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美しくあるべきか -『武士道』 新渡戸稲造

 31, 2015 23:35
 今日のブックレビューは、新渡戸稲造「武士道」をご紹介します。すうっと背が伸びるような、緊張感が走る文章でした。ただ、全面的に肯定できるかと言われたら、そうではない部分もあったかもしれません。それでは、以下、「武士道」のレビューです。

武士道 (岩波文庫 青118-1)
新渡戸 稲造
岩波書店
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溢れる知性と誇り



 武士道は、新渡戸稲造が1900年に著した思想書です。日本の土壌で育まれてきた精神、すなわち「武士道」について考察しています。

 特徴は、高潔で知性と誇りに溢れる文体です。引用や引き合いに出される表現は豪華絢爛です。たとえば伊達政宗、吉田松陰から上杉謙信、さらにはソクラテスにシェイクスピアから孔子、孟子まで! いくつか名前を出してみましたが、その豪華さが伝わるかと思います。古今東西の偉人、名言を存分に詰め込んだ教科書のような1冊です。そして、そんな豪華な引用に気圧されることなく、新渡戸の文体にも高潔さが漂います。たとえば冒頭の文。

武士道はその表微たる桜花と同じく、日本の土地に固有の花である。(中略)それは今なお我々の間における力と美との活ける対象である。



 武士道を桜の花にたとえています。思わず嘆息しました。「美しい文」とはこういう文のことをいうのでしょうね。

命と隣り合わせ



 全体的に見れば、その思想の深さと論理の明快さで名著で間違いないと思います。ただ、何か所かこちらが気圧されるというか、考え込んでしまう箇所がありました。それは、「死」が絡んでくる箇所です。

 例えば、名誉について書かれた第8章。世間的賞賛を浴びる名誉は至高善である、として貴ばれています。そして、こんな記述が。

もし名誉と名声が得られるならば、生命そのものさえも廉価と考えられた。それ故に生命よりも高価であると考えられる事が起れば、極度の平静と迅速とをもって生命を棄てたのである。



ん、ん、ん・・・・。

 第12章は自殺や仇討について。切腹の様子がまざまざと描かれており、その緊張感に思わず息を飲みます。血が吹きばしる様子、静寂の中で落ちる首・・・そんな凄惨な死にざまなのですが、新渡戸は切腹を高貴な死であると評価するのです。ガースのこんな歌を引用しています。

名誉の失われし時は死こそ救いなれ、死は恥辱よりの確実なる避け所



ん、ん、ん・・・・。

 ページをめくる手が止まります。武士が潔く、名誉を重んじ、屈辱を恥じる生き方ができた原因は、その懐に携えていた刀にあります。「命」という究極の方法で、穢れた生き方を断ち切ろうとしたのです。ここまで読んでくださった皆さん、この考えにどこまで共感しますか?

 おそらく、日本人は多少共感する部分があるかと思います。先週から緊張が続いているイスラム国による日本人人質事件で、某有名人がこんなコメントをしました。

 「被害者は自らの行為で多大な迷惑をかけた。自決すべきである」
 まさに、といった感じの日本人的考えです。そして、このコメントに対するリアクションに多いのが、「そういったことを有名人が言ってはいけないが、本質はそうである」というもの。 

ん、ん、ん・・・・。
どうなのでしょうね?

やむにやまれぬ大和魂



かくすれば かくなるものと 知りながら やむにやまれぬ大和魂

 吉田松陰が処刑される前日に詠んだ歌です。新渡戸も引用しています。「大和魂」これは日本人が背負う宿命なのだと思います。人情や、義理、名誉を重んじ、恥を徹底的に嫌う。誇るべき精神です。ずっとそんな精神を持っていたい。 

 だけど、違いますよね。変な同調圧力で、失敗した人を徹底的に叩きのめすことは。

 責任を、命をもって償えということは。

 「武士道」を読み違えないようにしたいのです。
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