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  • 不変の瞬き  -『琥珀のまたたき』 小川洋子

     06, 2015 23:03
    琥珀のまたたき
    琥珀のまたたき
    posted with amazlet at 15.11.06
    小川 洋子
    講談社
    売り上げランキング: 4,568


    鑑をめくる 一瞬は永遠

     私が一番好きな作家、小川洋子さんの最新刊です。あらすじを見た時から、ずっと読むのを楽しみにしていました。いかにも小川さんらしいストーリーで、傑作が読める予感がしたからです。

     やはり小川さんらしく、静謐さと美しさをまとった傑作でした。作品を読む前、読んでいる時、読んだ後、小川さんの作品は、全てにおいて至高です。人生で一番豊かな時間を、いつも小川さんの小説からいただいています。



    閉ざされた世界



     あらすじを読んだときから期待が高まった、と書きましたが、この本はどんなあらすじなのでしょうか。

     一言でまとめれば、「母親の手によって別荘に閉じ込められた3人のきょうだいの話」です。もともと、きょうだいは4人でしたが、一番末の妹は死んでしまいました。妹が犬になめられて殺された、そんな「魔犬の呪い」を信じてやまない母親は、3人の子どもたちを連れて別荘に移ります。そして、子どもたちにこう言い放つのです。

    「壁の外には出られません」



      こうして、子どもたちは別荘という閉ざされた空間の中で人生を過ごすことになりました。母親が子供を心配する気持ち、守ろうとする気持ちが歪み、「閉じ込める」という行為へと発展したのです。

     子どもたちは、これまでの名前も奪われ、新たな名前を与えられます。3きょうだいの名前は、琥珀(こはく)、オパール、瑪瑙(めのう)。こうやって人物の名前がぼかされる、あるいは名前が与えられないというのも小川作品の特徴です。そうやって、作品の純度が高められていきます(よかったら、琥珀、オパール、瑪瑙でそれぞれ画像検索をしてみてください。なんて美しい3きょうだいでしょう。小川洋子さんのセンスにため息が出ます)。

     さて、この作品が小川洋子さんらしいといったのは、「別荘に閉じ込められる」という設定です。小川さんは自分の作品の特徴について、このように語っています。

    ナチスの迫害を逃れるために隠れ家に潜んだ少女アンネ・フランクの言葉に心を揺さぶられ、作家デビューしてから彼女の足跡を訪ねた。数学やチェスなど扱う題材は多彩だが、その多くで『アンネの日記』と重なる「閉ざされた世界」を描く。「理屈では説明できないけれどそんな世界が無視できない。新しいものを書いたつもりで同じ泉の水をくんでいる」と笑う。

    産経ニュース「長編『琥珀のまたたき』小川洋子さん 閉ざされた家の美と崩壊」(2015.9.16) http://www.sankei.com/life/news/150916/lif1509160015-n1.html



     「閉ざされた世界」、これが小川洋子さんの作品のキーワードになると思います。そして、その閉ざされた世界のルーツはあの「アンネの日記」にあるのですね。別荘に閉じ込められる、という設定はいつも以上に「閉ざされた世界」を感じさせる設定でした。それで、傑作の予感がしたのです。

     別荘に閉じ込められた子どもたち。閉ざされた世界で、彼らだけの時間が漂います。小川作品独特の静謐さを漂わせつつも、そこに「危うさ」も感じさせる―どこか心がザワザワするような、不安な静けさが広がります。

    図鑑から広がる世界



     別荘に閉じ込められた子どもたち。彼らに与えられた唯一の世界は「図鑑」でした。彼らは図鑑をめくります。そして、様々な想像を巡らせます。閉じ込められているのに、彼らの世界は無限に広がるのです。見事としか言いようがありません。

    図鑑の中はとても静かだ。世界中のありとあらゆる事物が詰め込まれているというのに、その余白は驚くほどしんとしている。どんな分類にも系統にも含まれず、すべての項目からはじき飛ばされ、ぽつんと取り残された余白が彼らを安堵させる。静けさはいつでも彼らにとって、一番馴染み深いものだ。



     読んでいて時間の流れを忘れるような、あるいは周りが何も見えなくなるような・・・小川洋子さんの描く世界は、そんな静寂に包まれています。私は小川さんの描くこの世界観が他の何よりも好きです。この静寂に触れるために、小川さんの作品を手に取ります。彼らは母親から別荘という閉ざされて空間に閉じ込められています。それはよく考えればおぞましい事態なのですが、そんなことを全て忘れさせるかのように、静寂は物語を包み込みます。

    大丈夫だ。誰も欠けていない。壁は高く頑丈で、図鑑の地層は深い。世界の全てがここにある。合唱を邪魔しない無音の声でつぶやきながら、琥珀は次のページをめくる。



     外に一歩も出ることのできない異常な世界。だけど、彼らはどこまでも駆けていく―。

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     図鑑から、彼らは想像を広げていきます。そして、さまざまな遊びを生み出すのです。「オリンピックごっこ」「事情ごっこ」・・・本当に素晴らしかったです。想像から、ここまで物語が広がるものか―そう思いました。決して感動する場面ではないのですが、想像力が訴えてくるものがあまりにも大きくて、こみ上げてくるものがありました。

