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  • 100万分の1回のねこ 9匹目 「100万回殺したいハニー、スウィートダーリン」 山田詠美さん

     26, 2015 22:57
    100万分の1回のねこ
    100万分の1回のねこ
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    谷川 俊太郎 山田 詠美 江國 香織 岩瀬 成子 くどう なおこ 井上 荒野 角田 光代 町田 康 今江 祥智 唯野 未歩子 綿矢 りさ 川上 弘美 広瀬 弦
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    したいほど、愛してた

     「100万分の1回のねこ」、第9回は山田詠美さんです。山田さんの作品を読むのは初めてですが、芥川賞の選評の毒々しい文章が強烈に心に残っていて、初めて読むという感じがしない作家さんです。

     芥川賞の選評のように、異常にアクが強い、毒々しい作品になるのでしょうか。「100万回殺したいハニー、スウィートダーリン」、タイトルを見た時点で、そのような作品になることは予想がついてしまいそうですね。



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    「100万回殺したいハニー、スウィートダーリン」 山田詠美

     殺したいほど愛している、そんな一見矛盾するような愛の形が、奇妙な説得力を帯びて伝わるお話です。山田詠美さんの「魔力」にすっかり惑わされてしまいます。

    あらすじ



    主人公の私は女のホステスです。私は、思いを寄せている美樹生というホストから絵本をもらいました。その絵本が、「100万回生きたねこ」です。私が絵本のページをめくる横で、美樹生はじっとそれを見つめています。

     私が涙を落として本を閉じた時、美樹生は「おれの女!」と言って私を抱きしめました。どうやら、本を読んで涙を流したことで私は美樹生のテストに合格したようです。

    「みんな、あの手この手を使って、どうにかして、おれに取り入ろうと思うのな。でも、ほとんどは相手にしてやんねえ。審美眼っていうの?おれのそれに引っ掛かった女だけに、この絵本を読ませてみる訳。外見をパスした女に課す試練ってやつね。この本で泣くか泣かないかで心の綺麗さをテストする」



     そんなわけで、私は美樹生の男になったのでした。ようやく大好きな男を手に入れた、そう思う私でしたが、事はそう簡単にはいきません。美樹生は私に暴力を振るいました。そして、美樹生には他にもたくさんの女がいました。「100万回生きたねこ」を読んで涙を流した女はたくさんいたのです。

     私に暴力をふるっておいて、美樹生はそのことを覚えていないようです。

    「それもミックがやったんだよ」
    「ほんと?ほんとにおれがやったの?」
    「うん」
    「ひでえ奴。おれ最低」



     暴力をふるわれ、他の女を作って遊ばれ・・・私は美樹生を殺したいほどに憎みました。それでも、私は美樹生と別れることはできませんでした。死んじゃえ、死んじゃ嫌、死んじゃえ、死んじゃ嫌・・・その繰り返しです。

     私が美樹生から離れられない理由は、彼が口にするある言葉にありました。

    「愛されて死んだもんは、幸せになるんだ」



    山田詠美さんのねこ



     作品に出てくるねこを紹介しているこのパートですが、この作品にはねこが登場しません。人間だけが登場する物語です。このような作品は意外に初めてでしょうか?本当に、いろいろなパターンがあります。

     そのかわり、絵本「100万回生きたねこ」が登場します。作品の序盤では、私目線から、この「100万回生きたねこ」の感想が語られるのです。私はこの絵本を読んで涙を流すのですが、単純に「愛」の素晴らしさに感動した、というわけではなさそうです。

    ページをめくりながら、私は、ねこを、とても羨ましく思った。誰も愛していないって、なんて気楽なんだろうと感じたから。私なんか、可愛がってくれた誰が死んでも悲しみのあまり病のようになった。



     誰も愛していないことは「気楽」であると私は感じるわけですが、ここはいろいろと考えさせられる箇所でした。愛することには「喜び」と「悲しみ」が伴っています。愛さないということは喜びも悲しみもないということで、それは確かに気楽なことです。

     悲しみのない気楽な状態がいいのか、悲しんでも欲しい喜びがあるから愛するのか。また愛について1つの問いを投げかけられたような気がします。この作品の私は最後まで壮絶な道を歩みます。愛に振り回され続けた人生です。それが幸せなことなのかどうかは、人によって感じることが違うのだと思います。

    ダメな奴ほど愛おしい


     
     私が愛した美樹生という男は、本当にどうしようもない男です。浮気と暴力・・・最低男の条件として東西の横綱に君臨していそうな2つです。しかし、浮気をされても暴力を振られても私は彼を切ることができません。

