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教科書への旅 #13 「白いぼうし」あまんきみこさん

 08, 2015 01:21

 前回の「ちいちゃんのかげおくり」に引き続いて、あまんきみこさんの作品を紹介したいと思います。この作品は、この時期になると無性に読み返したくなる作品です。作品から漂ってくる、夏みかんの香りが本当に心地よいのです。

白いぼうし1

 「白いぼうし」(小学4年生)です。教科書にも書かれているのですが、「色やにおい」にかかわる表現がたくさん出てきて、読んでいて本当に気持ちがいい作品です。あまんきみこさんの透明でみずみずしい文章が素晴らしいですね。そんなあまんきみこさん、実は「強く影響を受けている作家」がいるそうで・・・。



夏みかんの香り



教科書

「これは、レモンのにおいですか」
ほりばたで乗せたお客のしんしが、話しかけました。

「いいえ、夏みかんですよ」



 こんな書き出しで、この物語は始まります。作品を読んだことのある方はご存知かと思いますが、前半部分に出てくる「夏みかん」は本当にその表現が豊かで、口の中に夏みかんの酸っぱさが広がるような感覚を味わうことができます。

 夏になると、いつもこの「夏みかん」のにおいをかぎたくなって、この作品を読み返したくなります。私は、タイトルの「白いぼうし」を聞いただけで口の中に唾液が広がるようになりました。パブロフの犬もビックリです。

 夏みかんに関する描写がどれほどみずみずしいか、少し見ていこうと思います。

「ほう、夏みかんてのは、こんなににおうものですか」

もぎたてなのです。きのう、いなかのおふくろが、速達で送ってくれました。においまでわたしにとどけたかったのでしょう。
「ほう、ほう。」
「あまりうれしかったので、一番大きいのを、この車にのせてきたんですよ。」



 こんなににおう、もぎたて、一番大きいの・・・これらの表現が、夏みかんのにおいを本の向こう側まで運んでくるようです。そして、極め付けはこの表現です。ほのかに香っていた匂いが、あたり一面に広がるようです。

運転席から取り出したのは、あの夏みかんです。まるで、あたたかい日の光をそのままそめつけたような、見事な色でした。すっぱい、いいにおいが、風で辺りに広がりました。

 

白いぼうし2

 感覚を刺激する素晴らしい表現・・・このブログで、似たような表現を何度も紹介してきたような気がしますね。実は、あまんきみこさんが大好きな作家は宮沢賢治だそうです。子どものころから読んできて、かなり影響を受けていると言います。なるほど納得です。「桃の汁のような日の光」という表現を生み出したような宮沢賢治と、似たものを感じます。

みかんのイメージを生かして


 主人公はタクシー運転手の松井さん。彼は、タクシーのアクセルを踏もうとした直前、緑がゆれているやなぎの下で「白いぼうし」を見つけます。このままだと、ぼうしが車にひかれてしまう。そう思った松井さんはぼうしをつまみ上げたのですが、その時ぼうしの中からもんしろちょうが飛び出してきたのです。

 実は、置かれていた白いぼうしは、もんしろちょうを捕まえておくためにそこに置かれていたものでした。松井さんは獲物を逃がしてしまったわけです。

「せっかくのえものがいなくなっていたら、この子は、どんなにがっかりするだろう」

ちょっとの間、かたをすぼめてつっ立っていた松井さんは、何を思いついたのか、急いで車に戻りました。



 ここで、冒頭の夏みかんが出てきます。松井さんは、おわびの気持ちをこめて、ぼうしの中に逃げたちょうの代わりに夏みかんをそっと入れておきます。

 言うまでもなく、ここで出てくる夏みかんはもはや単なる夏みかんではありません。作品の前半部分で、夏みかんに対するイメージが膨らまされ、読者は本物の香りを感じているような気持ちになっていると思います。「あたたかい日の光」をたっぷり浴びた夏みかん。そのイメージが、ぼうしの下に夏みかんを入れた松井さんの行動の「あたたかさ」を印象付けています。

 この作品は、本当に言葉の使い方、感覚の捉え方が素晴らしくてほれぼれとします。夏みかんが代表例ですが、細かい表現1つ1つをとっても、その優しくあたたかいイメージが作品を包み込んでいることが分かります。

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 にこにこ、ちょこん、ひらひら、みるみる、そうっと・・・

 いくつか表現を抜き出してみたのですが、これらの表現が作品に散りばめられることによって、優しくあたたかい1つの作品の世界が作り上げられます。この作品の心地よさは、夏みかんだけでなく、じつは作品全体にありました。

白いちょうと女の子


 松井さんは、ちょうを逃がしてしまったあと、タクシーに戻ります。そこにはおかっぱの女の子が座っていました。「早くいってちょうだい」という女の子。松井さんはあわててアクセルを踏みました。

 ところが、しばらく走ったところで松井さんはバックミラーに誰も写っていないことに気付きます。作品の前半で、「やなぎの木」という場所がやたらと強調されているのですが、ここで謎が解けます。やなぎの木、といえば、うらめしや~の場所ですからね。

 乗せたはずの女の子がいなくなっていることに首をかしげる松井さん。そんな松井さんが、ふとまどの外を見ると・・・

白いぼうし3

 そこは、白いちょうが飛び交う野原でした。クローバーの青と、たんぽぽの黄色が混ざったきれいな野原。そして白いちょう。色とりどりの風景に視覚が刺激されるこの場面も大好きです。

 そして、女の子の正体にも気が付きます。女の子は、ぼうしから逃げたもんしろちょう。松井さんのタクシーに乗って、自分の故郷に帰ってきたのでしょうか。とてもきれいな終わり方ですね。心地よさを感じたところで、作品はこう締めくくってくれます。

車の中には、まだかすかに、夏みかんのにおいが残っています。



 こんなに気持ちの良い作品はなかなかありません。感覚を刺激してくれる、素敵な表現の数々。来年の夏も、また読みたくなりそうです。



オワリ

 「教科書への旅」、3回連続で夏のスペシャルを開催中です。美しい表現で、少し幻想的でもあるあまんきみこさんの物語を2つ続けて紹介しました。1つ1つの表現から作られる、物語の世界を味わっています。3回目の次回もこの流れにのって、物語が描く素敵な世界観をテーマに作品を選ぶつもりです。



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 これで13作品になりました。だいぶ増えてきましたね。他の作品にもぜひふれていただきたいです。

「ちいちゃんのかげおくり」あまんきみこさん
 思いのこもったコメントをいただいております。私も思いをこめて記事を書きました。「白いぼうし」は夏になると読み返したくなる、と書きましたが、こちらも別の意味で、「夏になると読み返したくなる」作品です。

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あまんきみこ, 教科書,



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