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  • 100万分の1回のねこ 8匹目 「あにいもうと」 唯野未歩子

     20, 2015 01:00
    100万分の1回のねこ
    100万分の1回のねこ
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    されなかったその猫は

     人間を決めるのは「愛情」だ、などと言ったら、あまりにも臭いセリフかもしれません。正確にはどれだけの愛情を受けてきたか、ということです。愛情がどうこう、というのは抽象的な話だと思われるかもしれませんが、実はそのことはデータで容易に確かめることができます。母子家庭、父子家庭の子どもがどう育つか、あるいはいじめを受けたことのある子どもがどう成長するか。データは、受けてきた愛情が足りない子どもがまっとうな育ち方をしないということを、残酷なほどはっきりと示しています。

     非行に走るとか引きこもりになるとか、愛情が足りない子どもが分かりやすいサインを示すこともあります。でも、もっとやっかいなのはサインが目に見えない場合です。愛情が足りない子どもが、表ではまっとうに成長しているように見えても、裏では本人も気付かないくらいにひっそりと、恐ろしい「何か」を成長させている、そんな場合・・・。
    (※追記に白文字のネタバレがあります)



    100mann-8.png
    「あにいもうと」 唯野美歩子

     愛された兄と、愛されなかった妹。懸命に愛したのに、愛してもらえなかった妹。そんな妹のねこの心の中で、「何か」が確実に増幅していたのです。

    ネコ1らすじ

     何度も生まれ変わるねこがいました。ねこはいつも、兄妹として生まれてきました。初めて出会ういろいろな家族のもとに生まれてきましたが、兄さんだけはいつも一緒だったのです。

     兄さんは、いつも飼い主にかわいがられました。それなのに、妹は飼い主に愛してもらえませんでした。いつも兄さんが、飼い主の愛情を横取りして、独り占めするのです。そのうえ兄さんは、妹のことをいじめ、無視します。妹をいじめることなんて、兄さんは暇つぶしにしか思っていないようでした。

    (引用)
    兄さんは、顔も毛並みも要領もよく、性格はいかにも猫らしく奔放、酷薄、無頓着なのに、飼い主の愛情は独り占めしてしまう。だから兄さんが嫌いだった。憎い。恨めしい。憎い。恨めしい。不公平さに、毎回わたしは身悶えた。



     ねこは何度も生まれ変わりました。マンモスがいるようなはるか昔からそれは始まり、最近の時代まで繰り返し続けました。ねこは必死に飼い主を愛しました。しかし、いつも可愛がられるのは兄さんで、妹の愛は受け取ってもらえませんでした。川岸で背中を焼かれたこともあれば、仲良くしていた娘が首を吊ったこともありました。

     生まれ変わり続けるねこでしたが、ある時異変が起こります。

    (引用)
    そうして、また生まれ変わる。それじたいは珍しい事柄ではないが、ひとりきりでこの世に生まれ落ちて、兄弟姉妹がいないだけでなく、もう誰の妹でもない。

    今回、わたしは人間の女の子どもだった。



     何が起こったのか分かりませんが、ねこは人間として生まれ変わりました。ねこは人間として、25年間幸せに育ちます。恋愛をして、結婚もしました。結婚して、ねこは専業主婦になりました。

     そんなある日、夫が生まれたての仔猫をもらい受けてきたのです。それが、全ての始まりでした。

    ネコ1野未歩子さんのねこ

     愛される兄ねこと、愛されない妹ねこ。愛されている方のお兄さんは、「100万回生きたねこ」を意識しているようです。いつもお兄さんばかりが愛され、自分の愛情を受け取ってもらえない妹のねこが加わったのが面白いですね。

     妹のねこが人間に生まれ変わった後、彼女のもとにやってきたねこもまた「トラ猫」でした。お兄さんと同じトラ猫だったんですね。本文にそのことは書いてありませんが、このことが最後の結末の伏線になっているのかもしれません。

    ネコ1ょうだいの功罪

     「兄弟姉妹がいる方がいいか、一人っ子がいいか」

     たぶん、永遠のテーマですね。どちらでもいい、ということは絶対にありません。兄弟姉妹がいるか一人っ子かによって、子どもの育ち方であったり人格形成であったり、そういったことが大きく変わってきます。私には兄弟姉妹がいますが、いたからよかったと思えることもあれば、そうではないこともあります。

     まずはよかったことから。話し相手ができること、遊び相手ができること、一人で留守番しなくていいこと、一緒の学校に通えて心強いこと。我慢したり、協力したり、許したり・・・そんな人間として大事な行為を学べたこと。そして、たくさんけんかができたこと。

