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100万分の1回のねこ 12匹目 「博士とねこ」 広瀬弦さん

 19, 2015 18:44
100万分の1回のねこ
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えるだけの愛は

 この特集も残り2回になりました。これまで有名な作家の作品をたくさん紹介してきたのですが、最後に残った2人はそれらの方々とは違う特別な存在です。最後を飾るのは、絵本「100万回生きたねこ」の作者、佐野洋子さんの「息子」と「元夫」です。これまでのように佐野さんのファンの作家が書くのではなく、佐野さんのことをもっともよく知るであろう「息子」と「元夫」が書く小説がこの本を締めくくります。

 まずは佐野洋子さんの息子、広瀬弦さんです。広瀬さんは佐野さんの最初の夫の息子だそうです(元夫である谷川俊太郎さんの息子ではありません。ですが、広瀬さんと谷川さんは交流があります)。母親が残した名作絵本に、広瀬さんはどのような物語をささげたのでしょうか。



士とねこ 広瀬弦

 科学者の博士はねこを懸命に愛しました。与えられるものは全て与えました。でも、何かが足りなかったのです。「何かが足りない愛」とは、いったい何なのでしょう。

あらすじ



 科学者の博士がいました。そして、博士はねこを飼っていました。博士は毎日研究室に閉じこもって誰とも話をしませんでしたが、ねこだけは特別でした。

 博士は実験がうまくいくと、「おまえのおかげだよ」とねこにいい、失敗すると、「なぐさめておくれ」といって毎日ねこを撫でました。
 そして夜になると、ねこと一緒にベッドに入り眠りました。



 博士はねこのことを懸命に愛したのでした。そして、ねこの体に調子がわるいところが見つかると、代わりの器官を作ってねこに与えてやりました。ねこが車に轢かれて後ろ足を失った時には代わりの後ろ足を、ねこの腎臓が小さくなってしまった時は代わりの腎臓を、ねこの目が悪くなった時は代わりの目を・・・。

「いつまでも元気でいておくれ」
博士はねこを見ていると自分も元気になりました。



 ねこはいつも「新品」のようにぴかぴかでした。博士は猫を可愛がり続けたのですが、その日は突然やってきたのです。

ある日、いつものように博士がねこを撫でていると、ねこは突然動かなくなりました。



広瀬弦さんのねこ



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 広瀬弦さんは画家で、絵本の絵や挿絵をたくさん書いておられます。広瀬さんが絵を描かれた作品を2つ挙げてみました。冒頭にも書いたように、広瀬さんは佐野洋子さんの息子です。母である佐野洋子さんと絵本で共作を生み出しておられます。

 そして、広瀬さんは佐野さんの元夫である谷川俊太郎さんとも交流があって、絵本で共作をされているんですね。母親、息子、元夫・・・なかなか珍しい関係だと思います。ですが、きっと佐野さんと谷川さんと広瀬さんだけが共有できる空間というものがあるのでしょう。絵本の表紙を見ながらそういった3人の世界を思い浮かべずにはいられません。

 ちなみに広瀬さんは、お二人のほかにも工藤直子さんやあまんきみこさん、まどみちおさんの文章にも絵を描いておられます。佐野洋子さん、谷川俊太郎さん、工藤直子さん、あまんきみこさん、まどみちおさん・・・圧倒されるくらいの豪華なメンバーですね。それだけ広瀬さんの絵が評価されているということだと思います。

 そんな広瀬さん、この「100万分の1回のねこ」という本では挿絵を担当されています。本のいたるところに素敵なトラ猫の絵が描かれているのです。

 広瀬さんの挿絵や絵本の表紙を見ると、「繊細な絵を描かれる方だな」という印象があります。そして、その繊細という印象は物語でも同じでした。とてもシンプルなのですが、そこに詰まった繊細さがいろいろなことを感じさせる物語になっています。

何かが足りない愛



 この本には「愛」という大きなテーマがあります。この小説にたどり着くまで、愛というテーマが奥底に流れた11の作品を読んできました。包み込むような温かい愛があれば残酷で胸が張り裂けるような愛もあり、本当にいろいろな愛を見てきたなあと思います。愛というテーマにはすっかりお腹いっぱいになりました。

 この小説もやはり愛がテーマになっているのですが、博士の愛には「何かが足りない」という物足りなさを感じさせるのです。博士は間違いなくねこのことを愛していましたし、ねこのために足や腎臓や目を取り替えていつまでも元気でいられるようにしてあげていたのです。

 ですが、ねこは死んでしまいました。博士の愛には物足りなさがありましたから、ねこが死んでしまうというのは私にとってどこか納得のいく結末でした。では、博士の愛は何がどう物足りなかったというのでしょう。

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 物足りなさを言葉にするのは難しいですが、おそらく「与えるだけの愛」というのがその正体ではないでしょうか。博士は、ねこに新しい足や新しい腎臓や新しい目を与え続けます。

博士は嬉しくて、ねこに「おまえのおかげだよ」といって、仲良くなった近所の魚屋で新鮮な魚を買ってきてねこに食べさせ、いつもよりたくさん撫でました。



 ねこが元気になったら魚を買ってきてやって、そして猫を撫でてやっています。ここでも与え続けていますね。与えて、与えて、与えまくっています。博士が猫を想う気持ちは痛いほど伝わってくるのですが、やはりただひたすらに「与える」だけの博士の愛し方にはどこか「物足りなさ」を感じてしまいます。

 すごく残酷なことを言えば、博士の愛は「一方通行」だったのかもしれませんね。そして、一方的に与えるだけでは愛にはならないのかもしれませんね。

 博士はずっと研究室に閉じこもっていて、ねこ以外とは全く交流がありませんでした。そんな博士ですから、おそらく「愛」というものが分からなかったのだと思います。愛というのは人生の中でいろいろな人と出会い、いろいろな経験をしていく中で育まれていくものだと思います。残念ながら、研究室で閉じこもり続けた人生に愛を見出すということは不可能だったのかもしれません。

 愛が何であるか分からないから、博士はひたすら「与え続ける」という道を選びました。そうすることしか思いつかなかったのだと思います。

 博士の愛は「本物の愛」にはならなかったけれど、彼が「愛そうとしたこと」は間違いなく事実です。愛そうとしたけれど、愛にはならなかった-胸が締め付けられるような話ですね。広瀬弦さんの書く繊細な文章が、作品のテーマをいっそう引き立てて、悲しい余韻を残す作品になりました。

12匹目のねこ~私のつぶやき~

ひたすら与えるだけでは足りなくて。



何かが足りない、物足りない愛。何が足りないのかと考えていたら、「痛み」や「苦しみ」というものが浮かんでくるのですね。自分で浮かべておきながら、ハッとさせられました。そうか、「痛み」や「苦しみ」がないと、愛は愛にはならないのか・・・。




オワリ
 
特集 100万分の1回のねこ

 いよいよ次回が最終回。今回の記事にも出てきた谷川俊太郎さんが最後を締めくくります。谷川さんが書かれたのは詩ではなくて短い文章です。

 この本は有名な作家さんが名を連ねていて、豪華だなあと書店で表紙を見つめていたのですが、一番最後に谷川俊太郎さんの名前を見つけた瞬間購入を決めました。これだけ有名な作家が並んでいて最後が谷川俊太郎さんなんてもう贅沢すぎますね。

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  •   19, 2015 18:44