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教科書への旅 #14 「初雪のふる日」 安房直子

 09, 2015 10:46
教科書


 この作品は、私が小学校を卒業した後に教科書に採用されています。読んだことのなかった作品をこのコーナーで取り上げるのは初めてです。教科書は妹のものを借りました。

初雪のふる日2

 安房直子さんの「初雪のふる日」(小学4年生)です。実は、前回紹介したあまんきみこさんの「白いぼうし」は4年生の最初に出てくる作品で、この「初雪のふる日」は4年生の最後に読む作品です。小学4年生は素敵な作品で始まり、素敵な作品で終わりますね。今日は寺門孝之さんの素敵な挿絵もたっぷりに紹介します。



読後感の正体は?





 教科書は単元ごとにさまざまなテーマがあって、そのテーマの意図するところで作品が選ばれています。この単元のテーマは、「作品のひみつをさぐろう」。こんなことが書いてあります。

読後感が生まれるひみつは、物語のさまざまなところにかくれています。

心に残った場面を読み返してみたり、作品の中に多く出てくる言葉や表現をたしかめたりしてみましょう。使われている言葉どうしがひびき合ったり、、言葉とあなたの経験がひびき合ったりする中に、あなたの読後感を呼び起こした、作品のひみつを見つけることができるはずです。


 (光村図書 国語 四下 「はばたき」)

 「読後感の秘密をさぐる」、とても面白いテーマだと思います。そして、この作品が取り上げられたことにも頷けます。私も今日はこの視点から読んでいこうと思います。

 まず、この作品を読んでどんな読後感が浮かぶでしょうか。私が浮かべたのは、「不思議な感じ」であったり、「胸がざわざわする感じ」というものでした。教科書が言うように、そんな読後感の秘密は作品の中に隠れています。不思議で胸がざわざわする、そんなこの作品を読んでいきます。

異世界との境界線


 それは、秋の終わりの寒い日の出来事。ある女の子が、道に続く石けりの輪のあとを見つけます。輪のあとは、橋をわたって、山の方まで、どこまでも続いていました。

 「こんなに長い石けり、だれがかいたんだろう」
 そう思った女の子は、このあとをたどっていきます。かた足、かた足、両足、かた足・・・石けりの輪はどこまでも続きます。

 この輪が、異世界へとつながっていきました。読後感の「不思議な感じ」がくるのはなんといってもこの箇所です。現実世界から始まった物語が、いつの間にか、異世界へと通じています。

初雪のふる日3

 この挿絵が、作品の世界観をよく表わしていて素晴らしいです。現実世界と異世界の境界線が、とてもあいまいなのです。最初、おばあさんが声をかけてくれたり、犬がほえたりと、女の子は現実世界にいるようです。それが、途中で雪が降り出し、空が暗くなり、風が冷たくなり・・・そして女の子はいつの間にか異世界に迷い込んでいました。

 この部分は何度も読み返してみたのですが、現実世界から異世界へすーっと吸い込まれるように移動していく感じが何とも不思議です。雪や空、風といったものを登場させながら、読者が気付かないくらい自然に異世界への扉が開きます。まさに「気付いたら迷い込んでいた」という感じです。

 ちなみに、最後に女の子が現実世界に戻ってくるであろう場面も、その境界線があいまいで、何とも不思議な印象を与えます。入口も出口もあいまいなものですから、読者はこんなにも不思議な感じに包まれるのでしょう。

 さて、異世界に迷い込んだ女の子は、気付いたら前と後ろを「うさぎ」に囲まれていました。

「ねえ、どこへ行くの。この石けりの輪、どこまで続いてるの。」

すると、前のうさぎがとびながら答えました。

「どこまでも、どこまでも、世界の果てまで。わたしたちみんな、雪をふらせる雪うさぎですからね」



 そして、この雪うさぎにはある伝説がありました。初雪のふる日に、白いうさぎが一列でやってきて、山から山、村から村へと雪を降らせていくというのです。そして、そのうさぎのむれにまきこまれてしまうと、世界の果てまで行って帰ってこられなくなるというのです。

 女の子はおばあさんの話を思い出して逃げようとします。一生懸命春のよもぎのおまじないを唱えようとするのですが、うさぎの合唱に邪魔をされて、唱えることができません。

ぼくたちみんな雪うさぎ
雪をふらせる雪うさぎ
うさぎの白は、雪の白
かた足、両足、とんとんとん



初雪のふる日4

 このうさぎの歌に注目です。「かた足、両足、とんとんとん」ということばが何度も繰り返されます。このような繰り返しはリズムを生み、普通だったら「楽しい感じ」を作品に与えるでしょう。リズムをとりながら楽しく読み聞かせるようなイメージです。