     自分に兄弟姉妹がいたからかもそう思うのかもしれませんが、私はいる方がよいと思います。兄弟姉妹というのは特別な存在で、仲の良い友達とは違うし、同じ家族でも自分の親とはまた違うのです。どんな存在か言葉にするのが難しいですが、すごく心強くて、自分を支えてくれる存在だと思います。一人っ子だったらこれが得られなかった・・・そう考えると、やっぱりいてよかったし、いたことに感謝しています。

     兄弟姉妹をたっぷり上げておいたところで、次は悪いところです。これはたぶん、ある程度絞られてくるのではないか、と思います。「比べられるところ」、そして「比べてしまうところ」です。

    a0002_010096.jpg

     「お兄さん(お姉さん)だからがまんしなさい」。親が子どもに言ってはいけないセリフのベスト3に間違いなく入ると思います。この言葉を聞かされるたびに、間違いなく子どもは歪みます。他にも、弟や妹ができて自分に愛情が向かなくなった、であったり、親から他のきょうだいと比較される、であったり・・・。

     親から言われなくても、自分の中で比較してしまうということもあります。テストの点数、運動神経などなど、あらゆることを比較し、時に劣等感を抱いてしまうのです。このあたりは、兄弟姉妹のいる方だったら理解していただけると思います。

     人生において間違いなくかけがえのない存在を得られたのだけど、兄弟姉妹がいるということはそれだけ「歪み」のリスクもあるということで、そのあたりで一人っ子とどちらがいいのかとても難しいのです。

     このねこは、良い面と悪い面のあるうち、後者だけを一身に背負ってしまったようでした。常に愛されるのはお兄さん。そのうえそのお兄さんからは無視され、いじめられ続けたのです。

     愛されなかったものが、他者を愛せるか。いつもは中立的な言い方をすることが多いですが、この問いに関しては、私は「愛せない」と断言します。

     人間になったねこのもとに、生まれたばかりの仔猫がやってくるのです。人間になったとはいえ、生まれ変わる前はねこだった彼女。ねこのことはよく分かってしますし、懸命に愛そうとします。

    (引用)
    誰だって抱きあげずにはいられない。そういう魅力の猫なのだ。抱きあげて膝にのせる。撫でれば、ぬくい。愛しい。ぬくい。愛しい。ああ、わたしだけの猫。わたしだけの猫。そう思うのが、また快かった。



     生まれ変わる前、ねこはお兄さんに「憎い、うらめしい」と思っていました。生まれ変わった後、自分のもとにやってきたねこに対しては、「ぬくい、愛しい」、そう思っています。正反対の気持ちを、人間になることによって手にいれた、そういう風にも見えます。

     でも私は、やはりこのねこの気持ちが本当に愛だったとは思えませんでした。胸いっぱいに憎しみを抱き続け、常に愛に飢えていたねこが他人のことを愛することができるでしょうか。このねこには申し訳ないのですが、どれだけ頑張ったところで無理だったと思います。愛されなかった、ということの傷は、それだけ深いのです。

     ねこが懸命に愛そうとしているところは、本当は愛ではなく「愛もどきの何か」。読んでいる途中から、心の中でそのことに勘付いてしまいました。だから、ラストには納得しました。最高に後味が悪い終わり方ですが、たぶんこの話にはこの終わり方なのだという、そんな奇妙な説得力のある終わり方だったと思います。

    100mann-8.png
    匹目のねこ~私のつぶやき~

    どれだけ愛されたか、どれだけ自分の愛が受け入れられたか。その違いによって、人間は恐ろしいほどに変わってしまう。

    兄弟姉妹はたくさんの愛を教えてくれる存在にもなれば、愛を憎しみに変える存在にもなる。たまに憎らしくなることもあるけれど、世界中で自分の兄弟姉妹はここにしかないんだ、そう思って、決して愛を忘れないようにしたいと思います。





    オワリ

     追記に白文字ネタバレがあるので、この話を読む予定がないという方はぜひ見てもらえたらと思います。相当に後味が悪いですが、深読みすると別の見方も見えてきて考えてしまいます。

    特集 100万分の1回のねこ


    ネタバレ

     白文字ネタバレです。ドラッグやメモ帳にコピペなどの方法で見ることができます。ネタバレを知りたくないという方は飛ばしてくださいね。

     「猫はだれかにやらないと」、人間に生まれ変わったねこは、夫にそう言われました。夫は猫の存在を快く思っていませんでした。夫は本気で猫を排除しようとしている、と彼女は感じ取ったのです。そして、彼女は夫に絶対服従でした。
     
     ある日、彼女は猫を檻に押し込め、車を走らせました。着いた先は朽ち果てたボート乗り場です。彼女は、檻から猫を出し、逃げようとする猫の首の皮をつまみあげました。そして、力の限り、水面に向かって放り投げたのです。猫は水面に落ちていきました。彼女は車に戻り、家に帰りました。
    (ここまで)
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    唯野未歩子,



    •   20, 2015 01:00
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