HOME > スポンサー広告 > title - 教科書への旅 #11 「海の命」 立松和平HOME > 教科書への旅 > title - 教科書への旅 #11 「海の命」 立松和平

スポンサーサイト

 --, -- --:--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。





  •   --, -- --:--
  • 教科書への旅 #11 「海の命」 立松和平

     18, 2015 23:57

     このコーナーでこれまで紹介した「ごんぎつね」(小学4年生)と「大造じいさんとガン」(小学5年生)、そして今日紹介するこの作品には共通点があります。それは、「動物と命」をテーマにしている、という点です。

    海の命1

     立松和平「海の命」(小学6年生)です。これは、小学校で最後に読む小説、というとても大事な位置づけにある作品です。6年間学習してきたことを生かして読んでほしい、と教科書にも書いてありました。「動物と命」、というテーマでみても、これまで学んできたことがすべて集約されるような、集大成の作品になっています。



    あらすじ



     太一(たいち)の父はもぐり漁師でした。だれにももぐれない瀬にもぐっては、岩かげにひそむクエをついていました。父も、そのまた父ももぐりつづけた海。太一は子どものころからこう言っていました。

     「ぼくは漁師になる。おとうといっしょに海に出るんだ」

     しかし、別れは突然にやってきたのです。父が漁の途中で海で命を落としたのです。父が挑み、敗れ去った魚は、光る緑色の目をしたクエでした。それはまるで、岩のような魚でした。

     中学校を卒業する年の夏、太一は村の漁師である与吉じいさに弟子入りをします。最初はなかなかつり糸をにぎらせてもらえません。太一がするのは上がってきた魚からつり針を外す仕事ばかりです。そんな中でも、太一は与吉じいさのそばで確実に成長していきます。

     ある真夏の日、太一は与吉じいさの家に行きます。暑い日なのに、じいさはのどまで毛布をかけてねむっていました。太一は全てを悟るのです。

     「海に帰りましたか。与吉じいさ、心から感謝しております。おかげさまでぼくも海で生きられます」

     その時、太一は村で一番の漁師になっていました。背中もすっかりたくましくなり、母の悲しみを背負うまでになっていました。そして、太一は向かいます。父が命を落とした瀬に、そして、父がやぶれたクエが待つ海へ―。

    この作品のポイント



     「ごんぎつね」「大造じいさんとガン」、そして「海の命」。これらにはすべて、人間と動物が出てきます。そして、人間は動物の命を奪います。最後にごんを撃った兵十、狩人としてがんを仕留めている大造じいさん、そしてこの作品に出てくる漁師は、「海の命」をとることで生活しているのです。

     しかし、命をとるといっても、その描き方が全く違います。「ごんぎつね」のテーマは、「すれちがい」でした。動物の気持ちが分からないまま、命を奪ってしまったのです。奪ってしまったあとにその気持ちに気付くというのが、胸が締め付けられるような幕切れでした。

     「大造じいさんとガン」では、じいさんと残雪が心を通わせます。「心の通い合わせ」というのは、ごんぎつねと対照的なテーマです。大造じいさんは、残雪を殺しませんでした。殺す前に、心を通い合わせた瞬間があったからです。

     この作品で出てくる命は、もっとスケールの大きなものです。そして、また出てきます。人間が動物を殺そうとする場面です。最後、太一はクエにもりを向けるのです。国語の教科書で、3年連続で同じようなシーンが出てくるのです。

     兵十は、殺してしまいました。大造じいさんは、殺す前に心を通わせました。では、太一は―。

    a0027_002025.jpg


    再読!『海の命』



     命の循環、ということを強く思わせる作品です。それは、人間の命であり、海で暮らす生き物の命でもあります。

    父もその父も、その先ずっと顔も知らない父親たちが住んでいた海に、太一もまた住んでいた。季節や時間の流れとともに変わるどんな表情でも、太一は好きだった。



     冒頭文は、はるか昔から受け継がれた来た人間の命を想わせるものになっています。そして、人間と共に海があったこともまた想わせるものです。

    「千びきに一ぴきでいいんだ。千びきいるうちの一ぴきをつれば、ずっとこの海で生きていけるよ」


     漁師は、常に海と共に生きてきました。命をむやみに奪ってはいけない、ということを理解しているのです。与吉じいさのこのセリフはそれをもっとも端的にあらわしている部分だと思います。このことが分かっていたから、人間は海と共に生きてこれました。そして、死ぬと海に帰っていく―。そうやって、命は繰り返していったのです。

