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  • 筒井康隆という巨星  -『時をかける少女』 筒井康隆

     24, 2016 18:32
     偉大な作家の文章には「圧」があります。文章からものすごい「圧」が押し寄せてきて、それが読者を「圧」倒し、制「圧」します。単純に面白いだけの作品を書く作家とは乗り越えられないような大きな差があって、それこそがこの「圧」の存在だと私は思うのです。

     先日紹介したカズオ・イシグロさん(『わたしを離さないで』)はまさに圧で読者を凌駕した作家でした。イシグロさんの素晴らしかったところは「抑圧」の力です。徹底的に抑圧された文体は、一見波風が立たない静かな雰囲気を醸し出しつつも、その裏で蠢く圧倒的な感情が作品を際立たせていたのです。文学界の巨星と呼ぶにふさわしい、偉大な作家でしょう。

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    筒井 康隆
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     今日はもう一人、文学界の巨星を紹介したいと思います。文章の「圧」・・・ということを考えていて私が真っ先に思い浮かべたのが、今日ご紹介する作家、筒井康隆さんの書く文章でした。今日は代表作の『時をかける少女』を紹介します。去年読んだ『旅のラゴス』が秀作で相当期待値が高まっていましたが、期待に違わず「圧」を感じさせる文章でした。しかも、その「圧」はイシグロさんとは全く異なるタイプのものだった、というのが面白いところです。

    (約3200字)

    時をかけても



     たまには、私の「率直な感想」から始めようかな、と思います。ブログを書こうとすると、公開する以上はちゃんとした文章を書かなければいけないと思っていつも肩に力が入ってしまいます。いつも自分を大きく見せようと思って何だか文章が肩肘張ったものになってしまうので、たまには自分の率直な感想を書いてみよう、と思った次第です。

     読んでいた時に感じていた率直なこと、というと以下のような感じになります。


     すごい
     面白い
     ビリビリする
     なんだこの「ワクワク感」は!

     これだとあまりにも貧しくて、チラシの裏に書いておけ、という感じのブログになってしまいます。ただ、今作に関しては、長々と難しいことを書くよりも、上のような率直な感想の方が作品の魅力をより正確に捉えているような気がするのです。『時をかける少女』はどういう小説ですか、と聞かれたら、「すごく面白くて、ビリビリして、なんだこの『ワクワク感』は!と叫びたくなる小説です」と私は答えたいです。

     ストーリはSFの王道をゆくものです。主人公の和子は、「時間をさかのぼる」という不思議な体験をします。最初は和子の言うことなど信じなかった友人の吾朗も、彼女が未来で体験した火事や地震のことを過去の世界でぴたりと言い当てたので、彼女の言うことを信じるようになります。

     もう1人の友人、一夫が言いました。

    「ううん。ぼくもよく知らないけれど、本で読んだことがあるんだ。世の中にはときどき、超能力のある人がいて、その人は、自分の思った場所へ、瞬間に移動することができるんだってさ。テレポーテーション(身体移動)っていうんだそうだ。君はきっと、トラックにひかれそうになったとき、君自身も知らなかった君の能力を使って、時間と空間を移動したんじゃないだろうか?」



     「ザ・SF」という感じの、王道の展開ですね。和子に起こったのは、テレポーテーション(身体移動)タイムリープ(時間跳躍)でした。

     この作品の刊行から約50年がたっているということに心から驚きます。全く色あせない。1967年に子どもたちをワクワク指せた小説は、2016年にも変わらずに子どもたちをワクワクさせることでしょう。映画にドラマと何度も何度も繰り返し映像化されている理由がよく分かります(おそらく、シリーズもの以外の小説では映像化された回数が最も多い作品ではないでしょうか)。50年の時をかけ、これからもかけ続けていく作品だと思いますが、その魅力は未来永劫色あせないような気がします。

    筒井康隆の「圧」



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     『時をかける少女』は少年少女向けに書かれた作品です。ですから、文章はとても平易なものとなっています。冒頭で『旅のラゴス』に触れましたが、『旅のラゴス』のような硬派で本格的な文章とは大きく異なります。

