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  • 物語は、そこから -『いつも彼らはどこかに』 小川洋子

     24, 2015 23:30

     「最果ての図書館」で紹介した本が100冊になりました!記念すべき100冊目は、私の一番好きな作家さんの本に飾っていただきたいと思います。

    いつも彼らはどこかに
    小川 洋子
    新潮社
    売り上げランキング: 68,438


     美しい装丁にまず心が惹かれるこの作品は、おととしに刊行された「動物をテーマにした短編集」です。8作の短編が収録されていますが、いずれも動物が作中に登場します。これまで読んだ小川洋子さんの作品でも、動物は作中において重要な役割を果たしていました。では、そんな動物に注目した時、いったいどんな作品になるのか・・・期待は高まります。



    静かなシンパシー



     動物が中心といっても、動物目線で書かれた小説ではありません。それぞれの作品には、どこか孤独を抱えた人間が登場します。そんな人間が、動物たちに思いを馳せていくのです。

     動物は、目の前にはいません。目の前にいない動物たちに、人間は思いを馳せていきます。作品によっては、看板やミニチュアなど、動物がもはや生物ではないという設定もあります。彼らは何も主張しません。「いつも彼らはどこかに」いるのですが、今、目の前にいるわけではありません。あくまで、「どこかに」いるのです。

     物言わぬ動物と、孤独を抱えた人間の間に流れる、静かなシンパシー。そこから織りなされる物語が、孤独を抱えた彼らを優しく、時に残酷に包み込みます。

     自分の小説の中で、動物が重要な役割を果たしていたことに気付いた、と語る小川さん。今回は、そんな動物に焦点を当てた小説です。

    小説を書き続けてゆく中で、こんなふうに少しずつ動物が持つ意味を自覚するようになりました。今回は、言葉を発しないものの存在が言葉の世界にとっていかに大事かを、意識的に確認してみようと思いました。

     [小川洋子『いつも彼らはどこかに』刊行記念インタビュー](以下同じ)

     余計な言葉は極力排された小川洋子さんの存在感。そんな作品世界の中で、「物言わぬモノ」の存在感が高められていきます。

    最初は何だかわからないけれど、こねているうちにウサギっぽくなったからウサギにしよう、とかカタツムリにしよう、とかそういうのに似ているかもしれません。


     このぼんやりとした感じが好きです。「ぼんやりしているところで書き始めたほうがうまくいく」と語る小川さん。こねているうちにウサギやカタツムリに・・・。この作品の雰囲気をよく表わしている一節でした。

    孤独のバニラ



     突然ですが、アイスクリームの話をさせてください。31種類のアイスクリームが並ぶ、某アイスクリームチェーンがあります。色とりどりのアイスが並ぶ中に、「バニラ」があることに気をとめる方はおられるでしょうか。

     私は、気をとめたことがあります。バニラというのはアイスの王道で、おいしいことも間違いではないでしょう。しかし、色とりどりのアイスが並び、次々に入れ替わる中で、常にそこにある、そこにひっそりとたたずんでいる「バニラ」に何かを感じないでしょうか?寂しさ、孤独、でも、たしかにそこに居続ける芯の強さ、気品―。バニラアイスを見ながら物思いに耽ってしまったことがありました。

     物語は、こんな些細なところから始まります。なんと、今回小川さんの作品の中に「バニラアイス」が登場したのです。「あっ」、思わず小さな声をあげます。

     カシスシャーベットをコーンにのせてもらえば、そのルビー色が多少なりとも心を慰めてくれた。レモンマシュマロの柔らかさは安堵を、アーモンドのカリカリと砕ける音は励ましをもたらした。
     
     ただ一つバニラの日だけは、なぜかわびしさが募った。季節が移り変わろうと、どんな流行が訪れようと、バニラは決して姿を消すことなく、常に二十四種類の一角に場所を確保していた。にもかかわらず、それを注文している人に一度も出会ったことがなかった。他の二十三種が華やかな色を競い合い、ナッツやチョコチップやマーブル模様で身を飾り立てているのに比べ、バニラはあまりにも素っ気なかった。ガラスケースの中でそこだけが取り残され、孤立しているように見えた。


     自分が心の中で思っていたことと小川さんの描写がこんなにも重なったのは初めてでした。バニラアイスを見てしばらく考え込んでしまった時の記憶がありありと蘇ってきます。
     
     ガラスケースの中にあるバニラアイスから、物語が始まるのです。

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     小川さんの書く物語世界がたまらなく好きです。

    余計な空想を付け加える必要もない、ありのままを書けば物語になるような偶然の出会いが必ずある。自分が生きている世界はなんて書くべきものにあふれてるんだろう、と思う瞬間がいちばん幸福を感じます。(インタビューより)


     
     ありふれた日常に吹き込まれる、「物語」の息吹。小川さんの物語に没入し、ふと現実に帰った時に驚きます。「ありふれた日常」など、一体どこにあったのでしょう?一本の鉛筆が、道端の石ころが、空に流れる雲が。自分の生きている世界にこれほどたくさんの物語が溢れていたのか、と驚かされます。小川さんの作品を読んだ後は、しばらく余韻が残って、日常の全てが違って見えてきます。その余韻が消えかかってきたとき、気付けばまた、私は小川さんの本に手を伸ばしています。

    何かとのつながり



     作中に出てくる人間と動物。人間は、どこかにいる動物を想います。どんな動物が出てくるのか、本の説明から引用してみます。

     ディープインパクトの凱旋門賞への旅に帯同することになる一頭の馬
     森の彼方此方に不思議な気配を残すビーバー
     村のシンボルの兎
     美しいティアーズラインを持つチーター
     万華鏡のように発色する蝸牛……。

     これらの動物と人間との間で交わされる、言葉のない会話、静かなシンパシー、孤独を包み込む余韻・・・そういったものを味わっていきます。私のレビューはあまりにも抽象的で、読みながら「?」を渦巻かせている人もいるかもしれません。でも、小川さんの作品に説明的な余計な言葉を与えてはいけないと思うのです。

    言葉では成立しない何かによって、世の中のいろいろなものと実はつながっていると、ふときづく瞬間があって、そこに含まれているのは喜びなんですね。たとえほかの人とは共有できなくても、喜びと名付けていい瞬間なのではないでしょうか。(インタビューより)



     「言葉では成立しえない何かによるつながり」、これぐらいの説明でいいと思うのです。今日からまたしばらく、余韻に浸る日々が続きそうです。

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    物と人間、孤独をそっと包み込む「つながり」-。

     一番好きな作家を聞かれた時は小川洋子さんと答えます。でも、理由を聞かれた時に説明するのがすごく難しいんです。その結果、きょとんとされてしまい・・・。もっとうまく語れるようになりたいものです。そして、もっとうまくレビューを書けるようになりたいものです。



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    •   24, 2015 23:30
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