HOME > エンターテイメント > title - 夢はロケットを飛ばすか -『下町ロケット』 池井戸潤

夢はロケットを飛ばすか -『下町ロケット』 池井戸潤

 30, 2015 23:19
1443605411087.jpg

さな町工場の夢は、無限に広がる空へ―

 「下町ロケット」は、2011年に直木賞を受賞した池井戸潤さんの代表作です。すでにテレビとラジオでドラマ化されていましたが、2015年10月クールからはTBSの「日曜劇場」で再びドラマ化されるそうです。全10回のドラマの後半は、「下町ロケット2」として池井戸さんが書き下ろす新作パートになります。朝日新聞での連載とドラマが同時進行になるということで、大変面白い試みだと思います。

 今日紹介するのはそんな「下町ロケット」の原作本です。ドラマでは前半5回にあたる部分ということになります。私は池井戸潤さんの本を読むのはこれが6冊目になりますが、「絶対の代表作」との評判通り、大変素晴らしい作品でした。今日はいつもより内容を拡大して、「下町ロケット」のレビューをたっぷりとお届けします。
(※ 追記に白文字のネタバレがあります)



はじめに 池井戸作品の魅力



ikeido-intro.png

 文庫本の解説は、文芸評論家の村上貴史さんが書いておられます。最後は「絶対の代表作」と力強く締めくくっておられました。

 村上さんは池井戸潤さんの他の作品の紹介もふんだんに紹介しておられるのですが、それを読んでいるとこの「下町ロケット」は池井戸作品の魅力を余すところなく詰め込んだ作品だと感じます。「絶対の代表作」という触れ込みには納得させられるものがあります。

 そんな池井戸作品の魅力を、私なりに4つにまとめてみました。「分かりやすい対立軸」「まっすぐなメッセージ」といった要素が、多くの人の心を掴み、これまで話題になったドラマのヒットにもつながっているのではないかと思います。また、企業や銀行を舞台にした「骨太なエンターテイメント」であること、そしてたっぷりと描かれる「人間ドラマ」は小説に読みごたえを、ドラマには見ごたえを生み出します。

 これら4つの魅力を結集したような「下町ロケット」。今日は上に挙げた4つのキーワードを絡めながら、「下町ロケット」を紹介していきます。

苦難と逆境の連続



 物語は、大きな挫折から始まります。ロケットの打ち上げ失敗です。この物語の主人公でロケット打ち上げに関わった研究者、佃航平(つくだこうへい)は、失敗の責任をとらされて職を追われます。

 佃の第二の人生は、下町の小さな町工場で始まります。彼は父親の職を継ぎ、「佃製作所」の社長となりました。風が吹けば飛ぶような、小さな町工場。しかし、そこでも佃の「夢とプライド」のスケールは以前と変わりません。

 

「オレはさ、ウチの社長はなかなかオモシロイと思ってるわけだよ。あの年になってもやりたいことがあって、まだそれを諦めていなくて、それに向かって純粋に努力してるわけさ。そのバカなところがウチのいいところじゃん。それを応援してやろうと思わないのかよ」



 ある社員のセリフを引用しましたが、彼の人柄がよく伝わってくる箇所です。「夢」そして「プライド」、何度も繰り返されるその言葉は、最後は小さな町工場に大きな成功をもたらすことになります。

a0002_005376.jpg

 とはいえ、夢とプライドで渡り歩けるほど、世の中は甘くありません。池井戸作品の魅力の1つ、「分かりやすい対決軸」は今回も健在です。小さな町工場の力には限界があります。それでも、佃は様々な苦難に立ち向かっていくのでした。相手にするのは巨大な企業ばかり・・・まるでアリがゾウに挑むような、無謀な挑戦ばかりです。

 対決するのは、3つの企業になるのでしょうか。

①京浜マシナリー・・・突然の「取引中止」で資金繰りのピンチに
②ナカシマ工業・・・特許侵害で訴訟を起こされ、訴訟が長引けば会社が行き倒れるピンチに

③帝国重工・・・特許を売るか、自分たちで部品を作るか。会社の内部でも大きな対立が巻き起こる、運命の決断。

 特に最後の帝国重工との対決がメインとなります。特許を売ってしまえば、確実にお金になる―しかし佃は、研究者として、「ロケットの部品を自分たちで作りたい」という夢を捨てられずにいました。変わらない研究者としての魂。しかし社長として、社員やその家族を支えていかなければいかないという立場。彼はどんな決断を下すのでしょうか。

 敵となる大企業が設定されてはいるのですが、彼らが単なる「悪」ではないという点が話を面白くしています。文庫本の解説で村上さんが指摘されていますが、彼らには彼らの本音があって、彼らなりの譲れないものがあります。譲れない者どうしの「がっぷり四つ」。人間をしっかりと描いているからこそ見られる、「人間ドラマ」の様相も胸を熱くします。

思いは人を動かす



 この作品に厚みを増しているのが、「研究者と経営者の立場で揺れ動く佃の葛藤」、そして、「工場内での反発」ではないでしょうか。 工場の人々が皆心を一つに大企業に立ち向かっていくのならもう少し単純な話になったかもしれませんが、この作品では工場内でも様々な反発と対立が巻き起こります。

