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教科書への旅 #18 『三つのお願い』 ルシール・クリフトン

 13, 2015 23:00
教科書

んぴしゃり。お願いがかなった。


 「もしも願いがかなうなら」。それは、いくつもの物語を生み出してきた魔法の一言。小説、絵本、詩、エッセイ、歌・・・「もしも願いがかなうなら」は時代を超えて、そして国境を越えて語られ続けてきました。「お願いもの」の作品は数えきれないほど存在しますが、どうしてこの一言は素敵な魔法の力を失わないのでしょうか。

 「人の数だけ願いがある」、魔法の源はそこにあります。お金が欲しいと思う人がいれば、世界平和を願う人もいる。人の数だけ存在する願いの魔法は、永遠にその力を失わないのではないでしょうか。そんな物語の伝統的な形式、「お願いもの」。もちろん国語の教科書にもあります。

(約3700字 / 7分20秒)



子供にかかり続ける魔法



3つのお願い3

 ルシール=クリフトンの『三つのお願い』(小学4年生)です。訳は金原瑞人さんが担当しておられます。タイトル通り、願いが3つかなうというワクワクするような状況で進行する物語。自分だったら何を願うだろう、あるいは主人公は何を願うだろう。定番ではありますが、お願いものを読んでいる時に感じるワクワクはやはり色あせません。

 この作品を読んだ人がおそらく真っ先に思い出す言葉があります。それは、「どんぴしゃり。お願いがかなった。」です。この言葉は願いがかなった直後に書かれます。願いが3つあるということで、この言葉も作中に3回登場するのです。序盤、中盤、終盤と作品にバランスよく散りばめられていて、読んでいるとリズムを感じさせます。「どんぴしゃり」という語にはインパクトがありますね。私は日本語訳しか読んだことがないのですが、翻訳前はどんな語だったのか気になります。

 私の周りでは、今でも「どんぴしゃり」を使う人がいます。この言葉が出てくると、「あ、なつかしい!教科書にあったあれだよね!!」と周りも盛り上がります。この作品を読んだ人は皆覚えていて、一瞬で作品のことが蘇ってくるのですね。教科書で学んだ子供たちの中に同じ言葉と同じ記憶が刻まれている・・・何だか、本当に素敵な「魔法」がかかっているみたいです。

 さて、3つもお願いができるとなると、いろいろとよくばってしまいそうです。主人公は、一体何を願うのでしょうか。

もったいない!の一体感



 元日に自分の生まれた年にできた1セントを拾うと、3つのお願いがかなう。この作品の最初に書かれるのは、そんな不思議で夢のある言い伝えです。日本にもいろいろな言い伝えがありますが、この「1セントを拾うと願いがかなう」の言い伝えは何とも魅力的な言い伝えだなと思いました。なぜなら、「本当かもしれない」という希望がかすかに香るからです。

 言い伝えはたくさんありますが、もしもそれがあまりに現実離れしていたら、夢は膨らみません。「そんなことあるわけないじゃない!」とそこで終わってしまうのです。ですが、もしも言い伝えが「本当かもしれない」という希望を少しでも残していたら、そこから夢が膨らむのです。

 この1セントの言い伝えは、もしかしたら本当なのかもしれない、という希望のライン上にある、とても絶妙な内容です。「元日に」「自分が生まれたのと同じ年の」「1セント」ということで、かなり条件は厳しくなります。だからこそ、「全ての条件が重なった奇跡のような時には、もしかしたら願いがかなうかもしれない」と私たちは思うのです。

 最初に言い伝えの内容が書かれた時点で、読者はすでに魔法にかけられています。そして、この物語を改めて読んでいくと、仕掛けられた魔法の数々に気付き、驚かされます。教科書に掲載されている作品にはかならず理由がありますが、私は納得しました。こんなに物語の魔法の力を生かした作品はなかなかないからです。この作品が教科書で読み継がれている理由は「物語の魔法」ではないかと思っています。

3つのお願い1

 1セントを拾った主人公のゼノビア。彼女は3回もお願いをすることができます。それはもう、何でもできそうです。「さあ、何を願うの」と読者は前のめりになります。ここでもすでに読者は物語の魔法にかかっていますね。

 そんな彼女の1つ目のお願いは・・・「この寒さ、なんとかならないかなあ」でした。彼女が何気なくつぶやいた一言がお願いとなって、とたんに空にはお日様が出てきました。

 「せっかくの願いなのに、もったいない!」「天気に使っちゃうなんて!!」そうやって作品を読みながら声を荒げたことをよく覚えています。教室で読んだときも、同じような反応が教室中に広がりました。それはそうです、せっかく何でも願いがかなうのに、「寒さをなんとかしてほしい」なんて・・・なんとも「しょぼい」お願いです。

