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  • 歪愛  -『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』 辻村深月

     20, 2015 22:55

     じっくりと時間をかけて読みました。そうする必要があった本です。心がかき乱される、という表現がもっともしっくりくるでしょうか。評価が分かれそうですが、私の中では今年読んだ中で間違いなく3本の指に入る、そんな作品でした。

    ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (100周年書き下ろし)
    辻村 深月
    講談社
    売り上げランキング: 170,610


     辻村深月さんの本は久しぶりで、すっかりこの感覚を忘れていました。この方は「エグい」のです。ここまで踏み込んだ、鋭い描写ができる作家さんはなかなかいないと思います。今回もそうでした。「この人の描写は神がかっている」、そんな風に思って放心してしまう場面がいくつもありました。そんなわけで、かなり読み終えるまでに時間がかかりました。



    何かにすがるように



     始まりにあるのは3ページのプロローグ。ある娘が、母親を殺した―。そんな衝撃的な事実が示唆されます。しかし、そこには語り尽くすことのできない何か複雑な事情があるようです。一体、何が。そんな余韻から、物語は始まります。

     場面は変わり、第一章です。何の説明もなく始まるので、何が起こっているのかを捉えるには、少し時間がかかります。第一章の主人公は、神宮司みずほという30歳の女性です。ライターとして働く彼女は、結婚し、それなりに幸せな人生を手に入れました。そんな彼女は、ある人を探しているようです。

     探し人の名前は、望月チエミ。のぞみの幼なじみです。彼女はある事件のあと、突然行方をくらましました。彼女の母親が、自宅で刺殺されていたのです。状況から、彼女が犯行に及んだことが濃厚で、チエミは重要参考人として手配されています。

     というわけで、プロローグに出て来た女性はチエミでした。しかし、これは単なる憎しみから来る殺人事件ではありませんでした。未婚のOLで、地元で両親と暮らすチエミ。結婚したのぞみとは対照的な環境です。事件が起きるまで、のぞみはチエミのことを気に留めてはいませんでした。

     そんなのぞみが、事件を知って、何かにすがるようにチエミを追います。
     チエミもまた、何かにすがるように逃げ続けます。

     何が、二人の女性を突き動かすのでしょうか。
     「仲が良い家族」と必ず言われたチエミの家。そこで、なぜ殺人が起きてしまったのでしょうか。

    えぐられる刃



     この本の読後感を上手く伝えてくれるような、そんな箇所がありました。

    「刃物をただ刺すだけじゃ生ぬるい。一番いいのは、突き刺した刃物をそのままぐるって回すことなんだって教えてくれた。そうすると内臓がめちゃくちゃになって、空気が入って、助からなくなる。確実に致命傷になる」



     辻村さんの描写はエグい。自分の心に刃物が刺さり、それだけではとどまらず、ぐりぐりと回されていくようです。読む途中で、何度も放心状態になりました。心の奥底から、えぐりとられる内面という塊。こういった描写をさせたら右に出る作家はいないのではないのでしょうか。

     女、というものを底の底まで見透かし、見つめ、描き切っています。

    誰がリーダーか、相手が何を言えば喜ぶのかを、女なら誰でも本能で読む。「私、~な人だから」という、強い自己主張の言い回し。自分の個性を仲間内人に踏み込ませない、かぶらせない、かぶらせまいとする予防線。私たちは互いを褒め合ってばかりいた。「かわいい」、「かわいい」。



     人と人は、平等ではいられません。かならず格差が生じます。そんな時、格差の「上」の側にいる人間が密かに抱えている、甘え、驕り、安住―。

    「みずほは甘ったるいよ。自爆って言いながら、絶対に悲劇が起こらない場所ばかりを慎重に選んで歩いてる気がする」


     私はこのセリフが一番刺さりました。「もう、やめて」、そう耳をふさぎたくなるくらいに。

     さて、ストーリーに戻りたいと思います。「仲が良い」、誰もがそう言っていた家で起きた殺人事件。しかし、「仲が良い」の裏で顔をのぞかせていた危険の兆候に、みずほや周りの人々は気付いていました。

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     あの家族は、何かおかしい―。そんな憂いは、最悪の悲劇という形を見ることになります。家族の愛は、とても深いものです。しかし、そこには恐ろしい刃が潜んでいます。愛が、強くなって、濃くなって、その先に今回の悲劇がありました。

     愛の裏にある、「歪み」。愛することは、かけがえのないことでしょう。ですが、その裏には、制御できない恐ろしい魔物が棲んでいます。

    どうして、お母さんを殺したの。何故それは私の家ではなく、あなたの家だったのだ。娘に殺されて死んだのは、何故、私の母ではなく、あなたの母なのだ。



     みずほとチエミ。二人の思いが交錯したこの箇所がハイライトでしょうか。

    愛の表と裏



     第二章の語り手はチエミです。どうして母親を殺さなければいけなかったのか。その全てが語られます。第二章の冒頭は、いきなり衝撃的なセリフから始まります。夜中の部屋で、声にならない叫び声をあげました。

     ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。このタイトルの意味が、最後になってようやく明らかになります。このタイトルも、「愛」にかかわるものでした。そういうと、勘の良い方は気付かれるかもしれませんね。私は夢中で読んでいてタイトルのことが頭から飛んでいたので、ようやく意味が分かった時、また声にならない叫び声をあげることになりました。

     愛は人間のかけがえのない感情です。ですが、その「表」だけ見ていてはだめなのだと思います。この作品のように、「裏」を徹底的に見つめなければ、本当の愛にはたどり着けないのだと思います。

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    の親子に、何が―。歪んだ愛が行く先、見せるもの。
     
     おすすめしたいような、したくないような、そんな作品です。読み切るまでに使った体力、という点では間違いなく今年一番でした。心がかき乱されますが、辻村さんのたしかな筆力を改めて感じることのできる一冊です。



    こちらもどうぞ

     辻村さんはこれで3作品目。作品と作品に関連があるそうで、本当は読む順番があるのかもしれませんが、私はランダムに読んでいます。この先もたくさん読みたいです。怖いですが、抜群の力量を持った作家であることは間違いがありません。

    「島はぼくらと」 辻村深月さん
     前回の作品。比較的「キレイ」ですが、この作品にもやはり「エグさ」はあります。

    「ツナグ」 辻村深月さん
     こちらは代表作。ブログを始めたばかりの頃で、文章が下手くそです。この本の魅力を最大限に伝えることができるように、いつか再読して、もう一度書こうかな、と思っているところです。
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    小説, 辻村深月,



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