HOME > 社会科学 > title - アメリカン・バッドドリーム 『ルポ 貧困大国アメリカ』 堤未果

アメリカン・バッドドリーム 『ルポ 貧困大国アメリカ』 堤未果

 15, 2015 20:14

 アメリカン・ドリーム。海の向こうの国では、「自由と平等」という理念のもとに、多くの人が成功を夢見ています。夢見ている・・・はずでした。

ルポ 貧困大国アメリカ (岩波新書)
堤 未果
岩波書店
売り上げランキング: 8,229



 今日はそんな夢が儚くも崩れ去るお話。2008年に発売され、30万部を超えるベストセラーとなった堤未果(つつみ・みか)さんの「ルポ 貧困大国アメリカ」をご紹介します。



聖域への浸潤



 突然ですが、盲腸で入院することになったらいくらかかると思いますか?

 医療制度が充実している日本では、そこまで常識外れの金額が請求されることはありません。4,5日入院しても30万円を超えることはない、と本書では指摘されています。

 では、海の向こうのアメリカではどうでしょうか。この本の第3章に登場するアメリカ人の男性が、壮絶な実態を語ります。

「2005年の初めに急性虫垂炎で入院して手術を受けました。たった1日入院しただけなのに郵送されてきた請求書は1万2000ドル(132万円)。会社の保険ではとてもカバーし切れなくてクレジットカードで払っていくうちに、妻の出産と重なってあっという間に借金が膨れ上がったんです」



 卒倒しそうになりました。入院1日で132万円。まさに、「倒れたら終わり」といったところです。

 アメリカの医療費は先進国の平均の2.5倍にのぼるそうです。アメリカではカード破産に次いで多いのが「医療破産」で、いったん医者にかかると借金漬けになる例が非常に多いということです。

 ショックな現実はまだまだ続きます。破産することが多いのは医療保険に加入している中流階級者が中心。高い掛け金の割に、満足に行われない支払い。点滴をしているうちに病院のベッドから追いやられ、残ったのは高額の請求書。負の連鎖は止まらず、過剰なコストカットは医師や看護師も追いつめていきます。

 「地獄絵図」でした。そして、この地獄を引き起こしているのが、「医療現場に持ち込まれた競争」です。人間として生きるために、手厚く保護されるべきであり、ビジネスになってはいけない医療。そこに競争が持ち込まれた結果がこれです。

敗者に明日はない



 自由な競争は互いを刺激し、サービスの質を上げていくという側面があります。効率を重視して、より低いコストでいかに高いパフォーマンスをするかが求められます。

 でも、それが医療や教育に持ち込まれてはいけないということは少し考えればすぐに分かります。 「効率を重視して、より低いコストで」 これが医療や教育で行われたら・・・待っているのは上に挙げたような現実です。

「民主主義であるはずの国で、持たぬ者が医者にかかれず、普通に働いている中流の国民が高すぎる医療保険料や治療費が払えずに破産し、善良な医師たちが競争に負けて次々に廃業する。そんな状態は何かが大きく間違っているのです」


 日本にいると、なかなかこういったことは想像がつきません。病気で倒れた瞬間に人生は終わります。高額の請求書から破産へ。病気から復帰したところで、職場にはもう自分の椅子はありません。

 教育もそうです。貧しい家に生まれた瞬間に人生は終わります。最低限の教育すら受けることができません。まともな仕事はありません。まともな生活など夢のまた夢です。

 自由と競争の国、アメリカ。「勝った者が報われる」、一見魅力的です。ですが、病気で倒れることや貧しい家に生まれることが「負け」になるのだとしたら、それはもう悪夢としか言えないのではないか、と思いました。




 大量の敗者を生み出したアメリカ。貧困層の向かっていく先は「戦争」でした。

 本の後半は「戦争ビジネス」について書かれています。満足な生活をすることができない貧困層に手を伸ばしたのは軍でした。医療や教育の機会を手厚く保護する、そんな魅力的な条件を引き合いに出され、多くの貧困層が軍に入隊していきました。

 この流れが1つのビジネスになっている、ということが見えた時、衝撃を感じると同時に怒りを禁じ得ませんでした。戦場で無関係の市民を殺す兵士が憎いかもしれません。でも、現実はというと・・・。

「目の前の生活に追いつめられた末に選ばされる選択肢の一つに、戦争があるというだけです」


 米軍に参加した日本人兵士のことばです。静かに語られたことば・・・。兵士を責めるのはお門違いなのだと思います。競争を持ち込んではいけない場所に競争を持ち込んだ、ビジネスにすべきでないことをビジネスにした、全ての間違いはここにあるのではないでしょうか。

いのちをものさしに



 昨年の4月、クローズアップ現代に筆者の堤さんが出演して、こんなことをおっしゃっていました。

80年代ぐらいまでは頑張れば報われるとか、努力すればチャンスをつかめば、マイノリティーでもスターになれる、そういうのがあったんですけれど、今、構造として1%が99%を切り捨てていく構造を、国の政策が後押しをしているために、アメリカンドリームが機能する構造自体が崩れていると。



 この本の最後、堤さんが示すのは「いのちをものさしにした民主主義」です。

いのちをものさしにした民主主義というものがある。ゴールは環境や人権、人間らしい暮らしに光をあて、一人ひとりが健やかに幸せに生きられる社会を作り出すこと。



 1%が99%を切り捨てる、というのは日本にとって全くの他人事ではありません。日本もそうなってきているように思います。海の向こうの出来事で片づけるのではなく、自分たちのすぐそばにアメリカのような悪夢が迫っていることに気付かなくてはいけません。久しぶりに衝撃的な新書でした。

 日本が死守していくべきは「いのちをものさしにした民主主義」ですね。でも、「命がなくなったら終わり」そんな当たり前で疑いもないようなことが無視されるのはどうしてなのでしょうね・・・。




こちらもどうぞ

堤さんが出演したクローズアップ現代です。富裕層と貧困層の格差を紹介した回。クローズアップ現代のサイトは放送内容を全文掲載して動画までついているかなり良質なサイトですよ。
クローズアップ現代 2014.4.22
スポンサーサイト

新書, 社会, 堤未果,



  •   15, 2015 20:14