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分からないままで -『レインツリーの国』 有川浩

 24, 2015 16:59

 有川浩さんの作品はいつも楽しく読ませていただいています。この本は5冊目になります。ただ、今回はいつものように「楽しく」とはいきませんでした。

レインツリーの国 (新潮文庫)
有川 浩
新潮社
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 図書館戦争シリーズから生まれた作品、「レインツリーの国」です。今日は長文になると思います。それに、批判的な目線が入ると思います。自分でもどうまとめてよいか分からない、そんな作品でした。



「障がい」という言葉



 この本は、「図書館内乱」という作品とリンクしています。そして、「図書館内乱」の中の世界では、この作品が痛烈に批判されている一説があります。

一言で言って薄っぺらい。身障者をダシにお涙頂戴を狙う思惑が鼻について怒りさえ覚える。キャラクターも人間としての厚みがまったくなく、感情移入できない。デビューしてから今まで読んできたが、今作で見切った。はっきり言ってこれがこの作者の限界。こんなものは小説ではなく自分の願望を投影した妄想だ。


 面白いのは、この批判は誰かから浴びせられたものではなく、有川さんが自分で自分の作品に浴びせたものである、ということです。この作品を出したら、こういった批判を口にする人がいるだろう、ということを有川さんはあらかじめ予想しているようです。そして、「図書館内乱」を読めばわかるのですが、そういった批判を有川さんは憎んでいます。

 上の批判は全くの的外れです。特に、「身障者をダシにお涙頂戴を狙う思惑が鼻について怒りさえ覚える」の部分がそうですね。この本を読んだ感想がそれだというのなら、こんなに悲しいことはありません。有川さんもそういうことは十分に分かってこの部分を執筆し、おそらく自分に対する戒めにされたのでしょう。

 たしかに、障がい(難聴)を扱った1冊です。ですが、私は「健常者と障がい者」といったようなテーマでこの本の感想を書こうとは思えませんでした。これは、障がいの有無は関係なく、誰にでもあてはまる話です。

 自分と同じ人間は1人もいない

 当たり前のことです。自分と同じ人間は1人もいないですから、他者を理解することは「分からない」から始まります。分からないのに、人と関わらなければ人は生きていくことができません。誰にとっても、誰が相手であろうとこれは同じです。

 そう考えると、「障がい」がメインテーマではないことが分かります。障がいは1つの特徴、アクセサリに過ぎないのではないでしょうか。背が高い、低いと同じ1つの「特徴」です。私たちは傲慢にもそれに「障がい」という名前を付けて差別しています。「障がい」・・・改めて見ると吐き気のするような言葉ですね。「がい」の字をひらがなにして和らげてはいますが、それでもこの言葉がいかにひどいものか分かります。

 1つの特徴に私たちが勝手に与えた「障がい」という言葉はいったん切り離すことにします。私たち全員に、永遠に問われ続ける「他者理解」というテーマでこの本を読んでいくことにします。

想像を絶すること



 自分と違う他人のことを想像しなければいけない、という感想がまずは浮かびます(このブログでもそういったことを書いたことがあります)。ですが、私が浮かんだのは「想像を絶する」という言葉でした。「想像力の限界」といってもいいかもしれません。

 主人公の伸さんは、難聴であるひとみさんのことを懸命に理解しようとします。難聴について調べ、思いをぶつけ、分かり合おうとする。その過程が丁寧に描かれていて、「他者理解」について多くのことを考えさせます。

 それでも、「限界」だというのだから私が言っていることは残酷です。率直に言うと、伸さんに共感できない箇所が何か所かありました。

「今お前が突き飛ばした女の子、耳に障害持ってんねんぞ!」


 歩道でひとみさんがカップルが突き飛ばされた時、伸さんは激昂してこう叫びます。二人の「ズレ」として描かれるこの場面ですが、本当に残念でした。

 ひとみさんが突き飛ばされたことに怒るのは当然です。しかし、伸さんは「耳に障害」と口に出してしまいました。激昂した時に思わず口にした言葉がどんな意味を持つかは、すぐに分かると思います。それは「本音」です。

 一生懸命難聴について調べたから「こそ」でしょう。思わず飛び出た「障害」のことば(この本では障害、と漢字で表記されているのでそれにならいます)。1つの特徴が「障害」と呼ばれてしまうことを、私は重く捉えています。この部分は「すれ違い」といった生易しいものではありません。「断絶」です。

 この場面の後、言い争う二人。世界で不幸なのは君だけじゃない、と思った伸さんは、自分のとっておきの不幸エピソードをひとみさんにぶつけてしまいます。父親が脳腫瘍を患い、自分のことを忘れてしまったというものです。そして、そのあと・・・。

「頼むから慰めんといてな。君が俺には障害のことホントの意味で慰められんし、理解できひんて何度も言うように、俺にとってもこれはどうしようもない種類のことやから。(中略)そこは俺が君を突っぱねてええよな?君が俺を突っぱねるみたいに


 「断絶」第2弾です。伸さんもこれを口に出してしまったことを「忌々しい」「自分のプライドに沿わない」と嫌っていますが、私はそれを含めてもやはり、これを口に出してしまったことに闇を感じました。

 有川さんはどうして伸さんにこの設定を付け加え、このセリフを言わせたのでしょうか。他人の不幸など、他の人間がどれだけ想像しても決して分かるものではありません。ましてや、比べてよいものではありません。

 不幸なのはあなただけじゃない
 傷ついているのはあなただけじゃない
 私も不幸なんだ、私も傷ついているんだ

 不幸なんて分かりえもしないのに、こういうことを言っているわけです。もちろん、理解することの難しさ、壁の大きさ、人間の未熟さ、そういったことを克明に描写している点で、この作品は素晴らしいのかもしれません。ですが、正直に思いを吐露すると、私はこの主人公をどうしても受け入れることができませんでした。(上に挙げた2か所の他にも、です)

分からない時、どうするか



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 有川さんの作品は容赦ありません。内面に潜んでいる汚い気持ちや打算的なことも容赦なくあぶりだします。それでいて展開はどストレートでベタ甘。分かりやすく、楽しく、そして心をえぐってきます。

 ただ、私がその「分かりやすさ」に甘えていた部分があったのかもしれません。共感した、感動したとよく言っていましたが、その無責任さを痛感したような気がします。

 分からないものは、分からない

 私が思ったのはそんなことです。もちろん、一生懸命「分かろう」と努力することは大切です。「分からないから」と最初から切り捨てていいわけではありません。

 でも、分かろうと精一杯努力したうえで、「分からない」にたどりつくことは絶対にあります。そんな時どうすればいいか。私は、「分からないことは分からないままにして、黙って寄り添う」ことだと思っています。

 伸さんが口にした言葉を、正直私は受け入れられませんでした。
 
 俺には障害のことホントの意味で慰められんし、理解できひん

 こう自分で言っている伸さん。それなら、黙って寄り添ってほしかった気がします。分からないことは普通で、精一杯想像した上でそこにたどり着いているのだから、何も悪くありません。そこにたどり着いたのなら、言葉にせず、黙ってほしかった・・・というのが私の感想です。言葉にすることの愚かさ、とでも言いましょうか・・・。

 感情をストレートに言葉で起こしてくれる有川さんの作品。でも、時には「沈黙」もほしい気がします。




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