HOME > 魚乃目三太
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。





  •   --, -- --:--
  •  宮沢賢治の生涯を「食」にフォーカスして描いた漫画が発売されました。1冊で心も体もいっぱいに満たされるような、そんな素敵な作品になっています。

    宮沢賢治の食卓 (思い出食堂コミックス)
    魚乃目 三太
    少年画報社 (2017-03-27)
    売り上げランキング: 12,259


     表紙で右上を眺めている優しそうな男性がこの漫画の主人公、宮沢賢治です。温もりのある作品だということが感じていただけると思います。宮沢賢治の「孤高の人」などとイメージしている方がおられたら、さっそく裏切られるビジュアルかもしれません。表紙に書かれているこの絵には、この作品の魅力がたっぷりと詰まっています。

     宮沢賢治の生涯はとても有名で、国語の教科書にも掲載されるくらいです。私も、知っているエピソードがたくさんありました。ですが、作者の魚乃目さんが、「食」を通して、温もりで味付けしたこの作品は、私たちに新しい宮沢賢治を教えてくれるに違いありません。



    内容紹介



    IMAG0301_BURST002_1.jpg

     漫画の中身はお見せできないので、帯の写真を紹介します。この作品で描かれるのは、おそらく、人々のこれまでのイメージを塗り替えるような「新たな宮沢賢治」の姿です。

     宮沢賢治の作品には息をするのも忘れるような美しさがあります。そのため、宮沢賢治というとどこか聖人化、神格化されたイメージを持たれることがあります。私もそんなイメージを持ってしまいがちな一人です。彼の作品は、本当に人間がこれを生み出したのかというくらいに美しく、おののいてすらしまうからです。

     しかし、いったん宮沢賢治という「人間」に着目してみるとどうでしょうか。彼はとても人間味のある人でした。作品からは想像できないような豪快なエピソードもあります。この作品は、そんな賢治の人間味あふれる部分を伝えてくれるでしょう。「モノマネと冗談の名人」「涙もろくて、情に厚い」帯に書かれているように、彼の愛すべき人間としての姿が描かれます。

     「・・・そして、食いしん坊」

     この作品でフォーカスされるのが「食べ物」です。1話につき1つの食べ物がテーマになっていて、全10話から構成されています。「鳥南蛮そば」「ハヤシライス」「サイダーと天ぷらそば」「樺太のほっけ」・・・などなど。食べ物の描写は本当に魅力的で、食欲をそそります。そして、食を通じて見えてくる賢治の「人生」や「世界観」がありました。次からの書評パートでくわしくご紹介します。



    書評



    イーハトーヴ

    こが面白い!「宮沢賢治の食卓」3つの魅力

    ① 喜怒哀楽の、ダイナミックで豊かな描写
    ② 食べ物を美味しく魅せる、様々な工夫
    ③ 「食」から見えてくる賢治という「人」


     作品の魅力を、3つに分けてご紹介します。

    ① 喜怒哀楽の、ダイナミックで豊かな描写

     まず、これが最初に印象に残ることではないかと思います。魚乃目さんの絵にはとても温もりがあって、そして喜怒哀楽の描写が豊かです。からだいっぱい、コマいっぱいに感情が描かれているので、読んでいると感情がコマを飛び越えて、読者にも押し寄せてくるような感覚になります。

    「沼田くん」
    「はい」

    「お腹空いてねーが?」(一品目 鳥南蛮そば)



     特に、食べ物が出てくる時の賢治は本当に幸せそうで、二カッと笑った顔にこちらにも笑顔が伝染しました。もちろん、描かれるのは楽しそうな顔ばかりではありません。時には顔をくしゃくしゃにして泣き、時には烈火のごとく怒ります。全ての感情が「全力」で「ダイナミック」。それが、読者の心を掴みます。

    ② 食べ物を美味しく魅せる、様々な工夫

     さまざまな食べ物が出てきますが、その描写が秀逸で、食欲をそそります。食べ物を美味しくさせるために、絵以外にもいろいろな工夫がされているように感じました。

     私が好きだったのは、「口を大きく開けて食べるところ」です。賢治は食べ物をほおばる時、大きく口を開けます。それで満面の笑みを見せるものですから、もう何を食べても極上の食べ物に見えてきます。

    「いただきます!!」

    「うめえなっす!!はじめて食べる味だ」(五品目 樺太のほっけ)