     そして、最も素晴らしかったのは「一瞬の展覧会」。本を読んでいない人も、「一瞬の展覧会」という名前を聞いただけでワクワクしてしまうでしょう。図鑑をめくるという何気ない作業は、「一瞬」の積み重ねでできていたのです。

    一ページが瞬き一回だと琥珀はすぐに理解した。瞬きの瞬間、暗闇がよぎる。ほんの短い時間でも、あたりはすべて真っ暗になる。それが、ページとページの間に訪れる空白だ。再び光が戻った時、直前に起こった小さな中断のことなど皆忘れてしまうが、間違いなくそこには空白が差し挟まれている。

    (中略)自分のいるこの世界は、瞬きによって切り取られた一瞬一瞬の連なりで出来上がっているのだ、彼は気づく。



     上は、「図鑑のページをめくる」場面です。普通なら、気に留めることもない、何気ない場面なのです。それを小川洋子さんが描くと上のようになります。どんな些細な出来事も、世界に埋もれた普通の瞬間も、小川さんの手によって切り取られればそれは『物語』になる。

     物語を生成する力、物語の可能性、物語の役割・・・全てが最高水準。私の中では、やはり小川洋子さんが世界で最高の書き手です。

    物語の終焉



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     小川洋子さん自身も、書いていて「物語の役割」のようなものを再確認されたようです。

    「肉体は外には行けないけれど、彼らは彼らなりに想像力を働かせて壁の内側を自由に呼吸ができる楽園にした。こういう環境で人間が自由になるとしたら物語を頼りにするしかない。この小説を書いて思いましたね、『やっぱり人間には小説が必要なんだ』と」



     小説というのは、何のために存在するのでしょう。もしかしたら、単なる娯楽として、面白おかしく小説を読む人もいるのかもしれません。実際に、面白おかしく読んでもらうための小説も世の中には溢れています。

     ただ、小川洋子さんの書く小説には、そういったことは一切当てはまらないのです。毎回思わされるのは、「小説が存在する意味」についてです。小川さんの小説は「閉ざされた世界」を舞台にしているものが多く、山もなければ谷もなく、ただただ静寂に包まれています。

     それでも、毎回思います。「この小説は、世界に必要である」、あるいは「この小説は、誰かに必要とされている」-。そう思わせるのは、上に書いたように、小川さんが小説の必要性について誰よりも深く理解して物語を生み出しているからです。読み終えた後の、静寂の中にも確かに残るこの余韻・・・毎回至福の時間を過ごしています。

     「終わってほしくない」、いつも思います。しかし、残念ながら本をめくり続けていると終わりが近付いてきます。そして、小川さんの作品では「最後」にも要注目です。実は、ものすごく残酷な結末が用意されていることもけっこう多いのです。

     今回も、ものすごく残酷な結末が待っていました。本を読み終えた後に改めて考え直してみるのですが、かなり残酷で、救いのない結末です。

     他の作家さんだったらかなり衝撃を受けて終わるところですが、小川洋子さんの場合、衝撃はありません。なぜなら、「残酷な結末さえ静かに描くから」です。容赦のない残酷な結末までが、静寂の中に飲み込まれていく―これもまた恒例の、独特の余韻です。

     小川洋子さん、今回も素晴らしい作品を届けていただき、ありがとうございました。一番好きな作家の本ですから、レビューを書いている時も一番充実しているのです。

    レコメンド

    けさの中に危うさをはらんだ、「彼らだけの世界」-。

     次は短編を書かれるそうです。小川さんの短編小説は独特の世界観が凝縮されていてこれもまたすごくいいのです。この小説の余韻を大切にしながら、また楽しみにしています。

    ◆殿堂入り決定!

    「最果ての図書館」は『琥珀のまたたき』を「ゴールド」に認定しました。





    オワリ

     どれだけ言葉を尽くして絶賛を重ねても、全く足りる気がしません。本当に偉大な作家さんです。


    「いつも彼らはどこかに」 小川洋子さん

     前回のレビューです。こちらは動物をテーマにした短編集です。改めて言う必要もありませんが、素晴らしい作品でした。

     前のレビューの最後に、私はこんなことを書いています。

    >一番好きな作家を聞かれた時は小川洋子さんと答えます。でも、理由を聞かれた時に説明するのがすごく難しいんです。その結果、きょとんとされてしまい・・・。もっとうまく語れるようになりたいものです。そして、もっとうまくレビューを書けるようになりたいものです。

     ・・・今も全く同じ思いです。なかなか共感してもらうのが難しい作風だと思います。表現するのは難しいけれど、自分の知っている表現の限りを尽くして伝えてみたいです。前回に比べたら、少しはレビューが上達しているでしょうか・・・。

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    小川洋子, 現代日本文学,



    •   06, 2015 23:03
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