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教科書への旅 #8 「大造じいさんとガン」 椋鳩十

 27, 2015 22:58

 小学生の時以来に読んだのですが、話のあらすじが私の思っていたものとは違っていたので驚きました。今日は小学5年生を代表するこの作品です。

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 椋鳩十の「大造じいさんとガン」(小学5年生)です。改めて読んでみると、短い作品でありながら話の構成がたまらなく素晴らしかったです。いつもの話のテーマをメインに書くのですが、今日は文章や構成の素晴らしさについても書きたいと思います。




あらすじ



 ―それは、72歳になっても元気な老かりゅうど、大造じいさんが若いころに経験した、あるガンとの物語です。

 残雪(ざんせつ)というガンがいました。残雪はガンたちの頭領で、仲間のガンたちを連れて沼にやってきます。残雪は利口な鳥でした。狩人に捕まらないように油断なく気を配っていて、決して人間をよせつけません。残雪が来るようになってから、じいさんは一匹もガンを手に入れることができなくなってしまいました。

 そんなじいさんでしたが、上手い方法で生きたガンを手に入れます。久しぶりの獲物です。「しめたぞ」、じいさんは喜びを隠せません。この調子で2匹、3匹・・・と勢いづいたじいさんでしたが、そこは残雪が一枚上手でした。残雪は、仲間たちがわなにかからないよう指導しているようです。「ううむ」、じいさんも思わず感嘆の声をあげます。

 その翌年も、じいさんは残雪に敗北。それからさらに1年がたちました。今年もまたガンがやってくる季節です。じいさんは、あることを思いつきました。2年前に生け捕りにしたガンを「おとり」にして、ガンたちをおびきよせようというのです。

 ところが、じいさんは異変に気付きます。おとりになるはずのガンが、飛び遅れてしまいました。じいさんに捕えられ、すっかり野生のかんが鈍っていたのでした。そんなガンのもとに、一匹のハヤブサが襲い掛かってきます。じいさんのガンが大ピンチ!はたして・・・!

この作品のポイント



 何かテーマを見出しながら読む・・・というのももちろん大切なのですが、この作品の一番の読みどころは「情景描写の美しさ」だと思います。

 本当に美しい。憎いくらい、無駄な要素がなくて、日本語として最高級の完成度だと思います。これが「日本文学の最高傑作」だと言われても、私は笑いません。

 文の質、構成が際立っており、小学校の教科書で読む作品の中でもひときわ光っています。この作品を読める小学5年生は本当に幸せです。私も、小学生の時にもう少しこの文章の素晴らしさを理解できていたら、と思わずにはいられませんでした。

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再読!「大造じいさんとガン」



 じいさんのガンを助けにやってきたのは、じいさんの天敵、「残雪」でした。底から始まるハヤブサとのデッドヒートは、作品の一番の見せ場です。その部分の描写がこちら。

ぱっ
ぱっ
羽が、白い花弁のように、すんだ空に飛び散りました。


 最大の山場です。最高潮まで盛り上げたい、そんなこの場面に作者が託したのは、「ぱっ」という羽音でした。そして、羽が白い花弁のように飛び散る、という一行が続きます。この三行からは、まるでここだけ時間が止まったかのような、そんな錯覚を覚えます。「最大の山場で、余計なものは全てそぎ落とした」、見事の一言です。

 この場面、映像化したら素晴らしいものになるでしょう。二匹の鳥の、大空での格闘。響く羽音。花弁のように飛び散る羽。映像というのは、ある意味ずるいものです。言葉が一生懸命に、ありとあらゆる手段を使って伝えようとするものを、一瞬で視覚に訴えることができるからです。そこに映像の強みがあります。

 でも、私はこの場面を映像化する必要はないと思います。想像できるからです。短い、たったの三行なのですが、驚くほど鮮明に、映像が浮かびませんか?映像が浮かんで、空間が静止する様まで浮かびます。これがこの三行のすごさです。言葉の力を極限まで引き出したからこそ、たどり着ける境地です。

 ハヤブサとの戦いのあと、深い傷を負った残雪。近づいてきたじいさんの前で、最後の意地をふりしぼります。

第二のおそろしい敵が近づいたのを感じると、残りの力をふりしぼって、ぐっと長い首を持ち上げました。そして、じいさんを正面からにらみつけました。それは、鳥とはいえ、いかにも頭領らしい、堂々たる態度のようでありました。


 鳥は言葉を持ちません。言葉を持たない鳥に、いかに訴えさせるか。ここも、作者の力量が問われるところです。鳥の一つ一つの動作が、下手な言葉よりもよっぽど強く訴えてくる。この場面も見事です。

 じいさんもまた、余計な言葉は口にしません。残雪がハヤブサの前に現れた時、じいさんは銃を構えるのですが、何を思ったか、その銃を下ろします。上に引用した、傷だらけの残雪との対面シーンも、じいさんの言葉はありません。強く心を打たれ、ただ目の前の鳥に対しているのです。こういった一つ一つのシーンが、物語の次元を高めます。

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 文章の美しさもそうなのですが、「場面展開」も見事です。例えば、先程のじいさんと残雪の対面シーンを見てみます。じいさんと残雪が無言で向かい合った後、ページは変わり、場面は転換します。

 ページをめくると、そこは春でした。じいさんは残雪を保護し、冬の間傷をいやしてやったのです。元気を取り戻した残雪。そこに、春の景色が見事に重なります。

ある晴れた春の朝でした。
じいさんは、おりのふたをいっぱいに開けてやりました



 この場面展開では、ずいぶん多くのことが省略されています。じいさんが傷を負った残雪を保護してやったこと。厳しい冬を共に過ごしたこと。そして、冬を過ごすうちに残雪に対する気持ちが変化したこと。いろいろなことが含まれているでしょう。しかし、それらを述べる必要はありません。

 「春になり、おりをあけた」、これだけでよいのです。これが、全てを語ってくれています。この場面展開には痺れます。その後、残雪が飛び立つシーンがあるのですが、これもまた見事です。圧倒されつつ、読み終えるのです。

 今日は文章の美しさや場面展開を中心に見てきました。「大造じいさんとガン」が日本文学の最高傑作、などというかなり大胆なことを書きましたが、それが冗談ではないことが分かっていただけたかと思います。大人になってから読み返す、そんな価値は十分にある作品です。




 今日は流れるように文を書きました。名作に出会った時の、この体中の細胞が沸騰するような感じはたまりません。教科書の作品を懐かしんでもらおう、と始めたこのコーナーですが、一番楽しんでいるのは間違いなく私ですね。
 他の作品もぜひどうぞ!



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 記念すべき第1回。4月に入ってからたくさん検索されるようになったのですが、勢いはまだまだ続いています。4月の人気記事ランキング1位を獲得しましたが、5月も余裕の1位がほぼ確実です。どうしてこんなに検索されているんだろう??

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