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a portrait of life #2 「ことばと向き合う」 大越健介さん

 07, 2015 23:59
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 3月から4月といえば、出会いと別れの季節です。毎年様々な出会いと別れを繰り返します。4月に入ってしばらくもすると新しい環境にも慣れてくるのですが、別れが続く3月はなかなか辛いものがあります。

 さて、今年の3月、私が1番辛かった別れは何だろうと考えてみます。今年は自分の卒業・入学の年ではなかったので、生活にはそれほど大きな変化はありませんでした。それでも、かなり落ち込んだ別れが1つあります。それが、NHKのニュースウォッチ9からキャスターの大越健介さんが降板したことでした。

向き合う仕事 ぼくはこんな人に会ってきた
大越健介
朝日新聞出版 (2013-05-21)
売り上げランキング: 89,008


 今日はそんな大越さんの本を通して、大越さんという人がどういう方なのか、見ていきたいと思います。1人のキャスターの降板に、どうして私はそれほど感じるものがあったのでしょうか。普通、ニュース番組を見る理由は、「ニュースを知るため」だと思います。それが、私の場合、「大越さんを見るため」だったんですね。要するに・・・「ファン」だったのです。どうして一人のキャスターのファンになったのか、今日はそのあたりの話も交えながら・・・。




#2 大越健介さん

1961年生まれ。東京大学を卒業後、NHKに入局。政治記者として取材を重ね、2005年からはワシントン支局長を4年間務めた。帰国後の2010年から「ニュースウォッチ9」のキャスターに就任。2015年3月、5年間務めたキャスターを降板し、現在は同番組の番組編集長。東大野球部に所属し、通算8勝をあげた。



 「ニュースウォッチ9」のキャスターを5年間務められた大越さん。知っているという方は多いと思います。この本は、番組を通して多くの人にインタビューをしてきた大越さんが、自身のインタビューに対する流儀や報道への思いを語った1冊です。

 インタビューしてきた人たちは各界の大物です。その人たちのエピソードがふんだんに語られていて、そちらに注目しても十分読みごたえのある1冊だと思います。それでも、私はインタビュー「する」側である大越さんの存在を感じずにはいられませんでした。単なる聞き手ではなく、常に真摯に、相手が誰であろうと真正面から向き合ってきた1人のプロの矜持です。

そしていざ本番に入るというとき、ぼくはそれまでに詰め込んだ様々な知識や情報をいったん捨てることを心がけている。(中略)事前に仕入れた知識や想定した段取りにばかり縛られていると、生き物であるインタビューを窒息させかねない。(中略)捨て去っても残ったもの、それこそが本当に相手にぶつけるべき情報と言っていい。


 インタビュアーが事前に準備を事欠かないのは当然のこととして、それを一度「捨てる」、ということ。勇気がいるように思えますが、これこそが大越さんのインタビューの流儀でした。

 普段、ニュース番組をゆっくり見る時間などなかなかありません。ストレートニュースで要点だけ確認するか、別のことをしながらニュースも流しておくか、普段の私はそんな感じです。ただ、ニュースウォッチ9の、大越さんがインタビューをしている場面はそうではありませんでした。何だか正座でもしながら見なければいけないような、そんな思いになったのです。それは、大越さんのインタビューが常に「生き物」であったからだと思います。

 大越さんは「記憶に残る」キャスターだったと思います。それは、「よくも悪くも」です。その原因は、大越さんがニュースを伝えた後に述べるひと言、自らの見解だったと思います。NHKのニュース番組でこのようなスタイルをとるのは異例中の異例です。そんな異例のスタイルともあって、大越さんの「ひと言」には賛否両論が飛び交いました。

大越健介の「現代」を見る

 NHKのスタイルの真逆を行くわけであり、また、踏み込んだ発言もあったことなどから、賛否両論の「否」の方の声はかなり大きかったようです。その証拠に、大越さんは自身が番組サイトで執筆していたコラムで、自らへの批判に言及しています。

大越健介の「現代(いま)」を見る 2013.8.7

 タイトルは「気にしてない!」。ニュースウォッチ9が「嫌いな番組」の5位にランクインし、「司会者が偉そう」と実質上名指しで批判されてしまった大越さん。気にしてないとは言いつつ、実際はものすごく気にしているんだ・・・という茶目っ気たっぷりの文章です。短い文量ですので、ぜひ読んでいただけたらと思います。

 そのコラムの中で、大越さんの一言は「余計なひと言」である、という痛烈な批判が紹介されています。それに対して大越さんはこんな風に述べています。

それにしても・・・。「余計なひと言」だったんですね。自分なりに考え抜いてコメントしているつもりなんですが。でも、もっと磨きをかけろという励ましだと考えるようにします。


 いろいろと思うところはあったのでしょう。司会者が偉そうだ、と言われ、余計なひと言だ、と言われ、自分がキャスターの番組が嫌いな番組にランクインし・・・散々です。それでも、そんな事実をユーモアたっぷりに味付けして私たちに吐露してくれたこと。そして、ニュースの後のコメントを貫いたこと。私が1キャスターの「ファン」になった理由は、このあたりにあります。

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 もちろん、大越さんのコメントが余計なひと言であるわけがありません。この本を読めば、それは自信を持って断言できることです。

ことの本質を突き、心に刺さることばに出合うことは、われわれ人間に許されたこの上なくすばらしい瞬間である。そうしたことばは、究極の状況で絞り出される感情の発露であったり、思いを伝えたいと懸命に紡ぎ出される苦心の結晶だったりする。


 ことばを「紡ぐ」、ことばと「向き合う」。そんな表現が何度も出てきます。本のタイトルにある通り、政治記者、そしてキャスターは「向き合う仕事」なのだと思います。取材対象と、自分と、そして「ことば」と・・・。ことばに対する真摯な態度が伝わってくる1冊でした。

 さて、ニュースウォッチ9のキャスターを3月で降板した大越さん。その理由について、様々な憶測が飛び交いました。中には穏やかでないものもあり、私は「そんなわけはない」と思いつつ内心穏やかではありませんでした。

 しかし、私の心配は杞憂だったようです。大越さんは現在「ニューズウォッチ9」の番組編集長の立場にあるそうです。インタビュー記事がアップされていました。
日刊スポーツ 2015.4.30

 テレビで見かけることがなくなったこと、そしてコラムが終了してしまったこと。いろいろと寂しかったのですが、それはこちらの勝手な都合ですね。現在も立場を変えて活躍されているようで、喜ばしく思います。

 ただ、今日の記事は私の主観が大きく含まれたものです。実際は大越さんに対する批判の声も多くあるわけで、「美談のようにするな」と糾弾されるかもしれません。ここに書いたことが全てではない、ということはフェアにするために書いておきます。

 それでもうやはり、私は大越さんが好きだったみたいです。大越さんが5年間伝え続けた、何と言いましょうか、「血の通ったニュース」が好きでした。今日の最後は、そんな大越さんの言葉で締めくくります。

LogoFactory+(2)_convert_20150522012642.jpg 大越健介さん
 
 その気持ちに応え続けたいと思う。厳しい日々の中に立ちすくむ人たち、それでも一歩を踏み出そうとする人たち。

 くはその人たちに謙虚に向き合い、あるいは静かに寄り添うようにして、紡がれることばを丁寧に拾っていきたい。
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  •   07, 2015 23:59