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初めての「倍返し」 -『オレたちバブル入行組』 池井戸潤

 12, 2015 22:48

 視聴率40%以上をたたき出したお化けドラマ、「半沢直樹」の原作シリーズ第1弾がこの本です。ドラマ・小説合わせて、「半沢直樹」シリーズは初体験でした。お化けドラマ、お化けシリーズらしく、いろいろなことが私の想像以上でした。

オレたちバブル入行組
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 ↑今でもよく売れているのですね。それも納得で、一言でいえば「爆発力」を感じさせる作品でした。池井戸潤さんの作品は5冊目になるのですが、池井戸さんの作品の特徴をもっともわかりやすく、最大限に取り入れている作品だと思います。



単純明快な快感



 主人公と悪役の対立構図がここまで鮮明に描かれた小説はなかなかないと思います。池井戸さんの作品に出てくる悪役というのは、同情の余地もないような極悪人であることが多いです。その悪人を「成敗する」という時代劇的な面白さがあります。

 悪役がわかりやすいことに加えて、このシリーズは主人公にもわかりやすさがあります。ご存じ、「やられたらやり返す」の精神です。これは読んでいて大変気持ちいいと思います。悪人たちを徹底的に叩きのめす、その単純明快なプロットが読者の快感になります。

 実際の社会ではなかなかこのようなことはできない、といった感想をよく聞きます。だからこそ、この作品にのめりこんだ人が多いのだと思います。頭の中で嫌な上司の顔を思い浮かべながら読んだ人もいるのでしょうか。「溜飲を下げる」ということばがぴったりくる話です。

 時代の風雲児となった「半沢直樹」。私は正義感に目を光らせるような人物を想像していたのですが、読んでみるとそうではありませんでした。彼を動かすのは正義感というよりも「やられたらやり返す」精神であり、相手を徹底的にいたぶり、追い詰めていく「毒気」を持った人物でもありました。この人を演じる役者さんにはまさしく「怪演」が求められたと思います。そう考えると、半沢役の堺雅人さんはまさにこの人あり!のナイスキャスティングだったんですね。

銀行をエンタメに



 池井戸さんは銀行を舞台にした小説を多く書かれています。銀行というのは、お世辞にも魅力的な舞台とは言えないと思います。池井戸さんの小説に出会う前は、地味で、堅苦しくて、難しい、そんなイメージしかありませんでした。読書は好きですが、「銀行を舞台にした小説」と聞いてもなかなか食指は動きません。

 そんな銀行を、エンタメ小説の舞台へと華麗に変貌させたのが池井戸さんです。

カネとは、裕福な者に貸し、貧乏な者には貸さないのが原則。そういうものである。それこそが銀行融資の根幹だ。


 こんな風に言われたら、それまでの堅苦しい銀行の姿はどこかへ消え去るでしょう。カネがあるかないか、返せるか返せないか、そして銀行内部では地位が高いか低いか。構図が単純で、誰でも飲み込めるようになっています。銀行内部の難しい用語を池井戸さんが読者に向けてわかりやすくほぐしている箇所がいくつもありました。

 設定が複雑な小説では、その複雑な設定だけで萎えてしまうことがあります。登場人物が多すぎて覚えきれなかったり、人間関係が複雑で理解できなかったり、そんなことはありませんか?池井戸さんの小説に関してはそんな悩みは不要で、ストーリーをサクサクと楽しむことができます。この単純さは、エンターテイメントの最大の武器なのかもしれませんね。

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 銀行という難しそうなテーマをときほぐしたうえで、話の筋も単純明快です。支店長に失敗の責任をなすりつけられそうになった課長の半沢が、汚名をすすぐべく債権の回収にのりだす、これだけです。そして、半沢が必死に奔走している中で、責任をなすりつけていた支店長が不正を犯していたことがわかりました。こうなればもう立場は逆転、半沢の地獄のような逆襲が始まります。

 最初は、半沢は、今放送されているドラマ「花咲舞が黙ってない」の主人公のように、間違っていることは間違っているとはっきり言うタイプの主人公だと思っていました。ところがそうではなく、半沢の信条はとにかく「やり返す」こと。口調を変えて相手に詰め寄るシーンなどはヤクザ顔負けです。

「東田は金を隠しているだろう。どこにある。どこの銀行の、どこの支店だ。知ってるのなら、いま吐け、波野。こうして穏便に話ができるのはいまだけだぞ。返事次第では、臭い飯をくってもらうからな。手が後ろに回ってもいいのか」


 とにかく容赦がなくて、ここには書き辛いセリフもたくさん出てきます。普通だったら「さすがにやりすぎでは」と思っても仕方ないのですが、先程も書いたようにこの作品は悪役に同情の余地がないので、「もっとやれ、もっとやれ」と読者は前のめりになっていきます。実際は半沢のやっていることもかなり危険なのですが・・・。

 悪役を徹底的に描き、読者の憎しみを駆り立てるのはさすが池井戸さん。最後に悪役を成敗し、読者をスカッとさせるところまでが一連の芸当です。

どれだけ自分を責めようと、強がってみせようと、もう過去を変えることはできない。プライドも自尊心もかなぐり捨て、浅野がいま考えているのはただ1つ―保身だった。


 悪役が追いつめられる場面です。読者は、ここで絶望するでしょう。彼を邪魔していたプライドや自尊心が剥がれ落ちて、さあ何が残るのか、となった時に残ったのは「保身」だったのです。池井戸作品の悪役は最後まで反省や更生をすることがない場合が多いです。最後に追い詰められてもなお、自分の保身しか考えていないこともしばしばです。

 そこまで救いようのない人間に描かれているので、悪役側に同情して読むことはできないと思います。少しやり方が手荒ですが、半沢のような人物に叩きのめされるのが一番いいように思います。

刑法第222条・脅迫  生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。


 でも気を付けてね、半沢さん。臭い飯を食うのが、ご自身になりませんように・・・。

ドラマの爆発力



 ドラマがあれほど爆発的にヒットした理由がわかったような気がします。私は日曜の夜にとてもテレビなどつける気にはなれず、このドラマにも縁がなかったのですが、日曜の夜にこのドラマというのもなかなかよいセンスだと思います。明日からまた始まる仕事、嫌な上司、嫌な客・・・いろいろなことを乗り移らせてこのドラマにはまった人が多かったのではないでしょうか。

 次の日太陽が昇れば何も変わらずにヘコヘコするしかないというのが、どうにも悲しいですが・・・。

 現実ではこんなことはできない、だからこそ小説に託してみるのもよいと思います。現代人の不満がパワーとなってここまで注目されるようになったこのシリーズ。私も次回作以降を追ってみたいと思います。

 ところで、全部で4作品あるこのシリーズは3作目からイメージが全く別の作品のようになっています。シリーズの名前もドラマ化を機に変更されたようで、なかなか珍しいパターンです。

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代人が溜飲を下げる、単純明快な銀行エンタメ小説!

 あれほどヒットしたドラマの原作小説とあって、やはりパワーを感じさせます。 時代に求められたヒーロー、半沢直樹。今後のますますの活躍に期待しましょう。



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  •   12, 2015 22:48