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  • 問えぬ罪と下せぬ罰 -『天使のナイフ』 薬丸岳

     21, 2015 19:35
    天使のナイフ      も守れない法が引き起こす、悲劇の連鎖の真実-。

     ミステリー作家やミステリー作品にこういった褒め言葉を贈るのはとんちんかんなことかもしれません。ですが、私は贈ろうと思います。薬丸岳さんは、「誠実な作家」だと思います。そして、この作品もまた、「誠実な作品」です。

     理不尽な少年法に正面から切り込んだこの「天使のナイフ」は薬丸岳さんのデビュー作です。社会問題に切り込んだ意欲作として見ることもできれば、ミステリー作品として楽しむこともできます。その意味で、この作品の価値は大きいでしょう。



    ミステリーナイト    third night × gaku yakumaru

    ワニ Introduction

     愛する妻は、娘を残し、突然命を奪われました。

     桧山貴志(ひやまたかし)は、妻の祥子(しょうこ)を何者かの手によって殺害されました。残されたのは、桧山と、小さな娘の愛美(まなみ)。怒りと悲しみに明け暮れる桧山にとって、望むのは犯人の逮捕だけでした。犯人が捕まったとの刑事の報告に、安堵と憎悪が入り交じる桧山。しかし、次の一言で彼は地獄に突き落とされます。

     「逮捕はされません」

    「捕まったのは所沢市内の中学校に通う、中学一年の三人の男子生徒でした。祥子さんを死なせた少年たちは、いずれもまだ十三歳なんです」



     桧山の前に突然立ちふさがったのは、「少年法」の壁。十四歳に満たない者の行為を、法律は罰することができないのです。妻の命を奪った犯人たちを、法律は罰することができない。怒りに狂った桧山は、こう叫びます。

     「国家が罰を与えないなら、自分の手で犯人を殺してやりたい」 

     四年後、桧山の前に刑事がやってきました。証拠を殺した犯人である少年の一人が、殺されたというのです。「自分の手で殺してやりたい」と言いつつも、憎しみに耐えて生きてきた桧山。もちろん彼は、少年の命を奪ってなどいません。では、いったい誰が・・・。

     怒りに猛り狂いそうになりながらも、事件と、そして犯人の少年たちと向き合う桧山。しかし、事件の連鎖は止まりません。次々と起こる事件の数々。そして、桧山に突き付けられたある事実。それは、これまでの「憎しみの矛先」を変える、衝撃の事実でした。

     少年法という制度のもとに覆われた人々の秘密・・・渾身の描写が贈る、「法と贖罪のミステリー」です。

    ワニ律は何を守ったか

     薬丸岳さんが「誠実」な方だと書きましたが、そう思わせたのは少年法を扱った渾身の描写でしょう。私が指摘する間でもありませんが、少年法と真摯に向き合うことをしたからこそ、この作品が生まれています。

     突然家族を奪われ、犯人にその罰を問うことができない被害者遺族の無念というものが主眼に描かれています。「自分の手で殺してやりたい」というセリフが吐かれるまでのどうしようもない怒りや嘆き、やりきれなさ・・・そういったものを序盤で丹念に描いていきます。

     誠実さが見えるのは、少年法の「別の視点」もしっかりと描いている点です。それは、少年を保護し、更生させるという視点です。少年を保護し、懸命に構成させようとする立場の人がいれば、少年法という制度の下で懸命に立ち直ろうとする人もいます。被害者を主人公としていて、序盤からかなりそこに描写が割かれるので、「そちら側」に偏った描写になるのではないかと予想していました。しかし、読み終えて振り返ると2つの視点が作品の中で絶妙なせめぎ合いをしています。

    桧山は少年の更生に携わる人に対して頭の下がる思いを抱いた。それでも、子供に愛情を注いで更生を促そうとする者と、その子供に大切な人を奪われた被害者との間に横たわる、大きな溝を埋めることはできないようだ。


     
     これは、少年法というものに真摯に向き合ったからこそできることです。これこそがこの作品の核であり、誠実さです。

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     ミステリー作品としても、高い水準にある作品です。私は、主人公の無念な思いをおもんぱかった誰かが、主人公の代わりに復讐を遂げたのではないか、などという推理(ごっこ?)をしていました。かすりもしない、大外れです 笑。この小説は、少年法に切り込んだ社会派小説としてだけではなく、ミステリー作品としても作り込まれていました。二転三転する真相、意外な犯人などといった展開を楽しみにしているミステリー好きな方の期待にも十分に応えられる作品です。

     事件の真相が分かることで、「少年法」というテーマがさらに深まる。これもまた、上手い仕掛けです。詳しいことを書けないのが惜しいですが、少年法が関係した事件は、主人公の妻が殺された事件「だけ」ではなかったのです。

     少年法に関係した人物はたくさんいました。過去という十字架を背負って、贖罪に生きようとした人がいれば、少年法を利用して、過去を清算しようと人もいました。

     複雑に絡まった事件全体を見て考えます。「少年法は、何を守ったのだろうか?」・・・たしかに、更生や贖罪に生きる人もいるのかもしれません。しかし、根本では何も守れていなかったのです。

    「過去なんかじゃない。被害者の家族にとっては苦しみに終わりなんかないんだ」



     奪われた命が戻るわけでもなければ、被害者家族の傷が癒えるわけでもありません。犯罪を犯した者が少年であるか成年であるかは、そこに全く関係がありません。少年法は、ただ罪と罰に「線」を引くだけ。何かを守るためにあるのではないという空しさに、力が抜けます。

    ワニばなければいけないもの

     ミステリー好きとして1つだけ気になったのは、終章で明かされた真実でしょうか。小説では、作者が登場人物を支配しています。作者が登場人物を「思い通りに動かす」ことができます。このあたりがどこまで作者に許されるのかが、ミステリーではとても難しいところですね。私は、終章で過去が明かされた「ある人物」に関してはこの作品に登場しなくてもよかったのではないか、と思いました。

     濁らせた言い方で申し訳ありません。アマゾンのレビューの方を見てみると、同じようなことが指摘されていました。ただし、人物名がばらされているので、これから読みたいという方は要注意です(ちなみに、先日からブログのデザインを変えて分かりにくくなっているのですが、記事の上にある本の画像はアマゾンのページへのリンクとなっていて、レビューはここから見ることができます)。

     こんな些細な小言は抜きにして、素晴らしい作品です。薬丸さんの「誠実さ」、これはとにかく素晴らしいと思います。

     私は2時間サスペンスや刑事ドラマも好きで、よく見ています。被害者が犯人に復讐する・・・という展開は飽きるほど見てきました。何度も見ているのですが、そのたびにやりきれない気持ちになります。ドラマの中で刑事が犯人に説いているように、「復讐は、何も生まない」からです。

     復讐とは、違う手段を。
     憎しみとは、違う言葉を。

     間違った道だけは、選んでほしくないと思います。



    ミステリーナイト

     ミステリーナイトは次回が最終回。ミステリーは集中的に読むのが好きです。どっぷりと雰囲気に浸ることができていいと思います。最終回は宮部みゆきさんの作品を紹介する予定です。

    第一夜 歪んだ愛のミステリー
    「Nのために」 湊かなえさん

    第二夜 悲しい青春のミステリー
    「オーダーメイド殺人クラブ」 辻村深月さん

    第三夜 法と贖罪のミステリー
    「天使のナイフ」 薬丸岳さん
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    小説, 薬丸岳,



    •   21, 2015 19:35
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