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  • 乗り越えるべきもの -『本屋さんのダイアナ』 柚木麻子

     02, 2015 23:50

     「親友になろう」「もう、絶交だから」。小学生の時、毎日のようにそんなことを言っていました。「親友」「絶交」その言葉の意味をよく考えもせずに。そこにあったのは、「好きか嫌いか」という単純な感情です。

    本屋さんのダイアナ
    本屋さんのダイアナ
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    柚木 麻子
    新潮社
    売り上げランキング: 23,651


     今年発表された本屋大賞2015では第4位にランクインしました、柚木麻子さんの「本屋さんのダイアナ」という作品です。2人の少女が主人公の、ダブルヒロイン小説になっています。何もかもが違う2人。自分と違うものを持った相手が大好きで、うらやましくて、でも時にはうらめしくて・・・。作品では10年以上の時間が流れます。波乱万丈の人生を乗り越えて、2人が本当の「親友」になるまでの物語―。



    正反対のふたり



     ダブルヒロインは、何もかもが正反対です。正反対なのですが、共通点があります。「自分に対するコンプレックス」、そして「相手へのうらやましさ」です。正反対だからこそ、自分が持っていないものを持っている相手がうらやましくて仕方ないのです。

     まずは、矢島ダイアナ。ダイアナなんて、素敵な名前!と思われたでしょうか。実はこの名前、漢字で書くと「大穴」となります。競馬が大好きな彼女のお父さんが、世界一ラッキーな女の子になれるようにとこの名前を付けたのです。「矢島大穴」・・・。素敵な名前・・・ではありませんよね。最近何かと話題になる、キラキラネームです。

     ダイアナは、いつもこの名前で馬鹿にされ、苦しんできました。父は行方不明で、母親が彼女を育てました。「なめられないように」、そんな理由でお母さんは彼女の髪を金髪に染めてしまいます。キラキラネーム、そして金髪。いわゆる「ヤンキー」と言われてしまいそうな子供です。もしクラスにいたら、私だったら避けてしまうかもしれません。

     もう一人は神崎彩子(かんざき・あやこ)。この子はダイアナと正反対。名前は普通ですし、両親のまっとうな愛情を受けて育ってきました。学校では「優等生」「いい子」タイプです。どうしてこんな正反対の二人が一緒になったのでしょう。

    「えっ、ダイアナっていう名前、嫌なの?可愛いのに」
    「可愛くなんてないよ。だーいっきらい」

    「15歳になったら名前って自由に変えられるんだって。そうしたら私、普通の名前に変えるの。それと、お父さんを探しに行くんだ。こんな名前にしたことの文句を言ってやるの」



     「特殊」なダイアナは、「普通」の彩子がうらやましいのです。一方「普通」の彩子は「特殊」のダイアナがうらやましいのです。自分と違ったものを持った女の子―2人はたちまち惹かれあいます。そんな2人をつないだのは、「秘密の森のダイアナ」という1冊の児童書でした。本が大好きなダイアナと、お父さんが本の編集者をしている彩子。1冊の児童書を通して、2人は仲を深めていきます。

     そんな2人に別れの時がやってきました。小学校卒業です。「普通」と「特殊」は同じ道には進めないのです。彩子は受験した私立の中学校へ、そしてダイアナは公立の中学校へ。2人は別の道を進みます。

     ここまでで物語は3分の1。しかし、この小説がすごいのはここからです。

    呪いとの闘い



     ここまで読んで、心が温かくなる、ほっこりしたお話を想像した方がいるかもしれません。しかし、2人が別々の道を歩むようになってから、物語は急展開を見せます。「波乱万丈」という言葉がぴったりな、山あり谷ありの人生です。ラストで2人が10年ぶりに再会するまで、嵐のような日々が続きます。どれだけ波乱万丈か、ちょっとのぞいてみましょう。

    「十六で子供産んだ、あんたに言われたくねえよ!」

    「てめ、ふざけんな!親に向かってあんたとか、なめんのもいい加減にしろよ!」

    「てめえのせいで、あたしの人生がどんだけめちゃくちゃになったか考えたことあんのかよ!変な名前つけやがって!この名前のせいで、どんだけ笑われてるか、あんた、考えたことあんのかよ!」



     これはダイアナとお母さんの会話です。お話の荒れ模様は十分感じていただけるでしょう。一方、これまで「いい子」に収まっていた彩子も、大学進学と共に荒れた人生を過ごすことになります。2人の人生はもう滅茶苦茶です。どうしてこんなことになってしまったのでしょう?

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     2人はグレたくてグレたわけではありません。懸命に、自分を変えようとしたのです。ダイアナは、なんとか「普通」になろうとした、一方の彩子は、なんとか「普通」から脱出しようとした。でもそれは、とても難しいことでした。ダイアナが普通になろうとしても、やはりキラキラネームが邪魔をします。一方の彩子は、無理に普通から外れようとして、大学である泥沼にはまり込んでしまいます。

     「呪い」という言葉が何度も出てきます。ダイアナにとっては「キラキラネーム」が、そして彩子にとっては「いい子」のレッテルが、それぞれにとっての「呪い」でした。自分を変えようとしても、その呪いが邪魔をするのです。長い長い10年は、呪いとの闘いの10年でした。

    あんなにいい本をたくさん読んできたのに、何一つ血肉にすることができなかったなんて認めたくない。まだ18才だけれど、ダイアナはすでに自分が人生に失敗したのだと実感する。物語の世界の女の子たちに勇気と知恵をもらって生きてきたはずなのに、今、ここにしゃがみ込んでいるのは、文化から一番遠いところにいいる獣じみた小娘だった。



     あんなに大好きだった本に、今は目を向けることができません。あんなに大好きで、あんなにうらやましかった友達が、今はうらめしいのです。

    たどりつくラストは



     2人にとって大切な本、「秘密の森のダイアナ」は要所要所で作品に出てきます。この本の作者は「はっとりけいいち」という人でした。実はこのはっとりさん、正体は・・・。意外な展開を見せます。これまでのあらすじを注意深く読めば、勘のいい方は気付かれるかもしれません。

     自分を何とか変えたい。そんな思いで、嵐のような10年を必死に過ごした2人。ラストで10年ぶりの再会を果たします。こみあげてくる思い。10年間の苦しみ。再び会えた喜び。さまざまな感情があふれ出します。

     今日はあらすじをたっぷり目に書きました。1つの作品に、10年以上の時間が流れます。いろいろな事が起こるので、もっと長く感じるかもしれません。その激しいストーリーと時間の流れを、少しでも感じていただきたかったからです。

     ラストまで読むと、気付くのではないでしょうか。自分を変えたい、必死にそう思っていた2人に、自分を変える力をくれたのはほかでもない、「親友」の存在だったことに。

     そして、2人が本当の親友になったことに―。

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    くのことを乗り越えて、その先には大好きな「親友」がいた―。
     
     小学校のころ、特に考えもせずに「親友」を連発していた、と冒頭で書きました。たしかに親友の意味なんて考えていなかったでしょう。でも、将来本当の親友になれたのは、やっぱりそこにいたあの子ではないかと思うのです。
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    小説, 柚木麻子,



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