていたある性癖」とは、この田岡さんのことでした。

     私が一番印象に残った人物でした。人間の本能は、「獣」といってもよい部分です。そういった部分を隠しながら私たちは生きている訳ですが、それが暴発してしまった時の怖さですね。ここでも、人間の存在を空しく感じてしまいました。

    「おれは、本当にとんでもないやつだから、それ以外のところでは、、とんでもなくいいやつにならないとだめなんだ」


     意味深なセリフを残した田岡さん。このわずか数行後に、驚きのエンドが待っています。「セイタカアワダチソウの空」という短編なのですが、これは傑作ですね。

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    の果てにある生の姿が、独特の余韻を残します。

     最初の短編のすごい性描写がハードルになりそうですが、「生」というテーマが見えてくる後半は俄然と面白くなります。タイトルがあまりにも絶妙で、感動を覚えるレベルです。

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    小説, 窪美澄,



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