HOME > スペシャル > title - 100万分の1回のねこ 11匹目 「幕間」 川上弘美さん

100万分の1回のねこ 11匹目 「幕間」 川上弘美さん

 16, 2015 23:27
100万分の1回のねこ
100万分の1回のねこ
posted with amazlet at 15.10.16
谷川 俊太郎 山田 詠美 江國 香織 岩瀬 成子 くどう なおこ 井上 荒野 角田 光代 町田 康 今江 祥智 唯野 未歩子 綿矢 りさ 川上 弘美 広瀬 弦
講談社
売り上げランキング: 1,616


さかの「ドラクエ小説」!?

 ドラゴンクエスト。

 「100万分の1回のねこ」、第11回です。今回は川上弘美さんの小説ですが、この小説、どうやらテーマは「ドラゴンクエスト」なのだそうです。えっ…という感じですね。この本は絵本「100万回生きたねこ」にささげる短編集ですが、どこからどういう発想で「ドラゴンクエスト」が出てきたのでしょうか??

 私はゲームをしないので、この作品の世界観がさっぱり分かりませんでした。「ドラクエ」も、名前を知っているくらいです。本の中に出てくる小説をすべて紹介する、と最初に言ったものの、こういう奇妙な小説が出てきてしまい戸惑っています。どんなレビューになるか分かりませんが、とにかく「ドラクエ小説」を見ていくことにしましょう。




「幕間」 川上弘美さん

 ロールプレイングゲームの中に、「100万回生きたねこ」が迷いこみました。ゲームの中にいたのは、何度でも生まれ変わる男の子で・・・。

あらすじ



 船の上に男の子と父親がいます。2人の視線の先には、1匹のトラ猫がいました。実はこのトラ猫、新しく生まれてきても前世の記憶があるトラ猫でした。

今まで百万回近く死んで来た。そして、百万回近く、生まれた。死ぬ瞬間の、あのなんともいえない、いやあな感じにも、ずいぶん慣れた。ふたたび生まれる瞬間の、あの苦しさにも。

生まれるのと死ぬのと、どちらがましかといえば、まあ、ちょぼちょぼといったところだろうか。



 猫の生涯は人間より短いので、これまで猫は、常に飼い主より先に死んでしまいました。そして、自分が死んで涙を流す飼い主の姿を見続けてきたのです。ところが今回、猫にとって初めてのことが起こりました。そう、自分より飼い主が先に死んでしまったのです。

自信たっぷりに、男の子は洞窟の奥へと進んだ。緑色の、とげとげしたものが、突然あらわれた。

「あっ、モンスター」男の子は叫んだ。緑色のモンスターは、激しい攻撃をしかけてきた。男の子はあっけなく倒れ、そして死んだ。

呆然とした。飼い主が自分より早く死ぬなんて、初めてのことだった。



a0011_000179.jpg

 男の子がモンスターに倒され、気が付くと猫の周りは真っ暗でした。自分もモンスターにやられたのか、そう思った猫でしたが、そうではなかったのです。男の子と猫がいた場所は教会でした。

「ちくしょう」男の子の声が聞こえた。目を開けると、そこは教会だった。男の子の傷はすっかり癒え、ほこりまみれだった服も、いくぶんかきれいになっていた。

「ちぇっ、しょうがない、今日のところはあきらめて家に帰るか」男の子は、かろやかに走り出した。



 猫はびっくりします。自分と同じように、人間も死んだら生まれ変わるのか!しかも驚いたことに、男の子は死ぬ前と全く変わらぬ姿で生まれ変わるのです。猫が生まれ変わる時は、いつも違う猫になって生まれ変わってきました。人間は、何度も同じ姿で生まれ変わることができるのでしょうか・・・?猫は思案を巡らせます。

川上弘美さんのねこ



  あらすじを読んでいただいたら分かると思います。「100万回生きたねこ」と、ロールプレイングゲームの世界観が見事に融合しています。そして、「ゲームの中では人が何度でも生まれ変わることができる」という設定が上手く使われているのですね。たしかに、ゲームの中で生まれ変わる人間と、何度も生まれ変わる「100万回生きたねこ」には共通するところがあります。つながりはこんなところにあったのでした。

 川上弘美さんは、「ドラゴンクエスト」が大好きなようです。こんな文章を書かれています。

持っていたプレイステーションが壊れてしまって以来、できなくなっていたドラクエのアプリを買い求め、数年ぶりにドラクエをおこなう。(中略)

三月某日 晴

 引き続き、ドラクエ実施中。

 すべての原稿がとどこおっているが、しかたない、K田さまの摂理なのである。

三月某日 晴

 いちにち、ドラクエ。

三月某日 晴
 
 いちにち、ドラクエ。(…以下省略)


