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鏡の向こう側  -『鏡の花』 道尾秀介

 05, 2015 04:38

 ブックレビューの50冊目には道尾秀介さんの本を選びました。読み始めたはいいのですが、話の設定が全くつかめず、混乱してしまいました。前のページを思わず見返してしまいます。そして、ますます分からなくなり、混乱だけが増していきます。世界観が分かってくるのは終盤になってから。こんなに惑わされた作品は久しぶりでした。

鏡の花
鏡の花
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道尾 秀介
集英社
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 6つの話が収録されている連作短編集です。登場人物が共通しているので、作品は同じ世界の出来事だ・・・・・・・・・・・・・・そう思ってしまうのが当然ですね。ですが、そう思って読んでいくと違和感を覚え、混乱することになると思います。短編ごとの設定に矛盾が生じてくるからです。その世界観の正体が、ようやく後半になって分かります。説明するときにどうしてもネタバレを含んでしまうので、これから読みたいという方はお気を付けください。



鏡の迷宮



 まずは、作品を読んでいてぶつかるであろう違和感について説明しなければいけません。私は、読んでいて自分がミスを犯したのではないか、と錯覚してしまいました。登場人物が多いので、人物の名前を勘違いしてしまったのではないか、と思い、前に戻って読み直したくらいです。

 前の章に出てきた人物が、次の章では亡くなっている
 前の章で亡くなっていた人物が、次の章では生きている


 これは混乱してしまいます。「前の章のあの人は幽霊だったの?」「時系列はどうなっているの?」戸惑いを隠しきれませんでした。矛盾だらけのおかしな状態なのに、それが当たり前のように書き進められているので余計に混乱します。

 ある話では死んだ人が、ある話では普通に生きている。こんな状態です。全く別の人生です。いくつか話を読めばようやく気付きます。これは「もしも」の世界―つまり「パラレルワールド」です。

 最後の短編をのぞく5つの短編では、必ず誰かが亡くなります。そして、話ごとに亡くなる人が変わります。そして、残された者たちの運命が丁寧に追われています。残された者が、死に対して何を思うのか。こういったことがテーマになりそうです。

 この本の感想を見ると、「混乱」という言葉がとても多いですが、なるほど納得でした。先入観がない状態で読めば、かなり混乱すること間違いなしだと思います。

死を映す鏡



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 道尾さんはミステリー作家です。この本も基本的にジャンルはミステリーなのですが、私は文学作品的な色も感じました。

 ミステリーと文学。ミステリーは「ストーリー重視」です。どんな仕掛けがあるのか、どんな結末が待っているのか。ストーリーで読み手を引っ張ります。一方の文学は、「テーマ重視」と言えるでしょうか。何か人間一般に当てはまるようなテーマがあって、それを探っていくことになります。ストーリはそこまで重要ではなく、なくてもいいぐらいです。

 この作品は、人間の死と残された者の思いを様々な形で描いていました。道尾さんらしく、人間の邪悪な部分を色濃く描き出しながら、読者の心をえぐっていきます。

だれかの命がこの世から消えてしまったり、優しさが苦しみや憎しみを生むことがあるなんて想像もしていなかった。あの頃に戻れたら。



 人間は死んでも、残された人の心の中で生き続けます。しかし、残されたものが、死んだ者のことを同じように、きれいに思い続けることができるでしょうか。そうはならないと思います。

 自分が悪かったのではないか、と自責の念に駆られたり、後を追って死にたくなってみたり、生きているうちに話しておきたかった、と後悔したり・・・。そして、時が経つにつれ、その人のことを忘れていったり。最後を太字にしました。これが一番怖いからです。忘れられてしまった時、その人は本当の意味で死んでしまいます。

過去にふさいだ目を、ふたたびひらいてみたいという思いが胸にきざした。これまで18年間抱えてきた、茫洋とした苦しさは、対象がわからないからこのの苦しさだったのではないかと気がついた。


 こういう人間の苦しみを書くことに関して、道尾さんは本当に上手いです。ストーリーが複雑なので、「テーマ」の方に注目して読んでみた方がいいかもしれません。人の死をきれいなままにしておくことはできなくて、必ずそこに歪みが生じてしまう。そんなテーマが見えてきます。

 それを映していたのが、タイトルにもある「鏡」でした。

「鏡」の向こう側



 最後の章を読むとようやく作品の構造がつかめてきます。「鏡」に込められた意味が分かることによって、それまでに書かれてきたパラレルワールドの輪郭も浮かび上がってきます。

鏡というのは昔から別世界の入り口だと思われていて、あの世に通じていると考えられていたため。(中略)鏡を剥き出しにしておくと、あの世に引きずり込まれてしまうと言われていたからだ。



 なるほど。確かに聞いたことがある気がしました。それまでに描かれた5つの世界は、鏡に映し出されていた世界でした。謎解きの最終章にはそれまでの登場人物が全員集合するのですが、その時に初めて、作品の全体が見えてハッとさせられます。

 背中にひんやりとする感覚があります。私たちは普通に生きていますが、運命のいたずらで、自分が死者になっていたかもしれないのです。それは本当に紙一重で、私たちが生きているのがいかに不思議なことか、改めて感じます。

 「実験的な作品」という評価もありました。たしかにそうです。設定が複雑で危ういので、一歩間違えればただの「意味不明な作品」になってしまいます。そうさせずに、非常ににギリギリのところでこれを作品にしてしまう―そこに道尾さんの力量を感じます。

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さに「鏡の迷宮」―この作品の真の姿はどこにあるのでしょう?

 運命が少し狂っただけで、生と死が簡単に入れ替わります。鏡の向こう側にある「もう1つの世界」が、私たちに混乱を生じさせます。いつもと趣向を違えていますが、これも「道尾マジック」でしょうか。おそろしや、おそろしや・・・。



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 更新が遅くなってすみません。体調とも相談しながら、マイペースに続けさせて下さい・・・。いろいろとためこんで潰れてしまわないようにしなくてはいけないですね。

道尾秀介さんの本棚
 道尾秀介さんの本をまとめています。「鏡の花」も追加しました。

「カラスの親指」 道尾秀介さん
 前回の作品。楽しく読むことができるので、「鏡の花」とどちらをすすめるか、と言われればこちらをおすすめします。
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小説, 道尾秀介,



  •   05, 2015 04:38