(でも、寒い日は「寒さをなんとかしてほしい」と心の中で思ってしまいますね。それは、実際はどうにもならないことが分かっていて、愚痴をこぼすような感じで言っているのでしょう。実際に願いをかなえてもらえるなら、寒さなんかには使わないなあなどという発見もできて、微笑ましくなります)

 教室中に広がった、「もったいない!」の大合唱。これも、物語の魔法の1つです。皆、読んでいるうちにすっかり作品に没頭してしまっているのです。自分だったら何を願うか、そんな風に考えながら読んでいたことでしょう。だから、ゼノビアの一つ目のお願いにまるで自分のことのように怒り出してしまいます。

 この物語は、気付かぬうちに子どもたちの想像力を高め、そして物語の世界に入り込ませているのです。大人になって読み返してみると、作品の持つ魔法の力に気付くことができます。今も多くの子供たちが変わらず魔法にかけられていると想像すると、思わず頬が緩みます。

 「物語の持つ力」というのは私が読書をしながらいつも探し求めていることです。この作品は、さすが教科書作品という感じで、とても素晴らしい、夢のある力に溢れています。読まれ続ける作品には、やはり理由があるのでしょう。

無駄ではない一回り



 さて、残りのお願いは2つです。今度こそ、大事に使わなくてはいけませんね。それなのに、ゼノビアはまたお願いを無駄にしてしまいます。ゼノビアは、友達のビクターとケンカをして、思わず言ってしまうのです。

 「ここにいてほしくない。帰ってよ。」

 ・・・これが2つ目のお願いになってしまいました。ビクターは飛び上がってゼノビアの家から去って行ってしまいます。お願いの無駄遣いをしないように慎重になったはずなのに、よりによって友達に言った「帰ってよ」が2つ目のお願いになりました。おバカなゼノビアちゃん・・・。

 今度こそ、今度こそはお願いを無駄にしてはいけません。次はもう最後のお願いです。これまで、「寒さをなんとかしてほしい」と「帰ってよ」しかお願いしていません。あまりに成果に乏しいではありませんか!最後こそはまともなお願いをしてよ・・・!と読者は前のめりになります。もうすっかり「魔法の中」ですね。

 最後のお願いを無駄にしないよう、ゼノビアはお母さんに相談します。「もしも願いが1つだけかなうなら何をお願いする?」ゼノビアは、そう尋ねるのです。さて、お母さんの答えは何だったのでしょうか。

栞 教科書

「いい友達よ、ノービィ。この世でいちばん大切なものは友達だもの。そう、いい友達。」



 ゼノビアは、よいお母さんに恵まれたようですね。

3つのお願い2

 お母さんの言葉を聞いて、ゼノビアは「最後のお願い」を使うのでした。もう、見えてきましたね。

 「いい友達がいなくなって、さびしいよ。もどってきてくれないかな。」わたしは、一セント玉をぎゅっとにぎりしめて、小声でそっと言った。なんだか悲しくてしょうがなかった。

 そうしたら、だれかがこっちを見て、にこにこしながら、すごいいきおいで走ってきた。

 どんぴしゃり。お願いがかなった。



 3つあったお願いの最初の1つは、「寒さを何とかしてほしい」。これはとてももったいなかったですね。そして、残りの2つは、「友達との仲たがい」と「友達との仲直り」でした。これはもったいないお願いの使い道でしょうか。・・・私は、もったいないとは思いません。

 たしかに、願い事を2つも使ってしまったのはもったいない結果にも映ります。けんかして、そのあと仲直りしているので、「結局元に戻っただけじゃないか」と思う人もいるかもしれません。けれど、決してそうではないのです。

 けんかして、仲直りする。その一見無駄にも思える流れは、大事な、大事な「回り道」でした。彼女は、素晴らしいお願いの使い方をしたのです。けんかして仲直りしたこの経験が、「友達が一番大切」というお母さんの言葉を理解させてくれるのではないでしょうか。

 大人になるにつれ、発想は貧しくなっていきます。悲しいことですね。お願いと言われて、「明日の講義が休講になりますように」が真っ先に浮かんできた私のような人間は愚の骨頂でしょう。それに比べて、小さな子どものお願いは、なんてキラキラと輝いているのでしょうか。まぶしくて、直視ができません。

 友達との仲たがいと仲直り。お願いをその2つに使ったゼノビアは、とても素敵な女の子でした。「友達とけんかして、そのあと仲直りさせてほしい」、もしかしたら、そんな一見おかしな願い事もありなのかもしれませんね。



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教科書への旅 一覧表

 「教科書への旅」は今回が年内の最終回です。3月から始めて18の作品を紹介することができました。このブログの看板企画にしていきたいと思っているので、来年以降ももちろん継続します。

 次回は来年1月に「教科書への旅 新春スペシャル」を予定しています。勘の良い方でしたら、紹介する作品が何か、気付かれるかもしれませんね。

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