 東京日記 第169回「節理。」 (平凡社)

 「いちにち、ドラクエ」を延々と繰り返しておられた川上弘美さん。しばらくたって、ようやくドラクエをやめたそうです。クリアしたから 笑。私はまったく分からないので申し訳ないのですが、それくらい夢中になれるゲームなのでしょう。こんなにドラクエに熱中していたら、小説のテーマとして選んでしまうことにも納得です。

スクリーンショット (2)
(公式サイトのスクリーンショット)

 この話には「ドラクエ」の要素がいろいろ散りばめらているようですが、何度も言っている通り、私にはさっぱり分かりませんでした。ネットで断片的に集めた情報によると、この小説は、ドラクエに何作もシリーズがあるうちの「ドラクエⅤ」がモチーフになっていて、そこには「猫」が登場するとかなんとか…。

 丁寧に書いてある攻略サイトのようなところもあったのですが、暗号でも読んでいる感じで全く頭に入ってきませんでした。こればかりは仕方ないですね。何も知らないドラクエの話はこれくらいにしておきましょう。

ゲームの中の死



 上にも書いたように、この話で生かされているのは、「ゲームの中の登場人物が、死んでもまた生まれ変わる」という設定です。ゲームをよくやられる方だったら、違和感なく受け入れている設定だと思います。ですが、私のような人間はこういう設定を知ると頭の中が「?」でいっぱいになります。

 死んだのに、元の姿でまた生まれ変わる?
 何度でも、制限なく?

 よくよく考えてみると、おかしなことではありませんか?現実の世界ではありえないことです。ゲームの世界において、「死」とは一体何なのでしょう?死ぬというより、力を失って倒れてまた復活するという感じなのでしょうか?このあたり、とんちんかんなことを言っていたら申し訳ないです。でも、ボタン一つで復活できちゃうなんて、おかしな世界観だなとは思います。

 ゲームの中の男の子は、何度も復活させられて、戦い続けていくわけです。男の子の中に葛藤が生まれます。

私は、この先どうなるんだろう。
ずっと戦い続けていくのよ。
戦い続けて、その先はどうなるんだ。
もっと強い敵が出てくるんじゃない。
かなわないくらい強い敵が出てきたら、私は今度こそほんとうに死ねるのかな。
ほんとうに死ぬって、どういう意味?
もう生き返らないってことだよ。



 実際のゲームの中の人物には感情などありません。でも、このあたりが妙にリアルで、哀愁を誘うのです。ゲームの中で、彼らは何度も何度も復活を繰り返します。世界中のいたるところで、昨日も今日も明日も・・・。今まで何回生まれ変わってきたのでしょうか。きっと、「100万回生きたねこ」よりも多い回数でしょう。

 ゲームが好きな人も、一度考えてみるといいかもしれませんよ。永遠に復活させ続けられる人物の気持ち・・・。

a0001_001797.jpg

 最後、猫に死ぬ瞬間がやってきます。猫は死んでまた別の人生を歩むことができるのですが、男の子は永遠に死ぬことができません。

「おまえも、行ってしまうんだね」
男の子にも、おれの死が近いことがわかったのだ。男の子は、ほんの少しだけほほえんだ。みんな、行ってしまうよ。でも私は、ここに残るんだ。しかたないね。



 男の子はこうやって、他の人が死ぬのを見送りつづけるのでしょうか。自分は一生見送られることはありません。生まれ変わりつづけて、モンスターを斬り続けるのでしょうか。なんだか、男の子の背中にどうしようもない悲しみを見ました。

 ゲームの話なんだから、などと言われるとそれまでですが、この男の子の悲しみは、「100万回生きたねこ」という絵本に、また1つ新たな光を当ててくれました。

11匹目のねこ~私のつぶやき~

「ドラクエ小説」、意外と深いぞ

ゲームの中で生き続ける人物と「100万回生きたねこ」を交流させたのが素晴らしいアイディアです。永遠に生き続けなくちゃいけないということの残酷さに気付きます。

 



オワリ

 この作品を読んで改めて思ったのですが、この「100万分の1回のねこ」という本の可能性は無限大です。1冊の絵本から、どこまでも想像が広がっていく。1冊の絵本がまさかの「ドラクエ」に・・・。もう、最高に面白いです。

特集 100万分の1回のねこ

 ラスト2人はこの絵本にとって特別な2人、広瀬弦さんと谷川俊太郎さんが登場です。何が特別なのかは、記事でお話ししましょう。


 
スポンサーサイト

小説, 川上弘美,



  •   16, 2015 23:27