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  • 100万分の1回のねこ 4匹目 「ある古本屋の妻の話」 井上荒野さん

     02, 2015 23:16
    100万分の1回のねこ
    100万分の1回のねこ
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    谷川 俊太郎 山田 詠美 江國 香織 岩瀬 成子 くどう なおこ 井上 荒野 角田 光代 町田 康 今江 祥智 唯野 未歩子 綿矢 りさ 川上 弘美 広瀬 弦
    講談社
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    の最後の「賭け」。その結末は-

     この特集を始めた理由の1つに、「いろいろな作家の作品を読むことができる」というものがあります。1冊に13人の作家の作品が収録されているこの作品。そのうち半分ほどは、これまで私が読んだことのない作家さんです。1匹のねこを共通のモチーフにして、多くの作家さんが独自の世界を開いていきます。本当に贅沢な本です。

     今回も初めて読む作家さんでした。井上荒野(いのうえ・あれの)さん。読んでいる途中に、体の中に広がる感覚があり、すぐに気付きます。「ああ、この作家さん、好きだ」-。



    「ある古本屋の妻の話」 井上荒野

     お金ばかりに目がくらむようになり、すっかり堕落してしまった夫。腐りきった日々に、今の生活すべてに、妻はピリオドを打つことを決意します。そんな時見つけた、一通の手紙。妻は、ある「賭け」を決意するのです・・・。

    カップアイスらすじ

     夫は、寡黙な人だ。

     声をかけても答えようともしない夫の姿を見て、妻はそう心の中で思いました。

     夫と妻は古本屋を経営しています。夫は同業者とならよく喋りますが、家では無感動で、むっつりした顔をしてばかりです。店を開けていても、ほとんど本が売れない寂れた古本屋。会話のない家。停滞した時間が流れます。いつしか夫は、軍手を付けて本を扱うこともしなくなってしまいました。

     夫の機嫌がよくなるのは、ネットオークションで物が高く売れた時だけです。

    (引用)
    もっと上がるぞ、と夫はあたしに笑いかけた。そういう理由ならば、この男は笑いかけることもある。



     そんな夫ですが、商売が上手くいかないと、またすぐに不機嫌になるのでした。

    (引用)
    「でかい家に住んでるってだけの阿呆どもだから、大枚払ってニセモノ溜めこんでたんだろう。くそ婆あども、五千円だって高い買い物だったぜ」



     お金のことにしか目がいかない夫に、妻は全てを諦めようとしていました。「もう、十分だ。」全てにピリオドを打とうとした時、夫が段ボール箱の中から手紙を見つけます。それは、ある男性の「遺書」でした。

     妻は、その遺書を男性の自宅に届けることにします。しかし、遺書を受け取ってもらうことはできませんでした。その時、妻はある「賭け」を思いつくのです-。

    カップアイス上荒野さんのねこ

     あらすじには書きませんでしたが、この作品にもねこは登場します。妻が一度エサをやったことがきっかけで、夫婦の家に来るようになった野良猫がいたのです。

    (引用)
    この大きなトラ猫は、半年くらい前からうちの周りをうろつくようになった。うっかり一度食べさせてしまって以後、もらって当然のような顔でやってくる。クリームシチューはだろうが煮物だろうが、サラダだろうが納豆だろうが、何でも食べる。飢えているというよりは、いっそ無感動に顎を動かす様子は、夫に似ている。



     やはり、「100万回生きたねこ」が意識されています。このねこは、作品においてどんな役割を果たすのでしょうか。それは、一番最後に明らかになります。物語の全体像が見えて、作者の意図や「100万回生きたねこ」に捧げる思いなどが見えてきた時、私は心から震えました。

