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その家事、「労働」です。 『家事労働ハラスメント』 竹信三恵子

 08, 2015 22:55
家事労働ハラスメント――生きづらさの根にあるもの (岩波新書)
竹信 三恵子
岩波書店
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事が「労働」だという認識はありますか?

 いろいろなハラスメントが叫ばれることで、かえって1つ1つのハラスメントの深刻さが捉えにくくなっているように思います。また聞き覚えのない新しいハラスメントか、とうんざりされる方もおられるかもしれませんが、日本社会が抱える持病のような問題なので、ぜひ言葉だけでも頭の片隅で覚えておいていただけたら、と思います。

 その名も「家事労働ハラスメント」。これまで社会の中で表に出ることなく押し込められてきた深刻なハラスメントです。今、そのことに嫌でも目を向けなくてはいけないような時代になっています。



家事はタダ?



 この本は、タイトルからして価値があると思います。家事ではなく、家事労働。そう、家事は「労働」であると言っているのです。家事が労働である、というような認識が広まったのは、ほんの最近のことです。現在も、まだまだこのような認識が浸透しているとは言えないように思います。

 1995年に北京で開かれた第4回世界女性会議の要綱に、こんなことが書かれています。

女性は,家庭,地域社会及び職場における有償・無償双方の仕事を通じて,経済及び貧困との闘いに寄与している。女性のエンパワーメントは,貧困撲滅におけるきわめて重要な要因である。



 第4回世界女性会議行動要綱 第iv章 (内閣府男女共同参画局)

 ここに書かれている「無償の仕事」というのが、家事や育児のことです。そして、少し想像すれば分かることですが、そういった「無償の仕事」はこれまで女性に一方的に押し付けられてきました。有償の労働、無償の労働はどちらも重要な労働です。しかし、女性が無償労働の方を一方的に背負うことによって、経済力の低さや社会的発言力の低さ、もっと大きく言えば、タイトルにもなってる「生きづらさ」を女性に招いている、ということです。

 筆者も指摘しているのですが、今の日本では「家事はタダ」の意識にまだまだ根強いものがあると思います。最近、「家事代行サービス」が市場規模を伸ばしてきましたが、利用率は数パーセント程度です。その理由は大きく分けて、「家に入られたくない」というプライバシー的理由と、「料金が高い」という金銭的理由の2つに分かれます。

 これは私の推測ですが、金銭面の理由から家事代行サービスを利用しない人の中には、「家事はお金を払ってやってもらうものではない」という認識も少しはあるのではないでしょうか。これまで無償の労働として家庭内で女性に押し込められてきたこともあり、家事労働の価値はかなり低く見られているようです。

家事を排除する社会



 筆者は、日本の社会には、「家事労働を見えなくし、なかったものとして排除する装置」が張り巡らされている、と指摘します。鋭い指摘は、まだまだ続きます。

(引用)
「家事はお金では測れないほど大事な価値であって労働ではない(だから待遇や労働条件のことなどあれこれ言わずに奉仕しろ)」というやさしい言葉を繰り出したりして、その働きを低コストに抑え込もうとする



 お金では測れないような価値、などという言い方はよくされますね。その裏に潜む欺瞞を明らかにしています。

 家事や育児、介護といったものを、例えば「家族愛」といったもので一括りにして、家庭の中に押し込めておくことはそろそろ限界だと私は思います。人口変動や家族の変容で、そんな考えは立ち行かなくなります。家事の重要さをきちんと評価するには、「お金では測れないんだよ」という一見優しい言葉よりも、家事を「労働」として見るその視点の方がよっぽど重要です。

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 筆者は、女性たちが担ってきた家事労働を支える社会的な仕組みが不可欠だと主張します。本当にその通りだと思うのですが、残念ながら、メディアからこのような主張が聞こえてくることはほとんどありません。まるで、筆者の言うように「なかったもの」にされているようにすら思えます。

 そんな社会には、どんな問題があるのでしょうか。筆者はその点にも触れています。

(引用)
女性の家事労働の分担に税金を投入することに社会的合意が得られない国は、国も企業も男性も、また家事労働への蔑視も、変わらないまま、自国の女性を家庭から引き出そうとする。そのとき家事労働の受け皿になるのは、「社会の外」の存在とされ、「安くても当然とされる理由を持つ人々」の群れだ。身内のただ働き女性から、よそのただ働き女性への「搾取の転嫁」がそこに生まれかねない。



 家事労働が評価されないまま、女性が家庭から引き出される。そのことには、このような問題点があります。先日、「女性活躍推進法」が成立したのですが、一部からは違和感を唱える声や批判の声もありました。そういった違和感や批判をたどっていくと、この家事労働の話にたどり着くのではないかと思います。女性活躍の「根っこ」にあるこの問題が、残念ながら、ほとんど表に出てこないのです。

女性活躍推進法:成立 管理職の数値目標設定の公表など(毎日新聞 2015/8/28)

家事を見えるものに



 最後に、筆者が指摘している、女性の就業促進に向けた3つの課題をまとめておきます。

 ①労働時間の短縮で、家庭の女性が一人で引き受けてきた家事や育児や介護、そして地域活動などの無償の労働を働く男女で引き受けられる余地を増やすこと

 ②これらの無償労働を、介護、保育施設などの社会サービスが一部負担することで、家庭が抱える無償の労働の負担を軽くすること

 ③家庭内の無償の労働を男性も分担すること

 全て大事ですが、私は特に②が大事だと思います。そのためにも、家事労働の価値がちゃんと評価される必要があります。家事労働がなかったものにされる現状からはあまりにも遠いですが、少しずつでも現状を変えていくしかありません。

 ここまで読んでいただいた方には、たった1つ、「家事労働」という言葉だけでも覚えておいていただけたらと思います。家事労働、という言葉を知っていれば、少なくとも家事をなかったものとして押し込めてしまうようなことはないはずです。

レコメンド

事に「価値」あり。目をそらしてはいけない問題です。

 余談ですが、一人暮らしを始めて自分で家事をこなすようになってから、この本で書かれていることがよく理解できるようになりました。労働は労働でも、私にとってはかなりの「重労働」です。



オワリ

 この分野で必ずといっていいほど言及される、有名な専門書です。日本語訳が発売されて、(お値段がかなり高いですが)日本語でも読めるようになりました。家事の全てが分かる、と言ってもいいくらい、充実した内容でした。

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  •   08, 2015 22:55