 この作品ではそうはなりません。遠くに連れ去られてしまうという恐怖、列から抜け出そうと思ってもリズムが一定で抜け出すことができないという焦り・・・。一見楽しそうなリズムにこのような恐怖や焦りが与えられて、全くイメージを変えているのが面白いです。怖い時に心臓の鼓動が高まるような、そんなリズムに近いかもしれませんね。「胸がざわざわする感じ」がここにつながります。

 ここに出てくる雪うさぎにも注目です。普通私たちが浮かべるような愛くるしいうさぎとはどこか違います。かわいい歌をうたって一定のリズムで行進しているので、普通は「かわいい」という印象になりそうですが、ここのうさぎにそのような印象はありません。これは挿絵に影響されているのかもしれませんが、私はこのうさぎに「死」の影を見ました。これもまた、胸がざわざわする感じにつながります。

移ろう季節の不思議



 女の子を救ったのは、一枚のよもぎの葉っぱでした。女の子は葉っぱを手に取ります。

すると、女の子は、だれかにはげまされているような気がしてきました。たくさんの小さなものたちが、声をそろえてがんばれがんばれと言っているように思えてきました。



 女の子は、このよもぎの葉を使ってある方法でピンチを切り抜けます。この場面は本当に工夫されているなと思いました。短い物語ですし、普段なら先の展開が読めてしまうことも多いのですが、今回は全く読めませんでした。よもぎを使ったことで、うさぎたちがうたっていた歌はがらっと趣を変えます。

うさぎの白は、春の色
?????の色
かた足、両足、とんとんとん



 とても面白いところなので、ネタバレはするまいと苦労しています 笑。とにかく、よもぎの葉っぱを使った機転で、女の子の周りの景色は一気に姿を変え、女の子は現実世界に戻ることができました。

初雪のふる日5

 ネタバレをしないようにしたのに、ちょっと字が見えているような・・・。細かいことは置いておいて、この場面では一気に春が広がります。

この歌に合わせて飛びながら、女の子は、花のにおいをかいだような気がしました。小鳥の声を聞いたような気がしました。あたたかい春の日をいっぱいに浴びて、よもぎの野原で石けりをしているような気持ちになりました。女の子の体は、だんだん温かくなり、ほほは、ほんのりばら色になりました。



 最初の一行にあるように、これは「秋の終わりの寒い日」の出来事でした。それが、初雪が降ってから凍てつくような冬になり、一気に春が開けます。かと思うと、現実世界に戻った女の子のもとにあったのは、ほろほろと雪のまう一本道。秋と冬と春が、巧みに入れ替わっています。

 改めて思い返すと、季節の移ろいは不思議です。特に冬の雪はそうだと思います。いつも見慣れていた光景が、雪がふることによって姿を変えます。まさに雪は「異世界へと誘う扉」なのですね。

 そんな風に景色が変わる中でも、そこにいる命は変わらずにめぐり続けています。この作品のよもぎの葉は、そんなことを思わせてくれるものでした。「土の中でじっと寒さにたえている草の種のいぶき」がよもぎの葉を通して女の子の胸に伝わったと作品には書かれています。

 移ろう季節から異世界への扉が開き、しかし季節が移ろう中でも変わらない命がふたたび世界を戻す-そんな風にも読めるのでしょうか。素敵な作品です。

 子供のころ、初雪がふった日はクラスみんなで興奮していました。まだそんなに雪がない中、無理やり雪玉を作って雪合戦をしたり、わざわざ雪のあるところを歩いたり 笑。子供があんなに興奮できるのは、やはりそこに開けた「異世界」があったからなのでしょうね。そんな雪が誘う、ちょっと怖い異世界の物語です。



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 教科書への旅、物語3回シリーズはいかがでしたでしょうか。やはり教科書の作品はいいですね。教科書に選ばれているだけあって、語りどころがたくさんあります。本当なら毎回このコーナーをしたいくらいですが、教科書の作品には数に限りがあるので、今後はまた定期的に、大切に読んでいこうと思います。

 さて、この作品の最後には安房直子さんの他の作品も紹介されていました。(ちょっと画質が悪くなりましたが・・・)

初雪のふる日1

 表紙を見ただけでゾクゾクするような作品が多いですね。きっと同じように不思議な世界観が広がっていることと思います。安房直子さんは教科書でも定番ということなので、他の作品も探してみたいです。
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