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  • 過去と未来への葬送  -『水の柩』 道尾秀介

     16, 2015 19:51
    水の柩
    水の柩
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    道尾 秀介
    講談社
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    の底に沈めたい過去がある―

     道尾秀介さんは、時々純文学のような作品を書かれます。この作品「水の柩(ひつぎ)」もそうでした。ミステリー要素や驚きの結末を期待して読まれた方には物足りないのかもしれませんが、私はこういう作品で作品の雰囲気を味わうのも好きです。

     タイムカプセル、過去の秘密、ダムの下に沈んだ村・・・用意された設定の裏には、深い悲しみに包まれた物語が眠っていました。
    (※追記に白文字のネタバレがあります)



    ダムの底への鎮魂歌



     物語は、二通の手紙から始まりました。小学六年生の男女が二十年後の自分に向けて書き、タイムカプセルに埋めた手紙です。

    (引用)
    二十年後の自分へ 吉川逸夫

    こんにちは。いま三十二才ですね。仕事はどうですか。お父さんや、お母さんや、おばあちゃんは元気ですか。・・・



    (引用)
    二十年後の自分へ 木内敦子

    これは自分への手紙ではありません。私をいじめたクラスの人たちへの手紙です。(中略)誰に、何をされたかを、私はここにみんな書きます。・・・



     どこにでもありそうな、普通の少年の手紙と、壮絶ないじめと闘い、タイムカプセルに必死に叫びを残そうとした少女の手紙です。どこにも接点がなさそうですが、この2人がタイムカプセルを巡ってある約束を交わす、というのがこの物語の軸になります。

     「タイムカプセルの手紙、いっしょに取り替えない?」少女がしたその提案には、彼女なりの、必死の思いがあったのです。少年は、それにどう向き合うのでしょうか。

     もう一人、主人公の逸夫が向き合った人物がいました。それは、彼の祖母のいくです。逸夫の家は、旅館を経営しています。祖母のいくは、今はもうダムの底に沈んでしまった村の、豪華な屋敷の娘でした。84歳になった今も健在で、旅館を仕切ろうとしています。

     そんな祖母には、実はある大きな秘密がありました。彼女は、大きな嘘をつき続けてきたのです。ダムの底に沈んだ村と共に封印されていた嘘が、少しずつ浮かび上がってきます。少年は、この嘘のことを知って、祖母とも向き合っていくことになります。

     同級生の敦子、祖母のいく、2人と向き合っていく少年、逸夫を描いたこの作品は、ミステリーの香りを漂わせながらも、人間を見つめようとする「道尾純文学」に仕立てられていました。

    普通をめぐって



     物語は、現在から九か月前を回想する形で始まります。それを読んでいると、もう敦子がいじめを苦に自殺してしまったかのように思えます。敦子の本当の声を聞いてやれなかった逸夫が、そのことを後悔しながら過去を振り返る・・・そういった作品だと思っていました。

     思って「いました」なので、そういった作品ではなかったのです。現在から回想するシーンは、読者が間違った風に思い込むように、精巧に作り込まれていたようです。

    (引用)
    角のよれた写真の中では、十五歳の冬を見ずに死んでいった少女が笑っている。何か声でも出しているのか、顔を少し右肩のほうへかしげ、太陽の光が射し込むほど口をひらいている。



     この部分はミスリードですね。見返してみると、実にさりげなく、上手く語られています。純文学の要素に道尾さん得意のミステリーも絡めつつ・・・いい感じです。

    a0001_006667.jpg

     「普通」というのが、一つのキーワードになってきます。3人の言葉の中には、それぞれ「普通」という言葉が含まれます。ですが、「普通」をどのように考えているのか、それは三者三様なのです。

     主人公の逸夫は、どこにでもいるような普通の少年です。彼は、自分が普通であることに負い目を覚えています。

    (引用)
    何がつまらないのかといえば、自分自身だった。このごろそう思う。吉川逸夫というのはものすごく退屈な人間なのではないか。なんというか、あまりに普通なのではないか。



     彼に言ってあげたいですね。残念ながら、少年時代にそう思うことも「普通」のことです。

     それに対し、いじめに耐え続けていた敦子の考える「普通」は違います。彼女は、普通を求めていました。逸夫が負い目を覚えていた普通を手に入れようと、彼女は必死にもがいていたのです。

