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第154回芥川賞・受賞作品レビュー

 28, 2016 00:00
第154回芥川賞

 このブログ「最果ての図書館」では、半年に1度発表される芥川賞受賞作品のレビューを書くのが恒例となっています。芥川賞受賞作品は、通常の本より記事のボリュームを増やし、より深く、詳しく読んでいく「ブックレビュープレミアム」のコーナーでレビューを取り扱っています。

 さて、少し遅くなりましたが、1月19日に発表された第154回芥川賞の受賞作品を紹介します。今回は2作同時受賞となりました。滝口悠生さんの『死んでいない者』、そして本谷有希子さんの『異類婚姻譚』です。2つの作品のレビューをじっくりと書いています。リンク先より、ぜひ記事をご覧ください。



『死んでいない者』



三人称多視点の移ろいゆく語り・・・
大家族の通夜を舞台に、人々の魂はたゆたい、交錯する―


▼短文レビュー(ブクログ)

 大家族の通夜を舞台に、三人称多視点の語りが展開されていきます。大量の登場人物が登場し、次々に語り手が移ろっていく独特の構造に、困惑を覚えつつも読み進めていきました。

 正直、かなり読みづらく、作品として成立しているのかが微妙な箇所もあるように感じました。しかし、それは作者の技量不足ではなく、作者が描こうとしているものを文学として成立させる困難さのほうに原因があるのだと思います。

 通夜というのは独特の空間だと思います。作中でも言及がありましたが、「死」というものに触れて緊張が生まれつつも、「死んでいない者」が集ううちにその緊張がほぐれ、人々の意識は思い思いの方向へと向かっていきます。その「意識が思い思いの方向へと向かっていく」ということを文学として描いているのです。移ろう視点を通して表現された意識のたゆたいは妙な説得力を感じさせるもので、作者の筆力を感じました。

 意識が思い思いの方向に向かっていくわけですから、そこに秩序や意味はありません。そのような無秩序や無意味といったものも語りを通して大変巧みに描かれていると思いました。どうでもいいような会話、記憶から消えて存在すら失われたような思い出…。そういった点にも意識が及んでいくのですが、それらは通夜という舞台に触発されてこそ感じうる意識だと思います。無意味な語りが続くようで、こういった細部の描写1つ1つまでもが実に巧みに描かれている、そんな印象でした。

 かつ浮かびかつ結び…。鴨長明の『方丈記』に出てきたうたかたの描写を思い出しました。


▼長文レビュー(ブログ) ※約4500字
こちらから

『異類婚姻譚』



共に暮らすうち、夫婦の顔が似ていく!?
のっぺりとした家庭という空間に忍び寄る、ある「奇譚」・・・


▼短文レビュー(ブクログ)

 一緒に暮らすうちに顔が似ていく夫婦。顔のパーツがぐにゃりと変質していく様はかなり不気味ですが、コミカルな筆致で描かれていることもありサクサクと読み進めていくことができます。不気味さとは対極にあるような爽やかさのようなものも感じることができて、とても好きな文章でした。「ちゃんとした小説は書かなくていいんだ」と受賞のことばで語られた本谷さん。その心がけはいい風に小説に作用していると思います。

 旦那さんはかなり不気味に描かれているのですが、それ以上に不気味に感じたのが奥さんでした。不気味な夫を「深く考えず丸飲みしている」という小川洋子さんの評に納得です。その気味悪さに触れた時、私たち他人が踏み込めない夫婦という空間の不気味さに気付き、ほのかな恐怖を覚えました。兄弟などとは違い、夫婦というのは血のつながりのない「他人」です。そんな他人が、同じ家で暮らしているんだよなあ、などと思いを巡らせました。夫婦が不気味である、というのは本質を突いていると思います。

 結末はすごく好きでした。「譚」となっていますから、これでいいのだと思います。作品をまとっていた不気味さと爽やかさを生かしつつ、つんとするような感覚がある見事な一太刀。余韻はとてもよいです。


▼長文レビュー(ブログ) ※約4500字
こちらから

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