    海の命2

     物語の終盤、すっかり成長した太一は、父が死んだ海で、父が敗れ去ったクエと対峙します。父の命を奪った魚が、目の前にいるのです。

    興奮していながら、太一は冷静だった。これが自分の追い求めてきたまぼろしの魚、村一番のもぐり漁師だった父を破った瀬の主なのかもしれない。



     クエは静かに太一を見つめます。太一はこれまでたくさんの魚を殺してきました。そんな太一が、「この魚は自分に殺されたがっているのではないか」と感じるのです。単に父の命を奪った憎き相手、という描かれ方ではありません。海の命を全て背負ったような、圧倒的な存在感がクエにはありました。

    これまで数限りなく魚を殺してきたのだが、こんな感情になったのは初めてだ。
    この魚をとらなければ、本当の一人前の漁師にはなれないのだと、太一は泣きそうになりながら思う。



     結論を言うと、太一はクエを殺しません。クエに、父の姿を重ねたのです。

    水の中で太一はふっとほほえみ、口から銀のあぶくを出した。もりの刃先を足の方にどけ、クエに向かってもう一度えがおを作った。
    「おとう、ここにおられたのですか。また会いに来ますから。」

    こう思うことによって、太一は瀬の主を殺さないで済んだのだ。大魚はこの海の命だと思えた。



     この魚をとらなければ一人前の漁師になれない、そう思いながらも太一はクエをとりませんでした。彼は一人前の漁師になれなっかったのでしょうか?いや、この部分を読んだ人は必ず思うはずです。これは、太一が真に一人前の漁師になった瞬間である、と。

     クエにえがおを作った、という描写が心が震えます。彼は、クエに亡き父を重ねました。えがおを「作った」と言っているのですから、ここには太一の強い決意と悟りがあります。父の命を奪った魚に父を重ねようとしているのですから、乗り越えなければいけないものはたくさんあったのでしょう。それを乗り越えた、そう感じる読み手は、太一が一人前の漁師になったと感じます。

     目の前の命を殺さなかった、心を通い合わせたという点では「大造じいさんとガン」と同じ結末です。しかし、5年生と6年生で同じことを繰り返す、というのは考えにくいでしょう。この作品にはもっとスケールの大きなものがあります。

     そのスケールの大きさは、クエが海の命を象徴している、という点にあります。目の前にいる命は、単なる一つの命ではなく、海全体の命だったのです。それは、本文にも書いてある通りです。

     人間の命は受け継がれていきます。海にも命があり、受け継がれていきます。その過程に、「命を奪うこと」があるというのを忘れてはいけません。人間は海の命を奪いますし、海の中でも、強いものが弱いものの命を奪いながら命は受け継がれていきます。

     そのような命の流れ、命の脈を感じるには、どうすればよいのでしょうか。私は、「命を想い続ける」ことだと思っています。亡くなった瞬間にそこで命がプツッと途切れるのではなく、命は必ずどこかへ受け継がれている、そう思うことです。

     私たちはお墓に手を合わせます。目の前にただの石があるのでははなく、そこには「命」があると思うからです。この作品の太一のように、あるものの命を他のものの命に重ねることもあります。

     死んだ瞬間に命が途切れるのか、それとも命は受け継がれるのか。私は特定の宗教を信仰しているわけではないので、どちらか正しいのかここで語るつもりはありません。ここで啓蒙活動を行うつもりもありません。ただ、一つだけ言えることはあります。命が受け継がれている、と思うことで命の尊さを感じ、他者と心を通い合わせることができるなら、それはかけがえのないことだと思います。



    教科書



     「海の命」、いかがでしたか?この作品が小学校の最後をかざる小説だ、ということの意味をかみしめていただきたいです。3年間続けて同じようなテーマが採用されています。このテーマにどれほどの思いが込められているか、よく伝わってきますね。

    教科書への旅 一覧ページ


     小学校6年生の作品だと、これまでには重松清さんの『カレーライス』と宮沢賢治の『やまなし』を紹介しました。どちらも名作ですね。

    「ごんぎつね」 新美南吉
     動物と命シリーズ、第1弾。小学校4年生の作品です。

    「大造じいさんとガン」 椋鳩十
     こちらは第2弾。小学校5年生の作品です。
    スポンサーサイト

    立松和平, 教科書,



    •   18, 2015 23:57
  • 上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。