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後悔という宿命 -『ツナグ』 辻村深月

 04, 2015 00:14
ツナグ (新潮文庫)
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辻村 深月
新潮社 (2012-08-27)
売り上げランキング: 1,640


う一度だけ、会えませんか?

 こんにちは、おともだちパンチです。2月最初のレビューは、辻村深月さん「ツナグ」をご紹介したいと思います。先日発表した2014年年間ランキングでは第5位に選んだこの作品。もっと詳しく語りたいと思っていたので、ようやく今日実行です。それでは、以下「ツナグ」のレビューです。



一度きりのチャンス



 この世に生きる者と死者とのたった一度きりの再会を提供する使者(ツナグ)の物語。正直、読む前は「どうかな」という気持ちがありました。霊が出てくるお話はちょっと苦手で、しかも霊の登場を陳腐な感動ものに帰結させられると、読んでいる側としては興ざめの感があります。初めての辻村さん作品でしたし、どんな風に作品が進むのか少し不安だったのです。

 さて、読み終えて。霊が全編にわたり登場し、なおかつ話のラストは感動にもっていかれていました。それなら他の話のように陳腐だったのか・・・。いえ、全然そんなことはありません!この話の秀逸さは、設定・構成のうまさ、それに今を生きる者へのメッセージ性にあると思います。

 設定や構成の面から見てみたいと思います。この話の緊張感を高めている要因として、「たった1度きりのチャンス」が挙げられるのではないでしょうか。霊を呼び出す側も、呼び出される霊も、そのチャンスはたったの1度、しかも一晩の間だけという設定です。特に霊の方は、1度呼び出されたら、そこで本当に「成仏」することになります。お互いの思いが交錯する中で、残された一晩というあまりに短い時間・・・。生者と死者がホテルの1室で過ごす最後の空間の濃密さは、読み手を圧倒するものがあります。

紐解かれる想い




 構成のうまさでもう1つ挙げられるのが、「ツナグ」の存在です。生者と死者の媒介の役割を果たす「ツナグ」の歩実くんが、全編にわたって登場しています。しかし、この歩実くんは単なるガイド役ではありません。最終章「使者の心得」は彼自身の物語。最終章に向かって彼の思いが紐解かれていく様子が作品の魅力になっています。

 歩実くん、最初は随分ドライな感じでした。淡々と、粛々と仕事をこなしています。なんだか、手に入れたくない力を手に入れてしまい、その力に苦しめられている、そんな印象を受けました。

 そんな彼の本当の思いが、物語が進むと共に明かされていきます。どうして、「ツナグ」となったのか、どうやって力を手に入れたのか・・・いろいろな謎の答えが見えてくると同時に、最初はドライだった彼の本音も見えてきます。

「会って、必要なことを伝えなかったせいで、一生、そのことを引きずらなきゃなくなった人もいる」



 終盤の彼のセリフです。淡々と仕事を進めていた彼が、終盤になってついにその本音をぶちまけます。彼がどんな人々を見てきたか、読者の私たちはよく分かっているからこそ、彼の血の通ったセリフが心にドスンと落ちてきます。

 彼だけではありません。霊を呼び出した生者にも、呼び出された霊にも、もちろんそれぞれの思いがありました。それらの何層にもわたる思いが、最終章に向けて見事に収束していきます。

全てが解き明かされていくミステリー的快感×幾重にも重なる思いの「深さ」

 この2つが見事にかけ合わさっているんですね。陳腐な感じを受ける他の作品と比べ、群を抜いているのはこの点にあります。

後悔は宿命



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 ホテルの1室で過ごす生者と死者の時間が濃密であり、また残酷であることは話しました。死者がこの世を去ってしまった、つまり手遅れになってしまってから交わす2人の言葉です。短い時間に収まりきらない思いがあふれています。この「手遅れ」という事実が悲しいスパイス・・・。後悔してもしきれない、そんな思いには胸が張り裂けそうになります。

 後悔しないように生きよう。

 ・・・とまとめたくなるところですね。でもそれは違うのではないか、と思いました。この本を読んでの感想は、

 後悔は、宿命である。

 ということです。「失ったものの大事さは、失ってみないと分からない」などとはよく言われます。その通りだと思います。人間はそんな万能ではありません。別れた後で、失った後で、失敗した後で・・・。気付いた時にはいつも「手遅れ」です。

 そんな宿命を受け入れていかなければいけません。この作品ではそんな後悔を取り戻すチャンスが描かれていました。ファンタジーにすぎないかもしれません。ですが、「後悔は宿命である」、ということをまざまざと思い知らせてくれたことにこそ、この作品の価値があるのではないでしょうか。

◆殿堂入り決定!

「最果ての図書館」は『ツナグ』を「シルバー」に認定しました。おめでとうございます!

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小説, 辻村深月,



  •   04, 2015 00:14