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  • 悲劇への追憶  -『オーダーメイド殺人クラブ』 辻村深月

     19, 2015 21:46
    オーダーメイド殺人クラブ   「私を、殺してくれない?」-それは、悲しい青春の記憶。

     辻村深月さんの最大の魅力は、心の底をえぐるような心理描写の巧みさにあります。あらためてそのことを思いました。辻村さんの鋭い描写は、「青春」というもっとも繊細で、もっとも難しい時期の心を、容赦なく切り裂いていきます。

     ミステリー作品を特集している「ミステリーナイト」、第2回は辻村深月さんの「オーダーメイド殺人クラブ」を紹介します。自分を殺してくれと頼む主人公の少女-悲しく、愚かで、切ない記憶の物語です。



    ミステリーナイト   second night × mizuki tsujimura

    ヤギ  Introduction


     主人公の小林アンは、平凡な中学校に通う、平凡な中学生です。しかし、彼女は自分が置かれている状況を、冷めた視線で、鋭く切り捨てていました。

     彼氏がいる、いない-そんなことでいがみ合うくだらない友人関係。教室に存在するヒエラルキーの存在。何もかも中途半端で、ぬるい母親。平凡な生活の中で何かを燻らせていくアン。そんな彼女が惹かれたのは、テレビや新聞の向こうにいる、少年・少女たちでした。

    特に珍しくもないことのように、私たちと同じ年の子が自殺したり、事件に巻きこまれたり、或いは殺人事件を起こしたりしてる。そのたび、私はその子たちに遅れてるんじゃないかと、少し焦る。



     自分が平凡な生活を送る一方で、自ら命を投げ打ったり、あるいは人の命を奪ったりする同年代の少年・少女たち。その子たちが自分の先を行くようで、特別な存在であるようで・・・。彼女はある思いを胸に秘めます。自分も、自分の命を投げ打って、「特別」な存在になる-。

     アンの隣の席に座っている、徳川というクラスメートがいました。目立たない存在でありながら、内に秘めた「何か」を感じさせる徳川。何かを勘付いたアンでしたが、ついに、決定的な場面を目撃してしまいます。それを見たアンは、ある決心をするのです。アンは徳川にこう言いました。

     「私を、殺してくれない?」

     「いいの?」そう答える徳川。そこから、ついに幕が開きます。「特別」になるために、二人で作り上げる殺人事件。「悲しい青春のミステリー」が始まります。

    ヤギ春は死とともに

     人に殺されたい少女と、人を殺したい少年。二人が、静かに、しかしそれでいて確固たる約束を交わしました。「特別」になるためには、普通の殺人事件ではいけません。どんな場所で、どんな方法で、どんな動機で・・・二人はノートに殺人計画を描いていきます。誰かを殺す計画ではなく、「自分が殺される計画」。そこには、青春と「死」の、悲しい絡み合いがありました。

     主人公たちは中学2年生。作中に「中二病」という言葉が出てくるように、この時期の子どもは様々なことに悩み、思いつめ、そしてこじらせていきます。もっとも若々しく、「生」が輝く時期ですが、この時期は同時に「死」のことを強く意識する時期でもあります。

     死ぬことで、特別な存在になれるのではないか-アンのその思い自体は、そこまでおかしなものではありません。青春の時期独特の歪み、こじらせ、勘違い・・・。中学生、高校生という時期を終えたから、私も冷静に振り返ることができます。ですが、私の中にもそういった歪みはありました。若い世代というのは、悪い意味で「想像力」がたくましいのです。

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     そんな難しい青春を、辻村さんは見事に描き出していきます。「私を、殺してくれない?」という衝撃のセリフが飛び出すまで、単行本で100ページ以上。そこまでじっくりかけて、少女の心理を鋭く、それでいて切なく描いていきます。

     自分が殺してもらえる-そのことをはげみにして生きていくアン。理解できないことかもしれませんが、殺されて特別な存在になる、ということが彼女の「生きる意味」だったのです。

    「-私は、徳川に殺してもらえる」
    「来年までに、私は、徳川に殺してもらえる。殺してもらえる、殺してもらえる」
    呪文を唱えるように口にすると、息が切れた。

    「殺してもらえるから、大丈夫!絶対、大丈夫!」



     異常な少女だと思われるかもしれません。しかし実際に本を読んだとき、そういった印象はあまり持たれないと思います。殺されて特別になりたい、という表向きの動機は異常だったとしても、彼女の根底にあるのは、「自分のことを認めてもらいたい」という思いなのです。

     「これは、悲劇の記憶である」、彼女はそうノートに書きます。何度も繰り返される「悲劇」ということば。私はこう思わずにはいられませんでした。青春とは、誰もが通る「悲劇」ではないのか。

     辻村さんの心理描写は本当にすごいのです。鋭い刃のような描写が、人間の奥底にあるあらゆるものを掻き出していきます。少年少女が主人公で、この時期特有の歪みを描いているということで、道尾秀介さんや米澤穂信さんの作品を思い出しました。しかし、雰囲気は似ていても、この作品には辻村さんだけの「色」があります。

     

    私は自分が消えてしまった後の、来年以降のここの光景を心に思い描く。そうすると、苦しかった呼吸が少しだけ楽になる。

    私は死ぬことで、この平凡な中学で唯一の伝説になるのだ。



     物語は進んでも、「殺されたい」というアンの決意は揺るぎません。一つ間違えれば崩れ去ってしまいそうなこの危ない物語。こんな物語を成立させることができるのは、辻村さんだけでしょう。

    ヤギ劇のゆくえ

     ミステリー作品として紹介していますが、何かを推理するといった要素はありません。ただ、ミステリアスで読ませる小説だと思います。「殺してほしい」「殺したい」という二人の思いは全く揺るぎません。計画実行の日に向かって、時は着々と流れます。「このままアンは殺されることを選ぶのだろうか」その一点が、読者を惹きつけるでしょう。

     途中には、何度か山場があります。複雑に入れ替わるスクールカースト。死にたいと思いながら生きているアンにさらに追い打ちをかけるような出来事。そして、アンが徳川に「殺してほしい」と頼むきっかけになった「ある場面」も重要です。この場面は、後半への重大な伏線となります。凄まじい展開とそれでも揺るがないアンの決意に、私は言葉を失いました。

     殺人は、決行されるのでしょうか。悲しい悲しい、青春の悲劇の記憶は、どのような形で幕を下ろすのでしょうか。

     待ち受けていたラスト、私は好きでした。切なくて悲しくて、でも胸に広がる何ともいえない気持ち。今日の記事のタイトルにした、「悲劇への追憶」ということばが、胸に染みわたってきました。




    ミステリーナイト

     「ミステリーナイト」、盛り上がってきました。結末まで一気に読ませる力は、やはりミステリーならではといった感じです。湊かなえさん、辻村深月さんという鋭いミステリーの書き手が二人続きました。次回はガラッと雰囲気を変えていこうと思います。薬丸岳さんが登場する予定です。

     歪んだ愛のミステリー
    「Nのために」 湊かなえさん

     悲しい青春のミステリー
    「オーダーメイド殺人クラブ」 辻村深月さん

     「ミステリーナイト」は4回シリーズの予定です。

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    小説, 辻村深月,



    •   19, 2015 21:46
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