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命をつなぎとめるもの -『半落ち』横山秀夫

 30, 2017 01:28
 辛かったこと(就○)が終わって、久しぶりにブログにやってきました。実は終わったのはもう少し前だったのですが、本を全く読まないような生活をずっとしていましたから、生活のリズムを取り戻すまでだいぶ時間がかかりました。ゆっくり本を読めるような人生の夏休みは残り少なくなりましたが、本が好きなことは変わりません。ぼちぼち、更新していけたらと思います。

半落ち (講談社文庫)
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横山 秀夫
講談社
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 横山秀夫さんの名作サスペンス、『半落ち』をご紹介します。横山さんといえば警察小説、サスペンス小説の名手です。私は『臨場』が大好きで、原作もドラマも名作だと思っています。今回紹介する『半落ち』は代表作の一つで、直木賞の候補にもなりました。

 殺人の事実を認めながらも、自首するまでの「空白の2日間」については頑なに口を閉ざす1人の男。いわゆる、「半落ち」の状態です。事件の裏には何が潜んでいるのか、男はなぜ口を閉ざすのか-。人間ドラマの側面も濃い、読みごたえのあるサスペンスでした。



内容紹介



ミステリー・サスペンス

うしても話さなければいけませんか-。

 「妻を殺した」-そう言って、現職の警部が警察署に自首してきました。動機は、アルツハイマー病で苦しむ妻に懇願されたから。いわゆる「嘱託殺人」です。現職警官が殺人を犯したという事態に、W県警は大きな混乱に包まれます。

 被疑者の名前は梶聡一郎(かじ・そういちろう)警部。「落としの志木」と呼ばれた敏腕捜査官、志木がまず彼の取り調べにあたります。とはいえ、取り調べで争うような事実はほとんどないように思われました。梶警部は、記憶を失っていくことを嘆く妻に泣きつかれ、首を絞めてしまったと素直に自供しています。彼は、「完落ち」-そう思われました。

 ところが、ある質問を境に、取調室は重い空気に包まれることになります。「奥さんを殺した後、あなたが自首するまでに丸二日間ありました。その間、あなたはどこで何をしていたのですか」志木がそう言って、犯行後の行動について尋ねた時です。

 梶の唇は固く閉ざされたままでした。犯行後に何をしていたのかは、話したくない-。「半落ち」の被疑者を前に、警察と検察、そして、記者や裁判官をも巻き込んだ、大きな混迷が広がっていくのです。

書評



書評

◆ 半分だけ残された謎

 殺したことは認める。しかし、殺した後何をしていたのかは話せない。話したくない。

 この「半落ち」の謎。作品の序盤でそれが示され、重苦しく作品に落とし込まれます。そして、その謎を前に多くの人が葛藤していくのです。まるで、得体の知れない怪物が作品の中でうごめいているかのようでした。謎の霧が明けるのは作品の終盤です。重苦しくもありますが、真相を知りたいという思いも高まります。サスペンスとして、とても上質に作り込まれている作品であるといえます。

 そして、サスペンスとしてだけではなく、「人間ドラマ」としても、この作品は読みごたえがありました。作品は、さまざまな人の視点から進んでいきます。取り調べにあたった警察官、検察官、事件を取材した新聞記者、弁護士、裁判官、そして最後は刑務所の刑務官。全部で6人ですね。それぞれ、立場も違えば考え方も違います。お互いに関わり合いながら、そして一人の殺人犯と向き合っていきます。その中で、それぞれが自分の人生を振り返り、そして重ねていく-。その過程が丁寧で、作品の深みにつながっています。

 犯行後に何をしていたのか、頑なに口を閉ざす梶警部。しかし、彼の口からふと奇妙な言葉が飛び出します。

「死んでお詫びすべきだと……最低の人間だと……しかし、あと1年だけは……

「命が……惜しくなったということです」



 そして、彼の自宅から、「人生五十年」としたためられた書が見つかります。織田信長の有名な言葉ですね。梶警部は49歳。つまり、あと1年生きれば50歳なのです。彼は「あと1年」だけ生きようとしていました。誰か守りたい人でもいるのだろうか、最初はそう思いました。しかし、彼は息子を白血病で亡くし、妻は自分の手で殺してしまいました。守るべき家族はいません。

 彼をこの世に「1年だけ」つなぎとめようとしたものの正体。それは、最後には「生きる意味」という大きな問いへの答えにつながる、そんな謎でした。

◆ 誰のために生きるのだろう

 読めば読むほど、犯人である梶警部のことが分からなくなります。彼は、妻を殺したとは思えないほど、優しい目をした、温厚な人でした。自分が犯した罪はすべて認め、そしていかなる罰も受ける、そんな態度を取ります。取り調べにあたる人々を困惑させるような「無私の顔」でした。

 しかし、自首するまでの空白の2日間は謎のままです。そして、彼があと1年だけ生きようと思った、というもう1つの大きな謎。
それが、彼に関わる人たちの心中に大きな葛藤を巻き起こしていくことになります。

検事さん、あなたは誰のために生きているんですか-。



 取り調べをしていた検事の脳裏に、昔、ある人から言われた言葉がよぎります。それは、彼を悩ませることになりました。

自分のために生きている。その当たり前のことが切なかった。(中略)睡魔にさらわれていく。わからなかった。自分は誰のために生きているのか。そして、梶聡一郎は……。



 「自分のために生きている」、彼の考え方は当然だと思います。ですが、世の中には、自分の命よりも大切なものを守るために生きている人もたくさんいます。「家族」、それがもっとも典型的なものでしょうか。そして、そんな「自分の命よりも大切なもの」を持っている人は、崇高で、強い。「誰かのために生きる」というのは、私は想像するよりもずっと大変な、大きな覚悟の伴うことだと思います。

 妻をこの手で殺め、家族を失い、それでもこの世にしがみつくことを必要とする梶警部。彼が自分のためだけに生きているようには見えません。だとすると、彼は誰のために生きているのか。謎がどんどん大きくなって、知りたいような、知りたくないような、そんな気持ちに襲われて胸を締め付けました。

まとめ

まとめ



 物語の最終盤、真実が明かされました。

死なせない。
この男を死なせてなるものか。



 この強い決意の言葉は、誰のものでしょうか。そして、なぜそのように決意させたのでしょうか。結末は本を読んでいただくことにしたいと思うのですが、とても力のこもった、よいラストでした。「生きる意味」という非常に重いテーマをしっかりと受け止め、読者にも納得のいくような「意味」が最後に示されています。

 ネタバレにならないように、ほんの一言だけ。すごい覚悟、すごい決意です。自分の命をすぐに絶ってしまうのとは比べものにならないような、凄まじい覚悟。それが正しいことかどうか、私にはとてもじゃないけど分からないのですが・・・。

 人間ドラマの色が強いですが、警察の検察の意地の張り合い、縄張り争い、それにスクープをとろうとする記者との格闘など、事件そのものの運びも大変面白く、満足のいく読みごたえでした。ぜひ、残された「もう半分」の謎を見届けてみてください。



オワリ

ミステリー・サスペンスの本棚

 このブログで紹介した、ミステリー・サスペンスの本の一覧です。

 久しぶりに書いたので、文章力が鈍ってなければよいのですが・・・。まあ、ぼちぼち、ぼちぼちですね。
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小説, 横山秀夫,



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