     そんな男は「くず」じゃないの・・・という指摘を友人から受けるのですが、それでも私は彼をかばいます。

    くずだよ。そう口に出して言いたかったけれど、美樹生の名誉のためにこらえた。確かにあの人はくずかもしれない。でも、私が好きなくずというのも、この世には存在する。星くず、とか、藻くず、とか。そういうもののひとつに数えられる。それが、私の男。



     くずだと分かっているのに、愛することをやめられないのです。死んでほしいほど憎いのに、愛することをやめられないのです。一見おかしな話ですが、私は妙にリアリティーを感じてしまいました。「愛情」と「愛憎」はたいして違わないのかもしれません。

     
    すれ違う背中を
    すれ違う背中を
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    乃南 アサ
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     何か既視感があるな、と思っていたのですが、7月に読んだ乃南アサさんの「すれ違う背中を」という本がその正体のようです。この本の最後に、彼女のような女性が出てきました。夫に暴力を振るわれ続け、一度は逃げてきたのにまた夫のもとに戻っていったのです。そして、最後は夫の犯罪に手を貸して夫と一緒に逮捕されていたような気がします。

     「どうしてそんな男についていくの!?」と開いた口が塞がらなかったことを覚えています。でも、彼女が夫を捨てられないのは、夫には彼女にとって魅力的な「何か」があったからだと思います。それが何かは彼女本人しか分からないことです。「ダメな人間なのに愛してしまう」というのは不思議なことですが、それもきっと、たくさんある愛の中の一種なのだと思います。

    a0002_004829.jpg

     さて、山田詠美さんの作品に戻ります。この本の私がダメ男を愛し続けたのにも同じように男に魅力的な「何か」があったからです。それが何なのか、小説の中で示唆されている部分があります。それが、あらすじの最後に書いた、「愛されて死んだもんは、幸せになるんだ」という彼のセリフです。

     死んだ自分の母親は死んだら何になるのか。そう尋ねる私に、美樹生はこう答えます。

    「死んだら、母ちゃんは母ちゃんのままじゃないんだよ」
    「そうなの?ミック、そうなの?だったら、何になると言うの?」

    「幸せな空気とかになるんだよ!」



     彼女に体中に痣が残るくらい暴力を振るっておいて、平気で何人もの女に手を出しておいて・・・そんな彼が言ったセリフです。このセリフを見ると、私がどうしても彼と別れることができないわけが分かるような気がします。彼は、人として最低なようで、人にとって最もかけがえのない気持ちも持っている、そんな不思議な人物でした。

     愛されて死んだものは幸せになる。そう言いながら、彼は自分の隣にいる彼女を傷付け続けます。もう何が何だか分かりませんでした。もしかしたら、彼は愛情の表現の仕方を知らなかったのかもしれません。決して許されることではないですが、暴力を振るうことが彼にとっての愛情表現だったのかもしれません。

     初めて読んだ山田詠美さんの作品ですが、期待していた以上に毒々しく、一筋縄ではいかないという感じがしました。ですが、このような常識が全く通用しない小説が、私はけっこう好きです。

    100mann-9.png
    匹目のねこ~私のつぶやき~ 

    愛と憎しみとは、実は同じなのでしょうか?

    死んでほしい、死んじゃ嫌。そんな叫びを繰り返す主人公。100万回も死んでほしいと憎まれた男は、裏を返せば100万回生き返ってほしいと愛された男だったという、そんな奇妙なお話です。



    ※ 追記に白文字のネタバレがあります。



    オワリ

     このコーナーは残り4回になります。本のリンクに名前が出ているのでもう隠しておく必要もないと思うのですが、この本の最後を飾っているのは詩人の谷川俊太郎さんです。最終回が楽しみですね。

    特集 100万分の1回のねこ
     13回シリーズなんて無茶なことをしたなあ・・・としみじみと思っています。8月の終わりから始めて、10月の上旬まで続きそうなずいぶん大がかりな特集になりました。
     
    追記

    ネタバレ

     白文字ネタバレです。ドラッグやメモ帳にコピペなどの方法で見ることができます。ネタバレを知りたくないという方は飛ばしてくださいね。

    ★ 美樹生は路上で死体となって発見されました。誰かに殺されたようですが、恨みを持つ人間が多すぎて誰に殺されたのかは分かりませんでした。

     死んでくれ死んでくれと恨み続けていた私は、悲しみに明け暮れます。「百万回殺したいと思う方が、一回死なれるよりも、はるかにましだ」私は自分がそのことを本当は知っていたのだと、彼が死んで気付くのです。
    (ここまで)
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    小説, 山田詠美,



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