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  • 愛すランド -『島はぼくらと』 辻村深月

     26, 2015 17:45

     今日ご紹介するのは辻村深月さんの「島はぼくらと」という作品です。辻村さんの作品は、「ツナグ」 以来2作目のレビューになります。本土から離れた島に暮らす高校生4人組。それぞれの思いを抱えながら、故郷からの巣立ちに向けた時が流れます。それでは、「島はぼくらと」のレビューです。

    島はぼくらと (講談社文庫)
    辻村 深月
    講談社 (2016-07-15)
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    綺麗なことばかりじゃない



     このブログで紹介した本はまだ20冊にも満たないのですが、「地方の暮らし」をテーマにした作品が図らずも多くなっています。「忘れられた日本人」「神去なあなあ日常」、それにこの間紹介した「九年前の祈り」がそうですね。これで4冊目です。

     地方はどんな風に書かれているのか、大きく2つに分かれます。「忘れられた日本人」や「九年前の祈り」は、村の閉鎖的、排他的な雰囲気を描いており、地方の「影」が濃い作品です。それに対して「神去なあなあ日常」は田舎の開放感、人々の優しさや温かさを描いており、地方に「光」を当てた作品です。

     では今日紹介する「島はぼくらと」はどちらなのか。この作品は「光」と「影」のバランスが非常によくとれています。地方独特の荒んだ感じを上手く出しつつ、包容力と温かさを持った地方の良さも感じさせる、という素晴らしい作品でした。

     舞台は瀬戸内海に面する島である冴島(さえじま)。本土とはフェリーでつながっており、島で暮らす子どもたちは高校を卒業したら本土に働きに出る、つまり島を離れることになります。主人公はそんな故郷からの巣立ちを控えた高校生4人、朱里(あかり)、衣花(きぬか)、新(あらた)、源樹(げんき)です。

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    自然体と包容力



     冴島には、Iターン(都会から地方へ移住すること)してくる人がたくさんいます。単に田舎でのんびりした暮らしをしたいという人もいれば、複雑な事情を抱えて地方に逃れてきた人もいます。

     昔から島に暮らしている人と、よそからやってきた人。普通に考えたら、そこには溝や距離が生じるものだと思います。しかし、冴島はそうではありません。もちろん最初から心を通じ合わせているわけではありませんが、冴島の人はよそから来た人を決して拒みはしません。よそ者として扱うのではなく、そこで暮らすうちに家族同然の親しさで接するのです。そんな風によそから来た人にも心を開けるのは、冴島の人が「自然体と包容力」をもっているからだと思います。

    「何か問題が起こって、お互いぶつかっても、時間が経てば何もなかったようにお互い忘れてやっていける。ここは、そういう場所だよ」



     優しいとか、温かいとかそういうのとは違います。言いたいことを分け隔てなく言ってくるし、ずけずけとお節介をすることもあります。そういったことも含めて「自然体」なのです。島にやってきた人が、どこから来ていようが、過去にどのような事情を抱いていようが、島の人たちは気にしません。そこにいるのは一人の「人間」。地位も、身分も、名誉も、お金もありません。そんな風に自分を受け入れてくれる島の人たちに、よそからやってきた人たちは自然と心を開くことができます。

    これまで、故郷なのにうまくいかないのかと思ってきたのは間違いだった。そうじゃない。故郷だからうまくいかなかったのかもしれない。故郷ほど、その土地の人間を大切にしない場所はないのだ。


     これは、ある事情で傷ついて、島にやってきた女性のことばです。自分の故郷と世間に苦しさを覚えた彼女が、島にやってきて島の人たちに触れてこのように思います。

     よく「第二の故郷」などといいます。自分の生まれた場所が一番自分にとって住みよい土地か、といったらそうではないのかもしれません。生まれたかどうかより、「自分の居場所があるかどうか」。島の人びとに大切にしてもらった彼女は、すっかり人びとに心を開き、最後には「地元の人」になっていました。冴島の包容力を感じて温かい気持ちになります。

     狭い島に暮らす人たちですから、家族(血縁)よりも深い「地縁」がありました。島の人たちは家族とは別に「兄弟」という契りを交わします。

    島の限られた人間の中でそうやって繋がり、有事の際には助け合って生きる仕組みが自然とできていた。周りを海に囲まれたこの場所では、“何かの際”の繋がりが親戚以外にも必要だったから、きっとこうなった。



     主人公たち4人も、この「兄弟」の契りを巡って揺れ動きます。同じ土地で過ごしてきたつながり・絆はとても深いものがあります。単なる「友情」や「恋愛」とは違った、色濃い人間関係が描かれます。

    小さな島の、大きな決断



     島には働く場所がほとんどありません。ですから、一部の子供たちをのぞいて、ほぼ全ての子供たちが高校卒業と同時に島を出ていくことになります。朱里は不安を隠せません。

    狭い島の外にひとたび出れば、それまで自分たちだけとしかつきあうことのなかった友達にも、別の世界ができる。頭ではわかっていたつもりが、源樹が急に遠いところへ連れて行かれるような気がした。



     必ずやってくる別れ。残酷です。ですが、巣立ちの時が近づくにつれ、それぞれが、それぞれの思いを固めていきます。
    離れ離れになっても、島で暮らしたものどうし、「兄弟」のつながりは決して消えることはありません。「別れ」によって、「兄弟のつながり」の強さが確かめられる、そんな素敵な話でした。

     最後は大人になった彼らの姿が描かれます。島に残った衣花は、ある決断をしていました。「小さな島の、大きな決断」、ちょっと驚きのラストです。でも、胸がいっぱいになります。

     夢やつながりは、その大きさではなく、「強さ」が大切なんだな、と思いました。小さな島で、大きな決断があり、新しい世界が始まる、そんな素晴らしいラストです。




    こちらもどうぞ

     地方の暮らしを舞台にした作品のレビューです。

     田舎のみずみずしさ、温かさが伝わる三浦しをんさんの名作!
     「神去なあなあ日常」 三浦しをんさん

     今年の芥川賞受賞作。3回シリーズでたっぷり読み込みました。
     「九年前の祈り」 小野正嗣さん

     こちらは小説ではなく、民俗学の名著。日本の村社会の様子をありありと描いています。
     「忘れられた日本人」 宮本常一
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    小説, 辻村深月,



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