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3月のライオン・レビュー #1

 06, 2016 23:29
3月のライオンヘッダー

#1

 羽海野チカさんの漫画、「3月のライオン」のレビューをお届けします。今回は1巻のレビューです。



 物語のはじまり、1巻。中学生棋士という輝かしいキャリアを持った主人公、桐山零(きりやま・れい)は、そのような輝かしいキャリアを持っているとは思えないほど、不安で、か弱い一歩を踏み出したのでした。彼の周りにいる個性豊かな人人も、続々と初登場を飾ります。それぞれが、それぞれの1歩を踏み出す第1巻。その内容を、たっぷりとご紹介します。



エピソード・リスト



 1巻に出てくる主なエピソードのリストです。そして、その中から私がもっとも印象的なエピソードを「ベストショット」として掘り下げてご紹介します。

 ・将棋の父、幸田との対局
 ・林田先生との出会い(回想)
 ・川本三姉妹との出会い(回想)
 ・零と二階堂の幼少時代、デパートの屋上での対局
 ・零と二階堂、プロでの初対局
 ・川本家のお盆
 ・ひなたと高橋君、恋のお弁当
 ・零の幼少時代(両親と妹を失った経緯)
 ・零が幸田に引き取られ、そして家を出て行くまで

 ★ベストショット「将棋の父、幸田との対局」

 将棋の一手に込められた思い―静かで、それでいてとてつもない緊張をはらんだ冒頭シーン

 ベストショットに選んだのは冒頭のシーンです。主人公の零が彼を引き取った「将棋の父」、幸田と盤を挟み、将棋の対局にのぞみます。読者は、まだ2人の間にある複雑な関係と、零の苦しみを知りません。そんな事情が分からない中で、対局は厳かに進みます。ほとんど会話のないシーン。緊張感をはらみながら、2人は将棋の手を通じて、「見えない会話」を繰り広げるのです。

一手一手 まるで素手で殴っているような感触がした―
殴った肌の あたたかさまで 生々しく残ってる気がする


(chapter 1 桐山零)

 零は対局のことをこう振り返ります。彼が指した一手一手は、言葉にできない様々な思いがこもった生々しい「拳」でした。彼が抱えた思いが明らかになるのはこのあとです。

 ところで、「3月のライオン」は10月からNHKでアニメ化されています。私ももちろん毎週楽しく見ているのですが、アニメの特徴はとにかく「原作を忠実に再現しているところ」に尽きます。原作の冒頭であるこのシーンは、原作と同じように会話を省いて、静寂と緊張の中で映像が進んでいきました。冒頭から素晴らしい緊張感で、アニメを見て心を掴まれたという方も多いのではないでしょうか。アニメをきっかけに原作のファンが増えてくれるとうれしいですね。




ライオンの涙 #1



ライオンの涙

 「3月のライオン」を読んでいて印象的なのは、登場人物たちが涙を流すシーンが多いということ。喜び、悲しみ、苦しみ、怒り・・・その涙には、様々な人物の思いが詰まっています。「涙」という視点から「3月のライオン」を切り取っていく、このブログオリジナルコーナーです。

tears 1 零

―桐山零 これが僕の名前
大きな川沿いの小さな町で これから僕は暮らしてゆく


(chapter 1 桐山零)

 上にも書いた幸田との対局の後、零は川本三姉妹の家に迎え入れられました。ご飯を食べた後、気を失ってしまったかのように眠りについた零。ひなたが寝ている零の目から眼鏡を外そうとした時、零の目には涙が浮かんでいました。

 将棋で幸田に勝ちはしたものの、彼が背負っているものはあまりにも重く、その荷は将棋に勝つことだけでは下ろせないんだ―そう気付かせてくれるシーンです。夜の海のような静かな零の涙で、物語は港を出ていきます。

tears 2 二階堂

「負けました」

そうつぶやくと彼は マンガみたいな大粒の涙をポロポロとこぼし始めた
僕はそれを セミの声とデパートの屋上のBGMの中でただ黙って見つめていた
多分…この先、何十年も向き合うかもしれないその顔を


(chapter 5 晴信)

 零のライバル、二階堂晴信。1巻では、零と二階堂が幼いころにデパートの屋上で対局したエピソードが収録されています。負けが確実になった局面でも決してあきらめず、粘り続けた二階堂。そして、負けを認めなければいけなくなった時、彼の目から大粒の涙が零れ落ちました。

 将棋は負けた方が自ら声を発し、「負けました」と言わなければいけないゲームです。私も将棋を指すので、自分で負けを認めなくてはいけない、その残酷さが少しは分かります。負けたくない―しかし、「負けました」。潰れた心で、絞り出すようにその言葉を吐き出すのです。

 二階堂は、「負けたくない」という気持ちが人一倍強いキャラクターです。どうして彼は、そこまで勝つことにこだわるのか。その理由は、今後少しずつ明かされていくことになります。

tears 3 ひなた

声がかけられなかった 胸がつまるような声だった…
―きっとみんなの前ではずっとガマンしていたのだろう


(chapter 6 夜空のむこう)

 お盆の日、川本家の皆は亡くなったおばあさんとお母さんを送り出しました。皆の前では気丈にふるまっていた次女のひなた。「コンビニに行く」と行ってコンビニとは違う方向へ駆けて行きます。彼女には、亡くなったお母さんへのこらえきれない思いがあったようです。泣いているところを見られたくはなくて、彼女は一人になったのでした。

 川を見ながら泣くひなたを、優しく見守る零。明るくて楽しい川本家の人々にも、癒えない悲しみと傷が残っているのです。心に傷を抱えている人々が、それぞれ支えながら明日も生きて行く。それはこの物語の、もっとも大切な部分かもしれません。

tears 4 香子

父は将棋を愛していた
―良くも悪くも 全てが「将棋中心」だった
だから 彼を愛する者は 強くなるしかなかった


(chapter 10 カッコーの巣の上で)

 将棋の残酷さについては、二階堂の部分でも書きました。もう一つ残酷なところを挙げるとすれば、それは「実力差がはっきりとでてしまうこと」。実力差があるのに、まぐれが勝ててしまう―そんなことはほとんどありません。それは、別の言い方をすれば、自分の実力をまざまざと見せつけられてしまうということ―。

 幸田の娘、香子はそんな残酷さをもっとも突き付けられた人物の一人でした。彼女は幸田に引き取られた零を超えることができませんでした。それは、父から「愛されない」というということでもありました。彼女は人生を大きく狂わされていきます。

 1巻ではありませんが、このあとに出てくる「プレゼント」のシーン。私がこの漫画を読んでいて、特に胸が苦しくなった場面の1つです。

 「3月のライオン」に出てくるさまざまな涙を「文章」で振り返っています。キャラクターたちが涙を流すその表情は、ぜひ本を手に取って「絵」で確かめてみてください。2つを合わせて、「3月のライオン」という作品がもっと好きになっていただければ幸いです。

次回予告





 2巻の感想は完成したらこちらにリンクを貼ります。2巻の感想もお楽しみに。そして、漫画「3月のライオン」をぜひ、手に取ってみてください。
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