     文章の「圧」という話をするなら、『旅のラゴス』を引っ張ってくるべきだと思います。あの作品にはこちらの体を突き動かすような圧がありました。思い返すだけでワクワクします。

     ですが、『時をかける少女』にも、私はたしかに筒井さんの「圧」を感じました。硬派な作品とは全く趣が異なるのですが、そうだからこそ際立つ圧というものもあるのではないでしょうか。

     作品をリードする福島先生はこう語りかけます。

    栞

    「科学というものは、不確かなものを確実にしていかなければならないためのその過程の学問なんだ。だから、科学が発展していくためには、その前の段階として、つねに不確実な、ふしぎな現象がなければならない



     この場面を読んでいて、これは筒井康隆さんの「決意表明」のようなものではないか、と私は思いました。科学の前提にある「不確実性」、そこに「物語」が絡むとこんなにも胸躍るストーリーが生まれるのです。SF世界を自由自在にかける筒井さんが立つ、たしかな土台の存在を感じました。

    福島先生は、熱心にしゃべりはじめた。目は、急に輝きだした。和子はこんな福島先生を見るのははじめてだった。一夫も吾朗も、先生の調子にのまれてかたずをのんで聞いていた。



     福島先生は「筒井さん」で子どもたちは「読者」。私にはそんな風に思えました。胸躍るSF世界を語ってくれる筒井さんと、かたずをのんでそれを聞く私たち。この一説には、筒井作品の魅力がぎゅっと詰まっています。

     上に引用した中盤の場面が、私の言う「圧」だったのですが、伝わったでしょうか。ダイナミックな文章は紙の上で躍動し、時代を超え、世代を超えて私たちを夢中にさせます。

     テレポーテーションとタイムリープの結末はどうなるのでしょうか。読み進めていくと、期待を膨らませた読者を裏切らず、さらに惹きつけるような終盤が待ち受けていました。

    未来への照射力



     結末を知る面白さを損なわないためにネタバレを最小限にさせていただくと・・・終盤にはある「未来人」がやってきます。その未来人が暮らしていたのは、西暦2600年の世界です。

    二六二〇年。原子力の平和利用で、地球の文明は大きく飛躍し、さまざまな科学的な発明が行なわれた。だが一方では、あまりに科学が高度に発達したため、一般の人たちは、これらの科学知識に、ついていくことができなくなってしまった。

    ・・・(中略)そして、二六四〇年。とうとう画期的な発明がなされた。これが・・・



     このあたり、好きな人は本当に好きだと思います。私も大好きです。小学校の時に星新一さんのショートショートをむさぼるように読んでいたことを思い出しました。星さんのショートショートで鍛えられただけあって、このあたりになると想像力がたくましくなります。未来人が時をさかのぼって現代にきたわけとは?一文字も逃すまいと夢中になって読みました。

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     はるか先の未来を描くわけですから、作者は想像力に頼るしかないわけです。想像力が乏しい人だったら、物語はここで一気に枯れていくでしょう。しかし、筒井さんは真逆でした。この場面から、物語はさらにギアを上げ、加速していったのです。そのことが、筒井さんの持つ想像力の豊かさを雄弁に物語っていました。

     誰も知らないことなのに、説得力すら感じてしまうのです。筒井康隆さんは、どんな未来を、どこまで見抜いていたのでしょうか。実際の2600年が訪れるとして(それまでに地球は滅びていると思いますが・・・)、筒井さんの描く世界が待っていたとしても不思議ではない、そんな説得力を帯びた描写でした。

     未来を射抜く、たしかな「照射力」。それもまた筒井さんの作品の魅力です。序盤はまさに「時をかける」ようなストーリーに胸を躍らせ、中盤から終盤にかけての謎解きで圧倒する。筒井康隆さんを堪能させていただいた1冊でした。



    オワリ

     筒井さんの最新作、まだ読んでいないのですが読んでみたいです。ご本人があそこまでおっしゃるのですから、読み手としても相当気合を入れて挑まなければいけないと思っています。

    『旅のラゴス』筒井康隆さん

     『旅のラゴス』のレビューです。謎のヒットが続いているということですが、読まれればきっとその理由が分かると思います。

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    小説, 筒井康隆,



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