HOME > 過去のコーナー・その他 > title - 家族点描 #2 錯綜する家族像 (『家族社会学を学ぶ人のために』)

家族点描 #2 錯綜する家族像 (『家族社会学を学ぶ人のために』)

 08, 2015 23:45
家族社会学を学ぶ人のために
井上 眞理子
世界思想社
売り上げランキング: 608,039


れ動く家族 揺れ動く定義

 先月から始まったコーナー、「家族点描」。文学編と社会学編がありますが、今回は社会学編の1回目です。社会学編では、「家族社会学」と言われる分野の本を中心に紹介していきます。

 まず手始めに読んだのは、家族社会学の入門書です。最近話題になっているテーマから、今までも叫ばれ続けていたテーマまで、家族社会学に関するテーマがバランスよく網羅された1冊でした。



定義ができない



 ペットは、家族に入りますか?

 いきなりですが、質問から始めました。よかったら、考えてみてください。ペットは家族に入るでしょうか?おそらく、入ると答える人がいれば、入らないと答える人もいます。上の質問は、「家族を定義する難しさ」を端的に伝えてくれます。さて、どうでしょう。ペットは家族に入る?入らない?

 先日、こんなニュースがありました。

icon_141751_32.png チワワ 猟犬にかみ殺される 「大切な“家族”が…」 (千葉日報)

<事件の概要>千葉市で飼われていた小型犬のチワワが、イノシシの一斉駆除を行っていた市原市猟友会の猟犬2頭に襲われたもの。チワワは自宅敷地内で猟犬に首をかまれ死亡した。



 大変痛ましい事件です。この記事で私が注目したのは、チワワの飼い主の方のコメントでした。記事のタイトルにもなっていますが、こんなことをおっしゃています。

大切な“家族”を一瞬にして奪われた。猟友会が犬を見失ったのが大問題。市は火葬すると言っているが、火葬以外に具体的な補償の話はなく何の誠意も見られない」



 「家族」ということばが出てきましたね。ですが、見落としてはいけないことがあります。家族の部分が、” ”でくくられていることです。

 考えたくないことですが、もし犠牲になったのが人間であったら、家族の部分にくくりはついていません。犠牲になったのはペットだから、ここにくくりがついているのです。このくくりには、おそらくこのような意味があると想像します。

 (ペットは本当は家族ではないのだけれど、飼い主の精神面では”家族”だったのだろう

 もしテストで、「ペットは家族に入りますか」と聞かれたら、「いいえ」と答えなければいけないでしょう。ペットと人間には、血縁関係も、婚姻関係も、養親子関係も存在しません。チワワが噛み殺されたら「器物損壊」―法治国家の日本です。

 しかし、この飼い主の方のように、ペットが「家族」だとおっしゃる方は他にも大勢存在するに違いありません。おそらく、ペットを飼っている方のほとんどが、ペットは家族だと答えるのではないでしょうか。精神面で人間の大切なパートナーであるペット。その気持ちは、もちろん否定されるべきものではありません。

 「ペットは、家族である」「ペットは、家族ではない」・・・どちらも正解で、どちらも間違いです(おかしなことを言っていますね)。どうしてこういうことが起こるかというと、2つの考えでは、想定している「家族」の定義が異なるからです。「制度上の家族」「精神面での家族」と言えばよいでしょうか。

 記事についていた” ”には、おそらくこのような大変悩ましい、答えの出ない意味が込められているのでしょう。

 ペットの例を出しましたが、家族というものがいかに難しいか、よく分かる例ではないかと思います。家族のことを考えようと思ったら、いつもの私だったらまず家族の定義を明らかにしようとします。しかし、家族ではそれができないのです。

 家族の解釈は常に変わり続けています。そして、正解はありません。上に出したペットの問題は東日本大震災の時にも大きな問題になりました。また、最近の話題としては「同性婚」があります。同性カップルの婚約は認められるのでしょうか。賛否両論、激しい議論が巻き起こっています。参考までに言えば、世界では同性婚が認められている国もあれば、同性愛が罪で死刑になる国もあるのです(同性愛が、殺人などと同じくらいの重罪ということですね)。

 この本の最初は、こんなタイトルで始まっています。

 「家族とは~である」なんて、きめつけられない

揺れる家族



 さて、この本は家族社会学の入門編ということで様々な家族のテーマを扱っています。出版が2010年ということで、近年新たに叫ばれるようになった問題も割と網羅されていました。私が例に挙げたペットの話は残念ながらないのですが、同性婚については第7章に、その他高齢家族や事実婚、ファミリー・バイオレンス(後述)など、テーマは多種多様です。「家族の難しさ」を感じるには、最適の1冊ではないかと思います。

