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  • 異質な町で  -『リカーシブル』 米澤穂信

     21, 2015 19:15
     ブックレビューの第14回です。今回ご紹介するのは米澤穂信さんの「リカーシブル」という作品です。いろいろな人からおすすめされてはいたのですが、ようやく手に取った米澤さんの作品。予想していた以上に面白かったです。本屋大賞にノミネートされている「満願」も早く読まなければ!と思わせるような出来栄えでした。それでは、以下「リカーシブル」のレビューです。

    リカーシブルリカーシブル
    (2013/01)
    米澤 穂信

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    怪しさの不気味な増幅




     この本は363ページあるのですが、事件が大きな動きを見せるのは222ページと全体の3分の2にさしかかったあたり。そこからの急展開はもちろん見応えがあるのですが、それよりも私が面白いと感じたのは「事件が起こる前の不気味な怪しさ」の方でした。

     主人公の越野ハルカは中学生になった春、母と弟と一緒に見知らぬ町、坂牧市に引っ越してきます。その町は独特の雰囲気と怪しさを醸し出した町でした。街を覆うのは、古くから伝わる奇妙な伝説・・・。自分が「よそ者」としての視線を受けていることを強く意識しつつ、町に潜む「何か」を探るハルカ。・・・とまあ、これだけでも十分に不気味なストーリーです。

     この話のすごいところは、「異質なのは町だけではない」というところです。母と弟、と先程書きましたが、実はこの二人、ハルカとは血のつながりを持っていません。母は父の再婚相手、弟はその母の連れ子です。つまり、ハルカは、全く見知らぬ町で、血のつながりのない「形だけの」家族と生活していくのです。・・・とまあ、これだけでも十分に不気味なストーリーです。

     まだ、あるんです。ハルカの母は、実の子供であるサトルと血のつながりのないハルカに対し、全く同じように接します。あまりにも「優しすぎる」のです。その底の見えなさが不気味な怪しさを醸し出しています。そして、不気味さのラスボスはそのサトル。サトルは、町で起こることを「予言」してしまう、という不思議な能力があったのです・・・。

    強すぎる主人公



    読んでいて気付くのですが、主人公には心を許せる人物がいません。母は怪しく、弟は得体のしれない「予言」の能力を持っています。そして、舞台は見知らぬ町。ハルカはリンカという友達をつくり、クラスでの居場所を確保するのですが、このリンカも完全に信用できる人物ではありません。「友達」はあくまでポーズ。彼女が腹の底で何を考えているのか・・・ハルカは警戒を続けます。

     見知らぬ土地で、一人で暮らしているようなものです。とても正気を保てるような状況ではありません。しかし、このハルカという少女はかなり強靭な精神を持っていました。自分の弱みを見せないように、周りになじめるように、と自分を「演じる」ことに徹します。

    夕暮れに沈む町はどこもかしこ一片の情けもなくよそよそしくて、とてもわたしを受け入れてなどくれそうもない。でももちろん、それは気のせい。にっこり愛想笑いしてお腹に力を入れていれば、どんなことでも、きっとなんとかなるに決まっている。そう信じていないと、気持ちが持ちそうもない


    わたしはまだ弱い。そんな弱さは命取りだ。改めなくてはいけない。改めなくては・・・。



     ・・・すごいタフさです。昨年、宮部みゆきさんの「ソロモンの偽証」を読んだとき主人公の女の子があまりにしっかりしていて驚いたものですが、彼女はそれをゆうに上回っています。太字にした部分のように、もちろん不安でいっぱいなわけですが、決してそれを表には出しません。仮面をかぶりながら、自分の立ち位置を探します。中学1年生のなせる業ではありません。あまりに強すぎて、読者からすれば、彼女の存在もまた一種の「不気味さ」になったかもしれません。

     事件が起こった後は急展開。前半は静かに増幅していく不気味さ、後半は意表をつく展開で魅せます。ハルカは最後も機転を利かせ、抜群の行動力と推理力で町に隠れた秘密を明らかにしていきました。人に心を許さず、自分を演じることに徹した彼女の行動が、最後は真実を見抜く鍵になりました。
     
     練られたプロットと、どこまでも怪しい雰囲気。「読ませる力」を持った作家さんだな、と思います。特にうまいのは町の不気味な雰囲気の演出です。

    この町はどこまで行ってもよそよそしく灰色で、錆びたトタンに囲まれた路地も、誰もいない道で点滅する黄信号も、わたしを受け入れようとしない。店を閉じ看板を下ろした跡がもの寂しい民家や、いつのものとも知れないチラシが破れて糊の跡だけ残った電柱、そうしたものから目を逸らす。



     一つだけ注文するなら主人公が強すぎることですね。弱さをのぞかせる場面も少しはあるのですが、先程引用したようにそれを決して見せようとしない。もう少し弱さを見せてくれれば、読者も共感でき、町や家族の異様さがなお際立ったのではないか、と思います。

    町の魔性



     一見現実離れした物語なんですが、実はとても鋭い。「町の魔性」を上手く捉えている、と思います。

     この間紹介した芥川賞作品、「九年前の祈り」でもそうでしたが、町にはその町にしかない独特の空気があります。そこで暮らす人々が、無意識のうちに作り出す空気。よそからきた人にとってはそれは不気味なものになります。 

     「よそ者」を主人公にしたことで、そういった雰囲気がとてもよく描けていました。ラストで明かされるのは町全体に仕組まれていた大きな「仕掛け」。町の魔性を小説に上手く生かし、壮大なフィクションに仕立て上げたラストは見ものですよ。
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    小説, 米澤穂信,



    •   21, 2015 19:15
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