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がっちり、伊坂さん! -『残り全部バケーション』 伊坂幸太郎

 28, 2015 23:59

 伊坂幸太郎さんの作品は、長編と短編、どちらがお好きでしょうか?私は短編が好きです。それも、去年読んだ「終末のフール」やこの作品のように、世界観がリンクしている連作短編の形式が一番好きですね。

残り全部バケーション (集英社文庫)
伊坂 幸太郎
集英社 (2015-12-17)
売り上げランキング: 7,866



 「残り全部バケーション」という、なんとも羨ましいタイトルの本です。世間では、ゴールデンウィークで上手く休みをつなげて10連休以上を楽しむ人もおられるようですね。羨ましいですが、私の場合、そんなに休むと間違いなく堕落してしまいそうです・・・。余談は置いておいて、本の紹介にいきたいと思います。



既視感の正体



 まずは簡単にストーリから。溝口と岡田という、2人の男がいました。2人はバディーを組んで仕事をしています。仕事といっても、世間の表に出てはいけない類の仕事です。悪人から依頼されて任務を遂行する、いわゆるスパイや「裏社会の請負人」といった感じの仕事です。

 2人の会話がとても面白いです。テンポ良く、漫才のように進んでいきます。2人のやっていることは決して褒められたことではないのですが、テンポの良い会話には思わずクスリとしてしまいます。心地よい「小悪党感」がありますね。

 裏社会で活躍する2人。相性抜群のコンビ。テンポが良く笑わせる会話。・・・私のブログを毎回読んでくださる方がいたら、ピンときたかもしれません。以前に紹介したこの作品とそっくりです。

カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)カラスの親指 by rule of CROW’s thumb (講談社文庫)
(2011/07/15)
道尾 秀介

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#20 「カラスの親指」 道尾秀介さん

 2つ目の短編、「タキオン作戦」では、2人が作戦を立ててある人物を騙そうとします。児童虐待という重いテーマを扱っているのですが、ほっこりと幸せになる結末。騙す要素まで出てきて、このあたりはもうそっくりです。

 「カラスの親指」と違うのは、この作品が連作短編の形式をとっているということです。短編なのですが、作品の世界観がリンクしていて、読み終えた時に1つの世界が見えてくる、という構成になっています。

 時系列をバラバラにしていて、つなげるのが大変でした。最初の短編に出てきた要素が、最後の最後に登場したりと、伏線の回収も芸が細かいです。短編ならではの小気味よさと疾走感があります。伊坂さんの魅力が凝縮されているようで、私はこの形式が好きですね。

前向きを散りばめて



 2人は悪党な訳ですが、憎らしさはほとんど感じません。「小さな奇跡」という売り文句がついているようですが、確かにその通りで、人生を前向きに生きようというエッセンスが散りばめられています。

「これはおしまいじゃなくて、明日からまたはじまりなの」「明日からは全部バケーション」岡田さんがまた言う。


「なんか、気が楽にならない?気負わなくたって、自然と前には進んでいくんだよ



 そして、主人公の1人、岡田さんの人柄がすごくよいのです。先ほども出した2つ目の短編、「タキオン作戦」。彼は悪党にもかかわらず、お節介に人助けをしようとします。「自分の仕事のせいで人が苦しむのが悲しい」そんな優しい心の持ち主です。

 当然、裏社会での仕事が続くはずはありません。岡田さんは、仕事をやめたいと溝口さんに言い出します。ここからがすごいところで、溝口さんはそんな人の良い岡田さんのことを裏切ってしまうのです。

 後半の話では溝口さんの相棒が変わります。あんなに人が良かった岡田さんはお払い箱?あんまりじゃない?・・・そんな風に思っていたら、最後に急転直下の結末が待っていました。

 伊坂さん恒例、最後の最後での見事な伏線回収!あれも、これも、それも、といった感じで作品が収束していきます。ただし、この作品の上手いところは、全てを回収せず、最後は読者に委ねたという点です。

 おそらく、私が気付いていない伏線もたくさんあるのだと思います。ラストの解釈も、伊坂さんファンの間で議論が巻き起こりそうですね。道尾秀介さんに負けず劣らず、伊坂さんも伏線の回収と巧みな構成が見事な作家さんです。「甲乙つけがたい」とはこういうことをいうのでしょうか。

 「カラスの親指」と比べてみましたが、こちらは短編ということで、テンポ良く、軽妙な展開が魅力です。時系列をバラバラにしたのも、こういった短編だからできたことだと思います。

 対して「カラスの親指」の方は長編で、いろいろな伏線が最後に一気に回収される、という点が圧巻でした(道尾さんは伏線の説明を最後すごく丁寧に書かれていました)。伏線が小出しに回収されていく面白味ならこの作品、最後に一気に明らかになる面白味なら「カラスの親指」と読みわけができそうです。

人を騙すには



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 いわゆる「騙される系」の作品にはほぼ毎回騙されている私です。そして、騙された興奮からちょっとテンションが高くなって、レビューを書く時に勢いがつくのも毎度おなじみ。全く成長しない人であります 笑。

 なぜ騙されるのか、といった時に、こういった要素があるかもしれません。この作品に出てきた言葉です。

「人を騙すには、真実や事実じゃなくて、真実っぽさなんですよ」



 先入観や固定観念、過去の経験など、人間はいろいろなものに支配されています。事実そのものを見ているのではなく、常に「こうであるはずだ」「こうであってほしい」と思って物事を見ているのでしょうね。

 だから、「こうであるはず」でないことが起った時は、コロッと騙されてしまいます。そういった面を上手く突いてくる作家さんには拍手ですね。

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妙なテンポで、タップダンスのように伏線を回収していく心地よさ!

 伊坂さんらしさがぎゅっとまとめられた、小気味よい連作短編集。細かい点も含めると、本当にたくさんの伏線があります。それらが少しずつ回収されていくたびに、思わずニヤリとしてしまいますね。
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小説, 伊坂幸太郎,



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