 佃は元研究員で、「技術を開発する」ということに使命とプライドを燃やします。しかし、彼の今の立場は社長です。彼に求められるのは「会社と社員を守ること」、もっと言えば「お金をもうけること」です。それは研究員としてのプライドとは全く相容れないもので、彼は壁にぶち当たります。

 

「カネの問題じゃない」佃は断言した。
「これはエンジン・メーカーとしての、夢とプライドの問題だ」



 力強い言葉ですが、その分社員たちとの溝も深くなります。社員の中では、裏切りを働いた者もいました。社長である佃の思いが社員たちにも伝わり、工場が団結し始めるのは物語も終盤にさしかかってきてから。長い道のりです。

a1130_000420.jpg

 物語の中にいくつの苦難や困難があったか指折りで数えていたのですが、途中で分からなくなってしまいました。それほどたくさんの苦難や困難があったということです。壮大な物語を読み終えて気分は、まるで登山でもしたかのよう。「骨太エンターテイメント」の色合いはこの作品でもかなり強くて、私がこれまでに読んだ作品の中では「空飛ぶタイヤ」と並ぶくらいの読みごたえがありました。

 登山を例えに出しましたが、山を登り終えた後の景色は格別です。この作品も、様々な苦難を乗り越えたからこその最高に気持ちの良い終わりが待っていました。

「ご苦労さん」
佃は胸に熱いものが込み上げた。「頼んだぞ、みんな。それと―ポスター、ありがとな」



 終盤に差しかかるあたりの場面です。ある出来事から、社員たちの心に火が付きました。このあと、皆の思いが一体となって帝国重工への「逆襲」が始まります。このあたりは読んでいて一番気持ちのよい場面でした。

夢にまっすぐ



 大企業の対決というのは他の作品にもあるのですが、今回はそこにロケットの部品開発、つまり「宇宙」まで絡んできて、これまでにないスケールの大きさです。小さな町工場が「夢とプライド」で作った部品が、宇宙へロケットを飛ばす―なんと熱く、壮大な物語でしょうか。

 そんなスケールの大きな話に、「医療」まで絡んできます。どうやら池井戸さんが書き下ろすオリジナルスト―リーはこの「医療」を軸にしたものになるようです。確かにこの作品の終わりには、そのことを示唆する部分がありました。こんな壮大な物語からさらに話が広がっていくということで、期待が広がります。新聞連載と同時進行(※11月下旬ごろから同時進行になるそうです)というのも、あまり類を見ないスタイルで期待を膨らませます。

 さて、最初に挙げた池井戸作品4つの魅力、最後に遺しておいたのは「まっすぐなメッセージ」です。他の方の小説と比べると、池井戸潤さんの小説はストライクコースど真ん中の直球という感じがします。ど真ん中に投げ込まれるボール、そしてキャッチャーミットにボールが収まる快音・・・なるほど、読んでいて、そしてドラマを見ていて気持ちが良いわけです。

「お前ら、夢あるか」
「オレにはある。自分で作ったエンジンで、ロケットを飛ばすことだ」



 下町の小さな工場にある夢は、宇宙へとロケットを飛ばすのでしょうか。胸が熱くなる巨編に注目です。

レコメンド

かれる夢が胸を突き動かす、作者のすべてが詰まった代表作

 作者の池井戸さんはよく「読者の皆さんがスカッとしていただけたら」といったようなコメントを残されるのですが、池井戸さんの作品は本当に意図通りに仕上がっていて、小説に「池井戸潤」という1つのジャンルを確立されたと思います。



オワリ

「下町ロケット」ドラマ化 朝日新聞広告面で続編連載へ
 冒頭で触れたとおり、10月から朝日新聞の方で続編の連載が始まるそうで、そちらの続編がドラマと連動するとのことです。こちらは詳細記事になります。

「オレたちバブル入行組」  池井戸潤さん
 「半沢直樹」シリーズの1作目です。「下町ロケット」と比べると、こちらは「悪」がよりはっきりと描かれているということと、主人公が「スーパーヒーロー」として描かれていることが特徴的です。



(追記)

ネタバレ

 白文字ネタバレです。ドラッグやメモ帳にコピペなどの方法で見ることができます。ネタバレを知りたくないという方は飛ばしてくださいね。どうやら小説の終わりでは、後編につながる大事な場面があったようです。

★ 帝国重工は佃製作所に厳しいテストを課しましたが、財前や水原の決断もあり、部品の提供は認められることになりました。最後は燃焼実験が失敗して肝を冷やすのですが、それはなんと帝国重工側の製品に不具合があったことが原因でした。
 部品提供が決まった後、佃のもとに元所員の真野からメールが届きます。真野は背信行為を働いて会社を去っていたのですが、佃は真野のために、大学の研究所の職員としての仕事を斡旋していたのでした。真野からの報告は、佃製作所のバルブシステムの技術が、「人工心臓」にも応用できそうだというもの。人工心臓を待つたくさんの患者のために―新たな挑戦が始まります。
(ここまで)
スポンサーサイト
小説, 池井戸潤,



  •   30, 2015 23:19