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  • イーハトーヴへの旅スペシャル! 宮沢賢治のオノマトペ・ラボ ( 実験編 )

     23, 2016 00:31
    スクリーンショット (24)


     このブログのコーナー、「宮沢賢治・イーハトーヴへの旅」にたくさんのアクセスありがとうございます。昨年の3月末に開始したコーナーなので、ちょうど1周年を迎えることになります。1周年への感謝とたくさんのアクセスへの御礼の意味合いも兼ねて、第18回の今回は初めてのスペシャルを企画しました。

     「宮沢賢治のオノマトペ・ラボ」と題し、宮沢賢治の創作オノマトペの秘密に迫る2回シリーズです。気合を入れてプロモーションパネルまで作成してみました。いつもとは違う「イーハトーヴへの旅」のスペシャル版、ぜひご期待ください。



    斜め上のオノマトペ



    「クラムボンは笑ったよ」
    「クラムボンはかぷかぷ笑ったよ」
    「クラムボンははねて笑ったよ」

    「クラムボンは死んだよ」
    「クラムボンは殺されたよ」



     ご存知の方も多いと思いますが、これは宮沢賢治の『やまなし』という作品からの一節です。そして、この場面に出てくるクラムボンが「かぷかぷ」笑うという表現は、数多くある宮沢賢治の創作オノマトペの中でももっとも有名なものの一つに挙げられるのではないでしょうか。

     私は小学6年生の教科書でこの作品に出会いました。「かぷかぷ」笑う、という表現はおそらく生きてきて初めて目にしたものだったと思います。笑う様子を形容するオノマトペはたくさんあります。ゲラゲラ、クスクス、ニヤニヤ・・・いろいろありますが、どれも笑っている様子がすぐに目に浮かびます。イメージとすぐに結びつくたくさんのオノマトペ、これだけでも十分な種類が揃っているように思うのですが、宮沢賢治という人はその「斜め上」を行くのです。

     「かぷかぷ」笑う、そのオノマトペが提示する新たなイメージはとても豊かで、私は今まで知らなかった表現の世界に胸躍らせました。独特のオノマトペは「かぷかぷ」だけではありません。たくさんの作品で、まるで息をつくかのように、宮沢賢治は独創的なオノマトペを次々と生み出していきます。教科書や辞典は教えてくれない豊かなオノマトペの数々に出会えることは、私が宮沢賢治を大好きな理由の1つです。

    宮沢賢治を語る上で忘れてならないのは、作品に見られる賢治の語感の鋭さである。特に賢治独特のオノマトペおよびその使い方は誰にも真似ることができない、賢治だけに与えられた天賦の才である。宮沢賢治のほとんどどの作品にもオノマトペが溢れ、オノマトペが賢治の作品の特徴の一つとして挙げられるほどである。



     このように語るのは、言語学者の田守育啓(たもり いくひろ)さんです。宮沢賢治のオノマトペを特集したいと思い立ち、何か良い文献がないかと探したところ、田守さんが著されたこんな本と出会いました。

    賢治オノマトペの謎を解く
    田守 育啓
    大修館書店
    売り上げランキング: 381,349


     とにかく宮沢賢治のオノマトペがたくさん詰まった、賢治ファンの私にとっては夢のような1冊でした。賢治の作品に出てきたオノマトペをまとめた巻末の「賢治オノマトペ索引」などは永久保存版でしょう。今回のスペシャルはこちらの1冊から多くのことを参考にさせていただいています(記事中の参照・引用は、特に記載のない限り『賢治オノマトペの謎を解く』からのものです)。

     ということで、宮沢賢治の独特のオノマトペについて、さっそく見ていこうと思います。

    オノマトペの秘密



     ここまで「オノマトペ」ということばを注釈なしで用いてきましたが、「オノマトペ」には様々な種類があります。まずはその点をおさえておきたいと思います。

    語句
    オノマトペ

    …オノマトペには3種類あります

    ① 擬声語 …動物の鳴き声や人間の声を真似て創られたもの
    例 ) ワンワン(鳴く) きゃーきゃー(騒ぐ)

    ② 擬音語 …自然界の物音を真似て創られたもの
    例 ) ザワザワ(揺れる) ゴロゴロ(鳴る)

    ③ 擬態語 …音響とは直接関係しない、動作・事物の状態、痛みの感覚、人間の心理状態などを象徴的に表したもの
    例 ) めそめそ(鳴く) くるくる(回る)



     オノマトペの種類と具体例を簡単にまとめました。ただ、今回の特集において上で説明したようなことはほとんど意味を持ち合わせていません。理由は2つあります。まずは宮沢賢治が使ったオノマトペの多くは既存のオノマトペの中にはない「創作オノマトペ」であったから、もう一つは、賢治はオノマトペを使うとき、役割や文法などといったことからは時に大きく逸脱していたからです。

     「かぷかぷ」笑う
     「すぱすぱ」歩く(『風の又三郎』)
     「つるつる」とした空(『なめとこ山の熊』)

     このように、賢治の作品には日本語の他の文脈からは考えられないような独創的なオノマトペの数々が登場します。これらのオノマトペを、賢治は一体どういう風に生み出しているのでしょうか。オノマトペの天才などと言われる彼ですから、何もないところから空想力で創作オノマトペをオノマトペを生み出している、とイメージされる方もいるかもしれません。しかし、実際はそうではありません。宮沢賢治は既存のオノマトペに様々な「法則」のもとで「アレンジ」を加えていたのです。


