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真理はどこに -『臨床真理』 柚月裕子

 12, 2016 01:23
 先日発表された第154回直木賞で、『孤狼の血』が候補作となった作家、柚月裕子さんの作品を紹介します。『孤狼の血』を・・・といきたいところですが、まずは柚月さんのデビュー作から読んでみることにしました。

臨床真理 (このミス大賞受賞作)
柚月 裕子
宝島社
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 上のリンクにありますように、柚月さんのデビュー作である『臨床真理』は、「このミステリーがすごい!」の大賞受賞作品です。タイトル通り、臨床心理士が「真理」を追い求めて奔走するこの作品。柚月さんのデビュー作は一体どんな出来栄えになっていたのでしょうか。



内容紹介



ブックレビューリトル

床心理士の佐久間美帆は、勤務先の医療機関で藤木司という二十歳の青年を担当することになる。司は、同じ福祉施設で暮らしていた少女の自殺を受け入れることができず、美帆に心を開こうとしなかった。それでも根気強く向き合おうとする美帆に、司はある告白をする。少女の死は他殺だと言うのだ。その根拠は、彼が持っている特殊な能力によるらしい。美帆はその主張を信じることが出来なかったが、司の治療のためにも、調査をしてみようと決意する。美帆は、かつての同級生で現在は警察官である栗原久志の協力をえて、福祉施設で何が起こっていたのかを探り始める。しかし、調査が進むにつれ、おぞましい出来事が明らかになる。『このミステリーがすごい!』大賞第7回大賞受賞作。

(「BOOK」 データベースより)

400字書評



400字書評

「このミス」の大賞作は、新人さんの作品ということもあり日本語に難があるものが多いというイメージがありました。しかし、この作品はそんなイメージをいい意味で裏切るものです。どっしりとして厚みのある文章は安心して読み進めることができます。

 ただ、事件に関しては物足りなさもあるかもしれません。事件も文章と同じくどっしりと構えた「王道」と言えるようなものですが、それ故に展開がありきたりで、すぐに真相が読めてしまうという点がマイナスになりそうです。

 また、違法行為もお構いなしに事件を追っていく臨床心理士の主人公には心理的抵抗がありました。患者を救いたいという思いからくるものでしょうが、それならばもうすこし司との描写を増やして肉付けしてほしかった気もします。

 ラストは渾身の描写です。吐き気を催すようなものすごいシーンで人には勧められそうにありませんが、筆者の筆力の高さを感じさせるシーンではありました。 (396)

ピックアップ



正義の追求のためなら何をしてもかまわないという姿勢の主人公

 今回取り上げてみようと思ったテーマはこちらです。上の400字書評でも触れているのですが、この物語の主人公は「正義の追求のためなら何をしてもかまわない」という姿勢の持ち主です。住居侵入など違法行為は繰り返しますし、職場の規律を乱しておきながら「正義の追求」を免罪符にするなどやりたい放題で、個人的にはお世辞にも共感できる主人公ではありませんでした。主人公の友人の警察官が事あるごとに食い止めたため彼女はぎりぎりのところで踏みとどまっていました。もし彼の存在がなかったら、彼女は間違いなく「犯罪者」か「被害者」になっていたでしょう・・・というくらいのひどさだったのです。

 正義感にあふれる主人公が、多少荒々しいやり方を使ってでも・・・という展開は意外と多いように思います。ただ、多少道を踏み外しても応援したくなる主人公がいれば、今回のように反発の感情の方が大きくなってしまう主人公もいます。主人公の描き方というものの重要性が分かりますね。

 個人的には、どれだけ「正義」に説得力を持たせるか、というところが大切になってくるのだと思います。その主人公の正義はどこにあって、信念はどれだけ強いのか。正義を貫く理由があるのか。そういった部分は、謎解きと同様に、あるいは謎解き以上に求められるのかもしれません。

 いくら本人の中に正義があったとしても、そこに説得力を持たせられなければそれはただの「暴力」になってしまう。ミステリー作品の評価が分かれる重要なポイントなのではないかと思います。



ブックレビューリトル

 関連書籍を紹介します。




 「このミス」で一番有名な作品と言えばこちら、海堂尊さんの「チーム・バチスタの栄光」です。シリーズ化され、続編も多数刊行されました。知名度もそうですが、クオリティーでもこの作品が一番高いのではないかと思います。

 人物造詣が巧みで、登場人物のキャラがしっかり立っています。会話の構成も抜群で、細部にわたって飽きさせません。「このミス」は年度によって当たりはずれが激しく、個人的にはかなり「怪しい」賞ですが、このシリーズに続く傑作の発掘を期待したいところです。
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小説, 柚月裕子,



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