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それぞれの生き様 -『忘れられた日本人』 宮本常一

 25, 2015 21:47

 さて、今日はブックレビューをお届けします。前々回のレビュー、#4 「密やかなライフヒストリー」では小川洋子さんの「人質の朗読会」を取り上げ、ライフヒストリーについて考えてみました。そして前回のレビュー、#5 「命、みなぎる」では三浦しをんさん「神去なあなあ日常」で日本の村社会をのぞいてみました。レビューを書いていて気付いたのですが、この「ライフヒストリー」と「日本の村社会」という2つのキーワードを両方とも満たす作品があるんですね。それが、今日お届けする宮本常一「忘れられた日本人」という本です。早速見ていきましょう。以下、「忘れられた日本人」のレビューです。

忘れられた日本人 (岩波文庫)
宮本 常一
岩波書店
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宮本常一の見た日本



 宮本常一さん(1907~1981)は日本の民俗学者です。民俗学者としては、柳田国男さんに次いで有名な方かと思います。柳田さんに影響を受けて民俗学の道に進んだ宮本さんは、その研究人生の大半を日本の村へのフィールドワーク(現地に出かけ、調査すること)に費やしました。そんな彼の代表作であり、集大成ともいえるのがこの「忘れられた日本人」です。

 日本の村社会というと、現代では否定的なコンテクストの中で使われることが多いかと思います。閉鎖的で排他的という特徴を持つものとして論じられ、「村八分」などの慣習が現代社会にも残る日本人の悪習として批判されることも多いです。閉鎖的で排他的な村社会は、宮本さんの綿密な描写によってこの本でも語られています。しかし、それは一概に否定すべきものなのでしょうか・・・?


見事な「連帯」



 たった5ページしかないのですが、「子供をさがす」 という短篇があります。ある村で子供が行方不明になり、村人総出でその子供を探すという話です。この話から見えてくる村の特徴は3つあります。

「村の人たちが、子どもの家の事情やその暮し方をすっかり知り尽くしている」様



「だれに命令せられると言うことでなしに、ひとりひとりの行動におのずから統一ができている」様



村の者とよそ者の温度差



 子供がいなくなったという一大事に、村の人たちが驚くべきチームワークを発揮するんですね。いつも酒におぼれている男が、真っ先に山奥に子供を探しに行くなど、村の人々の連帯の強さには目を見張るものがあります。そして、もっとも驚くべきは、それが誰の命令ということでもなく自然に連帯しているということ。村全体で、一つの家族といったら分かりやすいでしょうか。いや、当時の村の連帯は、今の家族よりもはるかに強かったと感じさせるのです。

 その一方で、よそ者とは温度差があります。村の人たちが必死に子供を探す間、よそ者たちは噂話に夢中になっていました。ここに、村の人々との絶対的な壁を感じさせます。揺るぎない連帯が、排他へ。排他が、さらなる連帯へ。築き上げられた連帯が、閉鎖的空間へ。日本の村社会の構造がよく分かります。

その歴史に、意味はあるのか



 村の中には、生まれてから一度も村を出たことがなく、おそらくそのまま村で生涯を終える人もいます。宮本さんは、そんな人にも目を向け、話を聞きました。そして、「一言も逃さない」とばかりにその人のライフヒストリーを丁寧な記述で描いていくのです。

 村から一度も出ないで生涯を終える人の歴史に、意味はあるでしょうか。歴史を大局的に見れば、全くないと言ってよいと思います。村人以外でその人を知る人は誰もいないのですから。宮本さんが取り上げなければ、その人は誰にも知られることなく亡くなっていったでしょう。

 ・・・。今、重要なことを書きました。宮本さんが取り上げなければ、その人は誰にも知られることなく亡くなっていった、と。そうなんです。ここにこの作品の価値があると思います。誰にも知られるはずがなかった歴史を自らの人生をかけて描き続けた宮本さん。その積み重ねが、「日本人」の姿を形作っていきます。

 でも、そんな人の歴史には何の意味もないじゃん。そんな風に思う人もいるかもしれません。ですが、こんな記述があります。宮本さんが祖父について書いた部分です。

「納得のいかぬことをしてはならぬ」というのが祖父の信条で、蚕をこうて金をもうけることは大切だが、そのために、米麦をつくる場所をせまくすることには賛成できなかった。だから自分は古いことをまもったが人には強いたわけではない。自分だけは自分の納得できる生き方を生涯通したかったのである。



 人々の歴史を追い続けた理由は、ここにあるのかと思いました。それぞれの人が、自分の信念を持って生きている。例え歴史に何の影響も及ぼさなかったとしても。宮本さんを駆り立てたのは、一人一人が持つ「生き様」だったのだと思います。

◆殿堂入り決定!

 「最果ての図書館」は『忘れられた日本人』を「プラチナ」に認定しました。おめでとうございます!

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宮本常一, 岩波文庫,



  •   25, 2015 21:47