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  • 家族たちの肖像画 -『理由』 宮部みゆき

     27, 2015 18:47

     図書館で宮部みゆきさんの本棚に行くと、作品のボリュームにびっくりします。「蒲生邸事件」「模倣犯」など分厚い本がずらり。重厚感、ということばがピッタリです。その極め付けが「ソロモンの偽証」ですね。700ページ超えの単行本×3冊!読むのも大変ですが、書くことに使われたエネルギーは想像もつかないものだと思います。

     そんな大長編にはまだ手を出せずにいるのですが、宮部みゆきさんの作品は少しずつ読み進めています(「ソロモンの偽証」は第1部まで読みました)。今日ご紹介するのは、直木賞を受賞した「理由」という作品です。

     実は昨年、この作品を読んで大学のレポートを書きました。この作品も文庫本で700ページに迫るような長編で、しかも情報量が多いため、読むのに莫大なエネルギーを費やした記憶があります。ですが、エネルギーを費やした分、宮部みゆきさんの力量を思い知る作品になりました。そういったあたりも振り返ってみたいと思います。では、以下「理由」のレビューです。

    理由 (朝日文庫)
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    宮部 みゆき
    朝日新聞社
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    隣近所はサバイバル


     
     東京荒川区の超高層マンション「ヴァンダール千住北ニューシティー」で起きた殺人事件をドキュメンタリー的手法で描いたこの作品。まるで雑誌の特集記事のように、淡々と事件が語られていきます。小説を読んでいるような気がせず、だいぶ戸惑いました。

     高層マンションの1室で3人の死体が見つかり、さらに1人の転落死体が見つかる・・・ということでミステリーとしても十分に楽しめるのですが、この作品の魅力は、「現代の家族」というテーマです。マンションで見つかった死体となった人々にも、「家族」に関するある事情がありました。バブル崩壊でこれまでの幻想が崩れ、停滞と暗黒に突入していく時代が舞台。作品全体に暗く、不気味な雰囲気が漂っています。

     舞台となった高層マンションで描かれる人間関係は、隣近所に気を許すことができない、殺伐とした関係でした。事件が起こった部屋の隣にいた主婦がこう言います。

    「現代ではね、隣近所は頼りがいのある存在じゃなくて、警戒すべき存在なんです。排他的であるくらいが、ちょうどいいんですわ」


    わたしたち一家は以前に『隣人』の怖さを味わっていました。『隣人』が怖いということは『世間』が怖いということですし、結局は『コミュニティ』そのものが怖いということなんですよ。ですから、いつ何があったって不思議じゃないんです」



     殺伐として乾いた時代の空気がよく伝わってきます。常に互いを監視しあい、警戒しあうコミュニティー。そこに漂う互いへの不信感が、この事件の謎を深めていきました。

    血には逆らえない




     高層マンションでは冷たく、乾いた人間関係を描きましたが、マンションの周りにある下町で描かれるのは、昔ながらの「血が通った」家族の姿でした。

     作品にはたくさんの家族が登場します。1つの事件の周りには多くの人が関わっています。宮部さんは事件に関わる人物たちの姿を、その家族も含めて詳細に、綿密に描ききりました。まるで、「ざるからこぼれる一滴も逃さない」といったような渾身の描写に圧倒されます。冒頭でも書きましたが、読むのが大変な以上に、書く方が大変です。この作品に費やされたエネルギーは膨大なものだと思います。宮部さんの筆力、構成力には凄まじいものがありますね。

     下町の家族たちはそれぞれに複雑な事情を抱えていますが、共通するのは「家族の血のつながりを強く感じさせる」ことです。家族の一人の痛みは家族全体の痛みになります。家族があやまちを犯しても決して見捨てることはできません。「血のつながり」がそうさせるのです。作品を通して血のつながりのもつ強さが強調されます。まるで、「血の宿命」とでも言うような、強い強いつながりです。

     マンションの冷たく乾いた人間関係と、下町の血が通った人間関係が色濃く対比され、お互いを印象付けています。事件のカギを握っていたのもまた「家族」でした。終盤に印象的なセリフがあります。

    「家族とか、血のつながりとか、誰にとっても面倒くさくてやりきれないもんだよ。だけど、本気でそういうものをスパッと切り捨てて生きていこうって人たちがいるんだね」


    帰る場所があるってことと、自由ってことは、全然別だと思うけどね」



     ここでも「血のつながり」が強調されています。宮部さんは血のつながりを何度も何度も強調し、その強調ぶりは徹底しています。

     人間は、家族のつながりを切り捨てて生きることはできない。血のつながった家族の存在は、人間が一生逃れることのできない宿命である

     宮部さんが伝えたかったメッセージはこのような感じでしょうか。家族のつながりがだんだん希薄化していく現代社会に警鐘が鳴らされます。ラストではそのメッセージがはっきりと示されます。長い作品の最後の部分ですから、かなり重く響くメッセージです。

    時代を経て高まる力



     この作品の刊行からさらに時代は進みました。今は一人一人がスマホを持ち、自分の部屋で自分の世界に没頭することができるような時代です。つながりがますます弱まっているので、その分この作品が訴えかけてくる力は高まっているように思えます。

    人を人として存在させているのは「過去」なのだ



     ずっしりと響く重いことばがありました。自分がこれまで生きてきた過去は決して切り捨てることができません。自分と血のつながった家族もまた、切り捨てることができません。よく考えると、人間はいろいろなものにがんじがらめにされて生きています。がんじがらめにされていることが、いいことなのか、悪いことなのか・・・私には分かりません。でも、それが人間の「宿命」であるということは間違いがなさそうです。

    ◆殿堂入り決定!

    「最果ての図書館」は『理由』を「シルバー」に認定しました。おめでとうございます!






     宮部みゆきさんの作品をたくさん読んでおられる方、おすすめの作品を教えていただけると嬉しいです。今まで読んだのは、うろ覚えですが「名もなき毒」「魔術はささやく」「理由」、そして「ソロモンの偽証」(途中)です。これ以外に、あちこちで絶賛されている「火車」は絶対に読もうと思っています。現代ミステリーだけでなく時代物やファンタジーもあるので何から読もうか迷いは尽きません・・・。
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    小説, 宮部みゆき,



    •   27, 2015 18:47
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