    このような賢治独特のオノマトペは全くの無から創作されたのではなく、その創作にも法則があり、慣習的オノマトペを何らかの形で利用して創作されたと考えられる。



     田守さんは、慣習的オノマトペと賢治のオノマトペを比較し、賢治が慣習的オノマトペにどのようなアレンジを加えていたのか、そこにある「法則」の存在を明らかにしていきます。私たちの耳になじんだおなじみのオノマトペが、少し手を加えるだけで全く違う響きをもった新しいオノマトペに生まれ変わる。オノマトペが変身していく様はまるで何かの「実験」でも見ているかのよう。そうなると、賢治の作品は様々な創作オノマトペが生み出される「ラボ」というところでしょうか。今回の特集のタイトルはそんなイメージから付けています。

     では、賢治が創作オノマトペを生み出していった法則とはどのようなものなのでしょうか。パネルで簡単に紹介したいと思います。

    スクリーンショット (25)

     全部で4つの法則がまとめられています。矢印の左側が慣習的オノマトペ、右側が賢治の創作オノマトペです。2つを見比べて、ニュアンスの違いなど、ぜひイメージしていただけたらと思います。

     まずは「別の音にチェンジ」。普通は足が「ぎくっと」鳴る、とするところを、賢治は足が「きくっと」鳴ると表現するのです(『フランドン農学校の豚』)。「ぎ」が「き」に変わって、印象はどう変化するでしょうか。「きくっと」鳴ると表現すると、ちょっと間が抜けたような、例えば自転車のタイヤがパンクした時のような印象を受けました。足が突然ふにゃっと曲がった様子がよく表現されているのかもしれません。

     こんな風に、賢治が創作オノマトペを生み出していった法則と、創作オノマトペによって得られる印象を考えていくと大変面白いです。まずは「音の挿入」から。「ぐにゃり」に撥音(ん)を挿入した「ぐんにゃり」(『土神ときつね』)は首を垂れる場面の描写ですが、よりがっかりしているような、体から力が抜けるようなさまが伝わってきます。右下の「音の反復」はどうでしょう。「くつくつ」が「くつくつくつ」(『水仙月の四日』)になっただけですが、これだけで場面が生き生きしてくるから不思議です。鍋の中にあるものがより激しくに立っている様子が目に浮かぶようです。全体的に言えることですが、まるで呼吸をしているような生き生きとした文に変化しています。

     私が一番面白いなと思ったのが左下の「音の入れ替え」でした。賢治の創作オノマトペの醍醐味とも言えるかもしれません。「こっそり」咲くではなく、「そっこり」咲く(『鹿踊りのはじまり』)・・・一見意味不明です。無意味に音を入れ替えて遊んでいるだけでは?と思われる方もあるいはいるかもしれません。私も最初は違和感しか覚えませんでしたが、この「そっこり」という表現は味わううちに旨味が出てくるのです。これは私の勝手なこじつけですが、「そっこり」は、「こっそり」と「もっこり」と「ほっこり」のニュアンスが組み合わさったようなイメージを覚えます。こっそりと、もっこり、そしてほっこり咲いているのです。単に音を入れ替えただけで、これだけの味わいが生まれることに驚かされます。

    天からの才能



     田守さんの本から4つの法則を紹介しました。せっかくですから、クラムボンが「かぷかぷ」笑うという『やまなし』の描写も考えてみようと思います。勘の良い方はすぐに気付かれると思いますが、これは「ぷかぷか」や「ぷくぷく」から生み出されたオノマトペであると推測されます。水中に泡が浮かぶ様子を、笑うという動作に見立てているのです。

     水中に浮かぶ泡から笑うという動作を連想する流れは比較的分かりやすいです。しかし、この箇所が単純に「ぷかぷか」笑うや「ぷくぷく」笑うだったらそんなに目を引く表現にはならなかったと思います。こういうところでさっと創作オノマトペを生み出す―。宮沢賢治の作品から受ける生き生きとした印象の生命線がここにあります。

     宮沢賢治のオノマトペの法則を紹介しましたが、賢治は上に書いたように理詰めでオノマトペを生み出していったわけではないと思います。賢治の作品を読んでいて思うのは、彼が「本当に見ている」「本当に聴いている」ということです。

     慣習的なオノマトペでも十分にイメージは伝えることが出来ますし、何の不足もありません。しかし、私は賢治の創作オノマトペを見るたびにはっとします。それに触れた後水面を見ると本当に泡は「かぷかぷ」浮かんでいるようですし、空を見上げると空が「つるつる」しているようです。「本当の様子を、ことばで見事につかまえている」、そんな印象があります。

     いうまでもなく、本当の様子をことばでつかまえるということは至難の技のはずです。そんな難しいことを、さらりとやってのけてしまう。その場その場の「本当の様子」にジャストミートするオノマトペを、まるで息を吐くように生み出してしまう。ことばにするとその時点で偽物になったような感覚をいつも抱いてしまう私にとって、賢治のこの才能は本当にうらやましいです。

     前編の今回は「実験編」ということで、宮沢賢治の創作オノマトペの法則を明らかにして、慣習的なオノマトペからの変化を見てみました。次回は「鑑賞編」として、賢治の創作オノマトペをよりたくさん、じっくりと見ていこうと思います。



    イーハトーヴ

    「宮沢賢治・イーハトーヴへの旅」 旅程表

     これまでの連載もぜひご覧ください。

     後編の「鑑賞編」は近日中にアップ予定です。
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    宮沢賢治,



    •   23, 2016 00:31
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