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  • 珊瑚にかかる雪  -『雪と珊瑚と』 梨木香歩

     14, 2015 23:51

     代表作に「西の魔女が死んだ」がある作家、梨木香歩さんです。私が初めて手に取った作品は、21歳のシングルマザーが惣菜カフェのオープンを目指していく―という素敵なストーリーでした。

    雪と珊瑚と
    雪と珊瑚と
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    梨木 香歩
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    「雪と珊瑚と」タイトルに出てくる「雪」「珊瑚」は人の名前です。珊瑚は主人公で21歳のシングルマザー。珊瑚が一人手で育てる大切な娘が雪です。「雪と珊瑚と」は、のちに珊瑚がオープンさせるカフェの名前にもなります。この名前の付け方のセンスに冒頭から心を鷲掴みにされました。どこかファンタジーのような世界観が幕を開けます―。



    息苦しい世界



     主人公の珊瑚(さんご)は21歳のシングルマザーです。母親に捨てられ、高校を中退。20歳で結婚するも、わずか1年で離婚。娘の雪を抱えて一人、世界に立ち向かわなければいけませんでした。

    自分の人生は、なんだかモグラに似ている、と思っていた。さしたる夢もなく野望もなく、とにかく目の前の土を搔きわけて、なんとか息のできるスペースをつくっていく。それの繰り返し。



     息苦しい人生に窒息しそうになっていた珊瑚。自分の人生に欠けていたものに気付きます。

    もっと大きな、なんというのか「ビジョン」というのか、人生の目標みたいなものが、自分にはない、と、珊瑚はふとした折に思うことがあった。ちゃんとした人生というものが自分の知らないどこかにあって、自分にはそのスタート地点すら見えていないのだという気が漠然としていた。



     そんな彼女が、バイト先で起こったある出来事から、自分のやりたいことを見つけます。「惣菜カフェのオープン」です。もちろん、金銭的にも人脈的にもバックアップの少ない彼女。それは簡単なことではありませんでした。それでも、彼女は人に恵まれていました。ベビーシッターのくららを始め、彼女の周りの多くの人が、優しく、時には厳しく彼女を導きます。

    料理と人生



     シングルマザーの奮闘記ですが、会社で働くのではなく、「惣菜カフェ」を作る、という設定がとても面白いです。よく言えば、とてもファンタジックでおとぎ話的な物語。悪く言えば、現実離れした物語。

     どちらともとれそうですが、私はとても好きでした。たしかに現実でこんなに上手くいくだろうか、という思いはありました。しかし、人との出会い、かかわり、人からの助け。それらの重要さを感じることができます。「人間は一人では生きていけない」というのはその通りだと実感するのです。

     また、料理の描写が素晴らしいです。お店のメニューの名前を考えるところは特に楽しく読めました。メニューの名前がとても具体的で、想像力をそそります。真心こめて作られるお惣菜の数々を想像していると、たまらなく幸せな気持ちになれました。

     ただ料理がおいしそう、というだけではなくて、「料理と人生の結びつき」、そんな描写が良いのです。たとえば、これはパンを焼いている場面。お店に来る人によってパンが変わる、そんなことを、「酵母」に例えています。

    「人ってそれぞれ独特の気配があるでしょう。その気配のなかには、もしかしたら、その人が生活している環境に特有の酵母を、身の回りにつけている、っていうのもあるかもしれません。あれ、なんでこういうパンになっちゃったんんだろう、って考えると、あ、あの人が来てたなあ、と思い出すんです。不思議に合点がいくの。なるほどなるほど、あの人らしいパンになっちゃったなあって」



     手作りの、心がこもった料理が好きということには多くの人が同意されると思います。どうして手作りの料理がよいのでしょう?どこか安心感があり、懐かしさがあり・・・。それは、人がもつ「酵母」の働きなのかもしれません。

     誰のことを思って作るか
     どんな気分で作るのか
     いつ、どこで作るのか

     そんなこと一つ一つで、料理の味が変わってきます。料理を作る人や、食べる人、それぞれの「酵母」がその料理の味を決めている、というのはなるほど素敵な描写です。

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     ファンタジックなお話は、後半に行くにつれそのテーマが深くなっていきます。「人間のルーツに立ち返る」、後半から終盤にかけてははそんな描写が見られます。

    母でも娘でもない、自分が今、ここにいる。



     短い一文ですが、とても力強いですね。仕事に埋もれたり、母親の役割を果たそうとしたり、人間はけっこう「自分を殺して」生きることが多いと思います。気づかぬうちに自分の首を絞めていることがあるかもしれません。

     そんな息苦しさから解放され、「自分」に立ち返れる瞬間。読み手もほっと一安心できる箇所かもしれません。

    まっしろな雪



     娘の雪が何度も出てきます。物語の中ではとても重要な役割を果たしているようでした。

     息苦しく、気ぜわしい世間。そんな中で、小さな子供というのは本当に純真で悪意がなく、愛おしい存在です。

     お店を作るとなると、いろいろ大変です。たくさんお金を借りなければなりませんし、利益を上げていかなければいけません。そういった点でファンタジーから現実に引き戻されるのですが、時々挿入される雪の描写には心が和みます。赤ん坊の名前が「雪」である理由が分かった気がします。雪のようまっしろで、どこまでも愛おしい存在でした。

     21歳であまりにも多くのことを背負ったシングルマザー。厳しい状況の中で、彼女を奮い立たせ、「母」にしたのはこの愛おしい子供の存在なのだろう、と思います。シングルマザーの強さはよく言われますが、その理由を見た気がしました。

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    のために、自分のために。一人の母が見つけた、優しく、温かい人生の過ごし方―。 
     
    初めて読む作家さんでしたが、すごく好きな文章でした。パンの描写などがそうですが、女性特有の繊細な描写が心地よいです。人間のルーツに立ち返っていく後半もとても力強く、背中を押されます。
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    小説, 梨木香歩,



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