    (引用)
    自分は「普通」の中で死ぬ。これといった理由もなく、ただ自分の意志で死ぬ。(中略)父親のいない寂しさも、母親のやつれた横顔も、家にお金がないことも、みんな自分の死には関係ない。ましてや、クラスメイトたちに殺されるわけでは絶対にない。



     同じ普通でも、こんなに違うのです。「普通」というのは、その中にいる人にはありがたみが分かりません。そこからはじき出されて初めて、「普通」が見えるようになります。2人の認識のずれは、物語の中でも重要な役割を占めています。

     そしてもう一人、逸夫の祖母であるいくです。彼女は、普通をどう捉えているのでしょうか。

    (引用)
    でも、あたしは普通の子供になりたかったんだよ。親の仕事のお手伝いしたり、外で泥んこになって遊んだり。



     登場人物の中で最も苦しんでいたのは、たぶんこのおばあさんです。いじめられ、自殺をしようとしていた敦子とは中身が違いますが、彼女は重い過去を背負い続けていました。その重い過去が明らかになるのは、物語の中盤あたりです。

    救われるためには



     淡々と進んでいく物語ではありますが、所々で迫真の描写があり、本を握る手に力が入ります。祖母が過去の苦しみを吐き出す長いシーン、それに自殺をめぐるシーン・・・。ここで本気の描写をしなければいけなかったわけは、最後になって分かります。それは、敦子といく、2人が救われるためです。2人は救われるために、全てを吐き出さなければいけなかったのです。

     正直、バッドエンドが待っているのだろうと思いました。作品の終盤でそういう雰囲気が漂い出すのです。第六章の最後の一文なんか、息が止まりそうになります。最悪な終わりがやってくるのかと身構えたものです。

     そうではなく、終章のテーマは「救い」でした。救いといっても、全てが解決するような、白ける終わり方ではありません。2人がどうやって苦しみを乗り越えていくのか・・・胸が苦しくなるような「救いの章」です。

    (引用)
    忘れることと、忘れずに乗り越えることの違いはどこにあるのだろう。



     読み終えてみると、「水の柩」というタイトルがいかに秀逸か分かります。
     
    レコメンド

    はどうすれば救われるのか。苦悩と葛藤の「道尾純文学」-。

     ミステリー好きには物足りなくなり、純文学好きには面白くなる作品なのでしょうか。終章は完全に純文学だと思います。芥川賞の作品が頭をよぎってしまったくらいです。



    オワリ

    「鏡の花」 道尾秀介さん

     前回の作品です。道尾さんの作品が文学のようだ、ということは前回も書いていました。2回連続で書いているので、やはりそういった要素は強いのだと思います。

    作家さんの本棚001 道尾秀介さんの本棚

     レイアウトを大きくリニューアルしました。このブログを書く前に読んだ本も追加し、私がこれまで読んだ作品の中でのベスト3+その他という形で紹介しています。
    (追記)

    ネタバレ

     白文字ネタバレです。ドラッグやメモ帳にコピペなどの方法で見ることができます。ネタバレを知りたくないという方は飛ばしてくださいね。

    ★ 敦子は自殺しようとしましたが、すんでのところで逸夫が食い止めました。一方、逸夫の祖母、いくはこれまで裕福な家の出身だと嘘をつき続けていました。いくは本当は貧乏な家の娘でした。いくにはたづという友人がいましたが、彼女は事故で命を落としてしまいます。「いくがたづを殺した」村にはそんな噂がたちました。「人殺しの娘」とののしられ、いくの父親は自殺しました。村がダム建設でなくなった後、いくは70年以上も自身の過去を封印してきたのです。前半に出てくる死んでしまった少女の写真というのは、敦子ではなく、たづの写真です。

     2人を救うため、逸夫はある計画を実行します。3体の人形に自分たちの格好をさせて、ダムの底に突き落としたのです。過去から乗り越えるために、自分たちの姿をした人形に、ダムから飛び降りさせる、それが逸夫の考えた「儀式」でした。人形を落とした後、いくは認知症になります。敦子は自分の手でいじめにピリオドを打ちます。形は違いますが、2人には「救い」が訪れたのです。
    (ここまで)
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    小説, 道尾秀介,



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