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100万分の1回のねこ 最後の1匹 「虎白カップル譚」谷川俊太郎さん

 22, 2015 04:52
100万分の1回のねこ
100万分の1回のねこ
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講談社
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果てぬ夢は続く

 個人的な失敗の話をして申し訳ないのですが、この記事を書いているのは2回目です。記事を書いて更新しようと思ったら、上手くできなくて内容が全て消えてしまいました。夜に1人泣きました。

 1回目の内容を思い出して、もう1度書き始めることにします。8月24日からやってきたこのコーナーは、今日で最終回です。2か月もやっていると、本当にいろいろな思いが浮かんできます。そういった思いを整理してもう1回書き直せと神様が言っているのでしょう。

 最後を締めるのは、絵本の作者、佐野洋子さんの元夫、谷川俊太郎さんです。



あらすじ



 その野良猫は、ずっと界隈に居着いていた。野良の虎猫である。私が物心ついた時には、すでにその猫には連れ合いがいた。

白い綺麗な猫だったが、野良の虎猫とその白猫は妙に馬が合うらしく、猫には珍しく発情期になってもそわそわもせず、二匹で静かに寄り添っていた。



 虎猫と白猫で「虎白カップル」。私が成長していっても、カップルは常に私のそばにいた。

私が成人して職を得て結婚しても、虎白カップルは生きていた。私の結婚した相手が猫アレルギーだということが分かっていたらしく、遠慮して我が家の庭には寄り付かなくなっていたが、近くの空き地でよく見かけた。驚いたことにまだまわりで子猫がうろちょろしていた。



 私と妻の生まれ変わりではないかと思うくらい、カップルは常にそこにいた。だが、ついに私たち夫婦にも別れがやってきた。そして・・・

谷川俊太郎さんのねこ



 この本には、作品の冒頭に作者のコメントがあります。絵本「100万回生きたねこ」や、作者の佐野洋子さんへの想いを綴ったコメントです。さすがプロの作家さんとあって、コメントもただのコメントではなく、大変味わいのある1つの「作品」になっています。この本の大きな見どころと言えるでしょう。

 さて、谷川俊太郎さんもコメントを残しておられます。とてもシンプルですが、作品全体を貫きとすようなコメントです。佐野洋子さんのことを誰よりも理解しているであろう谷川俊太郎さん。きっと、多くの言葉はいらなかったのでしょう。

『100万回生きたねこ』は、佐野洋子の見果てぬ夢であった。それはこれからも、誰もの見果てぬ夢であり続ける



 「見果てぬ夢」、谷川さんはそう言います。作品を締めくくるのに、こんなに相応しい言葉はありませんでした。これまでに12の作品を紹介してきましたが、それは絵本「100万回生きたねこ」から出発して、それぞれの作家が想いを巡らせて生み出した「夢」であると言えます。

 「100万回生きたねこ」は本当にいろいろなことが詰まった絵本です。多くの人に手に取られ、そして、1冊の絵本から様々な夢が、つまり想像が今もこうやって生み出され続けています。1冊の絵本がもはや1冊の絵本ではなくなっているということに気付き、私は震えました。

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 これまで何度も「元夫」と書いて気になっていたのですが、谷川俊太郎さんと佐野洋子さんはすでに離婚されています。お二人が結婚されたのが1990年、離婚されたのは1996年だということです。

 離婚されたようですが、あまりネガティブな捉え方をするべきではないようです。お二人は互いに相手のことを語っておられますし、こうやって谷川俊太郎さんが佐野洋子さんの絵本に短編を捧げるなど、今も交流が続いています(佐野洋子さんはすでに亡くなられてしまいましたが)。佐野さんと最初の夫との間に生まれた息子の広瀬弦さんも加わって、おそらく本人たちにしか分からない、とても不思議な関係が形成されています。

 離婚について事情は知らないのですが、少し想像してみることにします。おそらく、佐野洋子さんと谷川俊太郎さん、2人のエネルギーがあまりに大きすぎたのではないでしょうか。2人とも間違いなく後世に名を残していく作家です。そんな2人が夫婦であった時期があるということに驚きます。それに、奔放で常識にとらわれない谷川さんが、「夫」という枠には収まらなかった、ということもあるかもしれません。離婚して「元夫婦」になられたわけですが、その方が谷川さんには合っていると思います。

 離婚された2人に言うのはおかしいかもしれませんが、言わせていただきたいと思います。佐野洋子さんと谷川俊太郎さん、素敵な夫婦です。

悲しげな顔つき



 作品については、ほとんど語りたいことはありません。作品の素晴らしさが高まると、「語らずにそのままにしておきたい」という思いが働くようになります。私がそんなことを思う作家はほとんどいませんが、谷川俊太郎さんは数少ないそのうちの1人です。

 ただ、何も語らないでおくというのはぶしつけなので、少しだけ語ろうと思います。この作品には虎猫と白猫のカップルが出てきて、人間と重ね合わされています。虎猫と白猫というのは、絵本「100万回生きたねこ」に出てくる2匹です。白猫に出会って、虎猫は愛を知りました。本当に大切な関係です。谷川さんは、そんな2匹の関係がいかに深いものか、佐野洋子さんの想いを汲みとって描かれていると感じました。