    カップアイスかな死への手向け

     これこそプロの作品だと思います。この話が読めただけでも、この本を買ってよかったと思えます。次に井上荒野さんの本を読むときは、図書館で借りるのではなく、本を購入して読もうと思います。素晴らしい作品が読めたことがうれしいし、素晴らしい作品の感想が書けることがうれしいです。賛辞は尽きませんが、もう少し詳しく見ていくことにします。

    a0006_001013.jpg

     物語前半は、売れない古本屋の夫婦の冷め切った関係が描かれます。特に夫の姿は読んでいても哀れで痛々しいところがあります。お金が儲かった時しか笑わなくなった夫。しかも、その時の笑いも醜さを湛えた見るにたえないものです。こんな夫を愛することは不可能でしょう。夫婦は、ただ「惰性」で続いているだけでした。

    (引用)
    あたしは黙って夫に背を向けた。もう十分だと思ったのだ。本当に、もう十分だ。汚い罵り言葉だけにかぎらない-今の生活すべてに対して、自分がそう思っていることに、あたしは気づいた。



     はっきりと明示されているわけではありませんが、妻が夫との関係に、そして今の生活にピリオドを打とうとした場面でしょう。当然のことです。続けていることに意味さえ感じられないなこんな生活に、普通の人間は耐えられないものです。

     そんな時、夫が見つけた遺書。35歳の男性が残した遺書でした。「ごめんなさい」「もうこれ以上生きていても自分はどうにもならない人間だとわかったので死ぬことにしました」、そんな文面が並んでいます。

     古い段ボール箱から見つかった遺書なので、男性の自殺を食い止めるだとか、そういった話にはなりません。もう過ぎ去ってしまった過去です。けれど、妻は思うのでした。「この遺書を、宛名のもとに届けなければいけない」-。

     どうして自分がそのような思いになったのか、妻は途中で気付きます。そして、ある賭けを実行に移すことを決めるのです。

    (引用)
    あたしはある種の義憤と使命感を持ってここまで来たつもりだったが、自分の行動がちっともありがたがられなかったことによって、気がついた。あたしがここまで来たのは手紙の主やその家族のためではなくて、もし理由があるとするなら、それはあたし自身や、夫にかかわっているのだ。



     もうどうしようもないところまで堕ちてしまった夫婦関係ですが、妻はどこか、それを捨てきれない思いもあったのでしょうか。あるいは、心の奥底で、夫に対して何かを期待していたのでしょうか。受け取ってもらえなかった遺書を持って、妻は自宅に戻ります。そして、心に決めた「賭け」を実行するのです。

     最後の場面、例のねこが再び登場します。ですが、ねこは車の陰で死んでいました。死んだねこを前にしている夫のところへ、妻が帰ってくるのです。そして、「賭け」は実行に移されました。結果はどうなったのでしょうか・・・

     結末の五行を引用したくてたまりませんが、ここは我慢です。作者がこの作品に込めた思いが、染み込むように伝わってきました。切ない中でほっとするような絶妙な結末です。何かを期待してこの本を読み始めたわけではないのですが、とても大事なものが、心を埋め尽くしていくような感覚がありました。

     たぶん、ねこが死んでいたことには意味がある、と思います。この本に収録されている作品は、絵本「100万回生きたねこ」に捧げられたものです。「100万回生きたねこ」において、ねこの死は何を意味していたでしょうか。絵本の内容を思い出すと、最後の場面の深みが増します。

     絵本の内容とも重なって生まれた名作。多くの人に読んでほしいと、心から思います。

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    匹目のねこ~私のつぶやき~

    誰にも気付かれることなく終わる命がある-。その命は、誰かに愛されていたのでしょうか。その命に、私たちは何を想えばよいのでしょうか。

     人間なら、想ってやれるはずです。死んだ猫と過去の遺書、人間はどんな手向けの花を送ってやれるでしょうか。





    オワリ

     まだ4作目なのでなんとも言えないのですが、たぶん13作品の中でもベストの作品になるんじゃないかな・・・と、そういう予感はしています。とはいえ、あと9作品!楽しみです。最後には「あの方」も登場しますし。

    特集 100万分の1回のねこ
     1か月ほどかけて、13の作品を扱っていく予定です。今後も有名な作家さんがたくさん登場します。特にこれまで本を読んだことのない作家さんの作品については期待が高まります。

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    井上荒野,



    •   02, 2015 23:16
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