 (同性婚について書かれた第7章は大変分かりやすかったです。どうして、絶対に同性婚を認めようとしない人たちがいるのか書かれています。)

 第6章(高齢者家族)には、家族の変化について、3段階で分かりやすく書かれています。

①「イエ」という親族組織の統率性や継承性に重きがおかれ、「イエのため」という価値観が軸になる前近代

②「家族みんなのため / 家族のため」という価値観が軸になる近代

③家族一人ひとりのライフスタイルや個人の選好に重きがおかれ、「家族一人のため / 自分のため」という価値観が軸になる現代



 家族の変化がとても分かりやすいですね。私はまだ20年しか生きていないので、正直③しかイメージが湧かないです。しかし、祖父母の話や昔の小説には、私の知らない②のような家族がいた時代もあったのです。それよりさらに昔には、もちろん①のような家族も・・・。時代と共に家族が変化していることがよく分かります。

 子供に子供部屋が与えられ、その子供部屋それぞれにテレビが置かれているような現在の状況は、昔からしたら信じがたい状況だと思います。家族の「団らん」などという概念が、少しずつ消えかかっているのも事実です(ここではそれを批判したいわけではなく、あくまで「家族」は時代と共に大きく変化しているということを述べています)。

 そんな風に家族が変化したら、個人に、そして社会にどのような影響があるのか。・・・それを考え出すととてつもなく長くなりますし、簡単にまとめられることではありません。今回は家族社会学の概要を知りたいので、詳細は本に譲ります。

a1180_014448.jpg

 私が興味を持ち、これからこのコーナーで取り上げたいなと思ったのは8章の「ファミリー・バイオレンス」です。これは文字通り、家族内での虐待、あるいは脅迫行為を指します。身体的虐待だけではなく、心理的、情緒的、性的、経済的な虐待、それに人権侵害も含みます。

 もし家族が何の問題もなく上手くいっていたら、いわゆる「家族愛」と言われるもので成立していたとしたら、こんな問題は出てきません。しかし、実際「ファミリー・バイオレンス」は大変な問題になっています。増加する虐待、介護疲れによる殺人、DV・・・挙げて行けばきりがありません。このような問題が起こっているということは、家族には「歪み」の部分も存在するということです。

 (私は特に、「やさしい虐待」と呼ばれる現象に興味があります。これについては、このコーナーの別の回に考えるつもりです。こういうものまで考えると、ファミリー・バイオレンスの範囲はかなり広がります)

 簡単に「家族愛」だけでは説明できないからこそ、家族について考える必要があると思います。何より、家族というのは他の関係と違って「絶対に逃れられないもの」なので、重みが違います。

家族を「解放」する



 文学編では、最後に家族について考えさせられるセリフを引用しました。社会学編では、家族について考えさせられる重要なトピックを紹介することにします。今回はこちらです。

家族点描

 家族化 

(・・・現代社会において満ち足りた家族とは、家族の役割によっては「脱家族化」することが前提となってくる。(…)家族に対して現実的な選択肢を提供することこそ重要なのである)

 これは、エスピン・アンデルセンという方が提唱した概念です。この本では各章ごとにことなる方が執筆されているのですが、この「脱家族化」は1つのキーワードになるのではないか、と感じました。これまでは、家族の問題はその家族の中だけに閉じ込められていました。つまり、家族が「聖域」になっていたというのです。

 「家族への『介入』」はとても重要だと思います。家族の問題を家族の中だけに閉じ込めておくことはとても危険です。家族の中で起こっている虐待が見えなくなります。介護だってそうです。あまりにも悲しい介護殺人は、家族の中に「介護」という問題を閉じ込めてしまったことに原因があります。

 まだ社会学編の第1回なので、偉そうなことを書ける段階ではありません。ですが、この「脱家族化」、あるいは「家族への介入」という概念はとても重要だと思うので、今後の回でも意識していこうと思います。



家族点描


 社会学編はとても重いテーマが続きそうですね。社会問題から出発することが多い分野なので、仕方ない面があります。何より、起こっている問題が全て「現実」だということからは目をそらせません。

 もう1つ、このコーナーには「文学編」があるので、家族の素晴らしさやあたたかみといったテーマはこちらのほうで拾っていけたらと思います。

#1 優しいから、傷付いて (『ミッドナイト・バス』) 文学編・1

 第1回は伊吹有喜さんの「ミッドナイト・バス」という小説からスタートしました。文学編と社会学編は全く異なる感じでやっていきますが、どちらもぜひよろしくお願いします。

スポンサーサイト

学術書,



  •   08, 2015 23:45