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複雑なF -『ビタミンF』 重松清

 03, 2015 21:19

 「流星ワゴン」や「カレーライス」などを紹介し、このブログでは贔屓にしている作家の1人、重松清さん。でも実は、私は重松さんが苦手です・・・。

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 今回紹介するのは直木賞受賞作「ビタミンF」です。苦手と言いましたが、嫌いと言っているのではありません。「苦手」と「嫌い」、似ているけど違いますね。重松さんが素晴らしい作家であることは認めた上で、苦手と書いています。重松清さんが苦手、そのわけとは・・・?



40手前の父



 7つの短編が収録されていますが、作風はかなり似通っています。「40歳を手前にした父親」、これは「流星ワゴン」にも見られたテーマで、重松清さんの徹底したこだわりが見られます。

 共通しているのは年齢だけではありません。作品に出てくる父親は、みな妻がいて、子どもがいて、幸せな家庭があって。これだけ就職もままならない時代に、そんな人生を送っている父親は世間から見れば「勝ち組中の勝ち組」だと思います。

 それでも、人生に不満を持ってしまうのが重松作品の父親たち。幸せで満ち足りている環境に、どこか不満がのぞいてしまうのがなんともリアルなところです。

だが、テレビの画面からふと目を離し、家族を眺め渡した瞬間、不意に思った。
俺の人生は、これか―。
なーんだ、と拍子抜けするような。



 幸せな環境にいるのに、不満をいうなんて何事だ!と怒る人もいるかもしれません。でも、私はこれはとても鋭い描写だと思います。幸せな環境、とはいうけれど、それは他人から見たものでしかありません。その幸せの真ん中にいる当人からしたら、どこかで「つまらない」と思う瞬間があるのかもしれません。

 男で40といったら、ちょうど平均寿命の半分くらい。まさに、「人生の折り返し地点」です。私にはもう少し先の話ですが、その地点に来た時に、自分の人生の残り半分が見えてしまうのでしょうか。

 この作品では、「40手前の父親」が徹底して描写されます。ちょっとくどくなるくらいに、何度も、何度も重なる描写。そこに込められた、重松さんの強い思いを感じます。

子どもが分からない



 もう1つの特徴は、「子どもの気持ちが分からなくなる父親」という構図でしょうか。「かさぶたまぶた」という短編があるのですが、そこに出てくる父親は、娘のことが分からなくなってしまったことに驚き、そして「分かっているふり」をしようとします。

 そんな彼に、試練が待っていました。大学受験で浪人している息子が、酔いつぶれて家に帰ってきました。彼は、息子にこう言い放たれます。

「俺らずーっと、うんざりしてんだよ。あんたに。優香も、お母さんも、そう思ってるんだよ。なんでも自分がカッコつけて余裕こいて、まわりのことばっかり気にしてよお、クソがよお・・・・・」



 厳しい言葉です。息子には、全て見透かされていた―生きた心地がしないでしょう。

 可愛かった子どもが、だんだん大きくなって、ついには自分に反発する日がやってくる。子どものことは何でも分かっていたつもりが、いつの間にか何も分からなくなっている。親子の残酷な面が浮かび上がります。

 ただ、親子の難しさを書きたいなら、父親と母親、どちらでもいいはずです。しかし、重松さんの作品には、際立って「女目線」が少ないです。この話は、全て父親目線。「流星ワゴン」もそうでした。これはどうしてでしょう?

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 私は、父親が「嫌われ者」になる宿命だから、だと思っています。子どもが息子でも娘でも、一般的には「嫌われ者」の役目を背負うのは父親のほうではないでしょうか。

 大きくなった息子にとって、お父さんほど目ざとい存在はありません。家の中にいる自分より大きな男。思春期には激しくぶつかり、反発しあって・・・。男同士で「朋友」になれる日はまだまだ先です。

 娘にとってもそうではないでしょうか。いつの日か、一緒にお風呂に入るのを拒む日がやってきます。性の話など、デリケートな問題の話し相手はいつもお母さん。お父さんは、自分のことを最も分かってくれない存在です。

 あくまで一般的に、ではありますが、父親が「嫌われ者」になる宿命が見えてきます。40目前で家庭に恵まれている男性は幸せの絶頂だ、という風に書きましたが、案外そうではないのかもしれません。嫌われ者になることが最初から決まっているのだとしたら、これはなかなか辛い仕打ちです。

 そういうことも踏まえた上で、重松さんは「中年の父親」の姿を追い続けているのだと思います。

Fの意味



 さて、タイトルのビタミンFに込められた意味です。作品の最後に、重松さんが解説しています。

family father friend fight fragile fortune・・・・<F>で始まるさまざまな言葉を、個々の作品のキーワードとして物語に埋め込んでいったつもりだ。そのうえで、いま全七編を読み返してみて、けっきょくはfiction、乱暴に意訳するなら「お話」の、その力をぼくは信じていたのだろうと思う。



 Fにはそんな意味が込められていたのですね。「家族」も「父」も「友人」も頭文字がFなのか・・・。

 最後に、私が重松さんのことが苦手な理由も説明しなければいけません。どこか古傷が疼くような、そんな苦しい感覚を覚えます。それは、私が、「心のどこかで家族と正面から向き合うことを避けてきた」、という負い目があるからだと思います。

 だからこそ、家族の姿を、特に父と子の姿を真正面から描く重松さんの作品に、苦しい思いを感じてしまうのでしょう。家族が存在していることは幸せです。ですが、家族と本気で正面から向き合うことは全くの別問題。そこにある苦しさというものを、本当に上手く描く作家さんです。

家庭っていうのは、みんながそこから出ていきたい場所なんだよ。俺はそう思う。みんなが帰りたい場所じゃない。逆だよ。どこの家でも、家族のみんな、大なり小なりそこから出ていきたがってるんだ。幸せとか、そういうの関係なくな



 最後の短編より。この説得力は、いったい何なのでしょう。

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族を正面から描き切る勇気。では、正面から「受け止める」勇気はありますか?

 胸が締め付けられるような重松作品。こういう作品を受け止める勇気が読み手に求められるのだと思います。私も40歳に近くなって親の立場になってから読むと、また感想が変わるのかな。



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  •   03, 2015 21:19