 そのことを感じさせるのが、白猫を失った虎猫が、「私」のもとにやってくる場面です。

しみじみ顔を見た。長いつきあいだ。よく見るとこれまで見たことのない悲しげな顔つきをしている。ははあ、こいつも連れ合いをなくしたんだなと、ぴんときた。



 私が注目したのは、「悲しげな顔つき」という部分です。普通の小説だったら、気に留める箇所ではありません。ただ、この小説では特別な箇所になります。虎猫は白猫に愛を教えてくれました。そんなかけがえのないパートナーを失った、その時に見せる「悲しげな顔つき」ですから、普通の状況とは重みが違います。

 谷川さんがパートナーを失った虎猫の「悲しげな顔つき」を書いたということに、私は谷川さんの強い意志を感じました。悲し気な顔つきとはどのような顔つきか、谷川さんは想像して書かれているはずです。

 人を愛するとはどういうことか。愛する人を失うとはどういうことか。愛する人を失うとどのような気持ちに襲われ、どのような顔をするのか。この箇所は、そういった流れでいくつものことを問いかけてきます。

 これまで紹介してきた13の物語を締めくくるにふさわしい場面だと思いました。たくさんの「愛」を見てきましたが、その中で印象に残っているものを浮かべてみると、「痛み」であったり、「苦しみ」であったり、ここで書かれている「悲しみ」であったりします。

 それらの感情は、「愛」のイメージとは裏腹のネガティブなものかもしれません。だけど、それらが間違いなく愛の裏側にあって、愛を成り立たせているということをこの本は教えてくれました。この場面の深い深い悲しみが、つまりは深い深い愛が、13の物語全体を包み込んでいます。

おわりに



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 13の物語をすべて紹介しました。13回シリーズというのはやる前に想像していたよりもはるかに長いものでした。ただ、紹介し終えて改めて思うのですが、この本の中に省略してよい物語など1つもありませんでした。1つでも欠けてしまうと全く違う本になっていた、そんな風にさえ思います。2か月もかかってしまいましたが、すべて紹介することができてよかったです。

 この本を読んで浮かぶ感想は、「よかった」とか「面白かった」というのようなものではありません。普通の本ではなかなか思わない珍しい感想だったのですが、何だと思いますか?

 私も小説を書きたい

 これでした。13人の作家がそれぞれの物語を生み出していくその想像力、独創性が本当に素晴らしいのです。私の頭の中には、それらの作品を読んで浮かんでくるたくさんのイメージが溢れんばかりのようになっていて、それを形にしたいという思いに駆られています。

 私は小説を書いたことはありませんし、正直どこから手を付けていいのか分かりませんが、いつか自分の手で「14匹目のねこ」を生み出してみたいと思います。単に面白かったという感想を超えて、「自分も小説を書きたい」と思わせるくらい、この本は豊かな想像力と物語の素晴らしさが結集しているのです。

 小説を書きたい、という私の思いは、実は「100万分の1回のねこ」という本のタイトルに通じる部分があります。「100万回生きたねこ」は、100万回の人生を送りました。その1回1回の人生は、どんなものだったのでしょうか。それは、読者の一人一人が想像するものです。読者の一人一人がそれぞれ「100万分の1回」を想像できる、そこにこの本の素晴らしさがあります。

 「誰もの見果てぬ夢であり続ける」。谷川俊太郎さんはそう言いました。私も、夢を見たいと思います。「100万回生きたねこ」を読んだ人が、それぞれの夢を見て、こうやってそれぞれの物語が生み出されていきます。

 1冊の本から始まって、私たちはどこまでも行くことができる。実は、このことはこのブログのタイトルである「最果ての図書館」に込めた意味でもあります(「最果て」というのは、たくさんの本を読んだ先に行きつくところ。人生の中でどんな本を読むかはその人によって違うので、どこか決まった場所ではなく、「最果て」という曖昧な言い方になるのです)。

 私はどんな本を読んでどこに行くのだろうということをいつも考えます。どんな本と出会うのだろう、何を想像するのだろう。本が持つ無限の可能性を、物語がもつ無限の広がりを、この本の中の13の物語は教えてくれました。



オワリ

 次回がないと思うと寂しいですね。読み終えて喪失感さえ覚える、忘れられない本になりました。

特集 100万分の1回のねこ

 13の物語の中でベストを選ぶなら、第4回に紹介した、井上荒野さんの「ある古本屋の妻の話」です。この小説の余韻は今でもよく覚えています。角田光代さんや、最初に紹介した江國香織さんの作品もとてもよかったです。特別賞は「ドラクエ小説」に贈りたいと思います。読み終えてからじわじわ面白くなってきました。

 谷川俊太郎さんと広瀬弦さんは別格という感じでした。お二人は佐野洋子さんのことを誰よりもよく理解しているから、ストレートな物語を書くことができるのだと思います。

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谷川俊太郎,



  •   22, 2015 04:52