     「花巻の方言」「オノマトペ」も食べ物を美味しく引き立ててくれるでしょう。方言は温もりや優しさを感じさせる不思議な言葉の魔法ですね。それに、「ぐつぐつ」などのオノマトペもとても種類が豊富で、臨場感を出しています。宮沢賢治といえば天才的な感覚で独自のオノマトペを使いこなしましたが、作者も本家に負けず、オノマトペを効果的に用いています。

    ③ 「食」から見えてくる賢治という「人」

     「食」が「人」をつくる

     そのことを、強く感じさせられる作品でした。食は「いのち」です。生命をつなげるだけではなくて、食べたものが血となって肉となって人間を作っていく。そのことに思いを馳せます。知っているエピソードがたくさんありましたが、それらに「説得力」を感じたのは、人を作っているものである「食」にこの作品が立ち返ったからではないかと思います。

     「お腹、すきませんか?」

     その言葉が、不思議な魔法のように思えました。食べ物を通じて感じる「生きるよろこび」「幸福感」、満たされた私たちが忘れかけていることが鮮やかに描かれていて、はっとさせられるのです。

    IMAG0300_BURST002_1.jpg

     最後に、印象的だったエピソードを2つご紹介します。

    ◆ 「アイスクリーム」(3品目)


     賢治について知っておられる方は気付けるかもしれません。この話では、賢治の最愛の妹、トシとの別れが描かれています。取り上げられる作品は「永訣の朝」です。

    どうかこれが天上のアイスクリームになって
    おまへとみんなとに聖い(とうとい)資糧(かて)をもたらすように (『永訣の朝』)



     アイスクリームは「雪」のことです。本当の食べ物ではないので、この話は特別な位置づけにあるかもしれませんね。亡くなる直前、冷たいあめゆぢゅ(雨雪)を食べたいといったトシ。賢治は必死にかけまわって雪をとってきます。そして、迎える最後の時-。胸が締め付けられるようなエピソードです。

     トシが亡くなった後、賢治の慟哭が1ページをまるまる使って描かれます。圧倒されました。1冊の中でもっとも心を動かされた1ページかもしれません。

     悲しいエピソードには違いないのですが、それでも根底に「温もり」があるというのがこの作品の魅力だと思いました。賢治がどれだけトシのことを愛おしく思っていたのか、トシがどれだけ周りの人に愛されていたのか、それがひしひしと伝わってきます。

    ◆ 「弁当」(九品目)

     賢治は勤めていた学校にいつも弁当をもってきていたと言います。それだけで賢治に親しみを感じることができるような、弁当というのはそんな不思議な食べ物ですね。

     賢治の同僚の先生が病気で学校に来れなくなり、賢治はその先生のもとに通います。手には母に作ってもらったお弁当、そして先生を援助するためのお金を握りしめて。

    「うわ~
    うめぇ・・・・・・
    こんな美味しい物
    はじめて食べた」



     ビフテキが詰まったお弁当。賢治の優しさが調味料になって、世界で一番ぜいたくな食べ物になったようです。作った人の顔や気持ちが見える弁当。豪華な料理が並んでいるこの作品の中で、ひときわ輝きを放っていました。

     ですが、先生は結局亡くなってしまいます。トシと同じ結核で、亡くなった日も、奇しくも妹トシが亡くなった日と同じだったそうです。このことは、賢治に大きな無力感を与えることになります。

     賢治の作品にどこか漂う「かなしみ」。そして、「ほんとうのさひわい」を求める旅。それらは、こういった体験から生まれた賢治の価値観だったようです。もう一度、彼の作品に立ち返りたくなります。

    まとめ



    まとめ



     「おなかいっぱい」になる、素敵な1冊でした。多幸感がからだを包みます。読む人を幸せにできる、素晴らしい漫画だと思いました。

     そして、今後何度もこの本を開きたくなるような、そんな予感も覚えました。ちょっと寂しくなった時に居場所を求めたくなるような、そんな雰囲気があります。

     このブログでこれまで紹介してきた作品も収録されていますが、この本を読んだ後ではまったく感想が変わりそうです。もう一度、賢治の作品を読み返したいと思います。今度は賢治という「人」を感じながら。そんな旅になりそうです。




    オワリ

    宮沢賢治の食卓 第1話試し読み

     第1話が無料で試し読みできるようです(2017/4/16現在)。ぜひ読んでみてください。

    宮沢賢治・イーハトーヴへの旅 旅程表

     今回で19回目になりました。宮沢賢治の作品や宮沢賢治に関するトピックを取り上げています。


    スポンサーサイト
    魚乃目三太, 宮沢賢治,



    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。